極上Dr.の甘美な誘惑―罪深き深愛の果てに-(旧題:sinful relations)

雛瀬智美

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第一章「sinful relations」

番外編「ドラッグ」(☆☆☆)(別バージョン)

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 出逢ってから、しばらく経ち、私は今日も彼との夜を過ごそうとしていた。夏の暑さも本格的化してきたこの頃、陽射しよりも胸をこがすのは彼への恋心。
 いつのまにやら麻薬のような彼の存在に身も心も蝕まれていた。

ラグジュアリーなホテルの最上階。こんな高い所を予約して連れてきてくれるなんて、変だとは感じる。遊びだけの相手にこんなことするわけがない。
広い部屋の窓からは、都会の夜景を見渡すことができた。夜の星よりも眠らない街の明かりの方が眩しいくらいだ。二人で、隣り合って眺める景色。切なくて、どうしようもなくなる。
少し距離を置いていたら手を繋がれた。
握り返せないまま横から彼を見る。
眩しく輝く薄茶の髪はさらさらとしていて、
指通りも滑らかだと知っている。 
髪と同じ色彩の瞳は、偽りであることは、
薄々感じとっていた。
スーツの上に白衣を纏う職業だということも。
指の力が強くなって見上げる。

 小さく息を吐きだす。

 沈黙が耐え切れなくなって、口を開いた。

「……本当はどんな人なの? 」
答えが返らないことを承知で呟く。
案の定、眉をしかめられた。
薄く開いた唇がささやく。
「俺は、遊びで恋愛ができる人間じゃない」
彼からこぼれた真実のカケラだと思った。
「……そう」
何も言わない方がいい。
過ぎたことを言えば彼は離れるかもしれない。
「連れてきてくれてありがとう」
「礼なんていらない」
抱き上げられベッドにおろされた。
 意思を持って、組み敷かれる。
顎を指がつまむ。
間近で見下ろされた。
「手離したくない。あれからそう思ったことなんてなかったのに」
 大きな体が視界を覆い、肩先に彼の頭がぶつかってきた。愛しい重み。

 耳元に熱い息を感じて、思わず目をつむった。
 体が内側から震える。
 ぶるぶると頭を振って抱きついた。
 骨がきしむくらい強く背中を抱きしめられる。
「泣き顔も全部俺のものだろ……沙矢」
さらり、頬の横の髪を梳いて彼は笑った。
どこか底知れぬ冷たい笑みも
嫌いじゃない。 
本当は冷たい人なんかじゃないのは、
分かっている。
「あなたのものよ」
望む通りの答えを返せただろうか。
ワンピースの背中でジッパーが下ろされる。
下着まで外された。
「っ……」
大きな手がさらけ出された胸を包む。
乱暴に揉みしだかれて、啼き声を上げた。

「俺に抱かれて、傷を受けても気づかない振りをしているんだろ」

「違う……」

 傷つけていると自覚している彼のほうが、よほど苦しいはずだ。

 愛しいから、憎めない。

 彼に、触れられるのが怖いのではなく戻れないのが分かってて、逃げることを選ばない自分が、恐ろしい。

「っ……あ」
 身を捩ると、大きな体で押さえつけられた。

「過ぎた執着は身を滅ぼす。そんなの知り尽くしているのに」
彼は独りごちながらも私を侵略する手を緩めない。
妖しく艶めいた声は麻薬のようだ。
「……青?」
名前を呼んでみる。
 いきなり、キスで唇を塞がれた。

 ねっとりと絡む舌の動きに翻弄される。

 差し出せば、絡め取られ白い糸が二人の間で繋がっていた。

「はあ……っ」

 キスが、ふいに終わり、肩で息を整える。

 荒い息が、かかる。

 薄明かりの下で、彼の瞳は獣のように獰猛だった。

 視線が注がれていたそこに、唇が触れた。

 いきなり吸い上げられ、電流が走る。

「……っ、ああ」

 舌で転がされ、唇に食まれる。

 反対側は、指先でこねられて形を変えていた。

 両方共硬さを増し、まるで彼に触れられて悦んでいるみたいだ。

 ふくらみの間に頭を埋めながら、下腹部も侵略されていた。

 声にならない声をあげて、もだえても容赦なく攻められる。

 膝を押し開かれ、下着も脱がされ肌をさらけ出した私に対し、彼は未だ衣服を乱れさせてもいない。
 危うい二人の関係を表しているようで、おかしい。

「はやく……」

 声が濡れているのに気づいてはっとした時には遅かった。

「……お前の涙に欲情を煽られるよ」

 自嘲気味に笑い、彼はつぶやいた。

 ばさり、シャツを放る音。

 スラックスのベルトを外す様子をとらえ、

 やっと彼が、私と同じ状態になったと感じた。

 細身なだけじゃなく、絶妙なバランスが取れた美しい裸身。

 私を奪いつくした青という人がそこにいる。

 覆いかぶさってきた彼が、背中に腕を回しきつく抱きしめられる。

 息もできないほどに、熱くて儚い抱擁。

 背中に腕を回すと、口元から小さな呻き声が漏れた。

「あなたこそ、泣いているみたい……」

 彼は、訝しむように眉をひそめた。

「心が泣き叫んでいるんだわ」

 言い過ぎたかもしれない。

 それでも、自分のことにもっと気づいてほしかった。

「……俺は、沙矢ほど感情が豊かじゃない」

 じゅうぶん、彼は感情が豊かだ。

 表に出すのが上手じゃないだけ。

「……私はあなたに抱かれるのが嬉しい。

 この時間が、好きで失いたくないって思うの」

「俺なんかに、お前は……」

 涙を堪えるように、微笑んだ。

「分かってないんだから」

 頬を包む手に手を添える。

 彼の表情を確かめたくて瞳を凝らしていると、間接照明が消えた。

 彼の前髪が、秘所にかかる。

 舌で滴る泉をすくわれ、蕾は指でこね回される。

「あっ……もうだめ」

 これ以上触れられたら、独りで、のぼりつめてしまう。

 それが、怖かった。

 一度達した方が、楽だから、イカせてくれようとしてるのだとわかっていても、

 置き去りにされているみたいで不安だった。

(……嫌なの)

 今宵も私の思いを知らず、容赦なく、快楽へと導かれるのだ。

「綺麗だよ」

 彼は、甘い秘め事のように耳元で囁いて、中に指を侵入させた。

 かき混ぜられた途端、めまいがした。

 抗えない快楽の波に、引きずり込まれ、脳裏が白く濁った。

 気がついた時、彼は側にいなくて、伸ばした腕は空を切った。

「青……」

 闇の中、準備をする音が響く。

 乱暴に、髪がかき混ぜられて、ほろりと涙がこぼれた。

 首筋に彼の息が、吹きかかる。

 手を彷徨わせていると掴まれたので、うなづいた。

 両足を抱えられ、ゆっくりと彼自身が入ってくる。

「はっ……あ」

 ナカを満たされた時、一つ、吐息が漏れた。

 首筋にしがみつくと汗で滑る。

「ま、待っ……」

 最後まで言うこともできず、奥を穿たれる。
腕を離すと真上には、狂おしい瞳が見えた。
(綺麗……怖い。
明かりを完全に消していれば見なくてすんだのに)
 鼻から抜ける息は媚びているようで、嫌になる。

 キスで唇が塞がれ喘ぎ声を封じられる。

 執拗なほど繰り返される濃厚なキス。
 舌を絡め、吸われ、ナカを突き上げられ、意識が白く濁りはじめる。

 イキたくない。

 意識では抗うのに、快楽の階段を駆け上がるスピードは止まらない。

 頂きを食まれ、ふくらみを揉みしだかれれば、きゅんと下腹がうずいた。

「く……っ」

「やっ……あ」

 眉をしかめ汗を散らした彼が、いきなり奥を突き上げ始める。

 緩やかさなんてかけらもなく獰猛な勢いで、内部を穿つ。

 卑猥な水音は、お互いが奏でるものだ。

 きっと、それが、興奮材料になり更に行為を激しくさせている。

 背中にしがみつき、腰を浮かせると、より一層彼自身を感じるようだった。

 痛くて切ない繋がり。

 私の動きを察してか、抱え起こされ膝の上で抱かれる格好になった。

 あぐらをかいた彼に、両脚を絡める。

 太くて、大きくて熱いものは、幾度と無く奥と外とを行き来する。

「……うれしいっ」

 抱かれている時間が、たまらなく好きだ。

 心なんて見えなくても、確かに彼はそこにいて

 私と体を交わしている。

 それが、何よりの歓びだった。

「どうしてお前はそんなに……」

 彼はそこで言葉を切った。
背筋が震える。

 涙を意地で振り切って、しがみついた。
(身体から始まっても愛でしょう?)

「……イケ」

「あああっ……」

 大きく突き上げた後、彼が腰をぶるりと震わせたのがわかった。

 隔たりを介して、熱の証が放たれ、私は意識を飛ばす。

 たくましい肉体が、覆い被さってくる。
 強く抱きしめられたことに気づかないままに眠りに落ちた。



 カーテンの隙間から差し込む光に、目を細める。ぼんやりと瞼を擦る。

 ベッドに体が、沈み込んでいる感覚。

 昨夜からのことを思い返すと、頬から全身に熱が走った。

 青はこちらの腰に腕を巻きつけながら、眠っている。繊細な指先は爪の先まできっちりと整えられていた。

 朝陽が陰影をつくり、長い睫を際立たせてている。寝顔は意外にも幼かった。7つ年上の男性なのに、高校生くらいにも感じるほど。
 寝顔を見つめられる機会なんてそうそうない。

 気づかれないように、その美しい造作を観察する。

(表情がないと、冷たくさえ感じられるほど整っているのよね)
 陽光に照らし出された髪の色は、薄い茶色。
 彼の瞳の色の真実は、
 名前の通りの青い瞳だと私は知っていた。

 見つめ続けていて気づかれたら、大変だ。

 多分、彼は熟睡しているわけじゃない。

 思い至った私は慌てて、背中を向けて体を離した。

(同じシーツをかけているので、離れられる距離は限られているけれど)

 その瞬間だった。

「離れるな」

 意外な言葉に、きょとんとする。

「えっ……!?」

 寝起きのかすれた声は、すさまじい色香で心臓の音を高鳴らせた。

 回された腕は、しっとりとしている。

 熱を込められた抱擁に思え、目元が潤む。

(なんて、罪な人)

 心の中でひっそりと泣く。

 小憎(こにく)らしささえ感じる。

(あなたが、そのつもりなら私も覚悟があるんだから)

「ん……」

 唇が重なる。

 次第に互いの唇が熱く、濡れてくるのを感じた。

 冷めた彼の唇が、熱を帯びると幸せな気持ちになる。

 私の熱を彼に全部与えられたらいいのに。

(凍えないで……大好きな青)

 もつれ合いながら、シーツに沈む。

 繰り返されるキスと抱擁にめまいがして、溶けてしまいそうだった。

 泣きじゃくりながら、しがみついて今宵も未来(あした)の夢を見る。

 彼の存在は麻薬だと、言い聞かせていたが、

 見た夢は、優しすぎるものだった。

 この夢のような日々が現実となればいいと願うしかない。  





 意識が覚醒した瞬間、腕に重みを感じた。

 胸元に頬を預けて、眠る存在に気づく。

(沙……矢)

 心中つぶやいて、髪に指をすべらせる。

 艶やかな黒髪が、朝日に照らされて輝いていた。

 静脈に打ち込んだ針から、体内に染みこんでいく麻薬のような女だ。

(いや、むしろ優しく体に作用する薬なのか

 ……離れられないという副作用は身体を甘く蝕んでいる。
 彼女に癒され救われている自分を既に認めていた)

 この想いに早く気づいてほしい。気づかれたくない。

 相反する想いが交錯していた。

 気づかぬ振り、騙された振りはとうに疲れ果てているというのに。

 壊れるほどに抱き殺そうと幾度思い、行動にはできなかった。

 壊したら、もう触れあえなくなる。

 沙矢を何も知らないままに終わってしまうのは、受け入れ難い。

 抱かれている間、彼女はとろけそうな甘い声で啼き狂う。

 切羽詰った声で喘ぎながら、確かに俺を求め責めているようにも感じた。
 好きだ、愛していると言葉にするのはきっと簡単なのだろう。

 同じベッドの中で背を震わせながら、
 泣く女を愛おしいという気持ちに、偽りは何ひとつない。

 これ以上時間が、砂となって零れ落ちないように己の中で誓った。

 










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