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春風に揺られる若葉
奥ゆかしき純情乙女
しおりを挟む『貴方を見続けてたいの』
スマホを取り出すと、私は顎に手を置いてポーズをとる。貴方と一緒に撮りたくて、画角に全部入るように試行錯誤しながら1枚撮った。
貴方の顔が少しブレてしまった気がするけど、気にしないで少しクスリと笑った。
綺麗に整えた制服にヤスリで削った爪を見ると、私もそれに習っていつの日か同じように身なりを綺麗に整えて爪も健康的にヤスリで削る。
ふとした貴方の癖を少し真似てみた時、顔がにやけてしまって、ほっぺがチークで濃くなってるように見えるほど赤くなってしまった事はよく覚えてる。
貴方の眼鏡が好きで、私も眼鏡を買ってみた。
でも、私は健康的な目だから、必要ないけど…伊達メガネならいいかなと思って買ってみた。
黒いフチの丸っぽい眼鏡。
貴方とおそろいが嬉しくて…、でも私には似合わなかったからそっと机の引き出しに入れた。
でもでも、その伊達メガネは初めて買った記念の物だから捨てたりなんかしない。貴方と同じ眼鏡を持ってるということだけで価値のある眼鏡だから。だから、私は絶対に捨てたりなんかしない。
その代わりに、薄い金縁の伊達メガネを買ってみた。
これは、試着して悩みながら買ったもの。少しでも貴方の要素が欲しくて、丸い眼鏡にしたのは少し誇らしく思ってる。
このことを知って貴方は嫌がるかもしれないけど、それでもいいと思ったの。
だって、恋する乙女は秘密だって隠し通せるんだから。
隠せば皆この事を知らないでいられるでしょう?
だから、これでいいんだ。
いつも通う塾の帰り道、私は後ろから追いかける。
でも、近づくことは恥ずかしくていつもためらってしまう。
貴方は友達が少ないのか、いつも塾の帰りは1人だ。
私は他の友達がいるから話しかけるのも話しかけにくくて、いつも歯がゆい気持ちになってしまう。
電車に揺られて帰る時、私は決まって貴方の斜め後ろにいる。
貴方に気付いて欲しい訳じゃなくて、ただ貴方を見ているだけで幸せだから。
私なんかが貴方と話せるなんておこがましい事出来るわけない。
今日は三つ編みが上手くできて可愛い気がするのに、貴方に褒められもしないのは分かってるけど…でも、褒められるのを期待してしまう私がいる。
叶わないからこそ、想像と妄想で少しニヤニヤする。
貴方に「可愛いね」「どうしたの?」なんて言われるものなら私は舞い上がってしまうほどドキドキして敵わないかもしれない。元々敵わない人だと分かってるけど、でも、これ以上ないほど叶わない気がする。
いつもの駅のホーム。
朝は決まってこの時間。
貴方の斜め後ろに立つと、もう習慣化してしまった貴方に声をかける勇気を貯める時間。
でも、いつもその勇気が出なくてスマホを見てる振りをしながら写真機能で貴方の横顔を見つめる。長く見つめるのは不審になるからすぐに向きを変えるけど、その少しの間見つめれる貴方の顔を脳裏に焼き付けるのは容易いこと。
今日もしっかり素敵でカッコイイ貴方で、胸がときめいた気がする。
思い切って音が出ないようにしながら写真を撮る。
いつも貴方の横顔しか撮れないけど、それでもいいと思えた。
こんなに貴方の横顔しか撮れないのに、全部同じ顔じゃない。
少し半目でも、少し顔がブレてても、あくびをしかけてる所でも、寒そうな顔をしてても、全部全部貴方の顔だから貴方の全部が知りたくなっちゃうの。
こんな私はどうかしてる。
でも、それでも、こんなに好きなんだ。
迷惑なことをしないようにするよ。
だから、貴方と同じ空気が吸えて、同じ空間にいられるだけで、貴方と少し近くに寄れるだけで、それだけで幸せなの。
貴方のことをもっともっと知りたくなっちゃうけど、でも貴方の迷惑になると思うからそんな欲、出さないように気をつけてるんだよ?
許してくれないかな?
こんな私でごめんね。
長いスカートが舞う暑い夏になって、貴方は夏服になった。
貴方の首に光る汗が流れていくところを見て見惚れてしまった。貴方は長ズボンだから少し暑そうだなと思ったけれど、何か冷たいものを渡す勇気が出なくてまごまごする。
貴方と2人っきりになった。
貴方の匂いが強く香って、大きく吸い込まないように浅く息をする。
図書室で勉強をするだけだったのに、貴方と2人っきりになるなんて思ってなかったから、今になって自分の身なりが大丈夫か気になってしまった。
自慢の長い髪はちゃんと可愛く三つ編みになってるか、前髪は乱れなんて全くなくちゃんと整っているか、制服は乱れてないか…そんな事を考えながらの勉強はとても頭には入らなくて焦りだけが募っていく。
都合良く貴方は私の足元に消しゴムを落とすと、私は固まる。
本当はすぐに拾ってあげたかったのに、貴方の手に触れてしまうのが怖くて少しの間か一瞬なのか分からないけど固まった。
貴方は「すみません」と、謝罪をすると私の足元に手を伸ばす。
私は小さく頷くと、意を決して消しゴムを拾う。拾った時、貴方が使っている物に初めて触れたことに気がついて、顔が熱くなる。
クーラーがついてるのに、こんなに暑く感じるのはきっと貴方のせいだ。
私は少しぎこちなく貴方の手に触れないように渡すと、勉強に戻る。貴方の顔を真正面から見られるチャンスだったのに、私は怖くて見つめられなかった。
暑い夏が終わって短い秋に入った。
貴方は相変わらず夏服で過ごしてる。
私も相変わらず貴方の仕草を気づかれないように見つめながら、長いスカートにシワが付かないように座ると、友達と他愛のない会話に専念する。
貴方の顔はいつものように正面が見えなくて…それでもこんなに好きな気持ちが変わらないのもびっくりするくらい続いてる。
貴方の仕草を真似ていた私は、自然とその真似ることが癖になってしまっていて、少し恥ずかしくて1人で照れてしまう。
いつものように貴方のことを見つめる。
誰にも気づかれないように見つめて、一緒に写真を撮って、動画も撮ると私は顔が緩んでニヤケてしまう。
「好き」だなんて言えない。
「好き」なんて言ってしまえば、こんな私の存在はその瞬間いなくならないといけないから。
貴方と結ばれるなんてかないっこない。
だから、せめて貴方を見つめていたい。
貴方に「好き」と言えば、その見つめる行為だって許されないから。私は貴方を見つめるだけで、そう、見つめるだけで幸せなの。
でも、欲を言えば、貴方のその指先に触れてしまいたい。
緩く巻いた触覚が、今日は絶好調だ。
だから、できれば貴方に私を見つめて欲しい。
欲を言ってしまえば、その欲は肥大してしまうから言っちゃダメだし思っちゃいけない。
私は口に出しちゃいけないから。
貴方は私の中では全てで、支えるのもおこがましい。そんな存在だ。
だから、貴方を見つめるだけは許して欲しいんだ。
貴方のことをもっと知りたくて、つい貴方の降りる駅に降りてしまった。
「貴方はどんな家に住んでるんだろう。」そんな気持ちを抱えながら写真と動画を観ながら電車に揺られていたら気づけば貴方の後を追っていた。
貴方は少し顔が綻んでるのを確認できて、そんなに家に帰るのが嬉しく思える可愛い人なんだと思ってしまった。
きっと貴方のどんな所を見ても、好きな気持ちは変わらないとどこか自覚してしまっている自分がいる。
貴方の後を追っていると、私よりも可愛い女の子が角で待っていて、貴方は少し足早に女の子の元へ向かうと、楽しそうに笑いながら話してるが確認できた。
私は電柱に隠れて眺めることしか出来なかった。
私よりも可愛い女の子。
そんな子が貴方の近くにいて、指先だって少し思えば触れられる距離にいる。
そんなのを見せられて私はどんな顔をしたらいいのか分からなかった。
きっと、すごく怖い顔をしながら涙が出てたと思う。
貴方の後を追うのがこんなにも辛いことはなかった。地獄を味わってる気分になった。
貴方の笑い声が微かに聞こえて、こんなに楽しそうに笑う声は初めて聞いた。
それでも貴方の後を追うのはやめられなかった。
今の貴方はとても幸せそうな顔をしていて、後ろからでも幸せなのが伝わるから。少しでも、そんな貴方を私よりも可愛いその子に見られる事が悲しいけど、貴方を見つめていたいと思ってしまったから。
貴方の傍に、どんな人でも貴方が決めた人ならいいと思えた。
だけど、私がその人になれるなんて思ってない。
だけど…だけど、それでも私は貴方が好きで、好きで、どうしようもなく好きだと自覚してる。自覚してしまった。
結局貴方とその女の子のことを引き裂くことも出来ず、どう帰ったのかあまり覚えてないけど、それでも貴方が幸せなら私はいいのだと言い聞かせた。
友達にさえなれない私だけど、貴方が幸せな顔をするところだけは何度でも感じていたいの。
だから…、ごめんなさい。
これからも許して欲しい。
私はそれでも、
貴方を見続けてたいの。
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