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掴めそうで掴めない葉
虚ろな瞳は奇跡と孤毒を創り出す
しおりを挟む僕は、妹の背を追っていた。
消え入りそうな、その背中が触れていて触れていなかったから。その背中は、孤独の冷たい風に煽られ過ぎていたから、冷えきっているのに僕は何も出来ないでいる。
妹は、幾つもの奇跡を創り出して心の底から褒められ、讃えられているのにも関わらず、その瞳は何も映さないまま。
無気力で負い目を感じるような目をしてニコリともしないその顔が僕は嫌で仕方ない。
僕は妹の後を追った。その瞳が光るところを1度でも見たいから。妹はアトリエへ行っても、顔は変わらないまま。
ただ、その奇跡を創り続けるばかりで、その横顔は少しも笑ってなくて、真剣な顔で顔をしかめながら創る。
「なぁ、ミカ。絵を描く時くらいは、楽しそうにしたらどうなんだ?」
居てもたってもいられず、奇跡を幾つも作り出してる僕よりも優れた妹の姿に声をかけてしまった。驚いたのか、いつもの半目のような目が少し開かれて、僕を見る。
「お兄様。これは、ただの絵を描くことじゃないんです。
これは、仕事なんです。だから、真剣じゃないといけないんです。だから…」
「違うだろ!お前の仕事は、そんなんじゃないっ!
まだ子供だ!
誰に賞賛されたって、誰かに褒められたって、讃えられたって、ミカはミカの好きな物を描けばいいんだ!
母様達の収入源になってるからって、お前が…ミカが重荷を背負わなくていいんだよ!」
腹が立った。それだけの事だった。
僕の思っている事を言った。伝えた。でも、妹を傷つけてしまう事を分からずに思った事を全て怒鳴るように言った。
気づいた時は、妹は声を殺して涙を流していた。
「ごめん、ミカ…。
違うんだ。ほんとは…」
「ミカニエル…っ?!
ルニエル!!お前っ!
ミカニエルに何をしたんだっ!!」
父様の罵詈雑言を浴びせられながら、僕は妹を盗み見た。僕を見つめながら、なにか言おうとしていた。そんな妹に母様は、アトリエから無理やり出した。
深夜、僕はまだ寝れないでいた。妹の泣いていた事、僕が悪いのは分かってる。
でも、本当に思ったんだ。縛られている様にしか見えなくて…そんな妹を解放したかった。
孤独を味わっているその背中を暖めたかった。それだけなんだ。たった2人だけの兄妹なんだ。
だから、力になりたかっただけなんだ。そんな事をグルグルと言い訳をしていると、ドアを3度ノックして、手紙がドアの隙間から入れられた。
手紙はおそらく妹だろう。読む前に、ドア越しに言う。
「ミカ、ごめんな。
僕は、ミカが好きなように絵を描いて貰いたかったんだ。
ただそれだけで…」
「……いいの。お兄様、おやすみなさい。」
「うん。おやすみ。」
何故か、少しスッキリした声をしていた。荷が降りた様なそんな声だ。泣いたからスッキリしたのかもしれない。そういう面を見れば、少しは兄らしくやれたのかな?
〖 お兄様へ
今日のお昼はごめんなさい。また、お兄様ばかり傷つけてしまって、申し訳なく思ってます。
本当は、その言葉がとても体を貫くように鋭く優しい温かみを感じて、泣いてしまったんです。
ずっと、ずっと孤独に感じていたんです。
ずっとずっと、弱い所を見せられなくて、泣きたくても、笑いたくても、怒りたくても、全部抑えてしまうんです。
それでも、お兄様は分かってたみたいですね。
私はお兄様の才能がとても素晴らしい事を知っています。
私なんかと比べても、種類が違うのに私ばかり見られてしまって、お兄様は作品を創るのを辞めてしまった。
私はそれがとても、辛くて、悲しくて、ずっと堪えていたんです。
お兄様。今日の夜、私は飛び立とうと思っています。お兄様の事だから、止めないかもしれないですけれど、止めないでください。
やっと、開放されるんです。
私はお兄様がまた、作品を創ることを心より待っています。
お兄様、これまでありがとう。 ミカニエル〗
深夜、この邸はいつになく大騒ぎだった。
泣き喚く母様と、怒鳴りつける父様の声が鳴り響いて、僕はベッドにくるまる。
「頑張れよ、ミカ。」
と、小さく呟いて眠りに落ちた。
ミカは、いつまで経っても邸に顔を出さなかった。僕の事を思ってなのかは分からなけれど。
あれから、母様も父様も最初は嘆いてた。それでも、次は僕に目をつけてミカと同じ様な思いをしているよ。
ミカが見ていた景色は、こんなにつまらないんだね。
ミカ、お前は消えたんだろ?
ミカニエルという名前を捨てたのか、身体も捨てたのか、それとも、奇跡を創り出しすぎて寿命が無くなったのか、それとも自分で命を絶ったのか…それでも、僕は追わないよ。
ミカ?死亡届が来た時、ビックリしたんだからな?遺体が分からないけれど、死んだと言われた時はそこまでして消えたかったのかと思ったよ。
でも、ミカを探そうだなんて思わないよ。死に場所だって何となく分かる。
何で死んだのかも何となく分かるよ。それでも、探さない。
ミカが望んでないのが分かるから。
ミカ、それは何故か分かるかい?
だって、僕はお前のたった1人の兄様だからな。
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