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第一章⑫:家族会議、そしておみやげの魔法
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夕刻、王城の一室。
普段は使われていない円卓の会議室に、私たち五人の家族がそろっていた。
父が中央に、兄と弟が向かい合うように。
母はお茶を持ち込みつつ、なぜかやる気満々。
そして私は……ドキドキしながら、膝の上におみやげの袋を抱えて座っていた。
「さて……みんな揃って話せる機会も貴重だ。ここで、現状を整理しておこうか」
父の言葉で、場の空気がピリッと引き締まる。
さすがに、家族とはいえ“元・国会議員”の本気モードは説得力がある。
「では、俺から」
兄が手元の魔導ノートを開きながら、淡々と報告を始める。
「“影の織糸”の進捗は順調だ。
現在、王宮内使用人の協力者は32名、屋敷付き侍女含む。情報ルートを3段階に分けて再編中」
「三段階?」
「第一:日常的な噂と流言。
第二:明確な派閥動向、金銭の流れ。
第三:“意図的な改ざん・誘導”の兆候。これを見つけるのが今の課題」
「お兄ちゃん、なんか言ってることが全部ダーク……」
でも誰よりも信頼できる。というか、兄だけ中身が違うジャンルな気がする。
「次は私ね!」
母はきらきらと目を輝かせながら、王城の社交状況を語る。
「貴族の婦人たちの掌握率はおそらく7割以上。
ただし、宰相派の女狐系が2人ほど、裏で派閥を再結集しようとしてるのよね~。でも大丈夫、私のほうが可愛いから!」
「……その判断基準、大丈夫なの?」
「戦略よ? 女の戦は“美と空気と雰囲気”なの。
そこに“王家の正統性”と“礼儀”を添えれば、最強。私、まるでラスボス気分よ」
「それ、言っちゃうんだ……」
次は弟。
背筋を伸ばし、無駄な言葉を省きながら話す姿は、まさに軍人そのものだった。
「軍部内の意識統制はまだ不十分。
現場の指揮官層には訓練改革の意識が浸透し始めているが、上層部、特に宰相派の監査官たちが動き始めている」
「例のシグヴァルド准将か」
「はい。明らかに牽制目的の“視察”が入っている。
いずれ直接的な妨害、あるいは派閥分断の工作が起きる可能性あり」
「……ふう」
父が重く息を吐く。
「そして私だが……」
父は何枚かの書類を見せながら、現政権の財政状況と腐敗構造を淡々と説明し始めた。
内容は端的に言って——地獄だった。
「思った以上に、国の中枢は“見せかけ”でしか機能していなかった。
予算の流用、帳簿の偽装、物資の横流し。……中堅貴族の半数が関与している」
「そんな……」
「王が動いたことで、ようやく抑制はされつつあるが、それはあくまで“表面の静寂”に過ぎない。
本格的な改革を始めれば、必ず反発が起こる」
部屋の中が、重たい沈黙に包まれた。
みんな、わかってる。誰かが言わなくても、空気が、重さを伝えてくる。
(……想像以上に、やることが多すぎるんだ)
国の改革なんて、物語ではよくあるけど、実際には一歩動かすだけで、十倍の反発が返ってくる。
家族は全員、そこに立ち向かおうとしている。
私は——できてない。
だけど。
「——はい!」
私は膝の上の袋を取り出し、机の中央にそっと並べた。
「おみやげ、買ってきました!」
みんながきょとんとした顔をする中、私は笑って袋を渡していく。
「お兄ちゃんには、鳩の焼き菓子。“空を見て、情報を読む”イメージで選んだよ」
「……暗号か?」
「違うよ!!」
「弟には、干し肉スナック。ものすっごく硬いけど、きっと噛みごたえ抜群」
「……高タンパクで助かる」
「さすが軍人すぎる……!」
「お母さんには、レースの小物入れ。女の子って感じのがいっぱいあって、迷ったけど……一番乙女心をくすぐったやつ!」
「これ、推しの令嬢が持ってたやつのレプリカ!? えっ、わかってる!?」
「やっぱりわかるの!?」
「お父さんには、ラム酒入りの焼き菓子。“陛下のお仕事の後に、一口どうぞ”って言われたの」
「……それは……嬉しいな。ありがとう」
みんなが、それぞれのおみやげを手にして、ぽつぽつと言葉をこぼす。
重たい空気は、まだ消えてない。
でもその中に、小さな灯がポッとともるような、そんな雰囲気。
「……あっ、あとね、街でパン屋さんのトラブルをちょっとだけ解決してきたよ!」
「え?」
私は店の前で起きた買い占め事件の話を簡単に説明した。
ちょっとした言い争い、周囲の空気、そして言葉で切り返したこと。
——全部、小さなことだけど、私にとっては大切だったこと。
「……つまり、“庶民からの信頼”を得た、ということか」
父が呟き、母が満面の笑みでうなずく。
「やっぱり、あなたにはあなたの“立場”があるわ。
言葉を使って、空気を変えて、人の心を軽くする。……それは、“この家族にしかできない役目”よ」
「……えへへ、ちょっとだけ、誇ってもいい?」
「十分誇れ」
兄の声が低く響き、弟もうなずいた。
「……あとは、もっとパンを仕入れた方がいい。軍の補給にも使える」
「いや、それは多分違う話!!」
みんなの笑い声が、部屋にふんわり広がった。
重たい話もある。でも、笑えるなら大丈夫。
笑えるなら、きっと前に進める。
そう思った私は、紅茶を一口飲んで、静かに目を細めた。
(……明日は、どんな景色が見えるかな)
普段は使われていない円卓の会議室に、私たち五人の家族がそろっていた。
父が中央に、兄と弟が向かい合うように。
母はお茶を持ち込みつつ、なぜかやる気満々。
そして私は……ドキドキしながら、膝の上におみやげの袋を抱えて座っていた。
「さて……みんな揃って話せる機会も貴重だ。ここで、現状を整理しておこうか」
父の言葉で、場の空気がピリッと引き締まる。
さすがに、家族とはいえ“元・国会議員”の本気モードは説得力がある。
「では、俺から」
兄が手元の魔導ノートを開きながら、淡々と報告を始める。
「“影の織糸”の進捗は順調だ。
現在、王宮内使用人の協力者は32名、屋敷付き侍女含む。情報ルートを3段階に分けて再編中」
「三段階?」
「第一:日常的な噂と流言。
第二:明確な派閥動向、金銭の流れ。
第三:“意図的な改ざん・誘導”の兆候。これを見つけるのが今の課題」
「お兄ちゃん、なんか言ってることが全部ダーク……」
でも誰よりも信頼できる。というか、兄だけ中身が違うジャンルな気がする。
「次は私ね!」
母はきらきらと目を輝かせながら、王城の社交状況を語る。
「貴族の婦人たちの掌握率はおそらく7割以上。
ただし、宰相派の女狐系が2人ほど、裏で派閥を再結集しようとしてるのよね~。でも大丈夫、私のほうが可愛いから!」
「……その判断基準、大丈夫なの?」
「戦略よ? 女の戦は“美と空気と雰囲気”なの。
そこに“王家の正統性”と“礼儀”を添えれば、最強。私、まるでラスボス気分よ」
「それ、言っちゃうんだ……」
次は弟。
背筋を伸ばし、無駄な言葉を省きながら話す姿は、まさに軍人そのものだった。
「軍部内の意識統制はまだ不十分。
現場の指揮官層には訓練改革の意識が浸透し始めているが、上層部、特に宰相派の監査官たちが動き始めている」
「例のシグヴァルド准将か」
「はい。明らかに牽制目的の“視察”が入っている。
いずれ直接的な妨害、あるいは派閥分断の工作が起きる可能性あり」
「……ふう」
父が重く息を吐く。
「そして私だが……」
父は何枚かの書類を見せながら、現政権の財政状況と腐敗構造を淡々と説明し始めた。
内容は端的に言って——地獄だった。
「思った以上に、国の中枢は“見せかけ”でしか機能していなかった。
予算の流用、帳簿の偽装、物資の横流し。……中堅貴族の半数が関与している」
「そんな……」
「王が動いたことで、ようやく抑制はされつつあるが、それはあくまで“表面の静寂”に過ぎない。
本格的な改革を始めれば、必ず反発が起こる」
部屋の中が、重たい沈黙に包まれた。
みんな、わかってる。誰かが言わなくても、空気が、重さを伝えてくる。
(……想像以上に、やることが多すぎるんだ)
国の改革なんて、物語ではよくあるけど、実際には一歩動かすだけで、十倍の反発が返ってくる。
家族は全員、そこに立ち向かおうとしている。
私は——できてない。
だけど。
「——はい!」
私は膝の上の袋を取り出し、机の中央にそっと並べた。
「おみやげ、買ってきました!」
みんながきょとんとした顔をする中、私は笑って袋を渡していく。
「お兄ちゃんには、鳩の焼き菓子。“空を見て、情報を読む”イメージで選んだよ」
「……暗号か?」
「違うよ!!」
「弟には、干し肉スナック。ものすっごく硬いけど、きっと噛みごたえ抜群」
「……高タンパクで助かる」
「さすが軍人すぎる……!」
「お母さんには、レースの小物入れ。女の子って感じのがいっぱいあって、迷ったけど……一番乙女心をくすぐったやつ!」
「これ、推しの令嬢が持ってたやつのレプリカ!? えっ、わかってる!?」
「やっぱりわかるの!?」
「お父さんには、ラム酒入りの焼き菓子。“陛下のお仕事の後に、一口どうぞ”って言われたの」
「……それは……嬉しいな。ありがとう」
みんなが、それぞれのおみやげを手にして、ぽつぽつと言葉をこぼす。
重たい空気は、まだ消えてない。
でもその中に、小さな灯がポッとともるような、そんな雰囲気。
「……あっ、あとね、街でパン屋さんのトラブルをちょっとだけ解決してきたよ!」
「え?」
私は店の前で起きた買い占め事件の話を簡単に説明した。
ちょっとした言い争い、周囲の空気、そして言葉で切り返したこと。
——全部、小さなことだけど、私にとっては大切だったこと。
「……つまり、“庶民からの信頼”を得た、ということか」
父が呟き、母が満面の笑みでうなずく。
「やっぱり、あなたにはあなたの“立場”があるわ。
言葉を使って、空気を変えて、人の心を軽くする。……それは、“この家族にしかできない役目”よ」
「……えへへ、ちょっとだけ、誇ってもいい?」
「十分誇れ」
兄の声が低く響き、弟もうなずいた。
「……あとは、もっとパンを仕入れた方がいい。軍の補給にも使える」
「いや、それは多分違う話!!」
みんなの笑い声が、部屋にふんわり広がった。
重たい話もある。でも、笑えるなら大丈夫。
笑えるなら、きっと前に進める。
そう思った私は、紅茶を一口飲んで、静かに目を細めた。
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