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春風に揺られる若葉
朝の帳
しおりを挟む今は夜だ。
だから、今はなんでも許される。
私が故意に車道へ落とした靴を拾っても。
歩道橋でスキップしても。
気晴らしに海へ行っても。
大声を出しても。
今はここに誰もいない。
だから、私は笑うんだ。
よれた靴を履いて、クルクルと踊る。
誰が私を見ようとも、私を咎める人は誰もいない。
だって、夜は自分の時間を過ごすのだ。
私の事なんて誰も気にやしない。
夜明けを知らせる太陽を、心のどこかで望んでなくて望んでる。
こんなに素敵な夜になるには太陽が必要だから。
太陽が上るから私を夜へと誘ってくれる。
今日が始まる音がするのは太陽が顔を出したから。
これが絶望の始まりだ。
太陽が嫌いなわけじゃない。
嫌いなのは朝がやってくるから。
朝の帳が開く。
海辺の太陽はキラキラと輝いているのかな。
歩道橋から見る太陽は勇気をくれるのかな。
誰もが目的へ向かうための道は晴れやかなのかな。
私を飲み込む朝日がこんなに輝いていて、楽しそうな声がする朝を迎える日は、なんだか夜が恋しくなる。
今日もみんなを守ってくれるお日様は、私を守ってくれない。
メラメラと焼き殺してくれればいいのにと願う。
なぜなら私を暖かく包んでくるんだから。
シャツの襟に触れる。
きちんと折られたスカートを叩く。
家へ帰る足取りはこの上なく事務的だ。
今日はあと何時間頑張ればいいのだろう。
その事を考えてはやめる。
足取りが重くなるから。
口約束した課題が終わってない。
写させてくれと頼んできた子に申し訳ない。
一緒に怒られてあげるから、許してくれるかな。
温かいご飯の匂いを思い出す。
そんな事をふと考えながら家へ向かう。
怒っているだろうか。
いや、何をしても放任主義な家族は帰ってきた事に挨拶をして軽く話せばいつも通りの日常に戻る。
心配してないわけじゃない事も知ってる。
でも、怒ってくれなくなった事が、どこか寂しいのだ。
頭を撫でてくれる事もなくなった。
私が大人へと近づいてしまったから。
褒めてくれなくなったわけじゃない。
でも、優しく撫でてくれたその手の温かさが私には必要なんだ。
ガチャリと開けた玄関の扉を開くと、朝食の香りが漏れ出てくる。
これが今日の始まりを知らせてくる幸せと厳しさの今日初めての心地。
挨拶と海へ行った事を話す。
軽く相槌があった後、着替えるよう促されて自室へ入る。
ため息が出るのと同時に淡々と着替えていく。
スカートはこのままで、あとは新しいものを用意する。
紺色のブレザーを優しく撫でて朝の準備をする。
書き殴った時間割を見ながら、教科書とノートを入れ替える。
ブレザーとカバンをリビングに持っていく。
シャワーを浴びる用意をしながら自分の朝食を用意する母の様子をチラリと盗み見る。
こんなに幸福なことはないのだろうな。
そう感嘆する。
朝の日差しのおかげでお風呂場の電気は付けない。
シャワーがキラキラと光る。
これも太陽のせいだ。
シャワーを終えてリビングに戻る。
朝食の準備を終えた母は仕事へ行く準備を終えてコーヒーを飲んでいた。
今日は食パンにバターと砂糖をかけたものだった。
ヨーグルトを食べ終えて、食パンに手をかける。
これを食べれば、もう時間になる。
それを思うと後ろ髪を引かれるような躊躇いを感じる。
家にいたいわけじゃない。
ただ、この重圧を感じることから逃げたいのだ。
何も辛くなんてないのに、この重たい気持ちはどこから来ているのだろう。
その思いでいっぱいになる。
夜になると軽くなる心が、朝になれば重たくなる。
この意味を私は知らない。
ただ1人になりたいだけなのかもしれない。
1人は嫌なのに、1人になりたいと思ってしまうのだ。
独りぼっちでいる事は寂しい。
誰かいるからこそ、一人の時間が必要なんだ。
その一人の時間が恋しくて仕方ないのかもしれない。
朝食を終えて支度をする。
ついにこの時が来た。
何千回としたこの時が、いつものようにやって来た。
確認も終えて玄関へ向かう。
ここで休校になればいいのにと、心から願ってしまう。
ローファーに履き替えて、両手でスカートをパンパンと軽く叩く。
ブレザーの襟にそっと撫でると意気込む。
『いってきます』
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