Leaf Memories 〜想いの樹木〜

本棚に住む猫(アメジストの猫又)

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幸せを願う葉

あなたが当然のように照らすように、私はあなたの幸せを願うよ

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ひかる
 私ね!
 照を幸せにするね!」

 夜、街灯と木々に掛かるイルミネーションの光が満ち溢れるこの道に私たち2人以外は誰もいない。
 私が先に前へ突き進むから引っ張りながらいつものように話しかけた。
 でも、この言葉は私なりのケジメだ。
 「照を幸せにする」軽く言ったわけじゃない。覚悟を持って言ったんだ。

「きゅ、急にどうしたの?
 まるで…」
「そう、プロポーズ!」
「っ?!」

 照の声をかき消すようにハッキリと伝える。
 照は私の手を離す。

「どうしたの?」
「いや、急に言われても…」
「嫌…だった?」
「そ、そんなんじゃ…」

 渋るように頬をかく照を見ると、なぜか不安になった。
 (今じゃなかったのかな)と、心の中で思いながら照の顔を見上げる。

「…ごめん
 今日は帰るね」
「え…」

 足早に去っていく照の背中を見つめると、街灯たちの光や車のライトでぼやけていく。
 自然と照と手を繋いでいた手を眺める。
 私より少し冷たい照の手は、いつか言った「手が冷たい人は心が温かいからだよ」というのを思い出した。
 自信のない照を励ますのはいつも私だ。
 ギュッと照と手を繋いでいた手を握ると胸に近づけて背中を丸める。

(嫌だったのだろうか。)
(いや、そんな事ないはず)

 そんな事を頭で言い合いながら繋いでた手を握りながら反対の手で包んで、悪い方向へと思考が回らないよう振り切るように駆け足で家へ向かう。
 息が荒くなる。
 それが気にならないほど今は照の事を考えてしまう。




「ねぇ、この間のこと忘れていいよ」

 数日経って会う約束をして会った瞬間私はそう伝えた。
 目を丸くした照の目が私を映す。
 今、ちゃんと笑えてるのだろうか。
 照の小さな黒目には私の表情までは分からない。

「う、うん…」
「あはは、ごめんね
 あれは言いたくなっただけだから!」

 本当の事だ。だけど、少し嘘をついてるような気がする。言いたくなったからだけど、ずっと考えた末に言った言葉だったから。

「少し、考えてもいい?」
「え?」
「嬉しかったんだ
 だから」
「え…っ
 うん!
 待ってる
 ずっと待ってる!」

 心臓が飛び出ると思った。
 困り眉で少し照れた笑顔で言う照の顔は、これから一生私は忘れないと思う。
 胸が苦しかった。
 悪い意味じゃなくて、幸せすぎて胸が苦しいほど嬉しいんだ。
 私のこの気持ちは多分照には伝わらないかもしれない。
 だけど、それでいい。
 それが照だから。


「もう時間だね。
 今日はありがとう
 またね。」
「うん!
 ねぇ」
「うん?」
「…愛してる
 またね!」

 照を急に抱きしめる。
 驚いた顔をしてるのが見なくても分かる。
 本当はずっとこうして抱きしめていたい。
 「冷えた照の体を私の体の温かさで温めて、2人で同じ体温に溶け合っていたい。」なんて言ったら変だよね。

 (照の体温を確かめるだけで私は幸せだよ)そんな事を思いながら離れると手を振って家へ向かう。
 今度は私が先に帰っちゃった。
 でも、もっとそばにいたらもっと求めてしまいそうで怖かったから。
 だから、いいんだ。なんて言い聞かせながら帰る夜道は本当に幸せだった。




「ごめん、暫く会えないかもしれない」
「え…?」

 突然のことだった。
 私のプロポーズから数ヶ月経った頃、突然の話だった。
 私の手を照は握る。

「暫く会えないし、寂しい思いをさせてしまうと思う。
 だから、別れることも考えても…」
「やだ!」
「で、でも…」
「嫌に決まってるじゃん!
 私がどれだけ照のことが好きなのか、わかってないでしょ?!」
「…でも、いつまた会えるかわからないんだよ?」
「それでもいい!
 連絡とれるだけで幸せだよ?
 手紙でもいい。だから、別れたくない」
「…ごめん
 僕、本当に最低だよね
 手紙なら、送れるよ
 ごめんね」

 そう言う照は顔をしかめていた。
 手をふるえさせて苦しそうにする照をなんとか楽にしたくて抱きしめる。
 私は手紙を送り合える事それだけで、十分だ。
 だから、そんなに苦しそうにしないでほしい。
 なぜ会えないか理由を聞くのはきっとダメだとわかってる。
 私との今後を考えて自分で解決しようとしてる事に、私には言えない事なら私が知る権利はない。
 隠し事をして欲しいわけじゃない。だけど、聞いちゃいけない気がしたんだ。
 「私の方こそ、気の利かない彼女でごめんね」そう心の中で口にする。

「送って貰うのは多分できないんだ。
 だけど、僕が君へ手紙を送るのはできるから、だから…それでもいいかな?」
「うん、いいよ」

 辛そうにする照は心臓の音が早い。
 きっと私も心臓の音が早い。これは恐怖なんだろうか。
 いや、たぶん違う。
 苦しいんだ。

「僕、頑張るから」
「うん」
「待っててくれる?」
「うん」
「ごめんね」
「うん」
「ありがとう」
「ううん」
「嫌いになった?」
「ううん」
「ごめんね」
「うん」

 照の苦しさを私が吸い取るように、私は照に力を注ぐよう抱きしめる。
 これから頑張る照のせめてもの苦しみを緩和できるように。




「行ってくるね」
「うん」

 本当は行って欲しくない。なんて言ったらどうなるんだろう。
 そんなことを考えながら、手を振る。

「ねぇ、まっ…?!」
「僕も愛してる」

 急に抱きしめて私にしか聞こえないよう囁く照はどこか心を決めた声だった。


 そんな事されたら、もう抑えられなくなるよ。
 遠のいていく照の影がやけにぼやける。
 熱い滴を感じて手で拭うと涙だった。

 もう今ならいいのかな。
 もう泣いてもいいかな。
 いや、まだダメだ。
 これは照が帰ってきてまた、私に伝えてくれるまで待つんだ。
 それまで我慢するんだ。

 だけど、これだけは思わせて。


 照が苦しくならいよう、何千回何万回も願って呪いまじないをかけるよ。
 頑張りすぎないよう願って呪いまじないをかけるよ。
 照が、ちゃんと生きて帰ってくるよう願って呪いまじないをかけるから。


 この呪いまじないはあなたが、私の元へ生きて帰ってくるまでずっと束縛するようにかけてるから。

 だから、それまで。

 それまで。

 待ってる。

 いってらっしゃい。


    
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