陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵

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第二章

第18話 転入生は、あの時の彼。

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 修学旅行から一日休んだ後の教室では。

「さて、あまり日はないですが、次は文化祭です。前に聞いた意見を書き出すとこんな感じになりました」

 黒板には『お化け屋敷』『合唱』『展示』『カフェ』『模擬店』『劇』等が書き出されている。

「他にも意見のある方は今の内に言って下さいね」

 文化祭実行委員が教壇で仕切れば、クラスメイトらは元気に返事した。

「大丈夫でーす」
「多数決で決めちゃお」
「はいはーい。カフェしたいでーす」
「女子のメイド服見たいでーす」
「男子、キモすぎ」

 文化祭実行委員は、苦笑しながら先に進める。

「では、クラスの出し物は、多数決で良いですか」
「「「はーい」」」

 そして、多数決がとられる。

 俺はどれも苦手だが、人前で何かするなんて出来ない。展示に一票。

 結果、『劇』に決定。
 多数決なので仕方ない。

 演目が決まる前に、とりあえず主役の王子様的な役は、学校一のイケメンで人気者の蓮に決定。これは、想定内。

 俺は裏方に回ろうと思い、小道具作りで挙手をしようとしたその時——。

「ヒロイン役は、佐倉君が良いと思います!」

 クラスメイトの女子の一人が言った。それに対し、次々と賛同の嵐。

「良いじゃん良いじゃん」 
「賛成!」
「話題のカップルがやれば、大盛況間違いなしだな」

 学校では、俺と蓮が付き合っていることになっている。実際にそうなってしまった訳だが、俺がヒロインなんてあり得ない。

「いや、俺は……」

 人前に出ることは勿論、劇なんてやったことがない。クラスで発言するのでさえ苦手な陰キャの俺が、ヒロインなんて出来るはずもない。

「俺、男だし……」
「最近は、そういうの流行ってるから大丈夫だよ」
「だよね。去年も舞台に出るのは全員男子ってのあったよね」
「うん。あったあった」

 口々に言われ、焦る俺。

「でも、俺。そういうの苦手だからさ……」

 勇気を振り絞って断れば、クラス委員が言った。

「佐倉君。謙遜しすぎるのは良くないよ」

 その一言に、クラスメイト達は、うんうんと頷いた。例外で、三崎と山田は笑いを堪えている。

 以前も話したが、人気者の蓮と付き合えるのは、それ相応の人だと思われている。故に、俺も蓮同様に、本当は何でも出来る男だと勘違いされている。全てにおいて平均以下なのに——。

 それを知っている三崎と山田は、俺の不幸を笑っている訳だが、この二人も人前で意見を言うタイプではないので、助けてくれないだろう。

 この状況を自力でどうにかするしかないが、皆の期待の眼差しが痛いほどに突き刺さる。

 それ以上の反論が出来なくなった俺。

「蓮……」

 斜め後ろにいる蓮に助けを求めた。

 すると、蓮は『任せて』と、目くばせしてきた。

 助かった——と思ったその時、蓮が爽やかな笑顔で皆に向けて言った。

「演目だけど、『人魚姫』が良いんじゃないかな?」
「……え」

 初めてだ。初めて蓮が助けてくれなかった。

 はっきり断れない俺に嫌気をさしたのだろうか。こんな俺じゃ、やっぱり嫌なのだろうか。

 余計なことは考えないと決めたばかりだったのに、頭の中でぐるぐるぐるぐる考える。

 もう周りの話は入って来ない。何だか絶望の中にいるような気分になってきた。

 そんな時だった。

 ガラガラガラガラ——。

 教室の扉が開いた。

「ここやな」
「ちょっと君、転入は明日からでしょう」
「ええやないか。下見や下見」

 聞き覚えのある声。喋り方。

「海斗……君?」

 そこには、修学旅行で出会った男子高校生の姿があった。

「お、この前の……名前なんやったかな。同じクラスやねんな。ラッキー!」

 海斗に手を振られ、小さく振り返す。

「明日から転校してくんねん」
「こら、海斗!」

 スーツ姿の女性が現れ、海斗の首根っこを掴んだ。多分海斗の母親だろう。顔がそっくりだ。

「手続きやら色々あるんやから、勝手にウロウロしーひんの!」
「はぁい。ほなな」

 海斗はニカッと笑って、嵐のように去っていった——。

 そして、クラス中がざわついた。

「何あのイケメン」
「関西弁……イイ」
「転校って、うちに?」
「彼女いるのかな?」

 特に女子達がざわついている。

 蓮以外眼中に無かったが、確かに見た目は蓮と同じくらい顔が良い。

「佐倉君、知り合いなの?」

 後ろの席の女の子が聞いてきた。

「修学旅行の時に……」

 応えようと後ろを振り向けば、険しい蓮の顔が目に映った。目が合った瞬間、それは笑顔に変わった。しかし、目が笑っていないので怖すぎる。

 すぐに前を向き直すが、蓮の視線を感じて背筋が伸びる。

 何もしていないのに何かやらかしたような、そんな気持ちになっていると、文化祭実行委員がパチンと手を叩いた。

「はい! では、これで良いですか?」

 数秒の沈黙が流れる。

「はい。異論はないようなので、これで決まりということで」

 いつの間にやら、演劇の役割り分担も大方決まっていた。

 海斗が転入してくることも勿論気になるが、俺は蓮に見捨てられたのではないかという不安だけが残った——。
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