運命は蜜の味

大神ルナ

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13 終わりと始まり

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 体がほかほかになり、いろいろな意味でスッキリとした真白は、離れて座る響夜に目をやった。
 気まずそうに目を逸らす響夜に、しびれを切らし自分の座るソファの隣を叩いた。

「気持ちは落ち着いたから、あなたのことを話して」

 今日一日で、たくさんのことが起こりすぎている。
 高月翔が弟だということ。
 信じがたいが、響夜が淫魔という存在だということ。
 彼に子供が作れないこと。
 盛りだくさんすぎる。
 だからこそ、響夜の口から聞く必要があると真白は思った。

「……どこから話したらいいんだろう」

「あなたは、高月翔に“兄さん”って呼ばれていたけど、高月夫妻には彼しか子供がいないって聞いたことがあるけど」

「間違いなく翔は弟だよ。ただ、俺は高月百貨店社長の高月隆と香月美麗の間に生まれた不義の子供で、翔とは父親が一緒なだけなんだよ。もともと、高月夫妻は子供に恵まれなくて、後継者が必要な高月の家が血を継いでいる男児だからって養子に迎えられたんだよね」

 心底どうでもいいといった感じで言葉を紡ぐ響夜の目には、なんの感情も浮かんでいない。

「けど、俺が引き取られて暫くすると、義理の母親が妊娠してね。もともと、俺のことを嫌っていた人だから、すぐ捨てられてもおかしくなかった。けど、翔は体が弱くて、スペアとして育てられたんだよ」

「でも、社長は血がつながってるんだから、実の子として可愛がってくれるでしょ」

「いや、俺を可愛がろうとしてはくれたけど、そうすると義母がヒステリックになるから難しかったんだよ。ほとんど、乳母に育てられたようなもんかな」

 もちろん本妻がいて、外に女性をつくり子供までできていたら、おかしくなるのも無理はないのかもしれないが、子供に罪はない。
 ただの被害者でしかない存在に、当たるのは全くどうしようもない考えだ。

「俺が求められるのは、完璧な高月の子供。だから、それなりに努力して中学でも、高校でも上位をキープしてたさ。でも、大学も決まって、高校も卒業だって時に、義母は翔は健康になってきたから、お前には用はない。高月の外に出て、好きに生きろって追い出されたんだよ」

 高校卒業を目前に控えているとはいえ、十八歳はまだ子供だ。
 勝手に荷物を詰め込まれたボストンバックが一つと、茶封筒に入れられた札束。
 それだけを手に、いきなり外に出されたと言われ、真白は信じられない気持ちだった。
 
「仕方がないから、ずっと会うことを禁じられていた実母に会いに行くことにしたんだよ。写真すら見たことがなかったから、どんな人なのかも分からず、鞄に入っていた住所を頼りに、スマホで調べてバスで向かったらさ、すげーボロいアパートでさ」

 そう笑った響夜は、頭を背もたれにつけて天井を見つめていた。
 
「くしゃくしゃの紙に書いてある部屋番号のチャイムを押したのにさ、誰も出てこなくて、往生際悪く扉を叩いてたら、うるさいって隣の住人が出てきちゃうしさ」

 その日の光景を思い出しているのか、腕で目元を隠した響夜は話を続けた。

「でも、隣の住人は母さんの知り合いで、預かっていた二通の手紙を渡してくれた。そして、十三年も前に死んでたことを教えてくれたんだよ。一定の金額を送っているという言葉も、毎年実母からだと言って渡されていた誕生日プレゼントも、なにもかもが嘘だってことが分かった。裏切られたって気持ちよりも、ずっと俺を売って楽して贅沢に暮らしてるんだろうなって思ってた自分が、クソ野郎だと思ったね」

 引き払われた部屋に入ることができなくなった響夜は、インターネットカフェに入り、実母からの手紙を読んだ。
 封筒がパンパンになるほど入っていた手紙には、響夜を手放したことへの謝罪と、自分の不甲斐なさ、ずっと会いたかったこと。
 そして自分の命が長くないことが書かれていた。
 最後に、自身が淫魔であり、高月隆が運命の相手であったことと、会えなくなり精気がもらえなくなったことでいずれ死ぬこと。
 二つ目の手紙には、響夜が確実に淫魔であることから、将来困らないように淫魔についての説明が書かれていた。
 そこには、淫魔は精気を摂取しなければ生きられないこと。
 女性の淫魔しか運命の相手と子孫を残せないこと。淫魔は運命の相手と繋がった瞬間、他の人間の精気では生きられないことを知った。
 女性は運命の相手の精を取り込むことで、男性は自身の精を相手に注ぐことで成立する。
 男性は運命の相手でなければ、子孫を残すことができるため、淫魔のコミュニティでは運命の相手は探さず、結婚と離婚を繰り返す事によって子孫を残すように教えられるという。
 
「私は」

「俺の運命の相手なんだよ。淫魔は、運命の相手以外に独占欲や執着を向けないんだ。そうじゃないと、生きられる確率が減るからね。まさに、真白に会うまでの俺は典型的な淫魔だったわけ」

「でも、いつ気がついたの?」

「最初から今までとは違う感覚を感じてたけど、決定的だったのは酔った真白から吸ってたタバコを奪って吸った時かな」

「タバコ?」

「直前まで吸ってたから、唾液がついてるじゃん? それがめちゃくちゃ甘くて美味くてさ。うわぁー、真白は俺のものだって思ったんだよね」

「そんな単純な」

「運命の相手っていうのは、分かりやすいんだよ。でも、そうじゃないと困る。見落とすかもしれないじゃん」

「まあ、そうですけど」

 さっきまで、気が重そうに話していた様子とは打って変わって、明るい表情になったことに安堵しながら、真白は見つめてくる響夜と目を合わせて首を傾げた。

「ところでさ。怒ってないの? 乱暴に無理やりしたこと」

「怒っては……います。でも」

「でも?」

「あなたのことが好きだから、気にしてません」

「愛してるって言ってくれないの? 直後は俺のことは愛してるけど子供は無理だって言ってくれたじゃん」

「あ、あれは、パニックになって」

「まっ、言葉の表現はなんでもいいよ。真白は、責任取ってくれるんだよね?」

「責任って」

「俺は一定の間隔で真白の精気を貰わないと死んじゃうんだよ? もう付き合えないだの、結婚はできないなんて言わないよね?」

「そ、それは」

「優しい真白は、俺を見殺しにしたりしないもんね」

 語尾にハートマークがつきそうな言い方をされて、真白はがくりと頭を垂れた。
 なんだか良いように囲い込まれた気がして、解せない気分だった。
 
「ん? 真白、電話鳴ってるよ」

「え? あっ、ほんとだ」

 鞄の中で着信を告げる音が鳴っている。
 響夜の方に近かったこともあり、彼がスマホを取り出して渡してくれたのは良かったが、真白が掴んでも離してくれない。
 なんでだろうかと思って、響夜が凝視する画面に目を向けて、その答えがすぐに分かった。
 一瞬の隙をついてスマホは持っていかれてしまい、代わりに彼が電話に出た。

「おい、なんで真白の電話番号を知ってるんだよ」

 揉めそうな雰囲気を感じてスマホを取り返そうとしたが、背の高い響夜に手で阻まれて取り返せない。
 
「うるさい。余計なお世話だ。どうせ、お前たちには関係ないだろう」

「ちょっと、電話を返して下さい」

 ちらりと流し見られ無視されるかと思ったが、響夜は素直とは言い難いが嫌々返してくれた。

「すみません、雪平です」

「あっ、雪平先輩? しばらく休めるように、有給を申請しておいたので、兄さんとゆっくり過ごしてくださいね」

「えっ? ちょっ、どういう」

「いやぁ、嬉しいな。雪平先輩のお陰で、兄さんも落ち着くかと思うと、安心だな。あっ、休みの一日は空けといて下さいね。父も会うのを楽しみにしていますから」

「へ? 父!?」

「はい。ずっと連絡が取れなくて、父も心配してたんですよ。一人だったら寄り付かないだろうけど、雪平先輩がお願いしてくれたら、兄さんも父に会うだろうし。それじゃあ、嫉妬されるのも面倒なので切りますね。僕達の実家で会うのを楽しみにしてます」

 真白の返事を待たずに、通話は切られた。
 
「へ? 父? 誰の?」

 いきなりのことすぎて、話についていけない真白は混乱していた。

「俺の親父だろうな。つまり、高月百貨店の社長」

「え? ど、どうして」

「そりゃ、息子の妻になる人間に会いたいからでしょ」

「妻?」

「うん。だって、真白は俺の一生を共にする存在なんだからね」

 ぎゅっと抱きしめられる腕の中で、真白は青くなっていた。
 ずっと将来設計として結婚もしない、一生独身で平穏、平凡に暮らす。
 そんな風に思っていたのに、御曹司淫魔と結婚して一生を共にするというパワーワードに、もうなにも考えたくなくなったが、愛してしまったのは真白だ。
 
「俺の愛をあげるから、真白の精気は俺だけのものだからね」

 それだけは、誰にも譲りたくない。
 そんな想いから、真白は全てを甘んじて受け入れる覚悟をして、近づく唇を受け入れた。



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