陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵

文字の大きさ
34 / 36
第二章

第34話 頼みすぎに注意

しおりを挟む
 結局、蓮が来る方が早かった。
 店を出るタイミングを逃した俺は、再び聞き耳を立てた。

「松田先輩。僕どうしたら……」
「蓮君……」
「僕の何がいけなかったんですかね」
「…………とりあえず、何か食べる? 全然食べてないでしょ?」

 見た目で分かるほど、蓮はゲッソリしているのだろうか。覗いたらバレるので覗けない。

「この際、二人でやけ食いしちゃう? ぼくも改めてフラれちゃってさ、もう何なんだーって感じなんだよね」
「松田先輩……食べましょう。この際、太っても良いです。むしろ、太ったからフラれたと思う方が諦めがつきます」

 蓮は開き直ったように、タッチパネルを操作しているようだ。次から次へと注文ボタンの音が聞こえてくる。

「あ、蓮君。これも注文お願い」
「分かりました」

 松田先輩も、一緒になって頼んでいるようだ。

「アイツら、何個注文してんねん。残したらタダじゃすまさへんで」
「海斗君……」
「何や? おれは残してへんで?」
「いや、何も言ってないって」

 新城先生は、財布の中身を確認している。

「光希、お腹壊さないと良いが。それに、お金大丈夫かな……」

 まるで保護者のような心配様だ。

 一通り注文し終えたようで、タッチパネルの音は止まり、店内のBGMの方が大きく聞こえてくる。
 
「でもさ、何でフラれちゃったの? 理由は教えてくれたの?」
「晴翔の友人が言うには、僕の愛が異常らしいです」
「はは……まぁ、蓮君のは、今に始まったことじゃないよね」

 まるで知った様な口振り。
 俺よりも蓮のことを知っているようで、モヤッとする。

「でも、僕。松田先輩以外には打ち明けたことなかったんですよ。それなのに、何で晴翔は知っちゃったんだろう……」
「え、ぼくは言ってないよ。秘密は守る主義だから」
「ですよね」

 二人だけの秘密。幼馴染で、常に一緒にいたのに、俺には内緒だなんて酷すぎる。
 しかし、その秘密が俺にバレた? どういうことだろうか。俺は、知らない間に蓮の秘密を握ったのだろうか。

「なぁなぁ、晴翔。蓮の秘密って何なん?」
「さぁ……?」
「それにしても、光希がおれ以外の男と喋ってるとモヤモヤするのは何故だろう」
「え、先生。それ恋やないん?」
「恋!?」

 声が大きすぎて、思わず新城先生の口を塞いでしまった。

「あれ? 司君?」
「松田先輩、どうしたんですか?」
「いや、司君の声が聞こえて」
「新城先生ですか?」
「はは……さっき帰っちゃったから聞こえる訳ないのにね」
「松田先輩……」

 何とかバレなかったようだ。俺は新城先生の口元から手を離す。目で怒りを訴えられたので、同じく目で謝罪をしておいた。

「お待たせ致しました。注文の品をお持ちしました」

 店員三名が並んで蓮の机に次々と料理を運んで行った。読み上げる品数は、十をはるかにこえている。

「「いただきます」」

 気持ちの良いほどに聞こえてくる咀嚼音。皿が綺麗になって行くのが分かる。

「でもさ、蓮君。文化祭で会った時の晴翔君。蓮君のこと大好きって感じだったよ」
「そうですかね。晴翔、意外に演技上手いから」
「確かにね。あの劇で観た最後の涙は、本物だったね」
「え、先輩。先に帰ったんじゃないんですか?」
「可愛い後輩が出るんだよ。観て帰るに決まってるじゃん」

 帰ると嘘を吐いてまで松田先輩は、蓮のことを……。

「はは……じゃあ、僕のダメダメな演技も観ちゃったんですね」
「蓮君も格好良かったよ。てかさ、蓮君高校入って更に人気者になったよね。ぼくなんかとご飯食べてて大丈夫?」
「中学ん時も言いましたけど、僕は松田先輩が良いんです」
 
 『松田先輩が良い』そこだけ強調されたように聞こえ、胸がズキリと痛い。

「いつも蓮君は、ぼくが喜ぶ言葉を言ってくれるよね」
「たまたまですよ」

 僕といる時より自然体で、楽しそう。そんな蓮の声をもう聞きたくなかった。
 二人の恋を応援しようと思ったのに、このままでは悪役に成り下がってしまいそうだ。

「俺、海斗君と付き合う」
「晴翔?」
「海斗君は、俺のこと好きなんだよね? 俺のことだけ愛してくれるんだよね?」
「はぁ……」

 海斗は、深い溜め息を吐いて、困惑した表情で頭を掻いた。

「おれ、今の晴翔とは付き合えへん」
「何で? だって海斗君が」
「晴翔、アイツのことしか見てへんやん。そんなにおれ、心広うないねん」

 海斗にも見放され、俺はもうダメかもしれない。

「新城先生。退いて下さい」
「トイレか?」
「いえ、お金は学校で払いますから。宜しくお願いします」
「あ、ああ……佐倉、大丈夫か?」

 新城先生が心配しながら退いた瞬間、俺は出口に向かって大股で歩いた。

「え、司君? 帰ったんじゃ……てか、今の晴翔君?」
「……晴翔!?」

 蓮が追いかけてきた。

「蓮! 頼んだ物は全部食べなよ!」

 強く言えば、蓮はその場で右往左往している。

「晴翔! そこで待ってて!」

 待てと言われて待つほど、今の俺の心は穏やかではない。
 店を出た瞬間、俺は誰にも追い付かれない様に走り出した——。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

隣に住む先輩の愛が重いです。

陽七 葵
BL
 主人公である桐原 智(きりはら さとし)十八歳は、平凡でありながらも大学生活を謳歌しようと意気込んでいた。  しかし、入学して間もなく、智が住んでいるアパートの部屋が雨漏りで水浸しに……。修繕工事に約一ヶ月。その間は、部屋を使えないときた。  途方に暮れていた智に声をかけてきたのは、隣に住む大学の先輩。三笠 琥太郎(みかさ こたろう)二十歳だ。容姿端麗な琥太郎は、大学ではアイドル的存在。特技は料理。それはもう抜群に美味い。しかし、そんな琥太郎には欠点が!  まさかの片付け苦手男子だった。誘われた部屋の中はゴミ屋敷。部屋を提供する代わりに片付けを頼まれる。智は嫌々ながらも、貧乏大学生には他に選択肢はない。致し方なく了承することになった。  しかし、琥太郎の真の目的は“片付け”ではなかった。  そんなことも知らない智は、琥太郎の言動や行動に翻弄される日々を過ごすことに——。  隣人から始まる恋物語。どうぞ宜しくお願いします!!

人気アイドルが義理の兄になりまして

三栖やよい
BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

処理中です...