Pleasure,Treasure

雛瀬智美

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番外編集

番外編?「オレサマ御曹司、夢に現る」

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オレサマ御曹司、夢に現る



「ぎゃぁぁ!」

「ど、どないしたん?」

最悪の夢を見てしまった。

隣には大切な旦那様がいるのに夢の中で魔性と浮気!

(未遂にもなってないけど)

勝手に夢に出てきたのはあっちなのだから私は悪くないんだけど……。

「ちょっと動揺で動悸が治まらなくて。水を飲んでくるわ」

ダブルベッドから降りる。図体のでかい男は、絡ませていた腕を腰から離した。

「……なんや。悪夢でも見たんか?」

涼ちゃんが、心配そうにつぶやくのを他所(よそ)にキッチンへ向かう。
冷蔵庫から出したミネラルウォーターのペットボトルからコップに注いで一気に飲んだ。

「……私が思い出したのは入社式の帰りに出会った美少女であって、あの魔物じゃないわ。
どうせなら美少女が出てきてよ」

夢に出てきた魔性……藤城青は、約一年前にT大附属病院に行った際にお世話になった医師だった。

その彼が夢に出てきて、菫子をグイグイ誘惑していた。

(ないわ……ありえない。五年くらい前の設定だけどその頃には涼ちゃんと付き合い始めてたし……。
藤城青先生も医学部の学生で若かった。
三つ学年が違うという現実も夢には反映されていたけど、全てがおかしすぎた。
雰囲気が多少違っても今と外見がほとんど変わってなかったし。
強いていえば経験による落ち着きの違いかな。
診察時でも俺様モードを垣間見せたけどプライベートは更に俺様度が高かった)

部屋に戻ると涼ちゃんはベッドから身を起こしてこちらを見ていた。

まだ真夜中で起きる時間では無いから、起こしてしまったことを申し訳なく思う。

夢が長くて途切れ途切れに目を覚ましたから、よく眠れていない。

妊娠してからここまでの悪夢に苛まれるのは初めてだった。

「落ち着いた? まだ朝じゃないからもう一回寝ような」

「な、なんで今、関西弁じゃなかったの?」

涼ちゃんの隣に戻る。

情緒不安定気味でも、ここでイラッとするのは間違いだ。彼には罪がないのだ。

「親が関西弁でも生まれ育ちは東京だから、訛ってない言葉もたまに出るんだよな」

「……そ、そうだったわね。でも心臓に悪い」

「ドキッとするんじゃなかったのか。

今までの反応からすると関西弁じゃない時は、ツンもなくデレてたけど」

「それは、珍しいからよ。涼ちゃんは涼ちゃんらしくいてくれたらそれでいいから」

「何気に殺し文句やな」

ボソッと言われる。

「で、俺の菫子はどんな悪夢を見たんかな? 顔が真っ赤なのは熱があるわけちゃうやろ?」

抱き寄せられた腕の中で、躊躇う。

(……どんな反応するのかな。
あの時、藤城先生の診察
を受けたのは、涼ちゃんに話したんだよね。
医学部を首席で卒業したメガトン級のイケメンって言ってたし、夢はその二年前の設定だ。
その頃は出会ってもないし、設定だ。
夢の中では涼ちゃんともどうにもならなかったけど、
藤城先輩(とか呼んでた)のグイグイくる誘惑には屈しなかった)

「……先に言っておくけど私が見た最恐の悪夢は
あくまで現実とは異なるフィクションの世界です。
旦那様はいきり立って、しまわないように」

「……何や。欲求不満が爆発して夢で浮気でもしたんか。
そんなんでいきり立つわけないやろ。
何年一緒にいると思ってんねん」

涼ちゃんは、普段通りやさしく微笑み私の背中を撫でた。

「夢の中でも浮気なんてするわけないじゃない!」

うっかり声を荒らげた。

「どんな夢見たか教えてみろや」

「……怒ったら駄目だからね」

大丈夫だというふうに背中を撫でてくれた。

部屋の電気はついているから暗闇ではない。

やっぱり黒い髪が好きだ。
地毛か分からないけど薄茶色の髪で外見も派手な男性より
男くさくて熱くて、クソ真面目の素敵な旦那様がいい。

訛ってない言葉でオレサマ御曹司を思い出してしまって、変な気分にはなったけど。

「藤城先生が夢に出てきたわ。すっごく危険な夢だった」

「……大学病院の産婦人科で診察受けた時が初対面やったっけ。
 俺も結婚前に病院行って偶然会ったけど。
 検査の方も問題なかったから後は時間の問題やな」
「涼ちゃん、真面目な人よね」
「もし子供ができなかった時、すみれ一人の
責任やない。二人の問題やから、一応な。
藤城せんせの診察は受けてないけど、ネームプレートと
すみれが話してたとおりの相手やったから分かった」
「……あの時も聞いたけど」
 だから、おそらくもう少ししたら。
「私も問題なかったし無理せず私達のペースよね」
 そういえば、と思い出す。
 あの時、涼ちゃんは藤城先生からの伝言を預かってきたんだ。
 教えてくれたの次の日だった。
「時期的にまだ主治医になれないってことだったわね」
「この先、二人目を妊娠する時があれば力になりたいと
 言ってくれたかな。それが3月のことや。
 菫子には言わんとってほしいと言われたから
 全部は言えへんよ。今回、一年前の夢を見て思い出した
 って言ってたから会ったことは話したんやけど」
「そうよね。別に浮気じゃないんだし」
「……そりゃそうやろ。人タラシなのは確かやったけど」
 涼ちゃんも藤城先生に会っていたなんて驚いた。
「また機会があったら会えると思うで。
 主治医になってもらわんでも大学病院に行けばおるし」
 意味深に微笑む。
 夢の内容を言えばそんなことも言えなくなるかな。
「こないだ話した入社式の帰りに会った美少女とは再会を夢見てるけど……
 藤城先輩のことなんてちっとも」
「先輩……三つ違うもんな」

 涼ちゃんは、顎をしゃくった。何故か背中を抱きしめる力が強くなっている。
真夏なら、暑苦しくて引き剥がしたくなっているところだ。

「夢の中の私が言ってたからつい。
これから危険な部分に入るけど、覚悟はできてる? 
暴力衝動が起きたら私も怖いから」
「そんなの起きたことないわ……いや一回あった。
よほど俺の神経をぶち切れさせる系なんかな」

涼ちゃんは唾を飲み込んだ。どうやら興味津々だ。
夢は全部が設定でもなく現実ともリンクしていた。
何か言ってきたらそこを突っ込むことにする。

「夢の中での私は大学二年生だったの。涼ちゃんとは付き合ってなかったわ。
相手……藤城青って人はT大医学部の5年生。
頭の回転がめっちゃ早くて次から次へと殺し文句で誘惑してきたわ。
よく回る頭とお口だと呆れた」

 一気にしゃべると息をつく。どうせならコップに水を注いでくればよかった。
涼ちゃんの目が据わっているような気がした。

(まだ触りしか言ってないのに、もう不快指数爆上がり?)

「ふむ。ってことは藤城せんせは大学を卒業してそのまま付属の大学病院で働いてるんやな。
家柄もやけど、エリートだけですまされない努力もしてきたんやろな」
 感心した口調だった。

「藤城青さまと私は、合コンで遭遇しました。
涼ちゃんは、どこぞの誰かと消えてたのは、現実と一緒ね。
実際より一年遅いから所詮(しょせん)夢よね」

「……」
 涼ちゃんの顔をのぞき込んだら眉をしかめている。
「私は、気になっていた人に声もかけられなくて女子で
独りだけ取り残されていたわ。
皆、相手を見つけて帰ったのね。
その後どうなったかは知らないけど皆が皆、涼ちゃんと同じとは限らないわ」

藤城青のことを話すつもりが、涼ちゃんのことばかりになってしまっている。

「……すみれは俺のことが好きすぎてしゃあないんやな」

涼ちゃんは、独占欲は強くても心が狭いわけではない。
たがが夢のことでいきり立つことはない……多分。
藤城青ほどではないが、俺様でSっ気もあるけど許容範囲だ。

「……藤城さんの勢いはとにかくすごくて怖かったから必死で抵抗したの。
私もずっと感情的に反応していて疲れたわ。
チョコレートパフェをごちそうになったり、大学の前まで、
愛車のBMWで迎えに来たり二週間くらいはつきまとってたかな……夢の中で」

「それ、デートやん」

 涼ちゃんの息が荒くなっていた。

「うーん。青って人は気になることも言っていたわ。
女性慣れしているのを指摘したら、慣れてない。
憶測で物を言うなとか……挙げ句の果てにはある意味で童貞とか言ったのよ」

「……ミステリアスにも程があるやろ」
 呼び方を変えてみているが、いちいち気にならないらしい。

「恋愛していた頃を思い出しながら、
甘い言葉を繰り出してたって言うのが一番おかしかったかな。
五年くらい前の設定だから、当然相手も若かったけど見た目は一緒。
現実の彼の方が、落ち着いてさらに妖艶になってたのが違うかなってくらい」

「現実の彼……なるほどね」

 涼ちゃんの声が、どこかの藤城青みたいにささやき声になっていてびくっとした。

「ある意味で童貞というのはどういう意味なんだろう。
第一、涼ちゃんだって、薫さんと付き合う前にも恋愛があったわけで」
別に知らなくてもいいことだが、
中高時代に色々あったのだと想像できる。
「……俺の話は右端に置いとけ。それについて深掘りしてみるか」

「童貞?」
「女性に慣れていなくて、ある意味で童貞ということは……うん、多分」

「言葉を濁さないで教えてよ」

「女性に対しては童貞ってことやろ。
経験豊富というのは女性に対してだけ言うんじゃないのかもな」

 そうだ。理解あるのは当然だった。
 涼ちゃんの二つ下の妹は、経験豊富だ。
 口調がそっくりで見た目は女版涼ちゃんだ。
「……あの人、強引ではあったけど一歩引いている感じはあった。本気ではなかったのかも」

「なびく気持ちになったりしてはない? ちょっとはその気になったり?」
笑いながらからかうような口調は、私を信じていると伝わってくる。
「ちょっとドキドキはしてたかな。あくまで夢の中の私がね!」 

 夢を強調する。あれは夢の私であって現実とは異なるのだ。

(いや……藤城青より気になることが)

「夢の中で藤城青は初対面で出会った者同士が、
ノリと勢いでその場から消えるのを信じられないとか言ってた。
そこに愛があったと思う?って聞いたし。
薄茶色の髪でチャラそうだったけど本当は真面目なんじゃない。
それは夏にあった現実の藤城先生のイメージとも一致するの」

「お前の気になっていた男も、相手見つけて消えたんだろってそれも言ったっけ」

「……す、すみません。夢は夢やでと言い切れない部分があったようで」

 涼ちゃんが気まずそうに目をそらした。

「そこが生々しい夢だったわね。実際、消えたしね。
そうしたら太刀打ちできるわけないって、思って諦めようと思うわけ。
でもできなかったけど」

チクリ、刺してやる。
今更過去のことを言われても仕方がない。

「後悔してるわけじゃないんでしょ。
薫さんもスマートで大胆だったって言ってたわよ。夏に飲んだ時」

「……そんな話までする仲になってるんやな。俺より仲ええやんけ」

「ガールズトークです。乙女は男の人ほど直接的なことは言わないの」

「ガールズトークできる友達おってよかったな。
 俺もボーイズトークする友達くらいおるけどな!」
妙なことを言われたので笑ってしまった。
「……それ、誰だろ」
「教えへんよ。まだ」
 むっ、としたが問い詰めるのはやめておき話を変える。
「あっくんと健太が、涼ちゃんの関西弁は嘘なんじゃない?とか疑ってたわよ。
共通語を話しても自然だし、ありえなくないのかしら?」
「あいつら阿呆なんかな。さっきも言った通り、
地元がこっちやからたまに出るだけやって。
意識して使い分けしとるとでも思ってた?」

「……阿呆じゃないわよ。T大目指せるレベルの進学校に進んでるから。二人、一緒にね」

ふう、と息をつく。

「さっき、訛ってない涼ちゃんにゾクッとしたのは、藤城さんみたいだったからよ」

「俺ってそんな魔物系?」

「ケダモノではあるけどね!」

「すみれの前だけやしええやろ」

「……ぐっ」

「……どうやって誘惑を退(しりぞ)けたんや?」

「夢の中の私はもっと普通の人がいいって言ってたわ。でもね」

私が続けようとしたのを遮るように涼ちゃんが口を開く。

「…… 夢の中の藤城青がちょっかいかけてきたのも菫子がとんでもなく魅力的で可愛かったからや。
俺が回り道している間にもしかしたら俺じゃなくて他の奴と付き合ってたかもしれん。
ここでこうして家庭を持って、一緒にいる未来ももしかしたらなかったってことやん」

「夢の中の話だから」

「でも、菫子は一途で健気で俺の事待っとってくれたもんな。だから全部が俺だった」

手で触れた頬は熱くなっていた。

「……涼ちゃんがよかったからね」

「菫子……!」

がばっと抱きしめられる。

「もうちょっといいかな。後でご褒美をあげるから」

耳打ちしたら頭を撫でてくれた。

「藤城さんの髪色って地毛なのかしら。
夢の中のあの人も夏に会った時と同じで茶色だったのよね。染めてるのかなぁ」

「……頭のてっぺんに黒いところ残ってなかったら地毛やで」
「そっか。じゃああの人、外国の血が入ってるのかも」
「本人に聞けばいいんやない」
 涼ちゃんの口元のゆがめ方が気になる。
 夢ほどの接触はないものの藤城先生は、
 俺様な風情を一瞬垣間見せたけれどその後がとんでもなく優しかった。
「……うん。じゃあやっぱり大学病院に行ってみる」
「俺も一緒に行くわ。去年は一緒に行けんかったけど
 最愛の旦那が一緒やないとあかんやろ」
「自分で言ってて恥ずかしくないの?」
「……ほんまのことやろ」
 ぎゅっ、と手を握られて頬が赤く染まる。
「春にあのせんせと会ったことの詳細は話せんけど、菫子がお世話になったお礼は言っといた」
「ありがと」
 大きな手で髪を撫でられた。
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