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外伝「好きな人と親友とのクリスマス」
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親友の片思いが成就した。
そう思って見守っているのだけどじれったい二人を見ているともやもやしてくる。
身勝手な気持ちの押しつけとわかりつつ見ていられなくなった。
ガラにもなくカマをかけて見ようかと考えた。
もちろん、菫子にも伝えたうえで。
『あの人と付き合っているわけじゃないし、
同級生同士なんだからお茶をするくらいいいんじゃない』
さらっと言ったけどそれは私の意図を理解しているからに思えた。
動かないでいる二人がじれったい。
「待たせたか。永月に呼び出されるなんて思わんかったわ」
親友に伝えつつ呼びだした同級生は、快活な笑顔を見せる。
大学のキャンパス内、しかも人がよく通る場所である。
「来てくれてありがとうね」
「菫子の親友やし」
大学内で友達が多いし、例の女性と別れてからも
男性の友人と一緒にいるのをよく見かけている。
女性と二人きりとか、複数とかそういうのはない。
菫子が思い続けられたのもそういう人だから。
「永月は美人でめっちゃモテモテやのに、もったいないな。
気持ちはわからんでもないけど……」
分かった風にいう草壁涼に忍び笑いをする。
「……菫子の言った通りの人ね」
「永月は菫子のそばにずっとおってくれた大事な存在や。
俺にとっても恩人やから心配してるんやで」
あれから八か月が過ぎてどうにか這い上がろうと
頑張っているけれどまだ一歩も踏み出せていない。
「菫子のことを好きなのよね」
問いかけると目を丸くした草壁君は、ゆるく微笑んだ。
「好きやで。何にも変えられん存在や」
「どうして二人は進もうとしないの。
両想いになったから何にも憂いはないはずでしょ」
やきもきしている。
お互いの気持ちが同じなのにどこか引いている二人が見ていられない。
「大切にしたいからって言ったらきれいごとやって思う?」
「異性に慣れているしどうでもいい相手だから、
褒めたりできるけど、一番大切で近づきたいはずの
相手には、慎重になってるのね」
「……心配かけて悪いな。でも俺だってこのままで
いいと思ってないで。
あきらめるつもりはさらさらないしな」
「言っとくけどあの子は自分が気づいていないだけで
結構モテるわよ。油断しない方がいいわ」
「ご忠告いただいて感謝やけど
俺と菫子がうまくいったら永月も……」
彼は全部は言わなかった。
一応、この場には来てくれたけど、
ベンチの端っこと端っこに座っているし、
時折しかこちらに視線を向けない。
菫子がこの場にいたらそっけないと驚くはずだ。
会うならやはり三人がいい。
「パートナーがいないという意味では、みんなまとめてクリスマスぼっちね」
「ぶっ。せやな……。バイト入れようかな」
「みんな一人なんだし三人でクリスマスパーティーでもしましょうよ。
菫子は草壁君と二人きりは拒否るだろうし?」
「両片思いやし二人きりは気まずいか」
「両思いでしょ」
「両片思いってことにしといて」
「わかったわよ。というわけで、菫子への連絡は草壁君がお願いね」
「……わかりました。永月姐さん」
「誰が極道の姉御(あねご)よ!」
「永月も声張り上げることあるんやな……」
感心したように言われてしまった。
私もお節介を焼いていないで踏み出さなきゃ。
三月からは新天地へ旅立つんだから。
(菫子のように強くなりたいな)
帰宅したタイミングで伊織が電話をかけてきた。
今日、涼ちゃんと会うと言っていたけどその報告だろうか。
「菫子……草壁君とのことはどうするつもりなの?」
単刀直入で言われ唖然とする。
「へ。どうもこうもしないわよ。
ちょっと前にお別れしたばっかりでしょ」
あの日から一ヶ月も経っていない。
別れの現場の第三者だったから間違いない。
「三谷さんは二人がうまくいくの願ってくれてるわよ。
私、彼女のこと誤解してたけどさっぱりしてていい人よね」
「薫さんはいい人なのよ! 昨日も実はお茶して」
「だったら彼女のためにも幸せにならなくちゃ。
大親友の伊織さんも応援してるのよ」
「どうしたの。伊織は一番の親友よ」
「一番の親友は二人が上手くいったのを見届けたいの」
「……う、うん。わかってるの。
伊織がずっと見守ってくれてて感謝してる」
「いいこと教えてあげるわ。
草壁君はこのままでいいとは思ってないんだって」
「はっ……」
伊織は、探りを入れてきたんだ。
「せっかく両思いなんだから、
友達以上恋人未満のままでいるのはもどかしいじゃない?」
言葉に詰まった。
「とりあえずこの後、草壁君から
連絡が来ると思うから楽しみに待ってなさい」
「……えっ……待って。困る」
焦りを覚えたがそのまま通話は切られた。
動画だったら私の慌てた表情も丸わかりだったろう。
お風呂から上がったら、電話が着信を知らせていた。
(くっ……連絡先を教えるんじゃなかった!)
薫さんと別れた後、半ば強引に交換させられた連絡先。
彼らが付き合っていたころは連絡先も交換していなかった。
(だから偶然会えると嬉しくて仕方なかった)
草壁涼とフルネームで表示されている画面に、
そわそわと落ち着かない気持ちになる。
何回か電話はしていてもまだ冷静になれない。
「草壁く……涼ちゃん」
「どっちやねん。くんでもちゃんでも
菫子に呼ばれるならうれしいけど」
「……こんな時間に何の用なの。
私、寝る前に少し勉強しようかと思って」
「照れてるののごまかしちゃうやろな?」
「照れてない! 早く用件を言ってよ」
「クリパせん?
永月と三人で集まって。
嫌やなかったら俺の部屋か……それかカラオケででも」
伊織はその話を涼ちゃんに持ち掛けたのか!
「伊織と三人なら……。
あ、涼ちゃんのお家でたこパしない?」
「ええで。タコ焼き機の話、覚えてたんやな」
「うん。クリスマスたこ焼きパーティー楽しみ」
「……俺ら、周りに恵まれとるな。感謝せんと」
はしゃいでみせる私に涼ちゃんは、低い声で言った。
クリスマスタコ焼きパーティーの準備のため、
買い物に行くことになった。
伊織は飲み物とケーキを用意してくれているということで、
メインのタコ焼きの買い物は私と涼ちゃんで行くことになった。
「伊織と買い物行きたかったな」
「……菫子の憎まれ口も嫌いやないで。
本心は別の所にあるしな?」
「行きたかったんだって」
急に二人きりにされるとどうしていいかわからない。
今更、避けたりこの集まりを拒むことはないのだけど。
「……な、何するの……ううっ」
高い位置から見下ろされほっぺたを大きな手に挟まれる。
にらみつけたら彼は笑った。
「隙見せすぎや」
「何よ。でかぶつ!」
「痛くもかゆくもないわ」
そんな風に言い合っていると涼ちゃんの部屋の近くのスーパーにたどり着く。
「このタコって悪口よね。イカとは言わないし」
「くっ……早めに買い物終わらせんと。
永月と駅で待ち合わせやろ」
「そう」
涼ちゃんは大学四年になって中古の車を買ったけど、
まだ初心者マークなので誰も乗せていない。
たこ、キャベツ、ネギ、天かす、ソース、紅ショウガと
買いそろえ電車に乗った。
揺れる電車の中、荷物を持ってくれたのは身体の大きな友達。
「……二人で持ってもいいよ」
口にしてしまいはっ、とする。
(よくない。彼女みたいなことはしちゃいけない!)
「荷物は、この先も俺が持つから菫子はそんな俺の側(そば)におって」
「う、うん」
これからもに意思を感じて不覚にもドキドキしてしまった。
「伊織、お待たせっ」
荷物を持っていないので余裕で抱きつける。
私の抱擁を受け止めた伊織は背中に腕を回し微笑んだ。
待ち合わせた涼ちゃんの最寄り駅。
伊織は白いコート姿にエコバッグを下げていた。
ストレートの黒髪も背に流していて今日も端正ないでたちだ。
「ふふっ。草壁君、うらやましいでしょ」
「女の子同士のかわいい触れ合いにジェラシーなんて抱かんって」
「私たちは、絆が強いのよ」
「ねー」
涼ちゃんをおいてけぼりにして手を繋ぐ。
「右手は草壁君ね」
「なっ。横並びで三人は歩けないでしょ」
「一瞬繋ぐだけやろ。俺らはお姫様を守るナイトやし」
涼ちゃんはためらいなく私の右手に手を重ねる。
左側には伊織がいて妙な構図になった。
「私が伊織を守るの」
「もう守ってくれてるから」
くすっと笑う伊織に照れてしまう。
両側を二人に挟まれた時間は一瞬で終わる。
にぎやかに話していると涼ちゃんの住処(すみか)にあっという間にたどり着いた。
「いらっしゃいませー」
涼ちゃんが自分の部屋の鍵を開けると陽気に話した。
「本当は二人きりがよかったのにごめんね」
「……次来る時は二人きりやろうし?」
ボソッと言った涼ちゃんを上目遣いに睨んだ。
これからお家に上がるのに無礼なのは承知だけど。
「たこ焼きってお店のもおいしいけど
手作りって自分たちが焼いているから特別よね」
「うん。ここにたこ焼きの師匠がいるし」
「たこ焼き奉行よね」
「じゃかあしい……焼けたのから食べろ」
全部焼いてくれるという涼ちゃんに任せて二人でその様を眺めている。
涼ちゃんは仕切ってくれて見事にたこ焼きをスムーズに焼いた。
「たぶんケーキは食べられないわ」
タコ焼きは、まだ焼かれ続けている。
「ホールやなくてショートケーキやろ。
一個ずつ持って帰ればいいやん」
「一個ずつ別包装にしてもらってよかったわ」
伊織は用意してくれていたというビニール袋に
三人分のケーキを分けた。飲み物も別の袋に入れてある。
「永月ってアルコールいけるの?」
涼ちゃんはスパークリングワインのボトルを手にしていた。
「飲めるわよ。でもお誕生日がまだの菫子に悪いから」
「いいの。二人は飲んで。私はシャンメリーをいただきます!」
「じゃあ遠慮なく」
涼ちゃんはスパークリングワインをグラスに二つ注ぎ、
私のシャンメリーもグラスに注いでくれた。
「乾杯っ」
グラスを合わせて口につける。
三人とも楽しそうで今日は集まってよかったと思った。
「草壁君、去年も菫子の話を聞いてたし、
もっとぐいぐいいく肉食系だと思ってたわ」
ほろ酔い加減の伊織はいつもでは言わない直接的なことを言い出した。
(飲めるけど強いとは言ってなかった)
「い、伊織?」
「……永月、酔うてるな」
涼ちゃんの顔色は変わっていない。
そういえば二度目の飲み会でも結構飲んでいた記憶がある。
「送り狼になってもいいんじゃない」
「酒飲んでるし今日はもう出かけられへん」
「じゃあ菫子が今日泊ればいいのよ。記念のクリスマスになるわよ」
「無理!」
ふわふわした伊織は新鮮でどこか色っぽさもあるが、
危険かもしれないと感じた。
涼ちゃんはタコ焼き機の上にあったたこ焼きをぽいぽいと、
三人の小皿に積み上げていく。
私はたこ焼きを頬張りながら伊織の様子を見ていた。
「合コンに行ったらあかんタイプや」
「酒癖の悪い美女がいたら危険すぎるわ」
「興味ないけど一回くらい行ってみようかしらー」
酔っぱらった伊織は、ほてった顔をくっつけてきて
身体ももたれさせてきた。
「……こういう伊織、見たことがない。
かわいすぎる」
「俺以外の男がおったらやばかったな」
伊織は、心の中にかなわぬ想いを抱いたままだし、
今は恋愛に興味がないと思えた。
大学卒業後の進路を決めて、遠くへいくことで想いを断とうとしている。
涼ちゃんは、私が彼女の話をすると親身になって
話を聞いてくれた。
涼ちゃんにとっても大事な友達なのだ。
「伊織、だいじょうぶ? 終電まで休ませてもらってから帰ろうか」
「うん。私は大丈夫。一人で帰れるから菫子は草壁君と……」
とりあえず伊織が次に何を言うか見守っていた。
「今日は三人で集まれてよかったね」
寝息を立て始めた伊織を見かねた涼ちゃんが毛布を手渡してくれる。
私は伊織に毛布を掛けた。
エアコンはきいていても何もかけずに寝るのはよくない。
「涼ちゃんありがとう」
「一番心配してくれてる永月の恩に報いるためにちゃんとせんとな」
その日は終電の時間に涼ちゃんの家を出て、伊織と電車に乗った。
三か月後、結ばれた報告をした時、私は強がって真実を
言えなかったけれど涼ちゃんは軽口で真実を伝えた。
祝福してくれて彼女の恩に報うことができたのだと感じた。
次来る時は二人きり……その通りになったのだ。
それから数年が経ち、
二人の結婚式の数日前に地方に旅立っていた伊織と再会した。
彼女はあの時よりもっと綺麗になっていて、
目を瞠ったけれど新しい恋をしていると教えてくれた。
結婚式に出てくれた伊織が、就職先の先輩という彼と
ともに神戸に帰ったのを聞いた時、うまくいったのだとうれしかった。
関西弁の罠にはまったという言葉は思い出す度笑ってしまう。
結婚式の数日後にこんな話をしていた。
「四人で会ったら面白いことになりそう」
「ああ……いや合わんと思うわ。多分」
「方言似てるのに」
「兄妹や親子の感情のぶつかり合い、見てるやろ」
「涼ちゃんたち家族は仲がいいからできるもんね」
今日この日まで来れたのも彼女のおかげでもある。
私も伊織が困ったとき、そうじゃない時も
心はずっと離れずにそばにいたい。
そう思って見守っているのだけどじれったい二人を見ているともやもやしてくる。
身勝手な気持ちの押しつけとわかりつつ見ていられなくなった。
ガラにもなくカマをかけて見ようかと考えた。
もちろん、菫子にも伝えたうえで。
『あの人と付き合っているわけじゃないし、
同級生同士なんだからお茶をするくらいいいんじゃない』
さらっと言ったけどそれは私の意図を理解しているからに思えた。
動かないでいる二人がじれったい。
「待たせたか。永月に呼び出されるなんて思わんかったわ」
親友に伝えつつ呼びだした同級生は、快活な笑顔を見せる。
大学のキャンパス内、しかも人がよく通る場所である。
「来てくれてありがとうね」
「菫子の親友やし」
大学内で友達が多いし、例の女性と別れてからも
男性の友人と一緒にいるのをよく見かけている。
女性と二人きりとか、複数とかそういうのはない。
菫子が思い続けられたのもそういう人だから。
「永月は美人でめっちゃモテモテやのに、もったいないな。
気持ちはわからんでもないけど……」
分かった風にいう草壁涼に忍び笑いをする。
「……菫子の言った通りの人ね」
「永月は菫子のそばにずっとおってくれた大事な存在や。
俺にとっても恩人やから心配してるんやで」
あれから八か月が過ぎてどうにか這い上がろうと
頑張っているけれどまだ一歩も踏み出せていない。
「菫子のことを好きなのよね」
問いかけると目を丸くした草壁君は、ゆるく微笑んだ。
「好きやで。何にも変えられん存在や」
「どうして二人は進もうとしないの。
両想いになったから何にも憂いはないはずでしょ」
やきもきしている。
お互いの気持ちが同じなのにどこか引いている二人が見ていられない。
「大切にしたいからって言ったらきれいごとやって思う?」
「異性に慣れているしどうでもいい相手だから、
褒めたりできるけど、一番大切で近づきたいはずの
相手には、慎重になってるのね」
「……心配かけて悪いな。でも俺だってこのままで
いいと思ってないで。
あきらめるつもりはさらさらないしな」
「言っとくけどあの子は自分が気づいていないだけで
結構モテるわよ。油断しない方がいいわ」
「ご忠告いただいて感謝やけど
俺と菫子がうまくいったら永月も……」
彼は全部は言わなかった。
一応、この場には来てくれたけど、
ベンチの端っこと端っこに座っているし、
時折しかこちらに視線を向けない。
菫子がこの場にいたらそっけないと驚くはずだ。
会うならやはり三人がいい。
「パートナーがいないという意味では、みんなまとめてクリスマスぼっちね」
「ぶっ。せやな……。バイト入れようかな」
「みんな一人なんだし三人でクリスマスパーティーでもしましょうよ。
菫子は草壁君と二人きりは拒否るだろうし?」
「両片思いやし二人きりは気まずいか」
「両思いでしょ」
「両片思いってことにしといて」
「わかったわよ。というわけで、菫子への連絡は草壁君がお願いね」
「……わかりました。永月姐さん」
「誰が極道の姉御(あねご)よ!」
「永月も声張り上げることあるんやな……」
感心したように言われてしまった。
私もお節介を焼いていないで踏み出さなきゃ。
三月からは新天地へ旅立つんだから。
(菫子のように強くなりたいな)
帰宅したタイミングで伊織が電話をかけてきた。
今日、涼ちゃんと会うと言っていたけどその報告だろうか。
「菫子……草壁君とのことはどうするつもりなの?」
単刀直入で言われ唖然とする。
「へ。どうもこうもしないわよ。
ちょっと前にお別れしたばっかりでしょ」
あの日から一ヶ月も経っていない。
別れの現場の第三者だったから間違いない。
「三谷さんは二人がうまくいくの願ってくれてるわよ。
私、彼女のこと誤解してたけどさっぱりしてていい人よね」
「薫さんはいい人なのよ! 昨日も実はお茶して」
「だったら彼女のためにも幸せにならなくちゃ。
大親友の伊織さんも応援してるのよ」
「どうしたの。伊織は一番の親友よ」
「一番の親友は二人が上手くいったのを見届けたいの」
「……う、うん。わかってるの。
伊織がずっと見守ってくれてて感謝してる」
「いいこと教えてあげるわ。
草壁君はこのままでいいとは思ってないんだって」
「はっ……」
伊織は、探りを入れてきたんだ。
「せっかく両思いなんだから、
友達以上恋人未満のままでいるのはもどかしいじゃない?」
言葉に詰まった。
「とりあえずこの後、草壁君から
連絡が来ると思うから楽しみに待ってなさい」
「……えっ……待って。困る」
焦りを覚えたがそのまま通話は切られた。
動画だったら私の慌てた表情も丸わかりだったろう。
お風呂から上がったら、電話が着信を知らせていた。
(くっ……連絡先を教えるんじゃなかった!)
薫さんと別れた後、半ば強引に交換させられた連絡先。
彼らが付き合っていたころは連絡先も交換していなかった。
(だから偶然会えると嬉しくて仕方なかった)
草壁涼とフルネームで表示されている画面に、
そわそわと落ち着かない気持ちになる。
何回か電話はしていてもまだ冷静になれない。
「草壁く……涼ちゃん」
「どっちやねん。くんでもちゃんでも
菫子に呼ばれるならうれしいけど」
「……こんな時間に何の用なの。
私、寝る前に少し勉強しようかと思って」
「照れてるののごまかしちゃうやろな?」
「照れてない! 早く用件を言ってよ」
「クリパせん?
永月と三人で集まって。
嫌やなかったら俺の部屋か……それかカラオケででも」
伊織はその話を涼ちゃんに持ち掛けたのか!
「伊織と三人なら……。
あ、涼ちゃんのお家でたこパしない?」
「ええで。タコ焼き機の話、覚えてたんやな」
「うん。クリスマスたこ焼きパーティー楽しみ」
「……俺ら、周りに恵まれとるな。感謝せんと」
はしゃいでみせる私に涼ちゃんは、低い声で言った。
クリスマスタコ焼きパーティーの準備のため、
買い物に行くことになった。
伊織は飲み物とケーキを用意してくれているということで、
メインのタコ焼きの買い物は私と涼ちゃんで行くことになった。
「伊織と買い物行きたかったな」
「……菫子の憎まれ口も嫌いやないで。
本心は別の所にあるしな?」
「行きたかったんだって」
急に二人きりにされるとどうしていいかわからない。
今更、避けたりこの集まりを拒むことはないのだけど。
「……な、何するの……ううっ」
高い位置から見下ろされほっぺたを大きな手に挟まれる。
にらみつけたら彼は笑った。
「隙見せすぎや」
「何よ。でかぶつ!」
「痛くもかゆくもないわ」
そんな風に言い合っていると涼ちゃんの部屋の近くのスーパーにたどり着く。
「このタコって悪口よね。イカとは言わないし」
「くっ……早めに買い物終わらせんと。
永月と駅で待ち合わせやろ」
「そう」
涼ちゃんは大学四年になって中古の車を買ったけど、
まだ初心者マークなので誰も乗せていない。
たこ、キャベツ、ネギ、天かす、ソース、紅ショウガと
買いそろえ電車に乗った。
揺れる電車の中、荷物を持ってくれたのは身体の大きな友達。
「……二人で持ってもいいよ」
口にしてしまいはっ、とする。
(よくない。彼女みたいなことはしちゃいけない!)
「荷物は、この先も俺が持つから菫子はそんな俺の側(そば)におって」
「う、うん」
これからもに意思を感じて不覚にもドキドキしてしまった。
「伊織、お待たせっ」
荷物を持っていないので余裕で抱きつける。
私の抱擁を受け止めた伊織は背中に腕を回し微笑んだ。
待ち合わせた涼ちゃんの最寄り駅。
伊織は白いコート姿にエコバッグを下げていた。
ストレートの黒髪も背に流していて今日も端正ないでたちだ。
「ふふっ。草壁君、うらやましいでしょ」
「女の子同士のかわいい触れ合いにジェラシーなんて抱かんって」
「私たちは、絆が強いのよ」
「ねー」
涼ちゃんをおいてけぼりにして手を繋ぐ。
「右手は草壁君ね」
「なっ。横並びで三人は歩けないでしょ」
「一瞬繋ぐだけやろ。俺らはお姫様を守るナイトやし」
涼ちゃんはためらいなく私の右手に手を重ねる。
左側には伊織がいて妙な構図になった。
「私が伊織を守るの」
「もう守ってくれてるから」
くすっと笑う伊織に照れてしまう。
両側を二人に挟まれた時間は一瞬で終わる。
にぎやかに話していると涼ちゃんの住処(すみか)にあっという間にたどり着いた。
「いらっしゃいませー」
涼ちゃんが自分の部屋の鍵を開けると陽気に話した。
「本当は二人きりがよかったのにごめんね」
「……次来る時は二人きりやろうし?」
ボソッと言った涼ちゃんを上目遣いに睨んだ。
これからお家に上がるのに無礼なのは承知だけど。
「たこ焼きってお店のもおいしいけど
手作りって自分たちが焼いているから特別よね」
「うん。ここにたこ焼きの師匠がいるし」
「たこ焼き奉行よね」
「じゃかあしい……焼けたのから食べろ」
全部焼いてくれるという涼ちゃんに任せて二人でその様を眺めている。
涼ちゃんは仕切ってくれて見事にたこ焼きをスムーズに焼いた。
「たぶんケーキは食べられないわ」
タコ焼きは、まだ焼かれ続けている。
「ホールやなくてショートケーキやろ。
一個ずつ持って帰ればいいやん」
「一個ずつ別包装にしてもらってよかったわ」
伊織は用意してくれていたというビニール袋に
三人分のケーキを分けた。飲み物も別の袋に入れてある。
「永月ってアルコールいけるの?」
涼ちゃんはスパークリングワインのボトルを手にしていた。
「飲めるわよ。でもお誕生日がまだの菫子に悪いから」
「いいの。二人は飲んで。私はシャンメリーをいただきます!」
「じゃあ遠慮なく」
涼ちゃんはスパークリングワインをグラスに二つ注ぎ、
私のシャンメリーもグラスに注いでくれた。
「乾杯っ」
グラスを合わせて口につける。
三人とも楽しそうで今日は集まってよかったと思った。
「草壁君、去年も菫子の話を聞いてたし、
もっとぐいぐいいく肉食系だと思ってたわ」
ほろ酔い加減の伊織はいつもでは言わない直接的なことを言い出した。
(飲めるけど強いとは言ってなかった)
「い、伊織?」
「……永月、酔うてるな」
涼ちゃんの顔色は変わっていない。
そういえば二度目の飲み会でも結構飲んでいた記憶がある。
「送り狼になってもいいんじゃない」
「酒飲んでるし今日はもう出かけられへん」
「じゃあ菫子が今日泊ればいいのよ。記念のクリスマスになるわよ」
「無理!」
ふわふわした伊織は新鮮でどこか色っぽさもあるが、
危険かもしれないと感じた。
涼ちゃんはタコ焼き機の上にあったたこ焼きをぽいぽいと、
三人の小皿に積み上げていく。
私はたこ焼きを頬張りながら伊織の様子を見ていた。
「合コンに行ったらあかんタイプや」
「酒癖の悪い美女がいたら危険すぎるわ」
「興味ないけど一回くらい行ってみようかしらー」
酔っぱらった伊織は、ほてった顔をくっつけてきて
身体ももたれさせてきた。
「……こういう伊織、見たことがない。
かわいすぎる」
「俺以外の男がおったらやばかったな」
伊織は、心の中にかなわぬ想いを抱いたままだし、
今は恋愛に興味がないと思えた。
大学卒業後の進路を決めて、遠くへいくことで想いを断とうとしている。
涼ちゃんは、私が彼女の話をすると親身になって
話を聞いてくれた。
涼ちゃんにとっても大事な友達なのだ。
「伊織、だいじょうぶ? 終電まで休ませてもらってから帰ろうか」
「うん。私は大丈夫。一人で帰れるから菫子は草壁君と……」
とりあえず伊織が次に何を言うか見守っていた。
「今日は三人で集まれてよかったね」
寝息を立て始めた伊織を見かねた涼ちゃんが毛布を手渡してくれる。
私は伊織に毛布を掛けた。
エアコンはきいていても何もかけずに寝るのはよくない。
「涼ちゃんありがとう」
「一番心配してくれてる永月の恩に報いるためにちゃんとせんとな」
その日は終電の時間に涼ちゃんの家を出て、伊織と電車に乗った。
三か月後、結ばれた報告をした時、私は強がって真実を
言えなかったけれど涼ちゃんは軽口で真実を伝えた。
祝福してくれて彼女の恩に報うことができたのだと感じた。
次来る時は二人きり……その通りになったのだ。
それから数年が経ち、
二人の結婚式の数日前に地方に旅立っていた伊織と再会した。
彼女はあの時よりもっと綺麗になっていて、
目を瞠ったけれど新しい恋をしていると教えてくれた。
結婚式に出てくれた伊織が、就職先の先輩という彼と
ともに神戸に帰ったのを聞いた時、うまくいったのだとうれしかった。
関西弁の罠にはまったという言葉は思い出す度笑ってしまう。
結婚式の数日後にこんな話をしていた。
「四人で会ったら面白いことになりそう」
「ああ……いや合わんと思うわ。多分」
「方言似てるのに」
「兄妹や親子の感情のぶつかり合い、見てるやろ」
「涼ちゃんたち家族は仲がいいからできるもんね」
今日この日まで来れたのも彼女のおかげでもある。
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心はずっと離れずにそばにいたい。
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