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第一章 同居スタート
鬼ごっこ
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「——と、言うわけなの。お兄ちゃんどうする?」
兄が帰宅すると、早速兄に魔王が来てからの事を順序立てて説明した。
「さすがに四人でこの部屋はキツいだろ」
「え、魔王様は帰りますよね?」
私が魔王に聞くと、魔王はレイラを引き寄せて言った。
「レイラがここで結婚して子供を産みたいと言うんだ。致し方ないだろう」
「いや、それは魔王様の子じゃないんじゃ……」
「なんだと?」
魔王が睨んできた。怖すぎる。威圧が半端ない。
すかさず兄が私を庇うように抱き寄せた。頼りになる兄だ、と思ったのも束の間、兄は魔王に言った。
「美羽は本当のことを言ったまでだよ。レイラちゃんは僕の子が欲しいんだから。そうだよね?」
「お兄ちゃん、それも違うかな……」
「は? やはりこんな所には置いておけん。レイラ、帰るぞ」
魔王はレイラの腕を引いて立ちあがろうとしたが、再び座り直した。どうしたのだろうかと思って見ていると、魔王はスプーンを持って言った。
「カレーを食べてからでも遅くはない」
そんなにカレーライスが食べたかったのか。お土産にタッパーに詰めてあげようかと考えていると、兄がアルバイト先から貰ってきた賄いを出してきた。
「これも食べると良いよ。美味しいから」
「どれどれ……。なんと! この甘塩っぱい食べ物はなんだ!? 美味すぎる」
「美味いだろ。これは筑前煮だ。こっちの唐揚げも食べて良いよ」
魔王は兄に勧められながら次々と箸を進めていった。箸といってもフォークだが。魔王は暫く黙って食べ、満足したのかカチャンとフォークを自身の皿の上に置いて真剣な顔で言った。
「やはり俺も暫くここでお世話になることにする。女性の部屋で寝るのはアレだからな。兄よ。お前の部屋で一緒に寝ることにする」
「まぁ、良いけど。じゃあ二人で動画でも観るか」
「お兄ちゃん、変なこと魔王様に教えないでよ」
「変なことなんて教えないよ。男のロマンを語り合うだけさ」
「大丈夫かな……」
◇◇◇◇
翌朝、魔王は生き生きとしていた。
「兄よ、日本とは素晴らしいな。為になった」
「今晩も泊まってく?」
「お兄ちゃんと魔王様、そんなに仲良くなったの?」
「まぁね。同じベッドで寝るにはちょっと狭いけど悪くないよ」
「お兄ちゃん、一緒に寝たんだ……」
てっきり、私とレイラのように一人は床に布団を敷いて寝ているのかと思っていた。シングルベッドの上で男二人が一緒に……。
「美羽、変なこと想像してるでしょ。さすが僕の妹だね」
「ち、違うよ。お兄ちゃんの馬鹿」
「だが、日本では川の字になって寝るのが当たり前なのだろう? 何故、美羽と兄は一緒に寝ないんだ?」
「え、何故って?」
何故かと改めて問われると返答に困る。昔は一緒に寝ていたのに、ある程度大きくなったら別々の部屋に振り分けられてしまった。そういうものだと思っていた。どう返答しようか考えていると兄が応えた。
「僕が母親に言ったんだよ。美羽と一緒に寝てると変な気持ちになるって」
「え、そうなの?」
「知らなかったの? それでもすぐには部屋を変えれないから一緒に寝てたんだけどね、美羽の寝顔見てると無性にキスしたくなってさ」
「え、マジで……してないよね?」
「で、急いで別々の部屋になったんだ」
「ねぇ、してないよね? お兄ちゃん?」
兄は私の問いには応えずにパンを焼き始めた。今更どうすることもできないが不安になってきた。
「ねぇ、お兄ちゃん? してないって言ってよ……」
兄は私の頭をポンポンと撫でながら困った顔で言った。
「美羽、一度や二度の過ちなんて気にすることないよ」
「お兄ちゃんの馬鹿! レイラ、早く自立してここから出ようね。男なんて信用できない。二人で一緒に暮らそう」
「ええ、美羽の行くところなら何処へでも付いて行きますわ」
そう言って、私とレイラは手を取り合った。そして、兄が後ろから私の腰に縋り付くように抱きついて言った。
「美羽、嘘だから、冗談だから。美羽には指一本触れてないよ。あ、違った。毎日触ってた」
「触ってんじゃん。気持ち悪いよ」
「違う、違うんだ。いやらしい触り方はしてないってことで、キスもしてないよ。だから自立なんてしないでよ。お兄ちゃん美羽がいないと死んじゃうよ」
「お兄ちゃん離れてよ! キモいよ! そして、何で魔王様まで来るのよ!」
「だって、お前がいなくなったらレイラまでどっか行くんだろう。お前をここから出すわけにはいかん」
「もう、どこにも行かないから、魔王様、その顔面を近付けないで!」
必死でそう言うと、魔王が私から離れていった。兄も離れたので、ホッとしていると魔王はしゃがみ込んで俯いている。そして、魔王の周りだけ暗い雰囲気が漂っていた。
「レイラ? 魔王様どうしたの?」
「分かりませんわ。突然ああなってしまいましたわ」
「美羽のせいじゃないのか? 家を出るって言ったから」
理由は分からないが、私が原因なら謝らないと可哀想なくらい魔王は落ち込んでいる。魔王に恐る恐る近づき、魔王の目線までしゃがみ込んだ。
「魔王様? ごめんなさい。顔を上げて」
「俺の顔面は気持ち悪いのだろ?」
「は?」
「先程、お前が言ったじゃないか」
美しすぎることはあるが、気持ちが悪いと言う奴がいたら頭がおかしいのではないかと逆に問いたくなる。
「言ってませんけど」
「いや、言った。俺の顔面を近付けるなと」
「それは……」
こんなイケメンを至近距離で見るものではない。
「気持ち悪いとかではないから」
「本当か?」
「はい」
そう言うと、魔王はガバッと顔をあげた。急に顔をあげるものだから驚くほど魔王を近くに感じ、一瞬ドキリとした。すぐさま逃げると、魔王がおいかけてきた。
「それなら何で見てくれないんだ」
「やめてよ。本当にやめて!」
私はレイラの後ろに隠れた。そして、私と魔王の鬼ごっこは始まった。
兄が帰宅すると、早速兄に魔王が来てからの事を順序立てて説明した。
「さすがに四人でこの部屋はキツいだろ」
「え、魔王様は帰りますよね?」
私が魔王に聞くと、魔王はレイラを引き寄せて言った。
「レイラがここで結婚して子供を産みたいと言うんだ。致し方ないだろう」
「いや、それは魔王様の子じゃないんじゃ……」
「なんだと?」
魔王が睨んできた。怖すぎる。威圧が半端ない。
すかさず兄が私を庇うように抱き寄せた。頼りになる兄だ、と思ったのも束の間、兄は魔王に言った。
「美羽は本当のことを言ったまでだよ。レイラちゃんは僕の子が欲しいんだから。そうだよね?」
「お兄ちゃん、それも違うかな……」
「は? やはりこんな所には置いておけん。レイラ、帰るぞ」
魔王はレイラの腕を引いて立ちあがろうとしたが、再び座り直した。どうしたのだろうかと思って見ていると、魔王はスプーンを持って言った。
「カレーを食べてからでも遅くはない」
そんなにカレーライスが食べたかったのか。お土産にタッパーに詰めてあげようかと考えていると、兄がアルバイト先から貰ってきた賄いを出してきた。
「これも食べると良いよ。美味しいから」
「どれどれ……。なんと! この甘塩っぱい食べ物はなんだ!? 美味すぎる」
「美味いだろ。これは筑前煮だ。こっちの唐揚げも食べて良いよ」
魔王は兄に勧められながら次々と箸を進めていった。箸といってもフォークだが。魔王は暫く黙って食べ、満足したのかカチャンとフォークを自身の皿の上に置いて真剣な顔で言った。
「やはり俺も暫くここでお世話になることにする。女性の部屋で寝るのはアレだからな。兄よ。お前の部屋で一緒に寝ることにする」
「まぁ、良いけど。じゃあ二人で動画でも観るか」
「お兄ちゃん、変なこと魔王様に教えないでよ」
「変なことなんて教えないよ。男のロマンを語り合うだけさ」
「大丈夫かな……」
◇◇◇◇
翌朝、魔王は生き生きとしていた。
「兄よ、日本とは素晴らしいな。為になった」
「今晩も泊まってく?」
「お兄ちゃんと魔王様、そんなに仲良くなったの?」
「まぁね。同じベッドで寝るにはちょっと狭いけど悪くないよ」
「お兄ちゃん、一緒に寝たんだ……」
てっきり、私とレイラのように一人は床に布団を敷いて寝ているのかと思っていた。シングルベッドの上で男二人が一緒に……。
「美羽、変なこと想像してるでしょ。さすが僕の妹だね」
「ち、違うよ。お兄ちゃんの馬鹿」
「だが、日本では川の字になって寝るのが当たり前なのだろう? 何故、美羽と兄は一緒に寝ないんだ?」
「え、何故って?」
何故かと改めて問われると返答に困る。昔は一緒に寝ていたのに、ある程度大きくなったら別々の部屋に振り分けられてしまった。そういうものだと思っていた。どう返答しようか考えていると兄が応えた。
「僕が母親に言ったんだよ。美羽と一緒に寝てると変な気持ちになるって」
「え、そうなの?」
「知らなかったの? それでもすぐには部屋を変えれないから一緒に寝てたんだけどね、美羽の寝顔見てると無性にキスしたくなってさ」
「え、マジで……してないよね?」
「で、急いで別々の部屋になったんだ」
「ねぇ、してないよね? お兄ちゃん?」
兄は私の問いには応えずにパンを焼き始めた。今更どうすることもできないが不安になってきた。
「ねぇ、お兄ちゃん? してないって言ってよ……」
兄は私の頭をポンポンと撫でながら困った顔で言った。
「美羽、一度や二度の過ちなんて気にすることないよ」
「お兄ちゃんの馬鹿! レイラ、早く自立してここから出ようね。男なんて信用できない。二人で一緒に暮らそう」
「ええ、美羽の行くところなら何処へでも付いて行きますわ」
そう言って、私とレイラは手を取り合った。そして、兄が後ろから私の腰に縋り付くように抱きついて言った。
「美羽、嘘だから、冗談だから。美羽には指一本触れてないよ。あ、違った。毎日触ってた」
「触ってんじゃん。気持ち悪いよ」
「違う、違うんだ。いやらしい触り方はしてないってことで、キスもしてないよ。だから自立なんてしないでよ。お兄ちゃん美羽がいないと死んじゃうよ」
「お兄ちゃん離れてよ! キモいよ! そして、何で魔王様まで来るのよ!」
「だって、お前がいなくなったらレイラまでどっか行くんだろう。お前をここから出すわけにはいかん」
「もう、どこにも行かないから、魔王様、その顔面を近付けないで!」
必死でそう言うと、魔王が私から離れていった。兄も離れたので、ホッとしていると魔王はしゃがみ込んで俯いている。そして、魔王の周りだけ暗い雰囲気が漂っていた。
「レイラ? 魔王様どうしたの?」
「分かりませんわ。突然ああなってしまいましたわ」
「美羽のせいじゃないのか? 家を出るって言ったから」
理由は分からないが、私が原因なら謝らないと可哀想なくらい魔王は落ち込んでいる。魔王に恐る恐る近づき、魔王の目線までしゃがみ込んだ。
「魔王様? ごめんなさい。顔を上げて」
「俺の顔面は気持ち悪いのだろ?」
「は?」
「先程、お前が言ったじゃないか」
美しすぎることはあるが、気持ちが悪いと言う奴がいたら頭がおかしいのではないかと逆に問いたくなる。
「言ってませんけど」
「いや、言った。俺の顔面を近付けるなと」
「それは……」
こんなイケメンを至近距離で見るものではない。
「気持ち悪いとかではないから」
「本当か?」
「はい」
そう言うと、魔王はガバッと顔をあげた。急に顔をあげるものだから驚くほど魔王を近くに感じ、一瞬ドキリとした。すぐさま逃げると、魔王がおいかけてきた。
「それなら何で見てくれないんだ」
「やめてよ。本当にやめて!」
私はレイラの後ろに隠れた。そして、私と魔王の鬼ごっこは始まった。
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