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12 執着
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「お疲れ様でした」
今年一番どころか、これまでの人生で一番体調が良いんじゃないかというほど絶好調の真白が言えば、周りの人間は驚いた顔で止まった。
周りの音すらなくなったような錯覚すら覚える。
「どうかしましたか?」
不思議な光景に、真白がそう零せば隣で作業をしていた同僚が椅子ごと近づいてきた。
「最近の雪平さんって、すごく綺麗になりましたよね。表情も明るくなったし」
「そうですか?」
自分ではいつもと変わらない気でいただけに、同僚の言葉に真白には意外だった。
「そうですよ。髪も肌もつやつやだし、顔色もいいし。なにか生活を見直しました?」
「いえ……前から変わらず寝るのは遅いですし、食事も買ってくるものばかりですね」
「そっか、二ヶ月前くらいかな? そのくらいから日に日に綺麗になっていったような」
「二ヶ月前くらい……あっ」
「ん? なにか思い当たることでもあった?」
「あの……運動とかストレッチをするようになりました」
「ジムに通うようになったの?」
「いえ、動画サイトの家トレーニングです」
「ああ、ああいうのって意外と効果ありますよね。あたしも、なにか始めよー」
そこで、同僚のところの電話が鳴って話は終わったことに、真白は深く感謝した。
心臓はどきどきしているのだが、周りに気づかれた様子はない。
〈二ヶ月前くらい〉
それは、響夜との関係が始まったあたりだ。
セフレとの夜が、運動になるかは別だが、これまでとは違う生活といえるだろう。
そうして彼を思い出すと、一週間前の心地のよい日々が思い出されて、落ち着かない気分になってくる。
響夜の家に初めて泊まり、目を覚ますと隣に彼の姿はなかった。
触ったシーツの冷たさから、ベッドを出てから時間が経っていることが分かったが、代わりに真白の近くには小さな湯たんぽが置かれていた。
起き上がり耳を澄ませば、リビングから音がしてくる。
昨日よりも感じる痛みに顔をしかめながら、用意されていたふわふわのスリッパを履いて、寝室を出ていけばいい香りが真白の鼻をくすぐった。
「おはよう、真白。ちょうどよかった。そろそろ起こしに行こうと思ってたんだよ」
「……おはようございます」
「あと少しだから、顔でも洗ってきなよ。タオルは新しいの棚から出して良いからね」
勧められるまま洗面所に行き、鏡の前に立ったところで洗顔料も基礎化粧品も持ってきていないことに気がついた。
水で洗えば良いかと思って水を出そうとしたところで、足音がした。
「俺が急かしたせいで、何も持ってきてないでしょ? これ、一通り買ってきたから使ってね」
洗面台に置かれたのは、見たことのあるブランドの紙袋だった。
とてもじゃないが、一式揃えようとは思えない値段の代物だ。
言葉にならなくて紙袋を見つめていると、動いたのは響夜だった。
さっさと紙袋から物を出すと、真白の手を掴んで洗顔料を手のひらに絞り出した。
「ほら、早くしないと温かい食事が冷めるよ?」
「こ、これで顔を洗えと?」
普段使っているドラッグストアのプライベートブランド商品で顔を洗っている真白にとって、理由のわからない代物である。
問答無用で水を出されて、少し手にとって泡立て始める。
濃密な泡ができあがり、肌にすべらせるように洗い、差し出されたタオルで顔の水分を取るまではよかった。
別に節約志向ではないが、手にしたことのない高級基礎化粧品に、どれくらいの量を使えばいいのかが未知数過ぎた。
後ろの説明書を読もうと裏を向けるが、容器の色も相まって字が小さくて見えない。
もたついていると、立ち去っていなかった響夜が、小さくため息をついて容器をひったくりコットンにバシャバシャと染み込ませ、真白の肌に伸ばし始めた。
豪快な使い方に、唖然としていると、乳液も同じようにコットンに取って肌にすべらせた。
「もったいない」
満帆だった容器の中身が、見て分かるほどに減っている。
「それ持って帰ってもいいし、うちに泊まった時用でもどっちでもいいよ」
「……置いといてください。持って帰るのは落ち着かないから」
「ふはっ、なにそれ。さあ、朝食にしよう」
まさか、ここまで世話を焼かれるとは思っていなかった。
響夜の後を追って、リビングに戻ればテーブルには急須やポット、ほうれん草のおひたしや焼き魚、厚焼き玉子、納豆が並べられていて、真白が手伝えそうなことはなかった。
席につけば、お茶碗とお椀を乗せたトレーを響夜は持ってきた。
「朝食が和食か洋食か分からなかったから、昨日は洋食だったから和食にしてみたんだけど、食べられそう?」
「普段は簡単な物で済ませるし、実家でも朝食はパンだけだったから、ちょっと圧倒されてるけど……美味しそう」
「よかった。って言っても、普段は俺は食べないことのほうが多いかも。朝昼兼用って感じで、外で済ませるし」
「えっ、じゃあ大変だったんじゃない?」
「うーん、そうでもないかな。作ろうと思えば作れるくらいの腕はあるよ? ただ、一人だとわざわざ作ろうと思わないだけだからさ」
お茶碗とお椀を受け取り、トレーをテーブルの端に置く響夜を真白は真っ直ぐに見た。
以前から思うようになっていたが、荒く適当に見せているが、食べる姿勢も食べ方も綺麗で、育ちの良さが垣間見える時がある。
この部屋もそうだ。
最初は、彼にお金を出す女性の影を想像したが、全くといっていいほど女性物がない。
あるのは真白のために買い揃えたと思えるものばかりだ。
調度品は少なく、最小限のものばかりで、デザイン性より機能を追求しているように見える。
「だからさ、今ある玄米と調味料が無くなるまでは付き合ってよ」
とんでもないことを言われたような気がするが、無視して茶碗に盛られた玄米を食べた。
その言葉が、少しだけ嬉しいと思ったのは内緒だ。
自分が手にすべきではない心地よさが目の前にあるが、決して好きな人相手にこそ望んではいけないことなのだから。
「明日はここから会社に行けばいいよ。帰りは、きちんと真白のアパートに送ってあげる」
その言葉どおりに、響夜はしてくれて月イチのしんどい時間は過ぎていった。
後半には、軽いキスをするくらいはあったが、常に体を気遣ってくれた。しかし、一つ問題が起きた。
「あれ? 雪平さんってアクセサリー着けるタイプでしたっけ?」
電話を終えた同僚の指摘に、真白はぎくりと体を強張らせた。
これがまさに、起こった問題だ。
リオンという他の男からのプレゼントをつけているのも、持っているのも目を瞑るが、自分からのプレゼントをつけて欲しいという条件だった。
真白の指を触っていた響夜は、そう言ったかと思えば二日後には一つの指輪を用意してきた。
さすがに身に着けたくないデザインというものがある。
特に、真白は女性らしいデザインが苦手で、そういったデザインだったらそれを理由に断ってやろうとさえ思っていた。
なのに、響夜が贈ってくれた指輪は、一目で真白が気に入るものだった。
これまで、アクセサリーについて話したこともなく、身につけているところを見せたこともないのに、どうして好みのものが分かったのか不思議だった。
指輪は複雑な模様が彫られており、ごく小さな石が二つ埋め込まれている。
仕事場でもそこまで目立つデザインではなく、指を細く綺麗に見せてくれるデザインだ。
まだ本気の交際ではないのだから、指輪を受け取るべきではなかった。
そう思っても、指輪を嵌めた真白の手を、愛おしそうに見て撫でる響夜の様子を見れば、今更断ることはできない。
「たまにはいいかと思いまして」
「落ち着きがあっていいですね」
まるで、何年も前からその場所にあったかのように、しっくりときている。
つけているのを忘れるほどに。
「雪平先輩、この書類お願いします」
「はい。すぐにチェックするね」
高月翔は、真白のいる事業戦略部門に研修という名目で研修にきていた。
一週間毎に、別の部署に移動しているのだが、食堂で見かけるたびにファンを増やしている。
高月という苗字だけで、彼が高月デパートの御曹司であることは分かるし、広報がつくる社内報でパーティーの写真を見たことのある人も多い。
他の女性たちのような反応をしない真白がよほど珍しかったのか、事業戦略部門にきてからは真白によく声を掛けてくるのが困りものだ。
彼がいなくなった後の女性社員の視線が怖い。
それに、相変わらず香水の香りが強くて、響夜に訝しげな顔をされ困っている。
何度も避けようのないことなのだと説明しても、怪しいとか慰めてと言ってそれを口実にねちっこいセックスをされてへとへとだ。
こうなったら、他の人ともコミュニケーションを取るべきだとさり気なく言うべきか。
書類に目を通し終え、返却するついでに言おうとしたが、すぐに別の同僚に呼ばれてしまい高月翔は去っていってしまった。
(まあ、本格的に入社したら別の部署の配属になるだろうし、あと二日ほどで研修も終わるし)
うるさく言い過ぎてもなんだし、注意しても自意識過剰すぎる気がして真白はやめて、帰る準備を始めた。
鞄を取り出しスマホの画面を確認すると、響夜から迎えに来ていることを知らせるスタンプが送られてきていた。
本人の見た目からは想像できないような可愛らしいスタンプに、思わず口元が綻ぶのを感じると、隣から声が聞こえてきた。
「ほんと雪平さん、柔らかくなったね」
にっこりと微笑んだ同僚は「お疲れ様でした」と言って先に帰っていった。
響夜と出会い、ストレスが減ったことと、ある程度の愛しさを知ったからだろうか、真白は笑うことが増えた。
誰かと一緒にいる時間が長いだけで、こんなにも違うものなのかと発見の毎日だ。
それでも、もう少しで響夜が真白のためにと買った米はなくなる。
二日に一回だったお泊りも終わりだ。
休みの間にしか長い時間を過ごせなくなれば、あっという間に響夜が許してくれたお試し交際も終わってしまう。
彼が許してくれているからということを免罪符に、自分に許していた縛る時間を手放さなければならない。
ずしっと心が重くなる。
会社の外に出ると、すぐに響夜の姿が目に入った。
それだけで、心が温かくなるのだから重症だ。
「雪平さん」
急ぎ足で向かおうとした瞬間、真白は声を掛けられて振り返った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ビルから吐き出されるように人が出てくる。
目の前のガードレールに腰掛けながら、真白が出てくるのを待っている響夜は、時計に視線を走らせた。
残業がなかったとしたら、彼女は五、六分で出てくる。
まさか自分が、こうして会社まで誰かを迎えに行くようになるとは思いもしなかった。
この会社に対して、気に入らないのは変わらないが、別の感情が心を占めることもあるのかと思えば、今は亡き母親の人生も分かる気がしてくる。
響夜の母親は、一人の男を愛し、その男の訪れが無くなって亡くなった。
たかが恋愛で。
かつての響夜は、そんな風に思って母親を軽蔑した時期もあった。
だが、真白に出会って、肉欲ではない感情を知ってからは、時々自身もその感情の強さに驚くと共に、恐ろしくもなった。
落とす気で真白とのお試し交際を受け入れたが、もしも本気で彼女が受け入れてくれなかったらと思うと、息ができなくなりそうだった。
毎日、一日が終わる度に、残りの日数が減っていくことが、死刑宣告にも等しい。
(真白以外の女が相手だったら、話は簡単だっただろうな)
そんな馬鹿みたいな考えに自嘲気味に笑うと、気晴らしに一服しようとタバコを一本取り出し、唇に咥えてライターで火を点けようとしたところで、真白の声に顔を上げた。
こちらに向かってくる時に後ろから声を掛けられたのだろう、響夜に背を向ける形で誰かと話している。
何か伝え漏れがあって会社の人間と話しているのかもしれない。
そう考えてもう一度タバコに火を点けようとしたところで、一陣の風が吹いた。
「はぁ?」
響夜はライターをポケットに突っ込み、咥えていたタバコを掴むと握りつぶした。
風によって運ばれた匂いは、最近の真白に纏わりつく気に入らない香水の香りだった。
会社の人間同士の邪魔をするつもりは毛頭なかったが、この匂いだけ我慢ならない。
ガードレールから離れ、ずかずかと真白に近づき話し相手の姿を捉えたところで、響夜は青筋を立てた。
自分の存在に気がついた瞬間、男は唇の端で笑ったのだ。
「こいつに何の用だ?」
視線を相手から逸らすこと無く、後ろから真白の腹部に腕を回して自身に引き寄せた。
彼女は驚きの声を上げたが、今の響夜にそれを気にしている余裕はない。
この香水の匂いが気に入らないのも、今にすれば当然のことだと思える。
なんなら、どうして忘れていたのかと自分を殴りたいくらいだ。
「ちょ、この人は」
「やあ、兄さん。元気にしてる?」
会っていなかった七年間なんて感じさせない、腹が立つほどの笑顔を翔は浮かべた。
「お前と話すことなんてない。彼女に二度と近づくな」
「やだなぁ、研修中なんだから無理な話かな。別に兄さんの彼女に手を出そうなんて思ってないよ」
ぐっと腕に力を入れて、真白を連れて歩き出す。
そんな二人の背中に向かって、翔は「また明日ね、雪平さん」と声をかけた。
近くのコインパーキングまで無言で歩き、車に彼女を乗せて車を出した。
歩きじゃなかったことに感謝しながら、車を自宅へと走らせる。
その間、何度か真白が何かを聞きたそうにしていたが、その全てを気がついていないふりをした。
今は、どうしたって冷静に話せる状態ではない。
車の中に充満する翔の香水の匂いで、響夜は頭がおかしくなりそうだった。
駐車場に車を停めて、エレベーターに乗って部屋に向かう間も、こんな凶暴な気持ちのまま一緒にいるべきではない。
いっそのこと、真白が逃げ出してくれればいいのに、なんて身勝手なことを考えていた。
なのに、真白は息を潜めて、響夜の後をついてくる。
自分と真白だけの空間に入れば、少しは落ち着けると思っていた。
落ち着いてお茶でも飲んで、一緒に食事を作って食べれば、それで大丈夫だと思っていたのに──。
「最初に会った時に、誰かに似ているような気がしていたんですけど、あなたに似ていたんですね」
まるで代わりがいるような言い方に聞こえ、奥歯を噛み締めた。
「くそっ」
「響夜?」
真白の腕を掴み、響夜は寝室へと一直線に向かった。
その勢いのまま、戸惑う真白を乱暴にベッドへと引き倒し、後ろから体重をかけて馬乗りになる。
衝撃の反動で、服についていた香りが舞い上がり、響夜の理性を無茶苦茶にした。
「俺には真白以外に代わりになるような奴はいないのに……」
大事にしたい。無茶苦茶にしたい。
愛しくて、憎らしい。
何があっても手に入れたい。
様々な感情が一気にせめぎ合う。
(ああ……俺には、誰にも真似のできない、俺にしかできない方法で、手に入れることができるじゃないか)
ぷつんっと何かが切れた気がした。
それは、もしかしたら細い糸で繋がっていた理性だったのかもしれない。
「どうしたの?」
「そのクセー服は、さっさと脱ごうか」
「ちょっと、まっ!」
何も聞きたくない。
上着を後ろから捲りあげて動けないようにして、自分のシャツも脱ぎ捨てる。
甘い瞬間なんて一つもない。
腹部に腕を回して引き上げ、尻だけを上げる形にして、早急にズボンとショーツを引き下げ、彼女を貪り尽くせという本能のままに、大して触ってもいない蜜を零す入口に指を這わせた。
「へー、もうこんななんだ」
こんな状況なのに蜜を零す様子に、仲良さそうに話していた翔との光景が思い出されて、本能が凶暴な唸り声を上げる。
ずり下げたズボンから飛び出した屹立は、すでに先走りが滲んでいる。
「翔はタイプだった? 俺みたいに不真面目じゃないし」
「は? なに言って」
「でも、ざーんねん。真白は俺のものだから、逃さないよ」
真白が体を起こすよりも早く、柔らかな入口にいつもなら着けるはずのコンドームをせずに挿入した。
これまで膜に邪魔されていて感じなかった温かさと柔らかさに、背筋に甘い痺れが起こった。
「はっ、すげー気持ちいい」
「あっ、や……はぅ」
腰を掴んで、獣のように後ろから腰を打ち付ければ、中はぎゅっと締まり離すまいと蠢く。
感じたことない多幸感に包まれ、真白の感情を気遣う余裕もなく腰を振って何度も抽挿を繰り返す。
何度も何度も繰り返し、高まり出口を求めて暴れ狂う熱を、最奥で解き放った。
「いやっ! やめっ」
絶対に刻みつけるという想いから、最後の一滴まで注ぎ込んで奥に先端を押し付けた。
真白が弛緩して、上げていられなくなった尻が離れていくのに合わせて、響夜のモノがずるりと抜け出た。
やりきった心地で彼女の上に倒れそうになったが、押しつぶすわけにいかずどうにか腕で体を支えて、真白の頬にキスしようと顔を近づけた瞬間──。
バチンッっと頬を打たれた。
どこにそんな元気が残っているのかと思うが、上半身をひねった姿勢から繰り出されるビンタなど大した威力はないが、拒絶に心が痛んだ。
そこでようやく、響夜は正気を取り戻した。
自分が何をしてしまったのかを理解した。乱雑に服を脱がされた状態の真白は、誰かに襲われたような見た目だ。
(俺は……彼女の意思も尊重しないで)
自分勝手に抱いた。
「ごめん……ごめん。俺、なんてことを」
「病院……いえ、今は薬局でも」
真白は体を震わせながら、ぶつぶつと言いはじめた。
「真白? 謝って済むことじゃないけど」
「いまは、いまはそんなことどうでもいいから、車出して」
「え?」
「可能性だとしても、子供が出来るかもしれない。そんなの無理……」
「真白、落ち着いて」
「あなたのことは、愛しているけど……子供は無理」
気になる言葉があったが、体を震わせる真白が、一体何を怖がっているのかに気づいた響夜は、まずはそれについて安心させることにした。
「だ、大丈夫だよ、真白。ごめん、何も説明してなくて。子供はできないから大丈夫だよ」
「なに……言ってんの? さすがに、恋人もセックスも初めてだとしても、今の行為で妊娠する可能性があることは知ってるよ。それに、逃さないって……既成事実を作ろうとしたんじゃ」
「違う。俺は子供を作れないんだよ」
「え?」
「病気とかじゃなくて」
響夜は慎重に真白に伝えようと思っていたが、こんな状態の彼女には言葉を重ねるよりも、はっきりとシンプルに言ったほうがいいのかもしれない。
「俺は、淫魔なんだよ」
「はいっ?」
あまりにも突飛なことだからか、若干パニックになっていた真白の震えは止まって、怪訝そうな表情に変わった。
「だから、俺の母親が淫魔で、その血を継いでるんだよ。男の淫魔は、運命の相手との間に子供は作れないの。独占欲が強くて、自分の子供だとしても何ヶ月も相手を独占することが受け入れられなくて、子供を殺してしまうから、そう進化したらしいんだよね」
「ごめん……ちょっと冷静になりたいんだけど、まずはお風呂に入らせてくれませんか?」
「あ、うん。俺が連れて行くよ」
中途半端に絡んでいた服を取り去り、抱えあげると響夜は真白を浴室まで連れて行った。
そして、最悪なことをした罪滅ぼしに、髪から体まで全て丁寧に洗い上げた。
とにかく、拒絶されなかったことが、今の響夜には嬉しかったのだ。
今年一番どころか、これまでの人生で一番体調が良いんじゃないかというほど絶好調の真白が言えば、周りの人間は驚いた顔で止まった。
周りの音すらなくなったような錯覚すら覚える。
「どうかしましたか?」
不思議な光景に、真白がそう零せば隣で作業をしていた同僚が椅子ごと近づいてきた。
「最近の雪平さんって、すごく綺麗になりましたよね。表情も明るくなったし」
「そうですか?」
自分ではいつもと変わらない気でいただけに、同僚の言葉に真白には意外だった。
「そうですよ。髪も肌もつやつやだし、顔色もいいし。なにか生活を見直しました?」
「いえ……前から変わらず寝るのは遅いですし、食事も買ってくるものばかりですね」
「そっか、二ヶ月前くらいかな? そのくらいから日に日に綺麗になっていったような」
「二ヶ月前くらい……あっ」
「ん? なにか思い当たることでもあった?」
「あの……運動とかストレッチをするようになりました」
「ジムに通うようになったの?」
「いえ、動画サイトの家トレーニングです」
「ああ、ああいうのって意外と効果ありますよね。あたしも、なにか始めよー」
そこで、同僚のところの電話が鳴って話は終わったことに、真白は深く感謝した。
心臓はどきどきしているのだが、周りに気づかれた様子はない。
〈二ヶ月前くらい〉
それは、響夜との関係が始まったあたりだ。
セフレとの夜が、運動になるかは別だが、これまでとは違う生活といえるだろう。
そうして彼を思い出すと、一週間前の心地のよい日々が思い出されて、落ち着かない気分になってくる。
響夜の家に初めて泊まり、目を覚ますと隣に彼の姿はなかった。
触ったシーツの冷たさから、ベッドを出てから時間が経っていることが分かったが、代わりに真白の近くには小さな湯たんぽが置かれていた。
起き上がり耳を澄ませば、リビングから音がしてくる。
昨日よりも感じる痛みに顔をしかめながら、用意されていたふわふわのスリッパを履いて、寝室を出ていけばいい香りが真白の鼻をくすぐった。
「おはよう、真白。ちょうどよかった。そろそろ起こしに行こうと思ってたんだよ」
「……おはようございます」
「あと少しだから、顔でも洗ってきなよ。タオルは新しいの棚から出して良いからね」
勧められるまま洗面所に行き、鏡の前に立ったところで洗顔料も基礎化粧品も持ってきていないことに気がついた。
水で洗えば良いかと思って水を出そうとしたところで、足音がした。
「俺が急かしたせいで、何も持ってきてないでしょ? これ、一通り買ってきたから使ってね」
洗面台に置かれたのは、見たことのあるブランドの紙袋だった。
とてもじゃないが、一式揃えようとは思えない値段の代物だ。
言葉にならなくて紙袋を見つめていると、動いたのは響夜だった。
さっさと紙袋から物を出すと、真白の手を掴んで洗顔料を手のひらに絞り出した。
「ほら、早くしないと温かい食事が冷めるよ?」
「こ、これで顔を洗えと?」
普段使っているドラッグストアのプライベートブランド商品で顔を洗っている真白にとって、理由のわからない代物である。
問答無用で水を出されて、少し手にとって泡立て始める。
濃密な泡ができあがり、肌にすべらせるように洗い、差し出されたタオルで顔の水分を取るまではよかった。
別に節約志向ではないが、手にしたことのない高級基礎化粧品に、どれくらいの量を使えばいいのかが未知数過ぎた。
後ろの説明書を読もうと裏を向けるが、容器の色も相まって字が小さくて見えない。
もたついていると、立ち去っていなかった響夜が、小さくため息をついて容器をひったくりコットンにバシャバシャと染み込ませ、真白の肌に伸ばし始めた。
豪快な使い方に、唖然としていると、乳液も同じようにコットンに取って肌にすべらせた。
「もったいない」
満帆だった容器の中身が、見て分かるほどに減っている。
「それ持って帰ってもいいし、うちに泊まった時用でもどっちでもいいよ」
「……置いといてください。持って帰るのは落ち着かないから」
「ふはっ、なにそれ。さあ、朝食にしよう」
まさか、ここまで世話を焼かれるとは思っていなかった。
響夜の後を追って、リビングに戻ればテーブルには急須やポット、ほうれん草のおひたしや焼き魚、厚焼き玉子、納豆が並べられていて、真白が手伝えそうなことはなかった。
席につけば、お茶碗とお椀を乗せたトレーを響夜は持ってきた。
「朝食が和食か洋食か分からなかったから、昨日は洋食だったから和食にしてみたんだけど、食べられそう?」
「普段は簡単な物で済ませるし、実家でも朝食はパンだけだったから、ちょっと圧倒されてるけど……美味しそう」
「よかった。って言っても、普段は俺は食べないことのほうが多いかも。朝昼兼用って感じで、外で済ませるし」
「えっ、じゃあ大変だったんじゃない?」
「うーん、そうでもないかな。作ろうと思えば作れるくらいの腕はあるよ? ただ、一人だとわざわざ作ろうと思わないだけだからさ」
お茶碗とお椀を受け取り、トレーをテーブルの端に置く響夜を真白は真っ直ぐに見た。
以前から思うようになっていたが、荒く適当に見せているが、食べる姿勢も食べ方も綺麗で、育ちの良さが垣間見える時がある。
この部屋もそうだ。
最初は、彼にお金を出す女性の影を想像したが、全くといっていいほど女性物がない。
あるのは真白のために買い揃えたと思えるものばかりだ。
調度品は少なく、最小限のものばかりで、デザイン性より機能を追求しているように見える。
「だからさ、今ある玄米と調味料が無くなるまでは付き合ってよ」
とんでもないことを言われたような気がするが、無視して茶碗に盛られた玄米を食べた。
その言葉が、少しだけ嬉しいと思ったのは内緒だ。
自分が手にすべきではない心地よさが目の前にあるが、決して好きな人相手にこそ望んではいけないことなのだから。
「明日はここから会社に行けばいいよ。帰りは、きちんと真白のアパートに送ってあげる」
その言葉どおりに、響夜はしてくれて月イチのしんどい時間は過ぎていった。
後半には、軽いキスをするくらいはあったが、常に体を気遣ってくれた。しかし、一つ問題が起きた。
「あれ? 雪平さんってアクセサリー着けるタイプでしたっけ?」
電話を終えた同僚の指摘に、真白はぎくりと体を強張らせた。
これがまさに、起こった問題だ。
リオンという他の男からのプレゼントをつけているのも、持っているのも目を瞑るが、自分からのプレゼントをつけて欲しいという条件だった。
真白の指を触っていた響夜は、そう言ったかと思えば二日後には一つの指輪を用意してきた。
さすがに身に着けたくないデザインというものがある。
特に、真白は女性らしいデザインが苦手で、そういったデザインだったらそれを理由に断ってやろうとさえ思っていた。
なのに、響夜が贈ってくれた指輪は、一目で真白が気に入るものだった。
これまで、アクセサリーについて話したこともなく、身につけているところを見せたこともないのに、どうして好みのものが分かったのか不思議だった。
指輪は複雑な模様が彫られており、ごく小さな石が二つ埋め込まれている。
仕事場でもそこまで目立つデザインではなく、指を細く綺麗に見せてくれるデザインだ。
まだ本気の交際ではないのだから、指輪を受け取るべきではなかった。
そう思っても、指輪を嵌めた真白の手を、愛おしそうに見て撫でる響夜の様子を見れば、今更断ることはできない。
「たまにはいいかと思いまして」
「落ち着きがあっていいですね」
まるで、何年も前からその場所にあったかのように、しっくりときている。
つけているのを忘れるほどに。
「雪平先輩、この書類お願いします」
「はい。すぐにチェックするね」
高月翔は、真白のいる事業戦略部門に研修という名目で研修にきていた。
一週間毎に、別の部署に移動しているのだが、食堂で見かけるたびにファンを増やしている。
高月という苗字だけで、彼が高月デパートの御曹司であることは分かるし、広報がつくる社内報でパーティーの写真を見たことのある人も多い。
他の女性たちのような反応をしない真白がよほど珍しかったのか、事業戦略部門にきてからは真白によく声を掛けてくるのが困りものだ。
彼がいなくなった後の女性社員の視線が怖い。
それに、相変わらず香水の香りが強くて、響夜に訝しげな顔をされ困っている。
何度も避けようのないことなのだと説明しても、怪しいとか慰めてと言ってそれを口実にねちっこいセックスをされてへとへとだ。
こうなったら、他の人ともコミュニケーションを取るべきだとさり気なく言うべきか。
書類に目を通し終え、返却するついでに言おうとしたが、すぐに別の同僚に呼ばれてしまい高月翔は去っていってしまった。
(まあ、本格的に入社したら別の部署の配属になるだろうし、あと二日ほどで研修も終わるし)
うるさく言い過ぎてもなんだし、注意しても自意識過剰すぎる気がして真白はやめて、帰る準備を始めた。
鞄を取り出しスマホの画面を確認すると、響夜から迎えに来ていることを知らせるスタンプが送られてきていた。
本人の見た目からは想像できないような可愛らしいスタンプに、思わず口元が綻ぶのを感じると、隣から声が聞こえてきた。
「ほんと雪平さん、柔らかくなったね」
にっこりと微笑んだ同僚は「お疲れ様でした」と言って先に帰っていった。
響夜と出会い、ストレスが減ったことと、ある程度の愛しさを知ったからだろうか、真白は笑うことが増えた。
誰かと一緒にいる時間が長いだけで、こんなにも違うものなのかと発見の毎日だ。
それでも、もう少しで響夜が真白のためにと買った米はなくなる。
二日に一回だったお泊りも終わりだ。
休みの間にしか長い時間を過ごせなくなれば、あっという間に響夜が許してくれたお試し交際も終わってしまう。
彼が許してくれているからということを免罪符に、自分に許していた縛る時間を手放さなければならない。
ずしっと心が重くなる。
会社の外に出ると、すぐに響夜の姿が目に入った。
それだけで、心が温かくなるのだから重症だ。
「雪平さん」
急ぎ足で向かおうとした瞬間、真白は声を掛けられて振り返った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ビルから吐き出されるように人が出てくる。
目の前のガードレールに腰掛けながら、真白が出てくるのを待っている響夜は、時計に視線を走らせた。
残業がなかったとしたら、彼女は五、六分で出てくる。
まさか自分が、こうして会社まで誰かを迎えに行くようになるとは思いもしなかった。
この会社に対して、気に入らないのは変わらないが、別の感情が心を占めることもあるのかと思えば、今は亡き母親の人生も分かる気がしてくる。
響夜の母親は、一人の男を愛し、その男の訪れが無くなって亡くなった。
たかが恋愛で。
かつての響夜は、そんな風に思って母親を軽蔑した時期もあった。
だが、真白に出会って、肉欲ではない感情を知ってからは、時々自身もその感情の強さに驚くと共に、恐ろしくもなった。
落とす気で真白とのお試し交際を受け入れたが、もしも本気で彼女が受け入れてくれなかったらと思うと、息ができなくなりそうだった。
毎日、一日が終わる度に、残りの日数が減っていくことが、死刑宣告にも等しい。
(真白以外の女が相手だったら、話は簡単だっただろうな)
そんな馬鹿みたいな考えに自嘲気味に笑うと、気晴らしに一服しようとタバコを一本取り出し、唇に咥えてライターで火を点けようとしたところで、真白の声に顔を上げた。
こちらに向かってくる時に後ろから声を掛けられたのだろう、響夜に背を向ける形で誰かと話している。
何か伝え漏れがあって会社の人間と話しているのかもしれない。
そう考えてもう一度タバコに火を点けようとしたところで、一陣の風が吹いた。
「はぁ?」
響夜はライターをポケットに突っ込み、咥えていたタバコを掴むと握りつぶした。
風によって運ばれた匂いは、最近の真白に纏わりつく気に入らない香水の香りだった。
会社の人間同士の邪魔をするつもりは毛頭なかったが、この匂いだけ我慢ならない。
ガードレールから離れ、ずかずかと真白に近づき話し相手の姿を捉えたところで、響夜は青筋を立てた。
自分の存在に気がついた瞬間、男は唇の端で笑ったのだ。
「こいつに何の用だ?」
視線を相手から逸らすこと無く、後ろから真白の腹部に腕を回して自身に引き寄せた。
彼女は驚きの声を上げたが、今の響夜にそれを気にしている余裕はない。
この香水の匂いが気に入らないのも、今にすれば当然のことだと思える。
なんなら、どうして忘れていたのかと自分を殴りたいくらいだ。
「ちょ、この人は」
「やあ、兄さん。元気にしてる?」
会っていなかった七年間なんて感じさせない、腹が立つほどの笑顔を翔は浮かべた。
「お前と話すことなんてない。彼女に二度と近づくな」
「やだなぁ、研修中なんだから無理な話かな。別に兄さんの彼女に手を出そうなんて思ってないよ」
ぐっと腕に力を入れて、真白を連れて歩き出す。
そんな二人の背中に向かって、翔は「また明日ね、雪平さん」と声をかけた。
近くのコインパーキングまで無言で歩き、車に彼女を乗せて車を出した。
歩きじゃなかったことに感謝しながら、車を自宅へと走らせる。
その間、何度か真白が何かを聞きたそうにしていたが、その全てを気がついていないふりをした。
今は、どうしたって冷静に話せる状態ではない。
車の中に充満する翔の香水の匂いで、響夜は頭がおかしくなりそうだった。
駐車場に車を停めて、エレベーターに乗って部屋に向かう間も、こんな凶暴な気持ちのまま一緒にいるべきではない。
いっそのこと、真白が逃げ出してくれればいいのに、なんて身勝手なことを考えていた。
なのに、真白は息を潜めて、響夜の後をついてくる。
自分と真白だけの空間に入れば、少しは落ち着けると思っていた。
落ち着いてお茶でも飲んで、一緒に食事を作って食べれば、それで大丈夫だと思っていたのに──。
「最初に会った時に、誰かに似ているような気がしていたんですけど、あなたに似ていたんですね」
まるで代わりがいるような言い方に聞こえ、奥歯を噛み締めた。
「くそっ」
「響夜?」
真白の腕を掴み、響夜は寝室へと一直線に向かった。
その勢いのまま、戸惑う真白を乱暴にベッドへと引き倒し、後ろから体重をかけて馬乗りになる。
衝撃の反動で、服についていた香りが舞い上がり、響夜の理性を無茶苦茶にした。
「俺には真白以外に代わりになるような奴はいないのに……」
大事にしたい。無茶苦茶にしたい。
愛しくて、憎らしい。
何があっても手に入れたい。
様々な感情が一気にせめぎ合う。
(ああ……俺には、誰にも真似のできない、俺にしかできない方法で、手に入れることができるじゃないか)
ぷつんっと何かが切れた気がした。
それは、もしかしたら細い糸で繋がっていた理性だったのかもしれない。
「どうしたの?」
「そのクセー服は、さっさと脱ごうか」
「ちょっと、まっ!」
何も聞きたくない。
上着を後ろから捲りあげて動けないようにして、自分のシャツも脱ぎ捨てる。
甘い瞬間なんて一つもない。
腹部に腕を回して引き上げ、尻だけを上げる形にして、早急にズボンとショーツを引き下げ、彼女を貪り尽くせという本能のままに、大して触ってもいない蜜を零す入口に指を這わせた。
「へー、もうこんななんだ」
こんな状況なのに蜜を零す様子に、仲良さそうに話していた翔との光景が思い出されて、本能が凶暴な唸り声を上げる。
ずり下げたズボンから飛び出した屹立は、すでに先走りが滲んでいる。
「翔はタイプだった? 俺みたいに不真面目じゃないし」
「は? なに言って」
「でも、ざーんねん。真白は俺のものだから、逃さないよ」
真白が体を起こすよりも早く、柔らかな入口にいつもなら着けるはずのコンドームをせずに挿入した。
これまで膜に邪魔されていて感じなかった温かさと柔らかさに、背筋に甘い痺れが起こった。
「はっ、すげー気持ちいい」
「あっ、や……はぅ」
腰を掴んで、獣のように後ろから腰を打ち付ければ、中はぎゅっと締まり離すまいと蠢く。
感じたことない多幸感に包まれ、真白の感情を気遣う余裕もなく腰を振って何度も抽挿を繰り返す。
何度も何度も繰り返し、高まり出口を求めて暴れ狂う熱を、最奥で解き放った。
「いやっ! やめっ」
絶対に刻みつけるという想いから、最後の一滴まで注ぎ込んで奥に先端を押し付けた。
真白が弛緩して、上げていられなくなった尻が離れていくのに合わせて、響夜のモノがずるりと抜け出た。
やりきった心地で彼女の上に倒れそうになったが、押しつぶすわけにいかずどうにか腕で体を支えて、真白の頬にキスしようと顔を近づけた瞬間──。
バチンッっと頬を打たれた。
どこにそんな元気が残っているのかと思うが、上半身をひねった姿勢から繰り出されるビンタなど大した威力はないが、拒絶に心が痛んだ。
そこでようやく、響夜は正気を取り戻した。
自分が何をしてしまったのかを理解した。乱雑に服を脱がされた状態の真白は、誰かに襲われたような見た目だ。
(俺は……彼女の意思も尊重しないで)
自分勝手に抱いた。
「ごめん……ごめん。俺、なんてことを」
「病院……いえ、今は薬局でも」
真白は体を震わせながら、ぶつぶつと言いはじめた。
「真白? 謝って済むことじゃないけど」
「いまは、いまはそんなことどうでもいいから、車出して」
「え?」
「可能性だとしても、子供が出来るかもしれない。そんなの無理……」
「真白、落ち着いて」
「あなたのことは、愛しているけど……子供は無理」
気になる言葉があったが、体を震わせる真白が、一体何を怖がっているのかに気づいた響夜は、まずはそれについて安心させることにした。
「だ、大丈夫だよ、真白。ごめん、何も説明してなくて。子供はできないから大丈夫だよ」
「なに……言ってんの? さすがに、恋人もセックスも初めてだとしても、今の行為で妊娠する可能性があることは知ってるよ。それに、逃さないって……既成事実を作ろうとしたんじゃ」
「違う。俺は子供を作れないんだよ」
「え?」
「病気とかじゃなくて」
響夜は慎重に真白に伝えようと思っていたが、こんな状態の彼女には言葉を重ねるよりも、はっきりとシンプルに言ったほうがいいのかもしれない。
「俺は、淫魔なんだよ」
「はいっ?」
あまりにも突飛なことだからか、若干パニックになっていた真白の震えは止まって、怪訝そうな表情に変わった。
「だから、俺の母親が淫魔で、その血を継いでるんだよ。男の淫魔は、運命の相手との間に子供は作れないの。独占欲が強くて、自分の子供だとしても何ヶ月も相手を独占することが受け入れられなくて、子供を殺してしまうから、そう進化したらしいんだよね」
「ごめん……ちょっと冷静になりたいんだけど、まずはお風呂に入らせてくれませんか?」
「あ、うん。俺が連れて行くよ」
中途半端に絡んでいた服を取り去り、抱えあげると響夜は真白を浴室まで連れて行った。
そして、最悪なことをした罪滅ぼしに、髪から体まで全て丁寧に洗い上げた。
とにかく、拒絶されなかったことが、今の響夜には嬉しかったのだ。
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