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第五章 決戦の時

恋愛のあれこれ②

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 コリンに妙な薬草入りの紅茶を飲まされ、頭では焦りが増していく。しかし、身体はどんどん動かなくなってきている。

『なんでこんなこと……』

『僕はミウが好きなんだよ』

『好きならこんなことしないだろ』

 魔王がすごい剣幕でコリンを睨みつけた。コリンはそれを気にもしていない様子でニコニコ笑っている。

『魔王が相手なんて僕には勝てっこないよ。だったら殺すしかないでしょ。欲しい物は欲しいんだから。自分に嘘吐かないって決めたし、ミウが死んだら僕も死ぬから安心して』

 いやいやいや、安心できないから。可愛い顔してやっていることがえげつない。

『医者のところに連れてっても無駄だよ。これは僕が作り出した新種の薬草だから。解毒薬は僕にしか作れない』

 マジか……。私はこのまま死ぬのか。やはり異世界なんて来なければ良かった。お兄ちゃん……意識まで朦朧としてきたよ。

『美羽! しっかりしろ!』

『魔王様……ごめんね。聖壇の前……立てない……かも……』

『喋るな! 喋ると毒が早く回ってしまう……毒!? そうだ美羽、解毒だ! 解毒しろ!』

『げ……どく?』

 その瞬間、頭の髪飾りがピカッと光った。

『あ、楽になった』

『大丈夫か!? 心配かけるな』

 私は魔王に強く、強く抱きしめられた。

『どういうこと? なんで? 解毒なんて出来ないはずなのに……』

 コリンが戸惑っている。私は魔王からそっと離れて言った。

『このアイテム、解毒もできるんだって。便利だよね』

『そんな……』

『コリンはさ、極端すぎるよ。我慢しなくても良いけど、もっと自分を大切にして欲しい』

『ミウ、ごめんね。僕もミウと同じ世界に産まれてたら少しは違ったのかな』

『え……? 知ってるの?』

 コリンは困った顔で応えた。

『だってミウが話す言葉、調べたけどどの文献にも載ってなかったよ。それにさ、どうみてもこの国って言うか……この世界とは違う服着てるじゃん』

 確かに。コリンと初めて会った時は制服だった。あの時から勘付いていたのかもしれない。流石だ。

『こんなことしちゃったから、もうミウとは会えないね』

『魔王様次第かな。自分勝手だとは思うけど、私はコリンのことずっと友達だと思ってるよ』

 魔王もコリンに向けて静かに言った。

『このことは誰にも言うなよ。美羽は友達が罰せられるとこなんて見たくないんだから。自殺なんてもっての外だ』

『……うん。ありがとう』

 私と魔王はその場を後にした——。

 というわけで、色々あったけれど三人には私の思いを伝えることが出来た。この後、どういった行動に出るのかは分からないが、三人共新たな恋が芽生えることを願っている。

 だって、彼らは乙女ゲームの攻略対象、ハイスペックイケメンなのだ。いくらでも出会いはあるはずだ。

「魔王様、サイラスだけあんなので良かったのかな?」

「良いんじゃないか? 本物の兄でもないしな」

 サイラスだけは淡白に終わった。

『おにぃちゃん、私結婚することになったから! 良かったらこれ記念にどうぞ』

 私のウェディングドレス姿の写真を手渡して帰ってきた。

「サイラスはああ見えて王太子だからな。シャーロットの言いなりでなければしっかりと公務も果たすし、国交のこともあるから深くは詮索してこないだろう。ただ……」

「ただ?」

 魔王は複雑そうな顔で言った。

「サイラスはレイラが好きなんだ」

「え?」

「魔王城に来ていたのも美羽の心配もあるが、レイラへの謝罪と復縁の為なんだ。シャーロットに操られる前はレイラ一筋だったからな。その髪飾りも本来は結婚する時にレイラにプレゼントする物だったらしい」

 私は髪飾りを外して机の上に置いて、眺めた。

「そっかぁ。そう考えたらサイラスは一番の被害者かもね。レイラは? レイラの気持ちはどうなんだろ」

「わたくしは、きっぱり忘れましたわ」

「わ、帰ってたんだ。レイラお帰り」

 てっきり魔王と二人きりかと思っていた。キスとかしてなくて良かった。実はコタツの中で足はくっついていたりする。

「わたくしは、この世界で生きていくと決めましたので。魔王様、これをサイラス殿下に渡してきて下さいませんか?」

 レイラは一通の手紙を魔王に手渡した。

「これを読めば、きっとわたくしのことは綺麗さっぱり忘れるはずですわ」

 綺麗さっぱり忘れられる手紙の内容が気になる……。気にはなるが他人の恋路に首を突っ込むほど野暮じゃない。

「この髪飾りはどうする? レイラが貰うものだったんでしょ?」

「それは既に美羽の物ですわ。美羽がそれで皆を笑顔にしてあげて下さいませ」

「ありがとう」

 私がお礼を言うと、レイラは満面の笑みでコタツに入ってきた。

「そんなことより、お二人ともおめでとうございます。わたくしはいつお二人がくっつくのかドキドキワクワクしながら見ておりましたのよ。美羽が他の殿方を選ばなくて安心致しましたわ」

「へへ、恥ずかしいね」

「拓海達も今度お祝いしてくれるらしいぞ」

 そう、拓海と田中には実は魔王と付き合う前に告白の返事はしている。その後、魔王と恋仲になったことも複雑そうな顔で認めてくれている。

 拓海と田中はキャラの濃い乙女ゲームの攻略対象と違ってあっさりしていた。二人同時にお断りの返事をすると、拓海と田中は口々に言った。

『やっぱなぁ。美羽は小さい頃から俺のこと幼馴染としか見てないもんな。ショックだけど、美羽の幼馴染は俺しかいないから、そこは誰にも譲らないから!』

『良いなぁ幼馴染ってだけで特別じゃん。俺なんてただのクラスメイトだよ。美羽、ちゃんと振ってくれてありがとう』

 二人がその後泣いていたことは小夜から聞いた。二人にも幸せになってもらいたいとつくづく思った。
 
 ——こうして私は恋愛のあれこれをひと通り清算できたのではないかと思う。
 
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