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第一章15:無理だってば! 〜侯爵来訪パニック編〜
しおりを挟む「…………え?」
クラウスの口から出た言葉を、私は一瞬、聞き間違えたかと思った。
「失礼いたしました、もう一度申し上げます。
本日、クラウスティン侯爵が姫様との謁見を望まれております」
「…………無理無理無理無理無理!!」
反射的に叫んでた。ほんとに、心の声じゃなくて口から出てた。
「ちょ、待って! え? あのクラウスティン侯爵!?
あの中立派の大御所で、“議場の鉄面”って異名ついてるっていう、あの!?」
「はい。大変に理知的で、慎重で、言葉を一切の誇張なく選ぶ方です。
……ご安心ください。咳払い一つで10人が黙るような威圧感はありますが、本質的には穏やかなお方です」
「その紹介、全然安心できないよ!?
ねぇ、どうしよう!? なんで私!? 王様とかお母様とかいるじゃん!?」
私はぐるぐると部屋を歩きながら、完全にパニックモードに突入していた。
(なんで、なんでそんな人が私に会いたいの!? こっちこそ会いたくない!)
政治の話なんてできない。
言葉を選ぶ貴族なんて、口が滑ったら一発アウトでしょ!?
これ、絶対地雷イベントじゃない!?
「……お父様に相談すればいいのでは」
心の中でそう思った瞬間、タイミングを測ったように部屋の扉がノックされた。
「……入るぞ」
父だった。
威厳のある声、落ち着いた足音、姿勢の整った立ち姿。
どこを取っても“陛下”でしかない。ちょっとでもこの余裕、分けてほしい。
「話は聞いている。……クラウスティン侯爵が、お前に会いたいと言ったそうだな」
「なんで私なんですか……!?」
「どうやら、街での一件を聞いたらしい。“言葉だけで民を納めた王女”に興味を持ったとか」
「いやいやいや、パン屋の買い占め騒動を止めただけですよ!?
しかも、お菓子で機嫌取っただけのような……!」
父は微笑みもせず、真剣な表情で言った。
「だが、それは“何もできないと思っていた者が、確かに何かを成した”という事実だ。
その価値は、経験ある者ほど強く見る」
「…………」
父の言葉は、まっすぐすぎて、逆にぐうの音も出なかった。
「怖ければ、私に相談すればいい。何を話せばいいのか、一緒に考えることもできる。
だが、お前が“自分で話したい”と思うのなら、私はその背を押そう」
しばらく、父と目を合わせていた。
こんなときだけ、本当にカッコよくて、ズルいと思う。
「……話したいかどうかは、ちょっと考えさせて」
「それでいい。だが、逃げることばかり考えるな。
“見てくれる者”に出会える機会を、自分で閉ざしてしまってはいけない」
そう言って、父は静かに部屋を出ていった。
……そのわずか三分後。
「クラウスティン!? あの鋼鉄モード老貴族が!? よく会おうと思ったねー!」
母がノリノリでやってきた。
「え、すごいじゃない! 私だったら“この娘、社交界に出すしかない”って推しちゃう!
ね、ね、ドレスどうする!? ふわっとした薄水色とか絶対似合うよ! ヘッドアクセはおろして! あ、あとお茶もセレクトしないとね! “意識の高い紅茶”!」
「お母様……テンション、違う意味でキツいです……」
「大丈夫! 最悪“天然だけど可愛いからよし”で押し通して!」
「私それで生き残りたくない……!!」
そしてその翌秒、兄がドアの影から顔を出す。
「……侯爵に会うのか? 言葉の選び方で迷ったら、暗号解読術から逆算するといい」
「中二的アドバイスすぎる!」
「“貴族は本音を隠す”のが常だ。だが“姫が本音でぶつかる”なら、それは逆に刺さるかもしれん」
お兄ちゃん、珍しく真面目だった。けど目はキラキラしててちょっと怖かった。
極めつけは、無言で現れた弟。
なぜか何も言わずに「護衛、付くか?」とだけ聞いてきた。
「えっ、いや……対談に護衛って……」
「精神的護衛。必要なら、いつでも入る」
「いるかも……!」
家族みんなが、いろんな形で背中を押してくれる。
テンション高かったり、ちょっとズレてたり、過剰だったり。
でも、なんだろう。
ほんの少しだけ、「逃げなくてもいいのかも」って、そう思えてきた。
私は深呼吸をして、クラウスに向き直った。
「……で、いつ来るの? その侯爵」
「――五刻後に、王女殿下の間にて」
「…………タイムリミット短すぎない!?」
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