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番外編「抱き合う」
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「今、別のことを考えていた?」
鋭い彼に、瞼を伏せる。
肘を突いてこちらを見てくる美しい彼には、
何もかも見通されているから油断できない。
かつては使用人として彼は私に支えていて今では夫と妻という関係になった。
結婚する前、私が他の男に嫁いでいた頃からイアンは変わらない。
優しくて強くて、奇妙に意地悪だ。
甘やかしてくれるところはとことん甘やかすし
厳しいときはとても厳しい。
眼鏡を外すと、意地悪さが顕著な気がするのは昔から気づいていた。
私はそんなイアンをとても愛し尊敬している。
「そうね……」
抱き合い求め合うことの尊さに
気づかせてくれたのは紛れもなくこの男性(ひと)だ。
それだけに、彼に清らかな私を捧げられなかったことが悲しい。
あと少し出会うのが早ければとは仮定できなかった。
スチュアートの屋敷に嫁がなければ出会うことすら叶わなかったのだから。
「本当は、あなたとの子供が欲しかった」
ぎゅ、と背筋にすがりつく。
私は、女としては欠陥品なのだ。
何度となくなじられて罪の意識を体中に刻まれた。
彼が救ってくれたこそ今があるのだとしても。
「ジュリア、君はいるだけで価値があるのだから
詮無いことをもう考えるな」
強い口調。震える背中を抱きしめる腕の熱さと頼もしさに
胸がつまるくらいだった。
「君がいれば十分なんだよ。
二人きりの時間を過ごせる幸せがあるだろう。
……今度後ろ暗いことを口にしたら、どんなことをするか分からないよ?」
「っ……あなたは本気だから怖いわ」
「俺はジュリアの方がずっと怖いな」
きょとんとしたら、勢いよく彼が、奥に入りこんだ。
たまらず背中を仰け反らせれば、指が背筋を辿る。
「俺を無自覚に翻弄するから」
強く揺さぶられて視界が揺れる。
涙でけぶる。まばゆい快感の中、彼の存在を思い知らされた。
登りつめる瞬間、強く手首をつかまれていたのを感じた。
「女として人として君は恐ろしく魅力的だよ。どこが欠陥品なのだろうね? 」
意識の向こうで聞こえた言葉はとても甘く優しかった。
けだるい空気の中、彼の背中を指でなぞる。
彼は、優しくて、時折意地悪で、私を翻弄して引き離さない。
寝息が聞こえてきて、くすりと笑う。
「イアン……」
好きよ。愛しているわと心中で呟く。
彼の起きる気配はない。
ひょっとしたら寝た振りをしているのかもしれない。
体ごと閉じ込められる前に、寝台を離れた。
シーツを纏い、窓のカーテンを開ける。
朝日が、目にまぶしく、白い肌に陰影を作る。
「ジュリア」
くるり、と振り返ったら彼が微笑んでいた。
ベッドの枕元に置かれた眼鏡をかけている。
ブリッジを弄り調節した後、しっかりとこちらに視線を絡めた。
「先に起きるなんてずるいな」
「あなたが寝坊するから悪いのよ」
「ジュリアの温もりに浸っていたからだよ」
「っ! 」
妙に気恥ずかしくなり、頬に手を当てる。
「相変わらず可愛い人だ」
腰を隠した状態で隣に立つ。
肩を抱かれたらそれだけで、胸が高鳴った。
ことん、と彼の胸に頭を寄せる。長身の大きな体は
私をすっぽりと包み込むことができるのだ。
「頬が熱いのは風邪かな」
「あなたがくれた熱よ」
間違いなく。
この人以外私を高鳴らせ、昂ぶらせる人は存在しない。
過去も現在も未来においても。
「もう一度熱を分け合いますか」
確認ではなくて、承諾を確信している声音に喉が鳴った。
頷いたら、ふわりと抱き上げられる。
「いつも思うけど、あなたは軽いな」
「……昔より太ったわ」
「昔のあなたも好きだけど、今のふっくらしているあなたの方が魅力的ですよ。
俺を柔らかく包んでくれるから」
壊れ物を扱うように、優しく下ろされた。
彼を見上げて視線を絡ませる。
「抱いて……」
「いいえ、私が乞うのです」
瞬きを繰り返す。頬を包む手のひらは、少しひんやりしていてぞくりとした。
「抱いてもいいですか」
答えの変わりに彼の背中に腕を回したら、
先ほどの柔らかな態度とは裏腹な激しさで組み敷かれた。
視界を染める彼に、どきどきと心拍数が上がる。
「シーツに散る髪も美しい。あなたは全部俺の物だ」
「あっ……」
心臓の位置に当てられた手のひら。くすくすと笑う彼を、小さく睨んだ。
「今にも飛び出しそうだ。どうしてこんなに鳴り響いているんでしょう」
そのまま悪戯に手のひらを動かすから、勝手に背中が沿ってしまう。
あっという間に征服される。イアンの腕の中で、
女という性を思い知らされて、私はそれを悦んで受け入れていた。
キスの温度も愛しい。
どうしたら肌の熱が上がっていくかも彼はとっくに知っていて。
狂おしいほどの熱情に悶えながら、受け止める。
足を絡めたら、貴方がより側に近づく。
先に私のほうが、足元から崩れ落ちても、
貴方は私を離してはくれない。
鋭く息を吐いて、彼がもたれかかって来る瞬間が待ち遠しかった。
その時まではあまやかな眠りを、必死で遠ざける。
すべてを手放して、私を抱きしめる彼を感じたいから。
鋭い彼に、瞼を伏せる。
肘を突いてこちらを見てくる美しい彼には、
何もかも見通されているから油断できない。
かつては使用人として彼は私に支えていて今では夫と妻という関係になった。
結婚する前、私が他の男に嫁いでいた頃からイアンは変わらない。
優しくて強くて、奇妙に意地悪だ。
甘やかしてくれるところはとことん甘やかすし
厳しいときはとても厳しい。
眼鏡を外すと、意地悪さが顕著な気がするのは昔から気づいていた。
私はそんなイアンをとても愛し尊敬している。
「そうね……」
抱き合い求め合うことの尊さに
気づかせてくれたのは紛れもなくこの男性(ひと)だ。
それだけに、彼に清らかな私を捧げられなかったことが悲しい。
あと少し出会うのが早ければとは仮定できなかった。
スチュアートの屋敷に嫁がなければ出会うことすら叶わなかったのだから。
「本当は、あなたとの子供が欲しかった」
ぎゅ、と背筋にすがりつく。
私は、女としては欠陥品なのだ。
何度となくなじられて罪の意識を体中に刻まれた。
彼が救ってくれたこそ今があるのだとしても。
「ジュリア、君はいるだけで価値があるのだから
詮無いことをもう考えるな」
強い口調。震える背中を抱きしめる腕の熱さと頼もしさに
胸がつまるくらいだった。
「君がいれば十分なんだよ。
二人きりの時間を過ごせる幸せがあるだろう。
……今度後ろ暗いことを口にしたら、どんなことをするか分からないよ?」
「っ……あなたは本気だから怖いわ」
「俺はジュリアの方がずっと怖いな」
きょとんとしたら、勢いよく彼が、奥に入りこんだ。
たまらず背中を仰け反らせれば、指が背筋を辿る。
「俺を無自覚に翻弄するから」
強く揺さぶられて視界が揺れる。
涙でけぶる。まばゆい快感の中、彼の存在を思い知らされた。
登りつめる瞬間、強く手首をつかまれていたのを感じた。
「女として人として君は恐ろしく魅力的だよ。どこが欠陥品なのだろうね? 」
意識の向こうで聞こえた言葉はとても甘く優しかった。
けだるい空気の中、彼の背中を指でなぞる。
彼は、優しくて、時折意地悪で、私を翻弄して引き離さない。
寝息が聞こえてきて、くすりと笑う。
「イアン……」
好きよ。愛しているわと心中で呟く。
彼の起きる気配はない。
ひょっとしたら寝た振りをしているのかもしれない。
体ごと閉じ込められる前に、寝台を離れた。
シーツを纏い、窓のカーテンを開ける。
朝日が、目にまぶしく、白い肌に陰影を作る。
「ジュリア」
くるり、と振り返ったら彼が微笑んでいた。
ベッドの枕元に置かれた眼鏡をかけている。
ブリッジを弄り調節した後、しっかりとこちらに視線を絡めた。
「先に起きるなんてずるいな」
「あなたが寝坊するから悪いのよ」
「ジュリアの温もりに浸っていたからだよ」
「っ! 」
妙に気恥ずかしくなり、頬に手を当てる。
「相変わらず可愛い人だ」
腰を隠した状態で隣に立つ。
肩を抱かれたらそれだけで、胸が高鳴った。
ことん、と彼の胸に頭を寄せる。長身の大きな体は
私をすっぽりと包み込むことができるのだ。
「頬が熱いのは風邪かな」
「あなたがくれた熱よ」
間違いなく。
この人以外私を高鳴らせ、昂ぶらせる人は存在しない。
過去も現在も未来においても。
「もう一度熱を分け合いますか」
確認ではなくて、承諾を確信している声音に喉が鳴った。
頷いたら、ふわりと抱き上げられる。
「いつも思うけど、あなたは軽いな」
「……昔より太ったわ」
「昔のあなたも好きだけど、今のふっくらしているあなたの方が魅力的ですよ。
俺を柔らかく包んでくれるから」
壊れ物を扱うように、優しく下ろされた。
彼を見上げて視線を絡ませる。
「抱いて……」
「いいえ、私が乞うのです」
瞬きを繰り返す。頬を包む手のひらは、少しひんやりしていてぞくりとした。
「抱いてもいいですか」
答えの変わりに彼の背中に腕を回したら、
先ほどの柔らかな態度とは裏腹な激しさで組み敷かれた。
視界を染める彼に、どきどきと心拍数が上がる。
「シーツに散る髪も美しい。あなたは全部俺の物だ」
「あっ……」
心臓の位置に当てられた手のひら。くすくすと笑う彼を、小さく睨んだ。
「今にも飛び出しそうだ。どうしてこんなに鳴り響いているんでしょう」
そのまま悪戯に手のひらを動かすから、勝手に背中が沿ってしまう。
あっという間に征服される。イアンの腕の中で、
女という性を思い知らされて、私はそれを悦んで受け入れていた。
キスの温度も愛しい。
どうしたら肌の熱が上がっていくかも彼はとっくに知っていて。
狂おしいほどの熱情に悶えながら、受け止める。
足を絡めたら、貴方がより側に近づく。
先に私のほうが、足元から崩れ落ちても、
貴方は私を離してはくれない。
鋭く息を吐いて、彼がもたれかかって来る瞬間が待ち遠しかった。
その時まではあまやかな眠りを、必死で遠ざける。
すべてを手放して、私を抱きしめる彼を感じたいから。
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