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第二章⑥:社交界に王家、侵入ス。〜一人だけ飯に夢中〜
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高らかな鐘の音と共に、舞踏会の中心――翠星館の大階段に、
一人の女性が静かに現れた。
白と蒼のグラデーションドレス。
巻かれた銀の髪、完璧な笑顔。
気品と柔らかさ、そして鋼のような芯を感じさせる声が、広間に響き渡る。
「本日は、お忙しい中、我が娘の“再びの門出”にお集まりいただき、誠にありがとうございますわ」
――皇后陛下。
その一言だけで、場の空気が一段引き締まる。
「本日、この場に立つ第一王女は――皆様がかつて見た彼女とは、少し違っております。
過去のすべてをなかったことにするつもりはございません。
けれども、これから歩む未来を、皆様にご覧いただきたいのです」
視線が会場を緩やかに泳ぐ。
「どうか、言葉ではなく、“今の娘の姿”を見て、ご判断いただければ幸いですわ」
語尾まで優雅に、美しく、隙のない挨拶。
だが、それでいて――まるで王家の矜持を槍にして、
社交界の門を叩くような、堂々たる“宣言”だった。
ざわざわと、会場が騒めき始める。
「皇后陛下が、あそこまで……!」
「今の言葉……“過去を隠さない”って、あえて言ったわよね……?」
「すごい……本気で“第一王女”を社交界に返す気なんだ……!」
そしてその中、肝心の第一王女本人は――
「ん~っっ、うまぁ~~っ!! これ、ソース天才すぎない!? 口の中で祝福起こってるんだけど!!」
「姫様、音……お声が響いております……」
「え!? やだ! でも美味しすぎて理性持ってかれる!!」
「……お可愛い限りです」
クラウス、今日も平常運転。
主人公、完全に**“ご飯を楽しむ一般市民”**と化していた。
だが、そんな様子を見て――会場の貴族男子たちがざわつき始めていた。
「……ちょっと、あの王女、かわいくない?」
「ギャップすごいな……。正直、過去の噂からは想像できなかったけど……」
「むしろ“今の彼女”に会いたくなるというか……あの目、嘘ついてなかったな」
「話してみたい……いや、踊りたい……いや、結婚したい……」
彼らが、一歩踏み出した――そのとき。
「やあ。ご機嫌いかがかな、紳士諸君」
背後から、静かな、低い声が届いた。
振り返ればそこには――第一王子・クラウディオ。
黒のロングコート、冷ややかな微笑、鋭すぎる目。
「第一王女に接触する意思をお持ちなのは理解する。
しかしその前に、いくつか“確認”をさせてもらいたい」
「……確認?」
「君たちは、王女の“今”をどれほど知っている?
彼女が何を大切にし、誰と向き合い、どんな道を歩もうとしているか。
君たちはそれを、名前で知っているのか? 噂で知っているのか? 見た目で知ったつもりになっているのか?」
男子たちが言葉に詰まる。
「それらを知らぬまま手を差し伸べるというのなら――
私は“王家の情報管理者”として、それを阻止する。悪意でなくとも、“無知は刃”となりうるからだ」
その声音は、あくまで理知的で穏やか。
だが、その言葉には“壁”があった。触れた瞬間、切られるような――冷たく優しい盾だった。
「……ただし。もし“本気”で彼女と向き合いたいという意思があるなら、
私の“計画”に協力してほしい。後ほど暗部経由で詳細を届ける」
「……ん? 暗部? 暗部って何!?」
「“影の活動”に興味がある方から順にご案内する」
「話がデカすぎる!!」
彼はにこりと笑って、すっと去っていった。
男子たちは何かに打たれたような顔でその場を離れていく。
――主人公は、それに一切気づかず、今日三皿目のカナッペに挑んでいた。
「このクリームすごい! おかわりあるかな!? クラウス、偵察してきて!」
「かしこまりました」
その頃、会場の片隅では、皇后が別の“戦場”に立っていた。
「まぁ……またお美しいお姿で。けれども、若い方々は“装い”では誤魔化せませんことよ」
「ええ、“年の功”というのも、時に“思い込み”という形で現れますものね。恐ろしいですわ」
相手は、社交界に君臨する老年貴族令嬢軍団。
長年の経験と伝統を背負い、王家に対して常に警戒心を持つ、いわゆる“おばあさまたち”。
「……それにしても、姫君。あまりにも振る舞いが変わっておりますわね。
中身でも入れ替わったのでは?」
「まぁ、それでも“誠実さ”が表に出るなら素晴らしいことですわ。
“中身”の違いは、時に品性の差に繋がりますものね?」
皇后は笑った。まるで風のように軽く、優しく――そして、刃のように鋭く。
「ええ。入れ替わったかのような変化……それほど素敵な“学び”があったということなのでしょう。
学べる貴族こそが、未来をつくると私は信じておりますわ」
「……ほほぅ」
「それに、これからの若者を正しく導くのが“先人の責務”。
……“昔話でしか語れない”のは、少々寂しゅうございますもの」
――完全勝利である。
おばあさま軍団、沈黙。
皇后、微笑のままティーカップを傾ける。
その頃、会場の空気は完全に変わっていた。
“王家が変わった”。
それが、確かな実感として広がり始めていた。
――そして、音楽が変わる。
舞踏の幕開け。
「……失礼。貴女に“最初の一曲”をお願いしたく、参上いたしました」
低く、柔らかく、落ち着いた声。
振り返ると、そこには――銀の仮面をつけた男。
黒の燕尾服に身を包み、優雅な動作で手を差し伸べてくる。
「……えっと……あなたは……?」
「名を告げるのは無粋かと。
貴女に残したいのは、名前ではなく――“印象”ですので」
――王女、最初のダンス。
そして“仮面の貴公子”、舞台に登場。
舞踏会の夜が、今、幕を開ける。
一人の女性が静かに現れた。
白と蒼のグラデーションドレス。
巻かれた銀の髪、完璧な笑顔。
気品と柔らかさ、そして鋼のような芯を感じさせる声が、広間に響き渡る。
「本日は、お忙しい中、我が娘の“再びの門出”にお集まりいただき、誠にありがとうございますわ」
――皇后陛下。
その一言だけで、場の空気が一段引き締まる。
「本日、この場に立つ第一王女は――皆様がかつて見た彼女とは、少し違っております。
過去のすべてをなかったことにするつもりはございません。
けれども、これから歩む未来を、皆様にご覧いただきたいのです」
視線が会場を緩やかに泳ぐ。
「どうか、言葉ではなく、“今の娘の姿”を見て、ご判断いただければ幸いですわ」
語尾まで優雅に、美しく、隙のない挨拶。
だが、それでいて――まるで王家の矜持を槍にして、
社交界の門を叩くような、堂々たる“宣言”だった。
ざわざわと、会場が騒めき始める。
「皇后陛下が、あそこまで……!」
「今の言葉……“過去を隠さない”って、あえて言ったわよね……?」
「すごい……本気で“第一王女”を社交界に返す気なんだ……!」
そしてその中、肝心の第一王女本人は――
「ん~っっ、うまぁ~~っ!! これ、ソース天才すぎない!? 口の中で祝福起こってるんだけど!!」
「姫様、音……お声が響いております……」
「え!? やだ! でも美味しすぎて理性持ってかれる!!」
「……お可愛い限りです」
クラウス、今日も平常運転。
主人公、完全に**“ご飯を楽しむ一般市民”**と化していた。
だが、そんな様子を見て――会場の貴族男子たちがざわつき始めていた。
「……ちょっと、あの王女、かわいくない?」
「ギャップすごいな……。正直、過去の噂からは想像できなかったけど……」
「むしろ“今の彼女”に会いたくなるというか……あの目、嘘ついてなかったな」
「話してみたい……いや、踊りたい……いや、結婚したい……」
彼らが、一歩踏み出した――そのとき。
「やあ。ご機嫌いかがかな、紳士諸君」
背後から、静かな、低い声が届いた。
振り返ればそこには――第一王子・クラウディオ。
黒のロングコート、冷ややかな微笑、鋭すぎる目。
「第一王女に接触する意思をお持ちなのは理解する。
しかしその前に、いくつか“確認”をさせてもらいたい」
「……確認?」
「君たちは、王女の“今”をどれほど知っている?
彼女が何を大切にし、誰と向き合い、どんな道を歩もうとしているか。
君たちはそれを、名前で知っているのか? 噂で知っているのか? 見た目で知ったつもりになっているのか?」
男子たちが言葉に詰まる。
「それらを知らぬまま手を差し伸べるというのなら――
私は“王家の情報管理者”として、それを阻止する。悪意でなくとも、“無知は刃”となりうるからだ」
その声音は、あくまで理知的で穏やか。
だが、その言葉には“壁”があった。触れた瞬間、切られるような――冷たく優しい盾だった。
「……ただし。もし“本気”で彼女と向き合いたいという意思があるなら、
私の“計画”に協力してほしい。後ほど暗部経由で詳細を届ける」
「……ん? 暗部? 暗部って何!?」
「“影の活動”に興味がある方から順にご案内する」
「話がデカすぎる!!」
彼はにこりと笑って、すっと去っていった。
男子たちは何かに打たれたような顔でその場を離れていく。
――主人公は、それに一切気づかず、今日三皿目のカナッペに挑んでいた。
「このクリームすごい! おかわりあるかな!? クラウス、偵察してきて!」
「かしこまりました」
その頃、会場の片隅では、皇后が別の“戦場”に立っていた。
「まぁ……またお美しいお姿で。けれども、若い方々は“装い”では誤魔化せませんことよ」
「ええ、“年の功”というのも、時に“思い込み”という形で現れますものね。恐ろしいですわ」
相手は、社交界に君臨する老年貴族令嬢軍団。
長年の経験と伝統を背負い、王家に対して常に警戒心を持つ、いわゆる“おばあさまたち”。
「……それにしても、姫君。あまりにも振る舞いが変わっておりますわね。
中身でも入れ替わったのでは?」
「まぁ、それでも“誠実さ”が表に出るなら素晴らしいことですわ。
“中身”の違いは、時に品性の差に繋がりますものね?」
皇后は笑った。まるで風のように軽く、優しく――そして、刃のように鋭く。
「ええ。入れ替わったかのような変化……それほど素敵な“学び”があったということなのでしょう。
学べる貴族こそが、未来をつくると私は信じておりますわ」
「……ほほぅ」
「それに、これからの若者を正しく導くのが“先人の責務”。
……“昔話でしか語れない”のは、少々寂しゅうございますもの」
――完全勝利である。
おばあさま軍団、沈黙。
皇后、微笑のままティーカップを傾ける。
その頃、会場の空気は完全に変わっていた。
“王家が変わった”。
それが、確かな実感として広がり始めていた。
――そして、音楽が変わる。
舞踏の幕開け。
「……失礼。貴女に“最初の一曲”をお願いしたく、参上いたしました」
低く、柔らかく、落ち着いた声。
振り返ると、そこには――銀の仮面をつけた男。
黒の燕尾服に身を包み、優雅な動作で手を差し伸べてくる。
「……えっと……あなたは……?」
「名を告げるのは無粋かと。
貴女に残したいのは、名前ではなく――“印象”ですので」
――王女、最初のダンス。
そして“仮面の貴公子”、舞台に登場。
舞踏会の夜が、今、幕を開ける。
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