Leaf Memories 〜想いの樹木〜

本棚に住む猫(アメジストの猫又)

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消えた世界、消えかけた世界の葉

有限の灮

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死にたくはなかったんだ。
生きたくはなかったんだ。

 私の心はずっとずっと前に、気持ちが破裂して言葉が話せなくなったんだ。


綺麗だったんだ。
哀しかったんだ。
愛しかったんだ。
でも、汚かったんだ。

 私の心はずっとずっと汚い色に染っていて、自分が異物のように消えてしまえたらと思ったんだ。


夜が好きなんだ。
夜は寂しいんだ。
夜は嫌いなんだ。
でも、朝も昼も夕方も苦手なんだ。

 私は目を開けるのが思っていたよりも、ずっとずっと怖くて行き止まりへと進んでいたんだ。


街は綺麗なんだ。
空気は澱んでるんだ。
熈るひかる灯りは美しいんだ。
人が多くて息苦しくて怖いんだ。

 私は歩くことが、ずっとずっと前から出来なくなったんだ。


川は澄んでいるんだ。
流されると死んでしまうんだ。
川は動物が沢山見れるんだ。

 私は、もうすぐ息が出来なくなるんだ。


家は安心するんだ。
すごく辛いんだ。
心地良いんだ。

 私は、もうすぐ迷惑をかけてしまうんだ。



 見えるんだ。もうすぐそこに行くって事を。
 分かるんだ。もうすぐここは悲しみに満ち溢れるのを。
 言ったんだ。もうずっと前からあの人と話して決めた事。
 聞こえるんだ。もうすぐ私はあの人に狩って貰うことを。
 伝えたいんだ。皆と、最期にありがとうを言いたいことを。



 やっぱり、私の最期は延期にならないかと、あの人に言った。あの人は、優しく「その言葉に頷くことは出来ない」と言った。


もう少し、歩きたかった。
もう少し、周りを見て楽しみたかった。
もう少し、お洒落をしてみたかった。
もう少し、皆と沢山話をして沢山笑いたかった。


 そう伝えても、あの人は私の頭を撫でてくれるだけだった。その手は暖かみも冷たさも何も感じないけど、私はすごく安心してすごく落ち着く。


 久しく何も発していない声で喋ろうとしても、何も言えなかった。皆の代表で、1人誰かが私に近づいて耳をすませる。
 端的に、そして分かりやすく、何を伝えればいいのか分からなかったけど、その言葉はひとりでに声が出る。
 その言葉を聞いて、皆は沢山泣いてくれた。よくある言葉なのにな。なんて考えていた。 
 

 あの人は、昔の私に言った言葉をもう一度言ったんだ。「この一生に後悔はありませんか?」と。
 私は何故か、スッキリした気持ちになった。次の言葉は、もう分かりきっていた。

《私の一生は、何も悔いはないよ。
 でも、心残りはあるから。優しく丁重に狩ってよね。》

 最期に何年も出てこなかったいつもの私が出てきて。
 次の瞬間、私の視界は何も見えなくなった。



 皆の声と何故か、優しくて暖かくてフワフワするような…気持ち良いような安心するような感覚がした。



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