Leaf Memories 〜想いの樹木〜

本棚に住む猫(アメジストの猫又)

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消えかけた光の葉

忘れる君と君の中だけ死ぬ僕【上】

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 僕はきっといつか、梅乃うめのの中で死ぬんだろう。

 なんて物騒な事を言ってるのは、その梅乃という子の紛れもない恋人の僕そのものの頭。
 僕のその言葉は梅乃の病気を聞いた日、急な不安と恐怖、計り知れない胸のざわつきが取れなくて…、それと同時に、冷静な僕が居て梅乃を抱きしめて背中をさすった。

 病名は、記憶障害。今分かっているのは、長期記憶障害ちょうききおくしょうがいといって、認知症とかのような一日に何度も忘れたりする訳じゃなく、数分から数ヶ月や年単位での、遠くも近くて、近くも遠い記憶を忘れたりするみたいらしい。
 なんだろう…。名前や顔を忘れられるとは言われなかったけど、胸がザワザワして仕方ない。

 僕に出来ることは何も無いんだと、打ちひしがれてる所に、梅乃は見かねてやってきた。

「絶望の真っ只中の、そんなしょうくんに提案がありま~す♪」
 ニコニコと僕の隣に座ってノートを見せる。

「これ、な~んだっ?」
「え、いや…ノート…」
「ただのノートでは、ありませ~ん♪」
 いつもの梅乃がここに居るだと、安心感よりもいつかそれが消えてしまうんじゃないかと感じてしまう僕は、梅乃の目を見ることが出来なくて目を少しそらす。

「あっ!何目を逸らしてるの~?
 もぉ、分かったよ~
 これは、今から私が付ける日記帳となります!」
「に、日記…」
「そう!日記です!」
「えっと…、それがどうしたの?」
「…も~!なんでそう察しがいつも悪いんだよ~!
 ばか!
 これを意味するのは、私が君。翔くんとの日常を振り替えれるように付けるノートです!」
「え、えっと…うん。」
「はぁ…もー!
 だから…、はぁ、分かったよ。
 日記を付けるって言いたかっただけ!」
 いつもの勢い良く突っ走って話す梅乃の話は、いつも合いの手しか入れられないから困る所だ。
 つまり記憶障害になったから、僕達の今日何があったかとかを書いて、忘れてしまったり振り返ったりしたい時には見るって事かな。

「あ!一応言うけど、無闇に私の日記を覗こうとか考えようものなら!
 消し炭にしてやるからっ!」
「え、いや…そんな事思わないよっ」
 これは、梅乃なりの警告と怒り方だ。いつも丁度いい怒り方が分からなくて、迷走してる所が可愛い所なんだ。いつもと変わりない梅乃で良かった。



 僕は梅乃のを応用するかのように、ブログを書いてみることにした。
 ブログのキャッチフレーズとかは、【雪のように溶ける貴女との日々】……なんか、ダサい…かな。
 ま、まぁいいや。と搭載する。筆者の名前…みたいなやつは、【梅にとまる鳥】なんてどうだろう。……うん。僕にはセンスなんてものはないんだと、改めて痛感する。
 プロフィールは、シンプルかつ情報が入りやすいように…
【記憶障害を持つ恋人との日々を書いたものです。
 もし、これで勇気や、僕達のような境遇の人がいて、共感してもらえるなら嬉しいです。】
 うん。な、なんとなく出来たと思う。


 初めた当初、こういうSNSで自分の事を書く時は、すごく怖かった。でも、今ではやっと慣れて、日記をスムーズに書けている。
 でも、文面は全然変わらず、堅苦しく書いてしまっている。

━━━━━

6月18日
 今日はすごく晴れていて、彼女と散歩をしました!
 最近は病状が悪化してるのか、忘れる事が多くなっていたり、虚ろな目をたまにしています(汗)
 彼女は病気が発覚してからずっと書いている日記を欠かさず持ち歩いていて、太陽に照らされながら僕の隣で笑いかけてくれています♪

~~~~~

 この日がずっと続けばいいのにと、僕はいつも思ってしまうけれど、これからまだまだ悪化したりする可能性もあるので、これからも気を引き締めないと…と感じています(汗)

 今日はこのくらいで終わろうと思います!
 夜にまた投稿するかもしれないですけどね(笑)


━━━━━

 散歩で見つけた花や、木、あと梅乃が勝手に撮った写真も載せておく。
 反響はないけど、少し見てくれる人は増えてきてる気がする。
 少しは需要があるんだなと、感心しながら梅乃がいつの間にかご飯も食べずに寝てしまっているのを見て、これはまた夕飯は無しのコースだな。と、最近は梅乃を抱っこするのに慣れて、筋肉が付いてきてるため、軽々と梅乃を持ち上げてベッドに寝かせる。



 僕は、少し甘く見ていたのかもしれない。
 梅乃の様子が最近可笑しくなってる感じは少ししていたんだ。でも、いきなりで、それは紛れもなく、僕の死が近い事を意味していた。

「…どこ、ここ。
 っ?!だ、誰?!
 ねぇ!家に帰してっ!
 貴方なんか、知らないっ!しょう……く、ん…?
 …っ?!」
「い、いいんだよ。
 大丈夫。梅乃、飲み物飲も?ほら、泣かないで」
 大粒の涙を流しながら、僕の服を握って涙で濡らしていく梅乃を僕は初めて見たように思える。

「わ、私…私が、そんな…
 ご、ごめんなさい…。
 本当は、この病気、人の顔も…っ名前も…っ忘れちゃうっんだ…」
「うん、なんとなく知ってたよ」
「わ、私、翔くんの事ぉ…っ忘れたくない…っ」
「うん。言ってたもんね。
 どこかの偉い人が、人は肉体が死ぬ事と、人から忘れられて死ぬ事。2回死ぬんだって、梅乃が昔言ってたの、僕覚えてる。」
「わ、私…翔くんのこと、殺したくないっ…」
 しゃくりをあげながら僕に懇願するように、悲願して泣く梅乃をあやす様にゆっくり、優しい声で話す。
 僕の不安と恐怖も泣きたい気持ちも全部伝わらないように、何度も何度も「大丈夫」と梅乃に言う。



 そして、僕の予感はあらぬ方向で達成してしまったんだ。
 その日は一日綺麗な空模様だった。朝、いつもよりも早く起きた梅乃は、改善されてきたはずの記憶が、雪が急激に溶けるように消えてしまったんだ。
 僕の顔と名前までなら、良かったんだ。僕が泣く事は無かった。梅乃は体を起こしてボーッとしてるのか分からない状態で、暴れること無く、困惑してるような…それとも、ここが安心する場所なのを感じているからなのか、僕には分からない。
 鏡に映る自分自身の姿を見つめて、ただ普通に。ただの疑問として言っているかのように一言呟いた。





「だれ?」


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