家族みんなで没落王族に転生しました!? 〜元エリート家族が滅びかけの王国を立て直します〜

パクパク

文字の大きさ
19 / 29

第一章14:沈黙を裂く者、仕える者

しおりを挟む
王城西門。陽は傾き、赤く染まった空に冷たい風が吹き抜ける。

 静かな時間帯にもかかわらず、衛兵たちは一様に緊張した面持ちで門の前に立ち並んでいた。
 そこにゆっくりと、杖を携えた老貴族――クラウスティン侯爵が姿を現す。

 

「……変わらぬ佇まいだな。だが、中はどう変わったのか」

 

 呟いたその声は、誰に向けたものでもなかった。
 しかし、まるでその問いに応じるかのように、一人の男が音もなく現れた。

 

「お久しゅうございます、クラウスティン侯爵」

 

 黒い燕尾服。磨き抜かれた白手袋。凛とした姿勢。
 だが、何より印象的なのは、揺るぎない“瞳”だった。

 クラウス。

 かつて王の側近として、誰よりも長く前王に仕えた男。
 侯爵の記憶にも、はっきりとその名は残っていた。

 

「……クラウス。まだ、この城にいたのか」

 

「“まだ”、ではございません」

 

 その言葉は、穏やかな声色で放たれたにもかかわらず、空気を震わせるほどの重みを帯びていた。

 

「私は、最初から“ここにいるべき者”でした。
 だから、離れたことなど一度もないのです」

 

 クラウスティンは一瞬、返す言葉に迷った。
 この男が怒る姿を想像できる者は少ない。だが今、目の前にいるクラウスは、確かに――静かに怒っていた。

 

「……久しい再会だというのに、ずいぶんと手厳しいな」

 

「当然です。私はあなたを尊敬していました。
 王の理を支え、決して権力に染まらなかったあなたの背中を、若き日の私は見ておりました」

 

 クラウスの言葉に、侯爵の目が細くなる。

 

「それが、なぜ“怒り”に繋がる?」

 

 クラウスは、一歩前へ出た。

 

「ではお尋ねします、侯爵。
 前王が亡くなり、王家が形骸化し、宰相が王国を私物化していったあの数年。
 あなたは、どこにいらっしゃったのですか?」

 

「……中立を保っていた。それが、我らの立場だった」

 

「そうです。“中立”。その言葉は、確かに美しい。
 だがそれは、何もしない者の盾でしかなかったと、あなたは今も思っておられますか?」

 

 クラウスティンは押し黙る。

 それは責めではない。だが、明確な問いだった。

 

「我々は王に仕えた。王の理想を支えた。そしてその王が去った今、
 我々のなすべきことは、瓦解する王家から逃げることではなかったはずです」

 

「……私は」

 

「あなたが“戦わなかった”ことを、責めているわけではありません。
 だが、“何もしなかったまま、今さら戻ってきた”という事実が、
 “本気で仕えてきた者たち”にとって、どれほど重いものかを、どうか知っていただきたい」

 

 クラウスの声は、静かに、しかし確実に熱を帯びていた。

 

「私たちは、城の奥で、嘲笑されながらも王家に忠を尽くしました。
 愚王と呼ばれようと、無力と嘲られようと、それでも“守る価値がある”と信じてきたのです」

 

 その瞬間、侯爵の表情からはすべての余裕が消えた。

 

「……では、今の王家にその価値があると、そなたは信じているのか?」

 

「はい」

 

 即答だった。

 

「父王の意思を継ぎ、王としての責任を学び始めた今上陛下。
 礼節と社交の真価を体現し、民の声に耳を傾ける皇后。
 情報を読み、影を制する第一王子。
 剣と指揮で軍を変えようとする第二王子。
 そして、言葉ひとつで人の心を動かす、第一王女殿下」

 

 クラウスは、少しだけ視線を遠くに向けた。

 

「彼女が、最初に見せたのは“変化”でした。
 そして今、その変化は“希望”に変わりつつあります。
 ……誰もが見下し、無視していた姫君が、今や“民の姫”と呼ばれている。
 これを奇跡と呼ばずして、何と呼びますか?」

 

「……その“奇跡”に、私は惹かれたのだ」

 

「ならば、まず陛下に謁見を願うのが筋でしょう。
 それを差し置いて、“姫殿下に会わせてほしい”というご希望は、
 どこか、“都合の良いカードを見極めたい”という下心が透けて見えるのです」

 

 鋭い。だが、正論だった。

 クラウスティンは、苦い表情を浮かべたまま、小さく頭を下げた。

 

「……私の非だ。認めよう。
 だが、私は“彼女の言葉”を聞いてみたくなった。それが、すべてだ」

 

 クラウスは、しばらくその顔を見つめてから、深く一礼した。

 

「では、案内いたしましょう。
 ただし――」

 

 彼の瞳が、もう一度だけ鋭く光った。

 

「彼女を“試す”のではなく、“信じることができるか”という視点で見てください。
 それができぬのなら、私は二度とあなたをこの王城に通しません」

 

「……心得た。見極めよう。いや、“見つめよう”」

 

 老貴族はそう言って、クラウスの後ろに歩を進めた。

 

 その背を見送りながら、クラウスは静かに胸の内で呟いた。

 

(……どうか、姫様。あなたの言葉が、この国を再び繋ぎますように)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...