モブな令嬢は第二皇子の溺愛から逃れたい

エヌ

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あれから1ヶ月。

一応政略結婚、とは思えないほどの溺愛が日常と化していた。

顔を合わせれば可愛いだの好きだのと言葉を囁かれ、どこかしらに触れてはキスをしてくる。
始めこそゲームの知識から何かされるのではないかとビクビク怯えていたけど、毎回こんなに愛をささやかれるとどうにも絆されてくる。

なんでこんなに私のことを想ってくれているのかはわからないけど、毎日毎日同じように愛を囁かれると私だって好きにならないはずがなかった。

だから、最近では私からも想いを伝えるようにしている。

「メーヴル、愛してるよ」

今日も王宮の一室で、愛を囁き合う。

ソファに腰掛けた第二皇子の足の間に腰掛けて額をくっつけ合う。
視線が絡まると、どうしようもなく愛おしさが溢れてしまう。

「私も、愛してるわ」

そのままどちらともなく口付け合うと、角度を変えて何度も何度もリップ音を響かせた。

「離れたくないけどそろそろ行かないとね」

ちゅう、と最後はこめかみにキスをされようやく顔が離れていく。

近くの熱が少し遠ざかるのに寂しさを覚える。

「早く帰ってきてね」

その寂しさを埋めるように、胸板に手を当ててスリ、と首元に擦り寄ると、体温がじんわりと暖かくて心が落ち着く。

「もちろんだよ」

最後にギュ、と抱きしめられると私も抱きしめ返した。
今日も、大好きである。



--------------------------------




「今日は久しぶりに出かけようと思うの」


皇子が部屋を出て行き、侍女が紅茶を出してくれたので一息付く。
紅茶を飲み終わると同時に、侍女にそう声をかけた。

それを聞いた侍女がびくり、と肩を揺らす。

「結婚をしてから外に出ていなかったなと思って。とても晴れているし、今日こそは宮の庭園でお茶でもいただこうかしら」

ニコ、と笑いかけると何故か怯えたような顔をされた。
い、言い方怖かったかしら。

「予報士によると、本日は雨が降る可能性がございます。」

「事前にわかっているのなら傘を持ち歩けばいいじゃない。」

ここ最近、というか結婚してから、生活に慣れるためやら勉強やらでなんだかんだ外に出ていないことに気づいた。
全ての用事を部屋で済ませ、会う人間といえば侍女数名と自分の夫の第二皇子のみだ。

外の空気を吸わねば。
あわよくば他の人と交流もしたい。

そう侍女に気持ちを伝えるけれど、モゴモゴと口を籠らせるばかりで良い返事がもらえない。

護衛やら準備やらはあるかと思うけど
そんなにわがままな発言ではないと思いたい...。けど反応がすこぶる悪すぎる。

「じゃあ、お茶は要らないから散歩だけ。お願いよ、マリアンヌ」

それなら護衛を引き連れて歩くだけでお茶の準備はいらないだろう。

キュ、と手を握ると侍女は観念したかのように頷いた。
同時に他の侍女に目配せをすると、その侍女はこくりと頷き部屋を出て行った。
部屋の外で待機している護衛に今日の予定を伝えに行ったのかもしれない。

「では準備をしましょうか。」

流石に部屋着で外は出られないので外に出る準備をするために椅子に座るよう促される。

その動作に顔を綻ばせた。

「マリアンヌ、ありがとう」

同じように微笑み返してくれたマリアンヌの顔が、少し引き攣っていた気がした。
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