68 / 68
番外編集
番外編「新婚生活に起きた災難」
しおりを挟む
結婚して、二週間が経とうとしていた。
四月も終わり最近は早めの夏を感じる日もあるくらいだ。
俺も菫子も幸せいっぱいで順調なはずだが、
俺は何故かここ数日胃の不調に悩まされていた。
(家でのストレスはない。仕事で大変な部分があっても
今まで胃を痛めたことは一度もなかった)
「涼ちゃん、食欲がないの?」
菫子が心配そうに口にしている。
「あるんやけど食べたないんや」
「どっちなのよ」
心配かけるから、懸命に食べるが
前より限界量が少ない。
菫子に心配されるくらいだからよほどだ。
普段は食べる方だから余計おかしいと感じるのかもしれない。
「……明日、有給取って医者に行くわ」
「レントゲンってすぐ撮ってもらえるのかしら?」
「恐らく、予約になるんやない?
電話して聞いてみる」
「そうね。涼ちゃん、ブライダルチェックは、
大丈夫だったじゃない。血液検査でも異常はなかったけど
胃の具合まではわからないものね」
「……せやな」
「私のせいだったらごめんなさい。
こっちは健康診断も異常なかったから申し訳なくて」
菫子は、お茶を飲み沈んだ表情をした。
食事中に俺のせいで心配かけて彼女の
食欲まで影響したら申し訳ない。
「ちゃうわ!
結婚して念願だった菫子との暮らしが始まって
毎日舞い上がってるんやで」
椅子に座る菫子の後ろに回る。
頭を引き寄せて抱きしめた。
小柄な身体が震えているのに気づき
早く元気になろうと誓った。
「涼ちゃん、案外デリケートだものね。
しばらく胃に優しいメニューを心がけるわ」
「……すまん」
菫子は何も言わず俺の腕に手を添えた。
土曜日の午前中に病院の内科に電話することになるとは、
思わなかった。
少し前にお世話になった大学病院と、
あの医者の実家が経営する総合病院二つに
電話をかけて聞いた。
すぐ胃の検査をしてくれるのは総合病院の方だった。
一応、診察を受けて一週間後に胃カメラという流れらしい。
俺は了承した。ゴールデンウィークはしょっぱなから
胃カメラになってしまうが致し方がない。
今後の生活のためだ。
「総合病院の方にした。
検査を受けた後は病院で休んで
帰ることになるんやけど、
無料で送迎もしてもらえるらしいで」
「……それなら安心ね」
「セレブ気分味わって帰ってくるわ」
月曜日の午前中は、病院に寄ってから出勤することになった。
病院からも近いということで菫子を彼女の会社に送り、
病院へ向かった。
外来の出入り口をくぐると人であふれかえっていた。
大学病院も広大だがここもいくつもの科を設置しているため
広かった。病床数も多い。
何とか会とやらで系列の介護施設もあるから、
人生丸ごとおまかせって感じや。
(いやいや、検査受けに来ただけや。
他は関係ないやん)
若干、不安なようだ。
先日のブライダルチェックも会社の健康診断も
オールクリアやったのに胃腸の具合が悪くて
病院やなんて、なんなんやろ。
(渉のやつにも顔が青いとか言われたしな)
外来受付で、予約していた草壁と告げ、
紙に記入する。
診察を受けるまでに体重、体温と
血圧を測られる。
血圧も健康的な数値だった。
体重は家で測った時と同じ。
「草壁さん、それでは診察室へどうぞ」
看護師に呼ばれて診察室へ向かう。
担当医「葛井」と表示されていた。
看護師が中から扉を開けてくれ入ると、
一見優し気な医師が微笑んで出迎えた。
(……眼鏡イケメンや。ベテランだろうな。
白衣の下に青い服着てはる言うことは、
手術とかもあるんやろな)
「どうぞおかけください」
あまりに優しい笑顔なので若干引きつつ椅子に座る。
「胃のどの辺が痛いですか?」
葛井先生に分かるように胃を押さえる。
「……この辺かな?」
「っ………」
俺が手を押さえた場所を遠慮なく押してきた。
苦痛に顔をゆがめる。
「食欲はありますか?」
「元々、よく食べる方ですが最近は以前より
食べられなくなりまして妻に心配をかけているのが、
申し訳なくて」
「何かしゃべりにくそうだ。素でどうぞ」
丁寧語がなまっているのを気づかれたらしい。
「先生……今日は診察のみで
終わりですよね。
胃薬もろて」
「そうですよ。あ、気分がよくなるかもしれませんので、
よければこちらを」
「はい?」
葛井先生が携帯から写真を見せてくれた。
「父経由で入手した弟の写真です。
妻の父と弟なので義理の父と弟ってことになりますかね」
「……へっ!?」
藤城青やんか。
写真で見ても派手な外見は最近、何度か遭遇し、
飲みにまで行った相手だった。
俺はすでに友人だと思っているがあちらは、
一瞬でこっちを忘れていた。
電話番号も登録していなかったなんて薄情である。
「……この人、知ってますよ。
先日、大学病院にブライダルチェック
行った際に偶然お目にかかりまして」
「青の友達ってことかな?
彼の側にはイケメンが集まるなあ」
年齢不詳のイケメンには言われたくない。
(会ったことあるって言っただけで
友達とは言うてへんやろ。
俺が親しげな顔をしたんかな)
「よほど自慢の弟さんなんですねえ」
「早くこの病院に来てくれないかなあって、
常に思ってるんですけどね。
今は大学病院に勤務してて、異動は
少し先になりそうなんですよ」
この人、間違いなく兄弟バカや。
「検査の日は朝食を摂らずにお越しくださいね」
注意書きを書いた紙を看護師から渡される。
夜は何時以降、飲食禁止だの記載されている。
「涼くん、お大事にー!」
「いきなり馴れ馴れしいで!」
にこにこと手を振る葛井先生にツッコミを入れた。
その日の夕食の時間、菫子に病院での出来事を説明した。
「ということがあったんや」
「ああ。青先生のお義兄さまなのね」
「色男やったけど危険っぽい。
年齢重ねている分たち悪そうや。
菫子はあの病院行かん方がええで」
童顔やのにとんでもない色気があった気がする。
(同性でも分かるほどやから、免疫のない異性はやばいだろう。
いらんこと考えて痛みをごまかしてるのか……俺)
「病院の先生にときめいてどうするの?
大人の男性にぐらぐらしたことないわ。小学校の時は別として」
小学校の頃のことはええねん。
「歳が近かったらぐらぐらするんか?
青先生とか」
「ありえない」
なんてからかってみたら真顔で否定された。
「大げさなほどでもないねん。
来週、胃カメラ飲んですっきりしてくるわ!」
「もちろん。ここを踏ん張らないと
私たちの未来は開けないものね」
夕食後は処方された一週間分の胃薬の一日目の分を飲んだ。
そして一週間後。
胃カメラの日がやってきた。
スムーズに案内され、診察室に入った。
「運がよかったね。僕は胃カメラ大得意だから」
「それ自分で言うんですか?」
「気がまぎれたかな?」
「えーと……はい」
「こちらへどうぞ」
促され診察用のベッドに座る。
「鼻と喉、どっちからがいい?
楽なのは鼻かな。喉からでもいいよ」
「鼻で」
手際よく検査の準備がされる。
麻酔薬は喉がひりつくしびれを感じるが、
何とか飲み込み若干せきこんだ。
時間が来て検査が始まった。
「上手に飲み込めてるよ」
「すぐ終わるからね」
声を掛けられつつ検査を乗り切った。
レントゲン写真を見せられつつ説明を受けた時、
かなりほっとした。
「急性胃炎ですね」
「……気ぃ抜けました。
胃潰瘍やったらとか思ったんで」
「喫煙もしてないってことだし、
暴飲暴食もしてない。
ストレスじゃない。溜めないようにしてくださいね」
「分かりました。ところで先生は何で
君付けで呼んでくれたんですか?」
「ああ。君とは親子ほど年齢が違うから
息子のようなもんだなって。
実際のうちの息子は高3だけどね」
「……へ、へえ」
とんでもない童顔だ。
高3の息子がいるようには見えない。
「お疲れさまでした。もう会わないといいね?」
(ほんまにな!)
曖昧に笑って診察室を出た。
検査後は、麻酔が残っているため
少し休んでから帰るようにと紙に書いてある。
食事はしばらく時間をおいてから取ってくださいとのことだ。
「……新婚早々に災難やな」
ボソッ。
待合ロビーの椅子に座っていた俺はぼやいていた。
「涼くん、気をつけて帰ってね」
通りがかった葛井先生に言われたので頭を下げる。
帰って菫子に報告をする。
嬉しくて思いっきりハグしあった。
「よかった」
「薬飲んでたら大丈夫や。
ストレス溜めんようにって」
「私ももっと柔らかくいたいなって思う」
「菫子がきついなんて思わんけど」
菫子はツンデレで少々毒を吐く時もあるが、
愛がない言葉を吐いたりはしない。
「俺にご褒美をくれへんかな」
「新婚早々、胃痛に悩まされた旦那様には……」
ソファーの上で身を乗り出してくる。
俺の肩を掴み、頬に何度もキスを落とす菫子が
かわいくて髪を撫でて抱きすくめた。
「あっという間に元気になれそうや」
「なってくれなきゃ困るわ」
胃カメラを飲んだ安心感からか、
胃の痛みがマシになった気がする。
気分も軽かった。
病院名は表示されていない乗用車で
かなりくつろいだ気分で送迎してもらい、
いい経験ができた。
タクシー呼んだらいくらかかるかと
せこいことを考えてしまったけれども。
ゴールデンウィークに胃カメラとは散々だが、
診てくれた先生には感謝するしかない。
後日、俺は担当医の義弟に電話していた。
「ええ加減、電話番号は登録してくれたん?」
「……昨日、ふと思い出して登録しといた」
(ほんまか?)
「葛井先生って人に診てもらったんやけど、あの人ってあんたの兄貴なんやな」
「義理のな。ベテランで安心しただろ?」
「医者って変人ばっかなんか?」
「偏見だ」
藤城青はさらっと返してきた。
「……せやな」
「大変だったな。お大事に」
「あんたのお義兄(にい)さん、
めっちゃ馴れ馴れしいな。君付けで呼ばれたわ」
「涼くん?」
「やめろ」
からかわれた気がしたので制した。
呼んでくる相手もいるが、青には
君付けで呼ばれたくなかった。
「健康は大事やなって痛感した。
今度は、子供ができた時に検査行きたいしな」
「……うちの病院へとも言えないが」
「その時が来たら考えるわ」
「ああ」
数瞬、間があったのは何か言いたいことでもあったのだろうか。
四月も終わり最近は早めの夏を感じる日もあるくらいだ。
俺も菫子も幸せいっぱいで順調なはずだが、
俺は何故かここ数日胃の不調に悩まされていた。
(家でのストレスはない。仕事で大変な部分があっても
今まで胃を痛めたことは一度もなかった)
「涼ちゃん、食欲がないの?」
菫子が心配そうに口にしている。
「あるんやけど食べたないんや」
「どっちなのよ」
心配かけるから、懸命に食べるが
前より限界量が少ない。
菫子に心配されるくらいだからよほどだ。
普段は食べる方だから余計おかしいと感じるのかもしれない。
「……明日、有給取って医者に行くわ」
「レントゲンってすぐ撮ってもらえるのかしら?」
「恐らく、予約になるんやない?
電話して聞いてみる」
「そうね。涼ちゃん、ブライダルチェックは、
大丈夫だったじゃない。血液検査でも異常はなかったけど
胃の具合まではわからないものね」
「……せやな」
「私のせいだったらごめんなさい。
こっちは健康診断も異常なかったから申し訳なくて」
菫子は、お茶を飲み沈んだ表情をした。
食事中に俺のせいで心配かけて彼女の
食欲まで影響したら申し訳ない。
「ちゃうわ!
結婚して念願だった菫子との暮らしが始まって
毎日舞い上がってるんやで」
椅子に座る菫子の後ろに回る。
頭を引き寄せて抱きしめた。
小柄な身体が震えているのに気づき
早く元気になろうと誓った。
「涼ちゃん、案外デリケートだものね。
しばらく胃に優しいメニューを心がけるわ」
「……すまん」
菫子は何も言わず俺の腕に手を添えた。
土曜日の午前中に病院の内科に電話することになるとは、
思わなかった。
少し前にお世話になった大学病院と、
あの医者の実家が経営する総合病院二つに
電話をかけて聞いた。
すぐ胃の検査をしてくれるのは総合病院の方だった。
一応、診察を受けて一週間後に胃カメラという流れらしい。
俺は了承した。ゴールデンウィークはしょっぱなから
胃カメラになってしまうが致し方がない。
今後の生活のためだ。
「総合病院の方にした。
検査を受けた後は病院で休んで
帰ることになるんやけど、
無料で送迎もしてもらえるらしいで」
「……それなら安心ね」
「セレブ気分味わって帰ってくるわ」
月曜日の午前中は、病院に寄ってから出勤することになった。
病院からも近いということで菫子を彼女の会社に送り、
病院へ向かった。
外来の出入り口をくぐると人であふれかえっていた。
大学病院も広大だがここもいくつもの科を設置しているため
広かった。病床数も多い。
何とか会とやらで系列の介護施設もあるから、
人生丸ごとおまかせって感じや。
(いやいや、検査受けに来ただけや。
他は関係ないやん)
若干、不安なようだ。
先日のブライダルチェックも会社の健康診断も
オールクリアやったのに胃腸の具合が悪くて
病院やなんて、なんなんやろ。
(渉のやつにも顔が青いとか言われたしな)
外来受付で、予約していた草壁と告げ、
紙に記入する。
診察を受けるまでに体重、体温と
血圧を測られる。
血圧も健康的な数値だった。
体重は家で測った時と同じ。
「草壁さん、それでは診察室へどうぞ」
看護師に呼ばれて診察室へ向かう。
担当医「葛井」と表示されていた。
看護師が中から扉を開けてくれ入ると、
一見優し気な医師が微笑んで出迎えた。
(……眼鏡イケメンや。ベテランだろうな。
白衣の下に青い服着てはる言うことは、
手術とかもあるんやろな)
「どうぞおかけください」
あまりに優しい笑顔なので若干引きつつ椅子に座る。
「胃のどの辺が痛いですか?」
葛井先生に分かるように胃を押さえる。
「……この辺かな?」
「っ………」
俺が手を押さえた場所を遠慮なく押してきた。
苦痛に顔をゆがめる。
「食欲はありますか?」
「元々、よく食べる方ですが最近は以前より
食べられなくなりまして妻に心配をかけているのが、
申し訳なくて」
「何かしゃべりにくそうだ。素でどうぞ」
丁寧語がなまっているのを気づかれたらしい。
「先生……今日は診察のみで
終わりですよね。
胃薬もろて」
「そうですよ。あ、気分がよくなるかもしれませんので、
よければこちらを」
「はい?」
葛井先生が携帯から写真を見せてくれた。
「父経由で入手した弟の写真です。
妻の父と弟なので義理の父と弟ってことになりますかね」
「……へっ!?」
藤城青やんか。
写真で見ても派手な外見は最近、何度か遭遇し、
飲みにまで行った相手だった。
俺はすでに友人だと思っているがあちらは、
一瞬でこっちを忘れていた。
電話番号も登録していなかったなんて薄情である。
「……この人、知ってますよ。
先日、大学病院にブライダルチェック
行った際に偶然お目にかかりまして」
「青の友達ってことかな?
彼の側にはイケメンが集まるなあ」
年齢不詳のイケメンには言われたくない。
(会ったことあるって言っただけで
友達とは言うてへんやろ。
俺が親しげな顔をしたんかな)
「よほど自慢の弟さんなんですねえ」
「早くこの病院に来てくれないかなあって、
常に思ってるんですけどね。
今は大学病院に勤務してて、異動は
少し先になりそうなんですよ」
この人、間違いなく兄弟バカや。
「検査の日は朝食を摂らずにお越しくださいね」
注意書きを書いた紙を看護師から渡される。
夜は何時以降、飲食禁止だの記載されている。
「涼くん、お大事にー!」
「いきなり馴れ馴れしいで!」
にこにこと手を振る葛井先生にツッコミを入れた。
その日の夕食の時間、菫子に病院での出来事を説明した。
「ということがあったんや」
「ああ。青先生のお義兄さまなのね」
「色男やったけど危険っぽい。
年齢重ねている分たち悪そうや。
菫子はあの病院行かん方がええで」
童顔やのにとんでもない色気があった気がする。
(同性でも分かるほどやから、免疫のない異性はやばいだろう。
いらんこと考えて痛みをごまかしてるのか……俺)
「病院の先生にときめいてどうするの?
大人の男性にぐらぐらしたことないわ。小学校の時は別として」
小学校の頃のことはええねん。
「歳が近かったらぐらぐらするんか?
青先生とか」
「ありえない」
なんてからかってみたら真顔で否定された。
「大げさなほどでもないねん。
来週、胃カメラ飲んですっきりしてくるわ!」
「もちろん。ここを踏ん張らないと
私たちの未来は開けないものね」
夕食後は処方された一週間分の胃薬の一日目の分を飲んだ。
そして一週間後。
胃カメラの日がやってきた。
スムーズに案内され、診察室に入った。
「運がよかったね。僕は胃カメラ大得意だから」
「それ自分で言うんですか?」
「気がまぎれたかな?」
「えーと……はい」
「こちらへどうぞ」
促され診察用のベッドに座る。
「鼻と喉、どっちからがいい?
楽なのは鼻かな。喉からでもいいよ」
「鼻で」
手際よく検査の準備がされる。
麻酔薬は喉がひりつくしびれを感じるが、
何とか飲み込み若干せきこんだ。
時間が来て検査が始まった。
「上手に飲み込めてるよ」
「すぐ終わるからね」
声を掛けられつつ検査を乗り切った。
レントゲン写真を見せられつつ説明を受けた時、
かなりほっとした。
「急性胃炎ですね」
「……気ぃ抜けました。
胃潰瘍やったらとか思ったんで」
「喫煙もしてないってことだし、
暴飲暴食もしてない。
ストレスじゃない。溜めないようにしてくださいね」
「分かりました。ところで先生は何で
君付けで呼んでくれたんですか?」
「ああ。君とは親子ほど年齢が違うから
息子のようなもんだなって。
実際のうちの息子は高3だけどね」
「……へ、へえ」
とんでもない童顔だ。
高3の息子がいるようには見えない。
「お疲れさまでした。もう会わないといいね?」
(ほんまにな!)
曖昧に笑って診察室を出た。
検査後は、麻酔が残っているため
少し休んでから帰るようにと紙に書いてある。
食事はしばらく時間をおいてから取ってくださいとのことだ。
「……新婚早々に災難やな」
ボソッ。
待合ロビーの椅子に座っていた俺はぼやいていた。
「涼くん、気をつけて帰ってね」
通りがかった葛井先生に言われたので頭を下げる。
帰って菫子に報告をする。
嬉しくて思いっきりハグしあった。
「よかった」
「薬飲んでたら大丈夫や。
ストレス溜めんようにって」
「私ももっと柔らかくいたいなって思う」
「菫子がきついなんて思わんけど」
菫子はツンデレで少々毒を吐く時もあるが、
愛がない言葉を吐いたりはしない。
「俺にご褒美をくれへんかな」
「新婚早々、胃痛に悩まされた旦那様には……」
ソファーの上で身を乗り出してくる。
俺の肩を掴み、頬に何度もキスを落とす菫子が
かわいくて髪を撫でて抱きすくめた。
「あっという間に元気になれそうや」
「なってくれなきゃ困るわ」
胃カメラを飲んだ安心感からか、
胃の痛みがマシになった気がする。
気分も軽かった。
病院名は表示されていない乗用車で
かなりくつろいだ気分で送迎してもらい、
いい経験ができた。
タクシー呼んだらいくらかかるかと
せこいことを考えてしまったけれども。
ゴールデンウィークに胃カメラとは散々だが、
診てくれた先生には感謝するしかない。
後日、俺は担当医の義弟に電話していた。
「ええ加減、電話番号は登録してくれたん?」
「……昨日、ふと思い出して登録しといた」
(ほんまか?)
「葛井先生って人に診てもらったんやけど、あの人ってあんたの兄貴なんやな」
「義理のな。ベテランで安心しただろ?」
「医者って変人ばっかなんか?」
「偏見だ」
藤城青はさらっと返してきた。
「……せやな」
「大変だったな。お大事に」
「あんたのお義兄(にい)さん、
めっちゃ馴れ馴れしいな。君付けで呼ばれたわ」
「涼くん?」
「やめろ」
からかわれた気がしたので制した。
呼んでくる相手もいるが、青には
君付けで呼ばれたくなかった。
「健康は大事やなって痛感した。
今度は、子供ができた時に検査行きたいしな」
「……うちの病院へとも言えないが」
「その時が来たら考えるわ」
「ああ」
数瞬、間があったのは何か言いたいことでもあったのだろうか。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心
夏目萌
恋愛
潰れかけの危機に立たされている実家の店を救いたくて、試行錯誤する来栖 侑那が偶然見つけたのは——「財閥御曹司の専属メイド募集」という、夢のような高収入の仕事だった。
ダメ元で応募してみると、まさかの即採用&住み込み勤務。
だけど、そこで待っていたのは傲慢で俺様な御曹司・上澤 巴。
「金目当てで来たんだろ?」
なんて見下すような言葉にも侑那は屈しないどころか言い返され、“思い通りにならない女”との初めての出逢いに巴は戸惑いを隠せなくなる。
強気なメイドとツンデレ御曹司。
衝突するたび、距離が近づいていく二人だけど、ひとつの誤解が、二人の心をすれ違わせてしまい——。
俺様ツンデレ御曹司×強気なメイドのすれ違いラブ
他サイト様にも公開中
恋と首輪
山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。
絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。
地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。
冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。
「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」
イケメン財閥御曹司
東雲 蓮
×
「私はあなたが嫌いです。」
訳あり平凡女子
月宮 みゆ
愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。
訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜
yuzu
恋愛
人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて……
「オレを好きになるまで離してやんない。」
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
なし崩しの夜
春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。
さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。
彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。
信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。
つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる