隣に住む先輩の愛が重いです。

陽七 葵

文字の大きさ
11 / 31
第一章

第11話 嫌いな人は良い匂いがしないらしい。

しおりを挟む
 コンビニでおにぎりと唐揚げを購入し、再度ビーチにやってきた。

「智、そんなので足りるの?」
「三笠先輩こそ、サンドウィッチだけじゃないですか。それに、こんな時間にガッツリ食べたら、三笠先輩のご飯が食べられなくなりそうで」
「はは、俺の手料理そんなに食べたいんだ」
「もちろん!」

 残り三週間しか食べられないと思うと、今日のこの一食でさえ勿体無いと思ってしまう。

「こことか座れそうだね」

 三笠先輩が、砂浜にある大きな二つの流木を指さした。そして、三笠先輩がその一つに座る。僕も向かい側にあるもう一つの流木……には座らず、三笠先輩の横に並んで座った。

 まだ、面と向かっては顔を見られない。

「智……?」
「何でしょう」

 コンビニ袋からサンドウィッチを取り出し、三笠先輩に手渡す。三笠先輩は、それを受け取りながら弱々しく聞いてきた。

「えっと……俺の隣、嫌なんじゃないの?」
「誰が嫌って言ったんですか」
「だって、今日も全然隣歩いてくれないし」
「それは、だって……」

 おにぎりの包装を丁寧に破りながら、小さな声で言った。

「三笠先輩が格好良いから」
「え? ごめん、聞こえなかった」

 三笠先輩が少しこちらに顔を寄せてきたので、ドキリとした。

 理由を何度も言いたくはないが、三笠先輩は僕が隣を歩かないことを至極気にしている。言わなければ、その度に寂しい顔をさせるようになるのかと思うと、言うしかない。

「三笠先輩が格好良いから、僕のダサさが際立つんですよ」

 照れを隠すように、おにぎりをパクリと頬張った。海苔がパリパリしていて美味しい。

 三笠先輩が何の返事もしないので、チラリと横を見れば、三笠先輩は呆気に取られていた。

「理由って、本当にそれだけ?」
「それだけって、随分と大事なことですよ。僕のメンタルの弱さ舐めないで下さいよ」
「俺のこと嫌いなんじゃ……?」
「嫌いなら一緒にいませんよ」

 むしろ好きだ。見ず知らずの三笠先輩の彼女……いなかったが、そんな相手にも嫉妬してしまう程に。

 ただ、何度も言うが、恋愛の好きかは分からない。何せ相手が男だから。一緒に住んでいるから、三笠先輩は僕のものだと勘違いしているのだと思う。兄が誰かに取られた……多分、そんな感覚の嫉妬……だと思っている。

「本当に? 本当に嫌ってない?」

 嬉しそうに、けれど不安そうに聞いてくる三笠先輩。いつもならここでスキンシップでもしてくるのに、してこない。何だか少し物足りない気分になりながら、僕は言った。

「まだ知り合って一週間ちょっとですけど、三笠先輩の良いところ沢山見ましたから」
「例えば?」
「え、それ聞きます?」
「うん。聞きたい」

 期待の眼差しを向けられ、若干引き気味に応える。

「ご飯が美味しい」
「それは、知ってる。他には?」
「えっと、顔が良い」
「それも知ってる。後は?」
「後は…………」

 後は何だ?

 部屋は汚いし、言っても聞かないし、マイペースだし、バイトは覗きにくるし、酒癖も悪い。良いところが出て来ない。

 しかし、他にも何か言わないと。何か……。

「あ、そうだ。三笠先輩は良い匂いがします」
「良い匂い? それなら智も同じでしょ。同じシャンプーとか洗剤使ってるんだから」
「そうなんですけど。そうじゃなくって、どんなに良い匂いでも、嫌いな人の匂いは不快に感じるらしいですよ」
「へぇ」

 少しは納得してくれただろうか。
 それにしても、反対に聞きたい。一週間ちょっとで、僕のどこを好きになったのかと。

「わッ! 三笠先輩?」

 三笠先輩が、犬のように僕の周りをクンクンと嗅ぎ出した。

「本当だ。良い匂いする」
「も、もう。やめて下さいよ。これは洗剤の匂いですから」

 恥ずかしくなって、残りのおにぎりを口の中に放り込んで立ち上がった。

「洗剤は関係ないって言ったの智じゃん」
「そ、そうですけど」

 三笠先輩から逃げるように移動すれば、三笠先輩も同じようについてきた。

「何で逃げるの?」
「何でって、三笠先輩がついてくるから」
「智が逃げるからじゃん」
「じゃあ付いてこないで下さいよ」

 ヤバい。

 側から見れば、カップルが海辺でウフフ、アハハと笑い合いながら追いかけっこをしているような構図になっている。

 ここで海の水なんてかけられたなら——。

 パシャッ!

 三笠先輩が海水をかけてきた。

 これはもう、いつぞやの少女漫画のようにやるしかない。

「三笠先輩。やりましたね」

 僕も靴を脱いでズボンを捲り、海の中に足を入れた。

「冷たッ!!」

 海水は、ひんやり冷たいが、それがまた気持ち良い。

 僕も仕返しとばかりに、三笠先輩に向けて海水をパシャッとかけた。

「ははは。智、下手すぎ」

 三笠先輩には、全くかからなかった。

 笑われたことに若干イラッとしたが、三笠先輩の笑顔を見てホッとした。

「三笠先輩、戻りますよ」
「えー」 
「『えー』って、転んでビシャビシャになったらどうすんですか。レンタカー返さなきゃなのに」
「そうなったら、延長してアソコに泊まるしかないね」

 三笠先輩は、道路沿いを指差した。その先を見れば、一軒のラブホテル。

「なッ!?」
「冗談だよ。行こう」

 三笠先輩が、笑って手を差し出してきた。その手を取るが、僕は三笠先輩の気持ちを知っているばっかりに冗談に聞こえない。

(でも、男同士ってどうやってするんだろ)

 童貞の僕には到底分からないが、ぼんやりと三笠先輩に押し倒される妄想に囚われる。

「智?」
「あ、は、はい。何でしょう」
「顔が真っ赤だけど大丈夫? 潮風に当たりすぎた?」
「い、いえ……」

 三笠先輩とエッチなことをしている妄想をしていた……なんて言えるはずない。

 そして、これはただの興味であって、決して三笠先輩としたいとか、そういうのではない……と、思う。男ならそういうことを一度はしたいと思うお年頃なのだ。

 ——自分の気持ちに気付かないフリをしながら、僕は三笠先輩の手をギュッと握って海辺を歩いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

殿堂入りした愛なのに

たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける) 今日からはれて高等部に進学する。 入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。 一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。 両片思いの一途すぎる話。BLです。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

【完結】好きじゃないけど、付き合ってみる?

海野雫
BL
大学3年の直人(なおと)は、恋愛経験ゼロ。人付き合いは苦手ではないが、誰かを「好きになる」感情がよくわからない。付き合ってる友人たちを見ても、自分には縁のない話だと思っていた。 ある日、部活の後輩である健(けん)が「一緒にルームシェアしませんか?」と持ちかけてくる。引っ越しを考えていた直人は、悪くない条件にOKを出し、ふたりの同居生活が始まる。 快適すぎる日々。健は料理も掃除もできて、適度に距離を保ってくれる最高のルームメイト。
しかしある夜、健がポツリと呟く。 「……元カレ、まだ忘れられないんです」
「ねえ先輩。付き合ってみませんか?――“好きじゃなくてもいいから”」 からかわれていると思いながらも、冗談めかして了承してしまう直人。
それが、まさかの擬似恋人生活の始まりだった。 恋人ごっこなのに手をつないだり、映画を観に行ったり、肩を貸したり。
最初はただの遊びだったのに、直人はだんだん健が笑うと嬉しくて、泣くと苦しいと感じるようになっていく。 一方、健は「直人に本気になってはいけない」と自分に言い聞かせていたが、直人の優しさや真面目さに、次第に惹かれ始める。 擬似恋人から始まった関係は、本物の「好き」に変わるのか? 本気になったとき、ふたりはどう答えを出すのか――。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

処理中です...