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Pleasure
Preasure,Treasure&極上Dr.特別番外編(1)
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青せんせとは4月の検査で病院に来て以来、半年ぶりの再会だった。
相手は、俺と菫子を見比べている。
菫子とは去年の八月にここで会っている。
「ご結婚されたんですね。おめでとうございます……菫子さん」
「4月に結婚したんですよ。ちゃんと幸せ掴みました」
「注意書きはご覧になりましたか。病院には盲導犬、介助犬以外は入れませんよ」
目の前の白衣はしれっと言い放った。
白衣(ドクターズコート)の下はベストとワイシャツ、濃紺のネクタイ。
19世紀頃の世界から変わらないスタイルらしい(何かで観た)。
(大型犬とでも言いたいんか)
「この大型犬は、私だけに慣れてるんです。
青せんせとは4月の検査で病院に来て以来、半年ぶりの再会だった。
相手は、俺と菫子を見比べている。
菫子とは去年の八月にここで会っている。
「ご結婚されたんですね。おめでとうございます……菫子さん」
「4月に結婚したんですよ。ちゃんと幸せ掴みました」
「注意書きはご覧になりましたか。病院には盲導犬、介助犬以外は入れませんよ」
目の前の白衣はしれっと言い放った。
白衣(ドクターズコート)の下は青い上下を着ている。
少し前の時代は手術着だったが、今は広い用途で着られるようになったらしい。
恐ろしいほど似合っている。
「この大型犬は、私だけに慣れてるんです。
悪ノリはしますが悪さはしません」
菫子は、にこにこと言い放つ。
「兄貴、冗談きついで。四月に会ったし一回飲んだやん」
「お前は俺の舎弟になったのか?」
(極道の兄貴か?)
「……藤城先生、面白いですよね。前も思ったけど」
菫子が、何かを見つけて一点に目を向けている。
「今日は舎弟も連れて検査ですよね? さっさと始めましょう」
(どちらとも顔なじみだからか、口調が気安い。
この人舎弟設定好きやなあ。案外柄(ガラ)、悪いから
昔はグレて……はないか。口が悪いだけや)
「……と、藤城先生、写真の子って」
菫子がぶるぶる震えだしたので手を掴んだ。
興奮しているようだ。
「五月に結婚した妻です。私達もあなた方と同じ新婚ですね」
「何ですって!」
菫子は、デジタルフォトフレームの画像に釘づけだ。
こんなのデスクに置いているあたり相当な愛妻家だと分かる。
「沙矢を知ってるんですか?」
「彼女には二年前の四月に偶然会いました。
お互い入社式でその帰りだったんですよ。私より四つ下って言ってましたね……」
「去年の四月に出逢ったので何も知らなかったですね。貴重なお話をありがとうございます」
美少女と関係があるから夢にまで出てきたのか。なるほど。よう分かったわ。
「名前をまだ聞いてなくて今初めて知りました」
「今は藤城ですがその時は水無月沙矢でしたね。あなたが柚月姓だったように」
「もしかして去年の夏に話してたのは彼女のことですか?」
「当然です」
藤城青は極上の笑みを浮かべた。
(何この甘さ……怖いんやけど)
「もしゆっくり話すなら後にしましょう。
検査しましょうか」
「分かりました」
「春にも感じたが俺の舎弟にしておくには惜しいくらいいい男ですね。涼は」
男性側のブライダルチェックを受けに来たことと
飲んだ時の失態に動じずフォローしたことからそう言ってくれている。
一通りの検査を終えるとエコー写真を渡された。
「おめでとうございます。ご懐妊です。予定日は、5月ですね」
菫子と抱きしめ合う。
彼女は涙を流していた。
「……前も頭なでたんやろ。菫子を妹みたいに思ってくれてんのなら、なでてええよ」
青先生が、やけに優しい目で董子を見ていた。
「……涼ちゃん、変なこと言わないでよ」
骨ばった大きな手が伸びてくる。
わしゃわしゃとかき混ぜられて、菫子は驚いたようだった。
「彼に守ってもらって。董子さん、よかったね」
「はい!」
「沙矢の連絡先も伝えときますね。あなたとは縁があるようだから」
「ありがとうございます。うれしい」
俺とこの人は病院で何度も遭遇してるし、
今更プライベートでの話をしたところで問題はないんやろう。
滞りなく検査を終え、笑顔で病院を後にした。
菫子は、時々俺を見上げて笑うが、照れて目をそらす。
「……やっぱりムカつく位ええ男やな」
「あなたなら素敵な人見つかるわよと応援したんだけど ……お姫様は魔王と」
「今日一番腹痛いんやけど」
(こんだけ美形で妖艶やったらそう表現したなるか。
でも、俺様ドSだけでもないしな)
「飲みに行ったのを話さなかったのは、隠したかったからやない……
なかったことにしたかったからや」
思い出したくないことの一つや2つ誰しもあるやろ……。
ドSオレサマの影に潜んだ繊細な一面を
知っているから、魔物とも言い切れなかった。
入籍してすぐ、誘われた飲みでの一言は尾を引いた。
そっちの方面に一切興味を引かれないが、
身内に個性的なのがいるから分からないでもない。理解と許容は別なだけ。
奴が側にいる異性の相手しか愛していないというのは伝わった。
「そうね。夢の中の私が普通の人がいいって言ったのもハイスペックとかそういうんじゃなくて」
「……桁外れのドSだからか」
「ぶっ……そうよ。悪ノリで兄貴なんて言うから、
舎弟とか言われたのね」
「悪ノリともちゃうんやけど……」
「それはいいとして、あの夢の感じがリアルなのだとしたら、相当なM気質じゃないと無理だと思うわ」
「思い出の子になんちゅうこと言うんや。虫も殺さんような顔して」
胡散臭い腹黒内科医に写真見せられたから、あの子の顔も知っていたし二人の関係もわかっていた。
「……沙矢ちゃん、恐るべし。
私が真相を確かめるわ」
「覚えててくれてるんかな?」
「今日辺り話してくれたら思い出すでしょ。
ついでにいっとくと彼女は涼ちゃんの顔も見てるからね。
私達を横断歩道の向こう側から見てたの知ってるの」
「……そうなんや」
「あの俺様不器用なドSは、ちゃんとけじめつけて結婚したのね」
「出会って一年か。濃い時間過ごしたんかもな。そんなに会う時間もなかったろうし」
「知らないけどね! 私は大きいワンコとお腹の子のことで精一杯よ」
菫子のお腹に手を触れる。
まだ大きくもなっていないお腹だが、
ここには二人の愛の結晶が宿っているのだ。
じんわりと感動が湧いてくる。
菫子が25、俺が26になる頃に生まれてくる。
「手懐けられてんの嫌やないしな。
そんなんでムカついたりせぇへん」
「そこまであなたをないがしろにしないわ。でも受け入れてくれるのね」
菫子は、顔を赤くした。
帰り着いた愛の巣。
ソファーの上、特に誰かを気にする場面ではない。
「菫子……」
肩を抱いた時、テーブルの上のスマホが着信を知らせた。
「向こうから連絡くれたの!」
キスをする三秒前、邪魔をされた。
悪いのは沙矢ちゃんとかいう子ではなく、
行動の速い鬼畜ドSだ。
嬉々としてスマホを確認する菫子の腰を抱きしめて後ろから抱っこした。
膝の上に乗せる。
小柄だからか体重は軽い。
妊娠で体型が変わっても気にしないが。
「一週間後の日曜日、予定が大丈夫なら四人で会えませんか?
涼ちゃん、どうしよう」
「菫子と二人で会うってことにならへんのはなんでやねん……」
またお目にかかるのか。
思い出さないようにしよう。
「いいじゃない。お互い新婚夫婦同士だし」
「……かまへんけど」
「涼ちゃんと、青さん二人が並んでるの絵面(えづら)がいいと思うわよ。長身でかっこいいし」
「さよか」
「正統派男前は、涼ちゃんが勝ち逃げよ。
5年もかかわってる私の言葉は信じてよね」
適当に返事したのも分かられた上で最高のフォローをくれた。
髪をひとすくいして口づける。
「無茶せんかったらええんやったっけ」
「……どうしようかな?」
「もうええやん。今日はもう俺らのことだけ考えようや」
口づけて頬を寄せる。
「そうやね」
「あかん。反則や」
めったに口にしないがたまに方言を真似てくる。
かわいすぎてハートを鷲掴みされてしまう。
「愛してるで!」
「めっちゃ好きやわ」
(弱いの分かってて訛りを使ったな)
無茶しない程度に情熱的な時間を過ごした。
いちいち報告するつもりもない。しょーもな。
『……くれぐれも気をつけろよ。菫子ちゃんを守れるのは、涼だけだからな』
検査を受けた後、祝福してくれた後でこう言われた。
きっと可愛い妹のように思ってるんだろう。
あの極上の笑顔も目の前にいた俺と董子じゃなくて沙矢ちゃんに向けたものだ。
去年の夏に受けた検査の時菫子の頭を撫でたのも可愛がったのだ。
(三つ学年が上やし、兄貴って呼んだったけど、
友達なら呼び捨てでええんとちゃいます?)
「青せんせのお綺麗な顔、ビンタしてみたい」
「これから子供が生まれるのに未亡人にしないで」
しばきたいと感じたのも嘘ではなかった。
(菫子もどこまで本気やねん)
一週間後、俺と菫子は待ち合わせ先の公園を訪れた。
車は使わず歩いてきた。
「菫子ちゃん!」
目の前に現れた女の子は、菫子に走り寄り抱きしめた。
青は、少し後ろからこっちを見ている。
ドSロリコンドクターと内心呼んでやろうと思ったが、二人が似合いすぎていたので一応やめておく。
まだ20歳というし美女というより美少女だ。
そばにいるのは魔王なので歳の差は感じない……気もする。
(厄介なのに捕まったな。運命やからしゃあないんか)
「会えて嬉しい! やっぱり変わってなくてひと目でわかったわ。初めて会ったツンドラさん!」
二文字違うだけで大違いや。
「お二人共おめでとうございます!」
勢いよく飛び出す言葉に面食らう。
「ありがとう……初めましてでええんかな。菫子の夫の涼です。
沙矢さん、初対面でつっこんで悪いけど
ツンドラやなくてツンデレやで」
「あ、青にもツッコまれたのに忘れてた」
「……よかった。沙矢ちゃんこそ変わってなくて」
「旦那さん、涼さんっておっしゃるんですよね。
あの時、仲よさそうなお二人がうらやましかったんですよ」
菫子の言った通り沙矢さんは俺のことも覚えていた。
その時、少し後ろにいた奴が側(そば)まできた。
長い足は一歩が大きい。
「沙矢、このお姉さんに会いたかったのか?
俺は初対面で魔物と口にされたよ……」
沙矢ちゃんは、三人の顔を見比べたあと口を開いた。
「すごい。青って病院でも魔物なのがバレてるんだ」
その時、青が沙矢ちゃんに何かを耳打ちした。彼女の顔がみるみる赤く染まる。
「一緒にドライブでもしますか?」
駐車場に停めてある白い車を指し示す。
(フェラーリのグレードが高いやつやん。嫌味か!)
「対面すんだし、そんなに交流せんでも」
「遠慮するなよ。俺と涼の仲だろ?」
(どういう仲でもないやろが)
目線がほぼ変わらないから肩にも触りやすいのか。
肩を抱かれていた。
香水の匂いがするものの煙草のにおいは一切しない。
春頃にも感じたことだ。
菫子と沙矢さんは、意気投合し手を繋いで歩いている。
はっきり言ってその光景はめちゃくちゃ癒やされる。
二人は10センチ身長が違うので、菫子の頭の方が少し下にあった。
俺の隣にいる男は187を超えているが、
俺も183.5あるのでそんなに変わらない。
「こういう暑苦しいの嫌いやないの?」
「ちょうど腕を回しやすい位置に肩があったし」
藤城青に関してはむさくるしさゼロではあっても勘弁してほしい。
「スキンシップが普通に好きなだけか」
「気持ち悪いことを言うなよ」
腕はさっ、と離れた。
二人はそれぞれパートナーの隣まで行く。
駐車場でフェラーリに乗り込んだ。
運転席に俺様ドクター、助手席は沙矢ちゃん、後部座席に二人で座る。
「菫子ちゃんと涼さんは五年のお付き合いの末にゴールイン
されたんですよね。もうお互い知り尽くしてる感じがします」
「せやね」
「大学を出てすぐ結婚したかったんだけど、
社会人としてもう少し頑張ってからがいいって考えがあったの。
去年の夏に派手な喧嘩をした時、体調も悪くなっちゃって……」
「大学病院に診察を受けにきてくれて草壁さんと会ったんだよ。
一人で頑張る様子を見て胸を打たれた」
「菫子ちゃん、勇気があるのね。小柄だけどハートはとっても強そう」
「そうやね。勝手なこと言って気分を害したら悪いんやけど、
男は弱くて女は強いんやって思う。子供を産む性別ってのもあるからやろか。
兄貴もそう思うやろ?」
「呼び捨てでいいんだよ。年は上でも兄貴の柄じゃない」
「青?」
「それでいい」
今度は舎弟とか言われなかった。
「涼の意見はさすがだな。
恋愛経験が豊富だからか?」
「別に豊富やない」
妙な空気になった。
車が静かに発進する中、後部座席の二人はとても楽しそうだった。
相手は、俺と菫子を見比べている。
菫子とは去年の八月にここで会っている。
「ご結婚されたんですね。おめでとうございます……菫子さん」
「4月に結婚したんですよ。ちゃんと幸せ掴みました」
「注意書きはご覧になりましたか。病院には盲導犬、介助犬以外は入れませんよ」
目の前の白衣はしれっと言い放った。
白衣(ドクターズコート)の下はベストとワイシャツ、濃紺のネクタイ。
19世紀頃の世界から変わらないスタイルらしい(何かで観た)。
(大型犬とでも言いたいんか)
「この大型犬は、私だけに慣れてるんです。
青せんせとは4月の検査で病院に来て以来、半年ぶりの再会だった。
相手は、俺と菫子を見比べている。
菫子とは去年の八月にここで会っている。
「ご結婚されたんですね。おめでとうございます……菫子さん」
「4月に結婚したんですよ。ちゃんと幸せ掴みました」
「注意書きはご覧になりましたか。病院には盲導犬、介助犬以外は入れませんよ」
目の前の白衣はしれっと言い放った。
白衣(ドクターズコート)の下は青い上下を着ている。
少し前の時代は手術着だったが、今は広い用途で着られるようになったらしい。
恐ろしいほど似合っている。
「この大型犬は、私だけに慣れてるんです。
悪ノリはしますが悪さはしません」
菫子は、にこにこと言い放つ。
「兄貴、冗談きついで。四月に会ったし一回飲んだやん」
「お前は俺の舎弟になったのか?」
(極道の兄貴か?)
「……藤城先生、面白いですよね。前も思ったけど」
菫子が、何かを見つけて一点に目を向けている。
「今日は舎弟も連れて検査ですよね? さっさと始めましょう」
(どちらとも顔なじみだからか、口調が気安い。
この人舎弟設定好きやなあ。案外柄(ガラ)、悪いから
昔はグレて……はないか。口が悪いだけや)
「……と、藤城先生、写真の子って」
菫子がぶるぶる震えだしたので手を掴んだ。
興奮しているようだ。
「五月に結婚した妻です。私達もあなた方と同じ新婚ですね」
「何ですって!」
菫子は、デジタルフォトフレームの画像に釘づけだ。
こんなのデスクに置いているあたり相当な愛妻家だと分かる。
「沙矢を知ってるんですか?」
「彼女には二年前の四月に偶然会いました。
お互い入社式でその帰りだったんですよ。私より四つ下って言ってましたね……」
「去年の四月に出逢ったので何も知らなかったですね。貴重なお話をありがとうございます」
美少女と関係があるから夢にまで出てきたのか。なるほど。よう分かったわ。
「名前をまだ聞いてなくて今初めて知りました」
「今は藤城ですがその時は水無月沙矢でしたね。あなたが柚月姓だったように」
「もしかして去年の夏に話してたのは彼女のことですか?」
「当然です」
藤城青は極上の笑みを浮かべた。
(何この甘さ……怖いんやけど)
「もしゆっくり話すなら後にしましょう。
検査しましょうか」
「分かりました」
「春にも感じたが俺の舎弟にしておくには惜しいくらいいい男ですね。涼は」
男性側のブライダルチェックを受けに来たことと
飲んだ時の失態に動じずフォローしたことからそう言ってくれている。
一通りの検査を終えるとエコー写真を渡された。
「おめでとうございます。ご懐妊です。予定日は、5月ですね」
菫子と抱きしめ合う。
彼女は涙を流していた。
「……前も頭なでたんやろ。菫子を妹みたいに思ってくれてんのなら、なでてええよ」
青先生が、やけに優しい目で董子を見ていた。
「……涼ちゃん、変なこと言わないでよ」
骨ばった大きな手が伸びてくる。
わしゃわしゃとかき混ぜられて、菫子は驚いたようだった。
「彼に守ってもらって。董子さん、よかったね」
「はい!」
「沙矢の連絡先も伝えときますね。あなたとは縁があるようだから」
「ありがとうございます。うれしい」
俺とこの人は病院で何度も遭遇してるし、
今更プライベートでの話をしたところで問題はないんやろう。
滞りなく検査を終え、笑顔で病院を後にした。
菫子は、時々俺を見上げて笑うが、照れて目をそらす。
「……やっぱりムカつく位ええ男やな」
「あなたなら素敵な人見つかるわよと応援したんだけど ……お姫様は魔王と」
「今日一番腹痛いんやけど」
(こんだけ美形で妖艶やったらそう表現したなるか。
でも、俺様ドSだけでもないしな)
「飲みに行ったのを話さなかったのは、隠したかったからやない……
なかったことにしたかったからや」
思い出したくないことの一つや2つ誰しもあるやろ……。
ドSオレサマの影に潜んだ繊細な一面を
知っているから、魔物とも言い切れなかった。
入籍してすぐ、誘われた飲みでの一言は尾を引いた。
そっちの方面に一切興味を引かれないが、
身内に個性的なのがいるから分からないでもない。理解と許容は別なだけ。
奴が側にいる異性の相手しか愛していないというのは伝わった。
「そうね。夢の中の私が普通の人がいいって言ったのもハイスペックとかそういうんじゃなくて」
「……桁外れのドSだからか」
「ぶっ……そうよ。悪ノリで兄貴なんて言うから、
舎弟とか言われたのね」
「悪ノリともちゃうんやけど……」
「それはいいとして、あの夢の感じがリアルなのだとしたら、相当なM気質じゃないと無理だと思うわ」
「思い出の子になんちゅうこと言うんや。虫も殺さんような顔して」
胡散臭い腹黒内科医に写真見せられたから、あの子の顔も知っていたし二人の関係もわかっていた。
「……沙矢ちゃん、恐るべし。
私が真相を確かめるわ」
「覚えててくれてるんかな?」
「今日辺り話してくれたら思い出すでしょ。
ついでにいっとくと彼女は涼ちゃんの顔も見てるからね。
私達を横断歩道の向こう側から見てたの知ってるの」
「……そうなんや」
「あの俺様不器用なドSは、ちゃんとけじめつけて結婚したのね」
「出会って一年か。濃い時間過ごしたんかもな。そんなに会う時間もなかったろうし」
「知らないけどね! 私は大きいワンコとお腹の子のことで精一杯よ」
菫子のお腹に手を触れる。
まだ大きくもなっていないお腹だが、
ここには二人の愛の結晶が宿っているのだ。
じんわりと感動が湧いてくる。
菫子が25、俺が26になる頃に生まれてくる。
「手懐けられてんの嫌やないしな。
そんなんでムカついたりせぇへん」
「そこまであなたをないがしろにしないわ。でも受け入れてくれるのね」
菫子は、顔を赤くした。
帰り着いた愛の巣。
ソファーの上、特に誰かを気にする場面ではない。
「菫子……」
肩を抱いた時、テーブルの上のスマホが着信を知らせた。
「向こうから連絡くれたの!」
キスをする三秒前、邪魔をされた。
悪いのは沙矢ちゃんとかいう子ではなく、
行動の速い鬼畜ドSだ。
嬉々としてスマホを確認する菫子の腰を抱きしめて後ろから抱っこした。
膝の上に乗せる。
小柄だからか体重は軽い。
妊娠で体型が変わっても気にしないが。
「一週間後の日曜日、予定が大丈夫なら四人で会えませんか?
涼ちゃん、どうしよう」
「菫子と二人で会うってことにならへんのはなんでやねん……」
またお目にかかるのか。
思い出さないようにしよう。
「いいじゃない。お互い新婚夫婦同士だし」
「……かまへんけど」
「涼ちゃんと、青さん二人が並んでるの絵面(えづら)がいいと思うわよ。長身でかっこいいし」
「さよか」
「正統派男前は、涼ちゃんが勝ち逃げよ。
5年もかかわってる私の言葉は信じてよね」
適当に返事したのも分かられた上で最高のフォローをくれた。
髪をひとすくいして口づける。
「無茶せんかったらええんやったっけ」
「……どうしようかな?」
「もうええやん。今日はもう俺らのことだけ考えようや」
口づけて頬を寄せる。
「そうやね」
「あかん。反則や」
めったに口にしないがたまに方言を真似てくる。
かわいすぎてハートを鷲掴みされてしまう。
「愛してるで!」
「めっちゃ好きやわ」
(弱いの分かってて訛りを使ったな)
無茶しない程度に情熱的な時間を過ごした。
いちいち報告するつもりもない。しょーもな。
『……くれぐれも気をつけろよ。菫子ちゃんを守れるのは、涼だけだからな』
検査を受けた後、祝福してくれた後でこう言われた。
きっと可愛い妹のように思ってるんだろう。
あの極上の笑顔も目の前にいた俺と董子じゃなくて沙矢ちゃんに向けたものだ。
去年の夏に受けた検査の時菫子の頭を撫でたのも可愛がったのだ。
(三つ学年が上やし、兄貴って呼んだったけど、
友達なら呼び捨てでええんとちゃいます?)
「青せんせのお綺麗な顔、ビンタしてみたい」
「これから子供が生まれるのに未亡人にしないで」
しばきたいと感じたのも嘘ではなかった。
(菫子もどこまで本気やねん)
一週間後、俺と菫子は待ち合わせ先の公園を訪れた。
車は使わず歩いてきた。
「菫子ちゃん!」
目の前に現れた女の子は、菫子に走り寄り抱きしめた。
青は、少し後ろからこっちを見ている。
ドSロリコンドクターと内心呼んでやろうと思ったが、二人が似合いすぎていたので一応やめておく。
まだ20歳というし美女というより美少女だ。
そばにいるのは魔王なので歳の差は感じない……気もする。
(厄介なのに捕まったな。運命やからしゃあないんか)
「会えて嬉しい! やっぱり変わってなくてひと目でわかったわ。初めて会ったツンドラさん!」
二文字違うだけで大違いや。
「お二人共おめでとうございます!」
勢いよく飛び出す言葉に面食らう。
「ありがとう……初めましてでええんかな。菫子の夫の涼です。
沙矢さん、初対面でつっこんで悪いけど
ツンドラやなくてツンデレやで」
「あ、青にもツッコまれたのに忘れてた」
「……よかった。沙矢ちゃんこそ変わってなくて」
「旦那さん、涼さんっておっしゃるんですよね。
あの時、仲よさそうなお二人がうらやましかったんですよ」
菫子の言った通り沙矢さんは俺のことも覚えていた。
その時、少し後ろにいた奴が側(そば)まできた。
長い足は一歩が大きい。
「沙矢、このお姉さんに会いたかったのか?
俺は初対面で魔物と口にされたよ……」
沙矢ちゃんは、三人の顔を見比べたあと口を開いた。
「すごい。青って病院でも魔物なのがバレてるんだ」
その時、青が沙矢ちゃんに何かを耳打ちした。彼女の顔がみるみる赤く染まる。
「一緒にドライブでもしますか?」
駐車場に停めてある白い車を指し示す。
(フェラーリのグレードが高いやつやん。嫌味か!)
「対面すんだし、そんなに交流せんでも」
「遠慮するなよ。俺と涼の仲だろ?」
(どういう仲でもないやろが)
目線がほぼ変わらないから肩にも触りやすいのか。
肩を抱かれていた。
香水の匂いがするものの煙草のにおいは一切しない。
春頃にも感じたことだ。
菫子と沙矢さんは、意気投合し手を繋いで歩いている。
はっきり言ってその光景はめちゃくちゃ癒やされる。
二人は10センチ身長が違うので、菫子の頭の方が少し下にあった。
俺の隣にいる男は187を超えているが、
俺も183.5あるのでそんなに変わらない。
「こういう暑苦しいの嫌いやないの?」
「ちょうど腕を回しやすい位置に肩があったし」
藤城青に関してはむさくるしさゼロではあっても勘弁してほしい。
「スキンシップが普通に好きなだけか」
「気持ち悪いことを言うなよ」
腕はさっ、と離れた。
二人はそれぞれパートナーの隣まで行く。
駐車場でフェラーリに乗り込んだ。
運転席に俺様ドクター、助手席は沙矢ちゃん、後部座席に二人で座る。
「菫子ちゃんと涼さんは五年のお付き合いの末にゴールイン
されたんですよね。もうお互い知り尽くしてる感じがします」
「せやね」
「大学を出てすぐ結婚したかったんだけど、
社会人としてもう少し頑張ってからがいいって考えがあったの。
去年の夏に派手な喧嘩をした時、体調も悪くなっちゃって……」
「大学病院に診察を受けにきてくれて草壁さんと会ったんだよ。
一人で頑張る様子を見て胸を打たれた」
「菫子ちゃん、勇気があるのね。小柄だけどハートはとっても強そう」
「そうやね。勝手なこと言って気分を害したら悪いんやけど、
男は弱くて女は強いんやって思う。子供を産む性別ってのもあるからやろか。
兄貴もそう思うやろ?」
「呼び捨てでいいんだよ。年は上でも兄貴の柄じゃない」
「青?」
「それでいい」
今度は舎弟とか言われなかった。
「涼の意見はさすがだな。
恋愛経験が豊富だからか?」
「別に豊富やない」
妙な空気になった。
車が静かに発進する中、後部座席の二人はとても楽しそうだった。
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