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第五章 決戦の時

魔王vsセドリック

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 炎魔法の攻撃を一身に受けた拓海だが、爆発音が響き渡っていたおかげで、魔王がすぐに気付いてくれた。すぐさま拓海を私の元へと転移させた。

 拓海は所々に火傷を負っていた。皮膚が痛々しい程に爛れている箇所もあったが、幸い私の治癒で皮膚は元通り、痛みもないそうだ。

 治った拓海は再び戦闘に参加しようとしたが、コリンに止められた。

「火傷は治ってても煙を多く吸ってるんじゃない? 身体の中はどこまで治ってるか分かんないんだし暫く新鮮な空気吸ってなよ」

「俺は問題ない。行ってくる」

「一酸化炭素中毒にでもなってたらどうすんの? 今は平気に見えても戦闘中に意識なくなったらそれこそ死ぬよ。これだからバカは困るよ」

「なッ、簀巻きになってる奴に言われたくないね」

 そう、コリンはまだ簀巻き状態。さらにブラックコリンは口が悪い。そのせいで説得力にかけてしまうが言っていることは正しい。

「コリンの言う通りだよ。ブラッドは拓海の代わりにレイラと小夜ちゃんが相手してくれてるし、暫く休んでから参戦しなよ」

「美羽が言うなら……」

 渋々拓海は私の横に腰を下ろした。

「てかさ、魔王様がまだセドリックに勝ててないんだよ。圧倒的に強いはずなのにどうしたのかな?」

 私の問いにサイラスが応えた。

「多分アイテムのせいじゃないかな。セドリックのアイテムは攻撃魔法を無効化するから」

「え、てことは今の魔王様はただの人間と変わらないってこと? 不利じゃん」

「でも、セドリックに当たらないってだけで防御とか別の所に向かって放ったりは出来るよ」

「そっか」

 私は魔王に無線機のダイヤルを合わせた。

 ちなみに、魔王とセドリックは森から出て元の荒野で戦っている。

『防御しか出来ない魔王なんて、すぐに倒してやる』

『結構時間が経ってるがな』

『うるさい。お前がちょこまか逃げるからだろ』

 セドリックは赤いマントを靡かせながら、魔王に水の槍を放った。スピードが速いので避け切れないのでは、と心配になったが魔王は風を操り、水の槍をセドリックへと方向転換させた。

 セドリックが赤いマントで体を覆うと水の槍はそこで消えた。

「あのマントかぁ。ちょっとダサいね」

「だろ? 課金アイテムはこの剣とマントが残っててさ、すぐにこっちにしたよ」

「どうせなら盾とかの方が良いよね」

 私と拓海がアイテムのデザインについて批判していると、サイラスとコリンが呆れた顔で私達を見てきたので気付かないフリをしておいた。

『そのマントだと好きな子に嫌われるぞ』

『そんなはずない! シャーロットはこれを格好良いって言ってくれた』

『シャーロットはそうかもしれんが、美羽には嫌われるな』

『何故あの女の名が出てくる。オレはシャーロット以外の女は嫌いだ。化粧は濃いし香水臭いし、なんだあの猫なで声は、気色が悪い』

『お前の嫌いな女とシャーロットはどこが違うんだ?』

 魔王がシャーロットを指差すとセドリックはシャーロットを一瞥した。

『全然違うじゃないか! 化粧は……濃いな。いやいや、香水の匂いなんて……したな。でも話し方は……』

『どうした? 違うんだろう? 好きなんだろ? あれと抱き合ってキスだって余裕なのだろう?』

 魔王が大胆だ。聞いている方が恥ずかしくなってきた。しかし、この精神に投げかける作戦は今までの他の攻略対象達で有効なことが証明されている。今現在セドリックも混乱中だ。

『オレはシャーロットなら駆け落ちしても大丈夫だ。それ程までに愛している。キスなんて……うぅ……』

『どうした? まぁ、なんでも良いが美羽に振られても俺のせいにはするなよ。忠告したからな』

 それだけ言うと魔王はその場から消え、セドリックの真横に現れた。その瞬間、魔王はセドリックの腹部に蹴りを入れ、セドリックは思い切り後方に吹っ飛んだ。

『うっ……』

 セドリックは背中を打ちつけたようですぐには立ち上がれないようだ。しかし、魔王は追加攻撃をせずセドリックが立ち上がるのを待っている。

 ゆっくり起き上がったセドリックは服についた土埃を払いながら魔王に聞いた。

『さっきから何故ひと思いにやらないんだ? あんたなら魔法が使えなくたって出来るだろ?』

『俺は人をいたぶるのは趣味ではない。それにお前だって全然本気を出していないじゃないか』

 お互い手加減して戦っていたのか。でも何故? 魔王は優しいから、罪のない人を痛めつけるのは心苦しいのだろう。だが、セドリックは何故だ?

 私の疑問が聞こえたかのようにセドリックは話した。

『だって、いずれ結婚すればあんたは義兄上になるんだから。尊敬の対象に酷いことはできない』

『お前はシャーロットと結婚するんだろう? 駆け落ちまでする覚悟で』

『違う! いや、そうだ。オレはシャーロットが好きなんだ。あれ、あんたはシャーロットの兄上だったか?』

『そんな訳ないだろう。誰の兄でもないが、強いて言えば美羽だな』

 すると再びセドリックが混乱し始めた。

 無理矢理精神と記憶を捻じ曲げられるのはどんな気持ちなのだろうか。思いと行動がチグハグすぎて何とも居た堪れない気持ちにさせられる。

「セドリックは勘違いしやすいけど優しい人なんだよ」

「美羽を助けてくれた奴だもんな」

「うん。セドリックの惚れ薬の効果が早く切れれば良いのに……」

 私が呟いた次の瞬間、混乱していたセドリックの様子が変化した。

『あれ、オレは何故あんな奴のことを好きだと言っていたんだ? パーティーの時にミウに別れ話をされて……義兄上! このマントは嫌われますか? これ以上嫌われたら取り返しがつかなくなってしまう……』

「セドリックどうしちゃったんだろ?」

「さぁ。物凄い焦ってるな」

 セドリックはマントを外そうと紐に手をかけるが、焦っているようで紐がこんがらがっている。

『うッ、早くこんな物外さなければ……』

 傍観していたシャーロットがセドリックの元へやってきた。

『セドリック! あなた何をやっているの? それを外したら魔王に負けちゃうでしょ。あなたはアレックスやブラッドが来るまで持ち堪えるのよ』

『は? オレに命令するな』

『え、どうしちゃったの? 昨日かけたばかりなのよ。効果が切れるわけないわ。セドリック、あたしのこと好きよね? 守ってくれるんでしょ?』

『誰がお前なんか守るか。オレはミウにしか興味ない!』

『うそ……』

 どうやら昨日かけたばかりの惚れ薬の効果が切れたようだ。何故かは分からないが、敵がまた一人減った。
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