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狂ったモノに生まれる葉
毒聖愛《偶像と普通》
しおりを挟む私の人生はまるで偶像のようなものだった。
何もかも普通でいられるよう努力した。
その普通が重荷になって、次第に足枷になった。
もちろん普通の恋だってしてたつもりだ。
相手の愛情と私の愛情の意味は違うことに気づいたのは高校生の3回目の春だった。
別れを切り出したのは相手から。
私は涙を見せながらその言葉を了承した。
「友達としていた方が俺たちは上手くいく」
そんなことを言われたのは覚えている。
逆に言うとそれしか覚えていない。
私は普通じゃない。
その自覚をしたのは別れたすぐ後だった。
涙を見せていた私の顔に、帰る頃には絶望する顔から普通を装うことができるまでになった。
失恋したその日にそんな状態になるのは、いくつもの作品を見たって私の状態にはなっていなかった。
心が酷く冷たくて、温かみがない心に涙は出なかった。
世の普通がこんなにも単調であり激情であることに、私は困惑した。
この世界は、情熱という名前を借りて冷静にはなれないのだと。
この世界で生きるには、その普通というものになることが重要で、私は普通という偶像を貼り付けた。
ストレスとプレッシャーに心が潰されるほど、心は荒んでいく事もいとわない私の異常さは、心地がいいとさえ思える。
この窮屈な世界から、私は頭の中で繰り広げられる大きな世界を文字にして作ろうと考えた。
波に乗りながら作られた作品は100を超えたところで、作品を本にしないかとオファーされた。
二つ返事でお願いすると、そこそこ作品を手に取って購入してくれる事があった。
本だけで生きていくのには厳しいことを知っている。
だからこそ、私はその線引きをした。
仕事もそこそここなして、ストレス発散として作品を作って、また仕事をする。
単調な毎日に、生き甲斐など元々なかった私にはそれが普通にみえた。
疲れればこの体はどうなるのだろう。
その疑問に襲われながらも、頑丈な体はまた今日を生きるために鼓動する。
「飽きた」
「疲れた」じゃなく「飽きた」と呟いた。
心が疲弊している感覚はしない。
ただ、飽きてしまっただけ。
この偶像でまみれた私の人生と、この単調な生活が飽きてしまったんだ。
そう。
飽きてしまえば、やめるのがいいのだ。
例えば単調な作業をやめるように。
例えば貼り付けた偽物を剥ぎ取るように。
軽くそして慎ましく静かにやめるのが普通だ。
それならば、私も静かにこの人生をやめるとする。
普通の生活をする流れで、この人生だけをやめるだけ。
どうせまた新しい人生が、この私の性格も感性もリセットされた真新しい普通の人間になってリスタートする。
それならば、死ぬことなんて簡単で普通だ。
次の人生が無くとも、無になろうとも私はこれでいい。
面白みもないこの世界に、偶像だけが残った私は排他されても異論ない。
「行ってきます」
いつものようにこの小さな部屋に言うと、出勤するような気分で目星をつけた場所へと向かう。
おそらく今の私は出勤する人にしか見えない。
思い詰めても苦しんでもないこの顔は、自殺しようする人間とは誰も気づかない。
私はそこで生前の記憶が途切れた。
ここはどこだろう。
すぐにわかったのは、見覚えのある生活感のある部屋だったからだ。
知らない男がいた。
すでに新しい人が住んだのかと錯覚してしまいそうだったが、手に持った服は見覚えがある。
私の服だった。
強く匂いを嗅がれているところを目の当たりにするが、私の事を気づいていないようで、私は瞬時に理解した。
私は霊体になったのだろう。
自分ではしっかりとした色を持っているとは思うものの、男とはやはり全体的に薄い色をしている気がする。
グロテスクな外見はしてなさそうで、一安心する。
男は長い溜息をつくと、私の部屋を探索する。
この男は何をしているのだろう。
ただ、恍惚になっていく顔と憎むような顔を繰り返すその姿はまるで普通じゃない。
そうだ。この男は普通じゃない。
なのになぜだろう。
この男の方が、世の中の普通よりも、人間らしく普通に見えてしまう。
その時気づく。
私は死んでも普通にはなれなかったことがわかった。
ただ、この男とはもっと早くに会いたかったと思ってしまう。
この男と出会えていれば、私の偶像な世界は楽しかったのかもしれない。
この男にならば、私の全てを堪能されたって良いとさえ思ってしまう。
死んだ拍子に私は狂ってしまったのかもしれない。
だが、それでも、今までとは違う芯から思う楽しさと高揚感に襲われるのだ。
この男のそばにいるのに何も出来ないこの感覚に、私は酔いしれているのかもしれない。
この男に生前に出会えていたら、私はありのままの自分を愛してくれたのではないか。
生というものに執着することさえできたのではないか。
今ならはっきりと言える。
私は生きていたかった。
この男に、何をされても私は楽しめたのかもしれない。
そうとさえ思ってしまうのだ。
やっと気づく。
私はこの男に恋をしてるのだと。
生きてさえいれば、この男に本心から恋することができたのだと気づいた。
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これは、戸惑いだ。
死んで気づく本物の恋を体験することに戸惑うのではなく、私も恋ができるのだという戸惑いだ。
生きてさえいれば、この男を手に入れられたのかもしれない。
その悔しささえ感じる。
これが、人間なのか。
この激情した心が高鳴るような癖になる感覚を、普通の人間は感じているなんて、憎い。
だが、心の底から羨ましいのだ。
今となれば疑問に思ってしまう。
なぜ、私は死んだのだろうか。
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