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第二章③:ワルツは戦場、ステップは命のやり取り
しおりを挟む「それでは姫様、本日は“基礎ダンス”のご指導を」
クラウスの静かな声に、私は首を傾げた。
「え、クラウスが教えてくれるの?」
「当然でございます。……第一王女殿下の過去における“踏み潰し事件”と“足絡み事故”を記録して以来、
私は今日という日を想定して、密かに“令嬢向け矯正メニュー”を構築しておりました」
「怖っ!! そんな事件あったの!? いや、私の前世じゃないよね!? 私は悪くないよね!?」
「ええ、“中身”が変わったことは理解しております。
ですが“足元の不安定さ”は物理的事実であり、矯正の対象です」
「物理的事実!? こわい!!」
とはいえ、踊れないまま社交界へ行くわけにはいかない。
クラウスの完璧な手ほどきで、私はまず“基本の足運び”から始めることになった。
「右、左、後ろ……はい、次は回転、回転――ああ、違います姫様、“床とお友達になる”動きではございません!」
「ご、ごめん足がもつれた!!」
「焦りは禁物です。貴族のステップは、“自信と余裕”が前提。
まるで“私は絶対に踏まない”という態度で進んでください」
「無茶言うなああああああああ!!」
そこで現れたのは――兄。
「……ダンス訓練か。なら、俺が相手をしてやろう」
「え、マジで!? お兄ちゃん踊れるの!?」
「“影の舞い”と呼ばれる動きを応用すれば、この程度は容易い」
「なんか中二臭い単語出てきたけど!?」
兄と組んでみると、確かに動きはスムーズだった。
だけど、振り返るタイミングとか手の位置が全部“演出重視”で、気を抜くと踊りというより儀式になりかける。
「……ちょっとこの振り、敵を惑わすための動きっぽくない?」
「バレたか。暗部の対接触訓練の応用だ」
「全然普通の社交ダンスじゃない!!」
続いてやってきたのは、弟。
「……交代」
「え、踊れるの? 弟くん」
「軍の教練に含まれてる。貴族式の舞踏礼式も」
「万能すぎない!?」
弟と踊ると――びっくりするくらい、すごく、踊りやすかった。
無言だけど、手の導きが丁寧で、目線の誘導も自然。
ステップの速さも、ちゃんと合わせてくれる。
「……すごい……踊れてる、かも」
「うん。もう少し慣れれば、普通にいける」
褒められて、思わずちょっと顔が熱くなる。
(……そっか、私、できるようになってきたんだ)
最後にクラウスがうなずいた。
「――今日の成果は大きいです。姫様の“動き”に、“迷い”が減りました」
「えっ、本当?」
「はい。以前は、“どう見られるか”を恐れて動いておられました。
今は、“どう見せたいか”を考えて動いておられる。それは、令嬢としての大きな一歩です」
「…………」
その言葉に、私の胸の奥で、何かが少しだけ軽くなった。
(うん。前の私なら、怖くて絶対逃げてた)
(でも今は――ほんの少し、楽しみになってきた)
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