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第二章
番外編「サブリナル」(☆)
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彼女を愛することは、潜在意識に刷り込まれていた。契約の証として、身体を重ねたあの日に。
「行ってくる。今日は晩餐に呼ばれているから、夕食はいらない」
「行ってらっしゃい。お気をつけて」
貴族の正装姿のクライヴを、
一瞬ほうけたように見るルシアに彼は苦笑する。そんなに、きらきらした眼差しを向けられると、さすがに照れる。
街へ行く時もこんなに、かしこまった格好はせず、砕けた格好のため、物珍しいのだろう。
「無理をせず、ゆっくり過ごせよ」
「はい」
クライヴは、振り返りもせず城を出て馬を駆った。
領民の屋敷を訪れても頭の中は愛妻のことでいっぱいだ。
彼女は、よく立ち働く。懐妊がわかってからも変わらず動こうとするから、クライヴは、
時折、縛りつけて部屋に閉じ込めておきたい
衝動に駆られた。
妊娠が、まだわかったばかりの頃、悪阻(つわり)が、ひどかったにも関わらず口にもせずに、城内を掃除して回った挙句に、めまいを起こして倒れた。
クライヴは、万が一のことが起きたらと、不安でたまらず、今まで、見せたことがないほど激昂し怒鳴りつけた。クライヴの激情に、ルシアは、怯えてはいなかったが、しおしおと萎れ、見るからに落ち込んで元気を失くした。ごめんなさいと謝って、1粒だけ涙を落とした。
安定期に入っているが、過剰な労働をする必要は無い。
適度な運動が必要なら、城内を歩き回れば十分だ。生まれてくる命も大事だが、それ以上に、妻の身体が心配だ。
使用人でも雇えばいいのだろうか。
クライヴが生まれた生家では、執事、
洗濯、料理、掃除など家事をこなすメイド達、執事の補佐をする従僕、馬を扱う馬丁など
多数の使用人たちが暮らしていた。
彼らは、クライヴが不祥事を起こした際、屋敷を逃げているので、今も無事であるはずだ。
歳をとった家老はともかくとして。
使用人が、入り込むといちいち面倒くさい。
公爵の位を賜りながら黒魔術師としての顔を持つクライヴは、彼を理解し仕えてくれる
存在など端から期待していなかった。
ルシアを一時も離さず守って過ごしたいが、
領主としての仕事があるため、毎日そばにはいてやれない。
領地の管理は、城でできる帳簿付けなどの事務仕事から、外に赴き、領民と会って、
暮らしの状況を聞いたり様々あった。
ルシアのおかげか、昔は煙たがられていたクライヴも、今は昔より慕われるようになった。
結婚した旨を伝えに2人で訪れたとある、
屋敷では、大層に歓迎された。
クライヴは、ルシアはの存在にどれだけ助けられ、救われているかわからない。
「フェアウェル公爵」
クライヴは、応接間リビングルームで、
話しかけられ、我に返った。
(まずい。思考に囚われすぎていた)
「どうかされたんですか、公爵」
「……いや、税を下げるという相談でしたね」
「難しそうなお顔をなさっておいででしたが、
話は聞いておられたようですね」
「もちろんです」
クライヴは、しれっと答えた。うわ言で、ルシアの名を呼んだりしてなくてよかった。
頭の中は、ルシアのことが、7割を占めていたが、きちんと話は聞いていたし書類も確認していた。脳の右と左で別のことを考えられるのは、彼の持って生まれた特性である。
「作物の収穫量も問題ないですし、
王室に収める量も、足りている。
税を下げても領地の管理が傾くということは
ないでしょう。王室に報告しても許可は難なく下りるはずです」
「……ありがとうございます」
領民は、深々と頭を下げた。
明日にでも王城へ行かねばならない。
「奥様は、順調ですか? 」
「おかげさまで。もうあと3ヶ月で生まれます」
「おめでたいことです」
「ありがとうございます」
領民に見送られ、クライヴは、招待を受けた別の領民の屋敷で晩餐の席についた。ささやかだが、贅をこらしたもてなしは、
クライヴのために用意されたもので感謝しつつ、
食事をした。二刻ほど滞在したのち、帰路についたクライヴは、
ルシアの満面の笑みに出迎えられた。
その頬と額に口づけて、腕の中に抱きしめる。
「……おかえりなさい、あなた」
「悪くない響きだな」
「うふふ。でもこれって何気に独占欲の象徴なんですよ。私のあなたって意味ですから」
少し怖いセリフでも、ルシアが言うとかわいいだけだ。
「独占欲で俺に勝てるとでも思っているのか? 」
「ふぇっ? 」
上ずった声を出したルシアを横抱きにし、
寝室へと転移した。サンルームではなく、
今まで使っていた2階の寝室。
クライヴは、そっとルシアを寝台ベッドに横たえると、燭台の火を灯す。淡い光の中、
金の髪と青い瞳が、照らし出されている。
髪を撫で、頬を手で押し抱く。
大きな瞳を瞬かせて、ルシアはクライヴを見つめた。腕の柵で囲い込み、見下ろすと、
彼女の心臓は高鳴り始める。
(三ヶ月間、軽い戯れだけだったが、今夜は容赦しない)
「……体調は大丈夫か? 」
「はい。ゆっくり過ごさせてもらいました」
「ルシア……優しくするから抱きたい」
胸の鼓動が、うるさいほどに響いた。閉じ込めた腕の中で、愛妻が、顔を赤らめる。まるで、何も知らない生娘のごとく。
「も、もうクライヴったら直球ストレートなんだから」
「嫌いじゃないだろ」
「はい。あ、お願いがあります。
ゆっくり、今のその姿を見せてくれませんか」
「……いいよ」
クライヴは、ルシアの懇願にくすっ、と笑った。今すぐ抱きしめたい。キスしたい。
「……やっぱり素敵。もっと見せてほしいのに」
トップハット、ダークカラーのジャケット、シルクのシャツに、臙脂色のクラヴァット(タイ)、正しく伝統的な貴族のスタイルだった。
ステッキは、必要ないので持たなかったものの未だにトップハット(帽子)は被ったままだった。ルシアは、うっとりと、クライヴを見つめ、彼の帽子を取った。ジャケットを脱ぎ、
クラヴァットも外したクライヴは、
ルシアに向き直る。
着ていたものは寝台ベッドの横に置く。
「……素敵すぎて目がくらみました。やはり、
あなたは貴族なのですね」
「俺としては、いつもの長衣ローブの方が、着慣れていて楽だが」
「……ぷっ」
ルシアは、屈託なく笑い、クライヴの背中に腕を回した。
「私、まだ王城に拝謁に伺ってませんよね。正式な妻なのでしょうか? 」
クライヴは柔らかな仕草で、愛妻の髪を撫でた。公爵夫人として、王家に拝謁して正式に、
認められていないこと。ルシアはそこにこだわる。
「忙しなく結婚して子供を授かったからな。
王城には、1度俺一人で、結婚の報告に行っているし問題ない。また、子が生まれて落ち着いてから行こう」
手のひらで頬を包み込む。ルシアは、首に腕を絡めてクライヴの耳元でささやく。
「抱いて……」
甘い熱に侵食されて手に負えない。
「俺の脳内が、命じてくるよ。お前を愛せと。ルシアを愛することは、とっくに刷り込まれ刻み込まれてるのにな」
「んっ……」
耳朶に舌を這わせる。
ちゅ、とキスをしたら、ルシアはそれだけで、 表情を変えた。
「愛しているだけじゃ足りないのか?
俺はお前しか見ていない。大切な女にようやく出逢えたんだから」
「……本来はここにいるはずのない人間だったから、怖かった。ごめんなさい、あなた」
「俺のそばにお前は存在しているよ。
心も、姿も美しい……俺の愛するルシア」
「私も美しく素敵なクライヴに愛されて幸せです」
首筋にキスをする。足りない何かを埋め合わせるには、言葉以上に優れた術がある。
「……私は黒魔術師のあなたも、公爵であるあなたも好きよ、クライヴ」
「嬉しいよ、ありがとう」
ゆったりとした部屋着を脱がせる。クライヴが払い落とすまでもなく、彼女は下着さえ自分で、床に落とした。
「大胆なお前も好きだよ」
真っ白な肌に、唇を落とし、舌を這わせると、くすぐったそうにするから、刺激を強くした。
あらわになった豊かなふくらみをいきなり揉みしだく。びくん、と跳ねる身体は、とても敏感で、私はあなたが好きと、伝えてくるかのよう。固くなりつつある先端を弾いたら、くぐもった声をあげた。
薄く開いた唇の隙間から舌を潜り込ませる。
何度か絡ませると、ルシアもつたなく、それに応えた。
口内を探って感度を確かめたら、体調は悪くないのがわかって、クライヴはこのまま抱いていいのだと、安堵し、身震いする。歯止めを利かせなければ、恐ろしいことになりそうだとも思う。こちらを褒め殺しにする誘惑を仕掛けてきたルシアに、身も心も落とされてしまった。
女に慣れていても、恋愛には慣れていなかった。愛なんて知らなかった。陰湿で冷淡な黒魔術師は、過去の時代から、呼んだ少女に、愛をという魔法をかけられた。
きっと、それは永久の眠りを享受するまで、
溶ける日はない。
シャツも、着ていたものすべて脱いで覆い被さる。柔らかな乳房が、ぶつかって、
たちまち、みなぎってきた。 単純だが、
ルシアにしかこんな反応はしない。
1人で慰めたこともなかった。
「クライヴ……っ」
「……ルシア」
背中に腕を回し、抱きしめる。大きくふくらんだ腹部のせいで、少し隙間があるが、肌を
晒して抱きしめ合うのは心地よかった。
互いの温度がわかる。
啄むだけのキスを何度となく交わした。
ふらちな指先は、ルシアの豊かな乳房をこねては、頂きをつまんだ。
寝台ベッドに散らばった金の髪が、
証明に照らされ輝く。
鎖骨の上に残した口づけの印も、赤黒く浮かび上がっていた。クライヴは、手を伸ばし、
不必要な明かりを消した。
手を伸ばしてくる愛しい女を抱き上げる。
膝の上に乗せたら、肩に頬を寄せた。
魔術で人の心までは奪えない。クライヴは、つくづく感じている。
そそり立つ欲望は、ルシアに触れているが、まだ何もしない。背中をかき抱いて、
撫でる。 暴れだしたい気持ちと、ずっとこうしていたい気持ちがせめぎ合っている。
イケナイ事をしている気分になりながら、
ルシアの柔肌を手のひらで、愛で唇を寄せた。
反った頤おとがいを、抱えて、影を重ねる。上唇を吸って、下唇へ。
甘く噛んで、ゆっくり舌を口内にもぐらせる。
背中を撫でる指は、腰までを辿り、柔らかな臀部へ。やわやわと、揉みしだいたら、
鼻から抜ける息を漏らす。
ルシアの表情は暗闇の中でも手に取るようにわかる。快楽に歪み、その時を待ちわびるかのように、唇を薄く開いている。
クライヴの熱の暴走は、なだめすかしながら、じっくりとルシアを愛していく。
乳房の先にくらいついては放す。
唇で啄ばむのを繰り返す度、濡れて硬くなった。ぶるん、と弾んだ乳首を勢いよく吸い上げる。乳房を揉みしだきながら、下腹部に手を伸ばすと、しとどに濡れていた。
淡い茂みをかき分けて、蕾、秘裂を中指で擦る。奥に薬指を突き立てたら、
何度か声を上げて、ルシアは達した。
「……クライヴっ」
彼の名を呼んで果てたのは初めてだった。
耳朶を唇で食み、
ほぐれたやわ肌に、慎重に腰を押し進める。
怒張が、最奥まで辿りついた時、お互いに、
吐息を漏らしていた。
あたたかく包み込むルシアの子宮ナカ。
子を宿しているルシアの奥に自身を擦りつけるのは、甘えているようで、やましい気分にもなるが、止められない。本気で、嫌なら無理に抱くつもりなどなかった。ルシアも求めてくれていると、確信したからこそ、
クライヴも、彼女を抱くことにした。
濡れた唇を触れ合わせると、じん、と身体の奥が熱くなる。角度を変えて、やさしいキスをする。それだけで、襞が、ざわめいて、クライヴを絡めとるようだ。
「ルシア……」
背中に回った腕。爪を立てられて、更に引き寄せられる。勢いあまって、鋭く突き上げてしまうと、ルシアは呼吸を乱しながら、
啼いた。甘く切ない声で。
「はぁ……はぁ……」
「悪い……無茶はしないつもりだった」
「謝らなくていいわ」
「甘やかすとろくなことにならないぞ」
「私もあなたを感じたかったんです」
睦言は、闇に溶ける。
2人はどこまでも思い合っていて、
一方的に欲をぶつける行為でもなんでもなかった。打ち寄せてくる快楽の波。
「……愛してる。また思いきり抱くから、待ってろ」
クライヴは、ルシアの乳房の先を唇に挟み、
大きく突き上げた。蕾を人差し指の腹で擦る。
あまやかな声をあげた妻を愛しげに見つめると、シーツの上に横たえた。
しばらく、胎内ナカにとどまったあと、
出ていく。張りつめた怒張から、滴が、流れ落ち、シーツを汚した。
横向きに抱きしめ合いながら語らう。しっとりと、汗ばんだ肌が、交歓の余韻を残している。
「……辛くないか」
「平気よ。あなたは優しすぎるわ」
「お前も俺に抱かれたかったか。うわべではなく、本気で」
愚かな問いにも、ルシアは気分を害することなく
答えてくれる。
「ええ……女として愛されたいって願っているから。母親としては失格ね」
「俺も父親失格だ」
愛し合いたい気持ちを抑えられないのだから。
髪をひと掬いすると、口づける。
ルシアは、鼓動を弾ませた。
「ルシアの願いは、この先ずっと叶えてやる」
恋をして、愛した少女が、
更に美しく変貌するその様をずっと見続けていたい。クライヴは、ルシアの外見もだが、中身を愛していた。
刷り込みでも、依存でもない。
愛されて、愛したいと深く願うようになったのだ、
「行ってくる。今日は晩餐に呼ばれているから、夕食はいらない」
「行ってらっしゃい。お気をつけて」
貴族の正装姿のクライヴを、
一瞬ほうけたように見るルシアに彼は苦笑する。そんなに、きらきらした眼差しを向けられると、さすがに照れる。
街へ行く時もこんなに、かしこまった格好はせず、砕けた格好のため、物珍しいのだろう。
「無理をせず、ゆっくり過ごせよ」
「はい」
クライヴは、振り返りもせず城を出て馬を駆った。
領民の屋敷を訪れても頭の中は愛妻のことでいっぱいだ。
彼女は、よく立ち働く。懐妊がわかってからも変わらず動こうとするから、クライヴは、
時折、縛りつけて部屋に閉じ込めておきたい
衝動に駆られた。
妊娠が、まだわかったばかりの頃、悪阻(つわり)が、ひどかったにも関わらず口にもせずに、城内を掃除して回った挙句に、めまいを起こして倒れた。
クライヴは、万が一のことが起きたらと、不安でたまらず、今まで、見せたことがないほど激昂し怒鳴りつけた。クライヴの激情に、ルシアは、怯えてはいなかったが、しおしおと萎れ、見るからに落ち込んで元気を失くした。ごめんなさいと謝って、1粒だけ涙を落とした。
安定期に入っているが、過剰な労働をする必要は無い。
適度な運動が必要なら、城内を歩き回れば十分だ。生まれてくる命も大事だが、それ以上に、妻の身体が心配だ。
使用人でも雇えばいいのだろうか。
クライヴが生まれた生家では、執事、
洗濯、料理、掃除など家事をこなすメイド達、執事の補佐をする従僕、馬を扱う馬丁など
多数の使用人たちが暮らしていた。
彼らは、クライヴが不祥事を起こした際、屋敷を逃げているので、今も無事であるはずだ。
歳をとった家老はともかくとして。
使用人が、入り込むといちいち面倒くさい。
公爵の位を賜りながら黒魔術師としての顔を持つクライヴは、彼を理解し仕えてくれる
存在など端から期待していなかった。
ルシアを一時も離さず守って過ごしたいが、
領主としての仕事があるため、毎日そばにはいてやれない。
領地の管理は、城でできる帳簿付けなどの事務仕事から、外に赴き、領民と会って、
暮らしの状況を聞いたり様々あった。
ルシアのおかげか、昔は煙たがられていたクライヴも、今は昔より慕われるようになった。
結婚した旨を伝えに2人で訪れたとある、
屋敷では、大層に歓迎された。
クライヴは、ルシアはの存在にどれだけ助けられ、救われているかわからない。
「フェアウェル公爵」
クライヴは、応接間リビングルームで、
話しかけられ、我に返った。
(まずい。思考に囚われすぎていた)
「どうかされたんですか、公爵」
「……いや、税を下げるという相談でしたね」
「難しそうなお顔をなさっておいででしたが、
話は聞いておられたようですね」
「もちろんです」
クライヴは、しれっと答えた。うわ言で、ルシアの名を呼んだりしてなくてよかった。
頭の中は、ルシアのことが、7割を占めていたが、きちんと話は聞いていたし書類も確認していた。脳の右と左で別のことを考えられるのは、彼の持って生まれた特性である。
「作物の収穫量も問題ないですし、
王室に収める量も、足りている。
税を下げても領地の管理が傾くということは
ないでしょう。王室に報告しても許可は難なく下りるはずです」
「……ありがとうございます」
領民は、深々と頭を下げた。
明日にでも王城へ行かねばならない。
「奥様は、順調ですか? 」
「おかげさまで。もうあと3ヶ月で生まれます」
「おめでたいことです」
「ありがとうございます」
領民に見送られ、クライヴは、招待を受けた別の領民の屋敷で晩餐の席についた。ささやかだが、贅をこらしたもてなしは、
クライヴのために用意されたもので感謝しつつ、
食事をした。二刻ほど滞在したのち、帰路についたクライヴは、
ルシアの満面の笑みに出迎えられた。
その頬と額に口づけて、腕の中に抱きしめる。
「……おかえりなさい、あなた」
「悪くない響きだな」
「うふふ。でもこれって何気に独占欲の象徴なんですよ。私のあなたって意味ですから」
少し怖いセリフでも、ルシアが言うとかわいいだけだ。
「独占欲で俺に勝てるとでも思っているのか? 」
「ふぇっ? 」
上ずった声を出したルシアを横抱きにし、
寝室へと転移した。サンルームではなく、
今まで使っていた2階の寝室。
クライヴは、そっとルシアを寝台ベッドに横たえると、燭台の火を灯す。淡い光の中、
金の髪と青い瞳が、照らし出されている。
髪を撫で、頬を手で押し抱く。
大きな瞳を瞬かせて、ルシアはクライヴを見つめた。腕の柵で囲い込み、見下ろすと、
彼女の心臓は高鳴り始める。
(三ヶ月間、軽い戯れだけだったが、今夜は容赦しない)
「……体調は大丈夫か? 」
「はい。ゆっくり過ごさせてもらいました」
「ルシア……優しくするから抱きたい」
胸の鼓動が、うるさいほどに響いた。閉じ込めた腕の中で、愛妻が、顔を赤らめる。まるで、何も知らない生娘のごとく。
「も、もうクライヴったら直球ストレートなんだから」
「嫌いじゃないだろ」
「はい。あ、お願いがあります。
ゆっくり、今のその姿を見せてくれませんか」
「……いいよ」
クライヴは、ルシアの懇願にくすっ、と笑った。今すぐ抱きしめたい。キスしたい。
「……やっぱり素敵。もっと見せてほしいのに」
トップハット、ダークカラーのジャケット、シルクのシャツに、臙脂色のクラヴァット(タイ)、正しく伝統的な貴族のスタイルだった。
ステッキは、必要ないので持たなかったものの未だにトップハット(帽子)は被ったままだった。ルシアは、うっとりと、クライヴを見つめ、彼の帽子を取った。ジャケットを脱ぎ、
クラヴァットも外したクライヴは、
ルシアに向き直る。
着ていたものは寝台ベッドの横に置く。
「……素敵すぎて目がくらみました。やはり、
あなたは貴族なのですね」
「俺としては、いつもの長衣ローブの方が、着慣れていて楽だが」
「……ぷっ」
ルシアは、屈託なく笑い、クライヴの背中に腕を回した。
「私、まだ王城に拝謁に伺ってませんよね。正式な妻なのでしょうか? 」
クライヴは柔らかな仕草で、愛妻の髪を撫でた。公爵夫人として、王家に拝謁して正式に、
認められていないこと。ルシアはそこにこだわる。
「忙しなく結婚して子供を授かったからな。
王城には、1度俺一人で、結婚の報告に行っているし問題ない。また、子が生まれて落ち着いてから行こう」
手のひらで頬を包み込む。ルシアは、首に腕を絡めてクライヴの耳元でささやく。
「抱いて……」
甘い熱に侵食されて手に負えない。
「俺の脳内が、命じてくるよ。お前を愛せと。ルシアを愛することは、とっくに刷り込まれ刻み込まれてるのにな」
「んっ……」
耳朶に舌を這わせる。
ちゅ、とキスをしたら、ルシアはそれだけで、 表情を変えた。
「愛しているだけじゃ足りないのか?
俺はお前しか見ていない。大切な女にようやく出逢えたんだから」
「……本来はここにいるはずのない人間だったから、怖かった。ごめんなさい、あなた」
「俺のそばにお前は存在しているよ。
心も、姿も美しい……俺の愛するルシア」
「私も美しく素敵なクライヴに愛されて幸せです」
首筋にキスをする。足りない何かを埋め合わせるには、言葉以上に優れた術がある。
「……私は黒魔術師のあなたも、公爵であるあなたも好きよ、クライヴ」
「嬉しいよ、ありがとう」
ゆったりとした部屋着を脱がせる。クライヴが払い落とすまでもなく、彼女は下着さえ自分で、床に落とした。
「大胆なお前も好きだよ」
真っ白な肌に、唇を落とし、舌を這わせると、くすぐったそうにするから、刺激を強くした。
あらわになった豊かなふくらみをいきなり揉みしだく。びくん、と跳ねる身体は、とても敏感で、私はあなたが好きと、伝えてくるかのよう。固くなりつつある先端を弾いたら、くぐもった声をあげた。
薄く開いた唇の隙間から舌を潜り込ませる。
何度か絡ませると、ルシアもつたなく、それに応えた。
口内を探って感度を確かめたら、体調は悪くないのがわかって、クライヴはこのまま抱いていいのだと、安堵し、身震いする。歯止めを利かせなければ、恐ろしいことになりそうだとも思う。こちらを褒め殺しにする誘惑を仕掛けてきたルシアに、身も心も落とされてしまった。
女に慣れていても、恋愛には慣れていなかった。愛なんて知らなかった。陰湿で冷淡な黒魔術師は、過去の時代から、呼んだ少女に、愛をという魔法をかけられた。
きっと、それは永久の眠りを享受するまで、
溶ける日はない。
シャツも、着ていたものすべて脱いで覆い被さる。柔らかな乳房が、ぶつかって、
たちまち、みなぎってきた。 単純だが、
ルシアにしかこんな反応はしない。
1人で慰めたこともなかった。
「クライヴ……っ」
「……ルシア」
背中に腕を回し、抱きしめる。大きくふくらんだ腹部のせいで、少し隙間があるが、肌を
晒して抱きしめ合うのは心地よかった。
互いの温度がわかる。
啄むだけのキスを何度となく交わした。
ふらちな指先は、ルシアの豊かな乳房をこねては、頂きをつまんだ。
寝台ベッドに散らばった金の髪が、
証明に照らされ輝く。
鎖骨の上に残した口づけの印も、赤黒く浮かび上がっていた。クライヴは、手を伸ばし、
不必要な明かりを消した。
手を伸ばしてくる愛しい女を抱き上げる。
膝の上に乗せたら、肩に頬を寄せた。
魔術で人の心までは奪えない。クライヴは、つくづく感じている。
そそり立つ欲望は、ルシアに触れているが、まだ何もしない。背中をかき抱いて、
撫でる。 暴れだしたい気持ちと、ずっとこうしていたい気持ちがせめぎ合っている。
イケナイ事をしている気分になりながら、
ルシアの柔肌を手のひらで、愛で唇を寄せた。
反った頤おとがいを、抱えて、影を重ねる。上唇を吸って、下唇へ。
甘く噛んで、ゆっくり舌を口内にもぐらせる。
背中を撫でる指は、腰までを辿り、柔らかな臀部へ。やわやわと、揉みしだいたら、
鼻から抜ける息を漏らす。
ルシアの表情は暗闇の中でも手に取るようにわかる。快楽に歪み、その時を待ちわびるかのように、唇を薄く開いている。
クライヴの熱の暴走は、なだめすかしながら、じっくりとルシアを愛していく。
乳房の先にくらいついては放す。
唇で啄ばむのを繰り返す度、濡れて硬くなった。ぶるん、と弾んだ乳首を勢いよく吸い上げる。乳房を揉みしだきながら、下腹部に手を伸ばすと、しとどに濡れていた。
淡い茂みをかき分けて、蕾、秘裂を中指で擦る。奥に薬指を突き立てたら、
何度か声を上げて、ルシアは達した。
「……クライヴっ」
彼の名を呼んで果てたのは初めてだった。
耳朶を唇で食み、
ほぐれたやわ肌に、慎重に腰を押し進める。
怒張が、最奥まで辿りついた時、お互いに、
吐息を漏らしていた。
あたたかく包み込むルシアの子宮ナカ。
子を宿しているルシアの奥に自身を擦りつけるのは、甘えているようで、やましい気分にもなるが、止められない。本気で、嫌なら無理に抱くつもりなどなかった。ルシアも求めてくれていると、確信したからこそ、
クライヴも、彼女を抱くことにした。
濡れた唇を触れ合わせると、じん、と身体の奥が熱くなる。角度を変えて、やさしいキスをする。それだけで、襞が、ざわめいて、クライヴを絡めとるようだ。
「ルシア……」
背中に回った腕。爪を立てられて、更に引き寄せられる。勢いあまって、鋭く突き上げてしまうと、ルシアは呼吸を乱しながら、
啼いた。甘く切ない声で。
「はぁ……はぁ……」
「悪い……無茶はしないつもりだった」
「謝らなくていいわ」
「甘やかすとろくなことにならないぞ」
「私もあなたを感じたかったんです」
睦言は、闇に溶ける。
2人はどこまでも思い合っていて、
一方的に欲をぶつける行為でもなんでもなかった。打ち寄せてくる快楽の波。
「……愛してる。また思いきり抱くから、待ってろ」
クライヴは、ルシアの乳房の先を唇に挟み、
大きく突き上げた。蕾を人差し指の腹で擦る。
あまやかな声をあげた妻を愛しげに見つめると、シーツの上に横たえた。
しばらく、胎内ナカにとどまったあと、
出ていく。張りつめた怒張から、滴が、流れ落ち、シーツを汚した。
横向きに抱きしめ合いながら語らう。しっとりと、汗ばんだ肌が、交歓の余韻を残している。
「……辛くないか」
「平気よ。あなたは優しすぎるわ」
「お前も俺に抱かれたかったか。うわべではなく、本気で」
愚かな問いにも、ルシアは気分を害することなく
答えてくれる。
「ええ……女として愛されたいって願っているから。母親としては失格ね」
「俺も父親失格だ」
愛し合いたい気持ちを抑えられないのだから。
髪をひと掬いすると、口づける。
ルシアは、鼓動を弾ませた。
「ルシアの願いは、この先ずっと叶えてやる」
恋をして、愛した少女が、
更に美しく変貌するその様をずっと見続けていたい。クライヴは、ルシアの外見もだが、中身を愛していた。
刷り込みでも、依存でもない。
愛されて、愛したいと深く願うようになったのだ、
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