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第五章 決戦の時
新生活
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桜舞い散る季節。
私は綺麗めな水色のワンピースに身を包み、少し大きな鞄を持って玄関を出た。
「お兄ちゃん、遅れちゃうよ。早く早く!」
「まだ大丈夫だよ。美羽は時間には厳しいよね」
「だってせっかく受かったのに遅れるとか嫌だもん。ねー、レイラ」
レイラも私の隣でカジュアルパンツスタイルをきっちり着こなして、カッコ可愛い感じに仕上がっている。
私とレイラは晴れて大学生になり、兄と三人で大学に向かうところだ。
特待生枠は無理だったけれど、一般枠で受かったので奨学金制度を使いながら通うことになったのだ。
「わたくしは美羽と学校に行くのが楽しみで、夜も七時間しか寝ていないのですわよ」
「結構寝てるね……」
「いつもは九時間ですから」
「僕と付き合う子は大体不眠症に陥るんだけど、レイラちゃんは良く寝てるよね」
「お兄ちゃん、朝からやめてよ」
兄とレイラは付き合っている。そして魔王は私と付き合っている為、寝る部屋も男女別ではなく、恋人同士で寝るようになった。
ただ、初めての彼氏なのにいきなり毎晩一緒に眠るのは心臓に悪いので、魔王には床で寝てもらっている。
「あ、ここにも魔王がいるよ」
「凄いね。あっちにもいる」
「一躍有名人ですものね。美羽も鼻が高いですわね」
「他人には言えないけどね。推しが減ったら給料減っちゃうし」
魔王は魔界の魔王をやめて、こっちの世界で転職したのだ。モデルとして。
『本来はアイドルになりたかったが、無職では美羽のそばにおれんからな。モデルで妥協することにした』
魔王はモデルで妥協すると簡単に言うが、世の人間は中々モデルにすらなれない。顔とスタイルが良いというのは羨ましい。
「あ、小夜ちゃん。おはよー。魔王様、まだ寝てるよ」
「マジ? 十時から入りなんだけど。そろそろ準備してもらわないと。三人共、じゃあね」
「小夜ちゃんも大変だね」
「マネージャーですからね」
小夜は進学せず、魔王のマネージャーを務めている。どうしても推しの魔王の近くにいたいらしい。だからと言って、私と魔王の邪魔をするわけでもない。『それはそれ、これはこれ』だそうだ。私には良く分からない。
「うわぁーん……痛いよう……痛いよう」
「女の子が泣いていますわ」
「転けたのかな?」
私達は少女に駆け寄り、少女の目線までしゃがみこんだ。
「どうしたの?」
「転んだの。今日から一年生だから、ママいなくて」
「そっか。ピカピカの一年生だね! 頑張って一人で学校行けて偉いね」
そう言うと、少女は泣きながら笑った。
少女の膝小僧を見ると、痛々しい程に擦りむいていた。
「痛そうだね……。お兄ちゃん、良いかな?」
兄に確認すると、兄が周囲を見渡してOKサインを出してきた。
「お姉ちゃんがおまじないかけてあげるね」
「うん」
「痛いの痛いの飛んで行け、お空の上まで飛んで行け」
「あれ? 痛くない。お姉ちゃん、痛いのお空に飛んでったよ!」
「良かったね」
ニコッと笑うと少女は満面の笑みでお礼を言って走って行った。
「さてと、行こっか」
私は立ち上がって少女の去って行った方に向かって歩いた。
「なんかさ、美羽のそれ見てると僕が医者を目指してるのなんて馬鹿らしく思うよね。医者いらずじゃん」
「そんなことないよ、お兄ちゃん。これは怪我と解毒にしか使えないんだから。試したことないけど、肺炎とか心臓病にはきっと効果ないよ」
「そうですわよ。仮に治ったとしても、日本の人口約一億二千万人。その他の国の人口を考えると八十億人。美羽一人では無理ですわ」
「うっ、確かに。やる気が出てきたよ! それに医師になれば白衣の天使にモテまく……」
「蒼様? 今なんと?」
「だって、レイラちゃんすぐ寝ちゃうんだもん」
レイラがすごい剣幕で兄を睨んでいる。兄は目を泳がせて私の後ろに隠れてきた。
そして、兄の名前を三年ぶりに聞いた。斉藤 蒼それが兄の名前。そういえば、魔王の名前はなんと言うのだろうか。芸名も『MAOU』で通している為、本名を知らない。今度聞いてみよう。
「ほら、レイラもお兄ちゃんも着いたよ」
プルルルル……プルルルル……。
大学の門の前に立つと、スマートフォンの着信音が鳴り出した。
「小夜ちゃんだ。もしもし?」
『美羽! 今聞いたんだけどさ、続編が出たらしいよ』
「なんの?」
『胸キュンラバーⅢだって! 今度は学園卒業後にパンデミックが起こるんだって。主人公は異世界から召喚されて、聖女として人々を救うの。それでさ————』
プツンと電話が切れた。
「小夜ちゃん? 小夜ちゃん? 忙しかったのかな」
スマートフォンの画面を閉じて歩こうとすれば、地面が赤い。しかもふわふわだ。
「え、さっきまで桜の花びらがいっぱいのアスファルトだったのに。どうしたのかな、お兄ちゃん?」
「ミウ?」
「え? おにいちゃん?」
後ろを振り返ると、そこにいたのはサイラスだった。
「え、まさか……召喚した?」
「うん。したした。女神様からの知らせがあって、聖女が国を守ってくれるって」
「うそ……」
「ちなみに明日、僕と結婚式だよ」
「は?」
「聖女は王族と結婚だから」
私はその場にへたりこんだ。せっかく魔王と両想いになれて、大学もこれからスタートだったのに。新生活頑張るぞ! だったのに。ある意味新生活だけどさ。
「この先私どうなっちゃうの——!?」
おしまい。
私は綺麗めな水色のワンピースに身を包み、少し大きな鞄を持って玄関を出た。
「お兄ちゃん、遅れちゃうよ。早く早く!」
「まだ大丈夫だよ。美羽は時間には厳しいよね」
「だってせっかく受かったのに遅れるとか嫌だもん。ねー、レイラ」
レイラも私の隣でカジュアルパンツスタイルをきっちり着こなして、カッコ可愛い感じに仕上がっている。
私とレイラは晴れて大学生になり、兄と三人で大学に向かうところだ。
特待生枠は無理だったけれど、一般枠で受かったので奨学金制度を使いながら通うことになったのだ。
「わたくしは美羽と学校に行くのが楽しみで、夜も七時間しか寝ていないのですわよ」
「結構寝てるね……」
「いつもは九時間ですから」
「僕と付き合う子は大体不眠症に陥るんだけど、レイラちゃんは良く寝てるよね」
「お兄ちゃん、朝からやめてよ」
兄とレイラは付き合っている。そして魔王は私と付き合っている為、寝る部屋も男女別ではなく、恋人同士で寝るようになった。
ただ、初めての彼氏なのにいきなり毎晩一緒に眠るのは心臓に悪いので、魔王には床で寝てもらっている。
「あ、ここにも魔王がいるよ」
「凄いね。あっちにもいる」
「一躍有名人ですものね。美羽も鼻が高いですわね」
「他人には言えないけどね。推しが減ったら給料減っちゃうし」
魔王は魔界の魔王をやめて、こっちの世界で転職したのだ。モデルとして。
『本来はアイドルになりたかったが、無職では美羽のそばにおれんからな。モデルで妥協することにした』
魔王はモデルで妥協すると簡単に言うが、世の人間は中々モデルにすらなれない。顔とスタイルが良いというのは羨ましい。
「あ、小夜ちゃん。おはよー。魔王様、まだ寝てるよ」
「マジ? 十時から入りなんだけど。そろそろ準備してもらわないと。三人共、じゃあね」
「小夜ちゃんも大変だね」
「マネージャーですからね」
小夜は進学せず、魔王のマネージャーを務めている。どうしても推しの魔王の近くにいたいらしい。だからと言って、私と魔王の邪魔をするわけでもない。『それはそれ、これはこれ』だそうだ。私には良く分からない。
「うわぁーん……痛いよう……痛いよう」
「女の子が泣いていますわ」
「転けたのかな?」
私達は少女に駆け寄り、少女の目線までしゃがみこんだ。
「どうしたの?」
「転んだの。今日から一年生だから、ママいなくて」
「そっか。ピカピカの一年生だね! 頑張って一人で学校行けて偉いね」
そう言うと、少女は泣きながら笑った。
少女の膝小僧を見ると、痛々しい程に擦りむいていた。
「痛そうだね……。お兄ちゃん、良いかな?」
兄に確認すると、兄が周囲を見渡してOKサインを出してきた。
「お姉ちゃんがおまじないかけてあげるね」
「うん」
「痛いの痛いの飛んで行け、お空の上まで飛んで行け」
「あれ? 痛くない。お姉ちゃん、痛いのお空に飛んでったよ!」
「良かったね」
ニコッと笑うと少女は満面の笑みでお礼を言って走って行った。
「さてと、行こっか」
私は立ち上がって少女の去って行った方に向かって歩いた。
「なんかさ、美羽のそれ見てると僕が医者を目指してるのなんて馬鹿らしく思うよね。医者いらずじゃん」
「そんなことないよ、お兄ちゃん。これは怪我と解毒にしか使えないんだから。試したことないけど、肺炎とか心臓病にはきっと効果ないよ」
「そうですわよ。仮に治ったとしても、日本の人口約一億二千万人。その他の国の人口を考えると八十億人。美羽一人では無理ですわ」
「うっ、確かに。やる気が出てきたよ! それに医師になれば白衣の天使にモテまく……」
「蒼様? 今なんと?」
「だって、レイラちゃんすぐ寝ちゃうんだもん」
レイラがすごい剣幕で兄を睨んでいる。兄は目を泳がせて私の後ろに隠れてきた。
そして、兄の名前を三年ぶりに聞いた。斉藤 蒼それが兄の名前。そういえば、魔王の名前はなんと言うのだろうか。芸名も『MAOU』で通している為、本名を知らない。今度聞いてみよう。
「ほら、レイラもお兄ちゃんも着いたよ」
プルルルル……プルルルル……。
大学の門の前に立つと、スマートフォンの着信音が鳴り出した。
「小夜ちゃんだ。もしもし?」
『美羽! 今聞いたんだけどさ、続編が出たらしいよ』
「なんの?」
『胸キュンラバーⅢだって! 今度は学園卒業後にパンデミックが起こるんだって。主人公は異世界から召喚されて、聖女として人々を救うの。それでさ————』
プツンと電話が切れた。
「小夜ちゃん? 小夜ちゃん? 忙しかったのかな」
スマートフォンの画面を閉じて歩こうとすれば、地面が赤い。しかもふわふわだ。
「え、さっきまで桜の花びらがいっぱいのアスファルトだったのに。どうしたのかな、お兄ちゃん?」
「ミウ?」
「え? おにいちゃん?」
後ろを振り返ると、そこにいたのはサイラスだった。
「え、まさか……召喚した?」
「うん。したした。女神様からの知らせがあって、聖女が国を守ってくれるって」
「うそ……」
「ちなみに明日、僕と結婚式だよ」
「は?」
「聖女は王族と結婚だから」
私はその場にへたりこんだ。せっかく魔王と両想いになれて、大学もこれからスタートだったのに。新生活頑張るぞ! だったのに。ある意味新生活だけどさ。
「この先私どうなっちゃうの——!?」
おしまい。
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