1 / 25
第1話 出会い
しおりを挟む
キラキラと輝く小川の一角に、小魚が七匹群がっている。
膝上までズボンを捲り上げ、腕捲りもする。片足ずつそっと水の中に入れば、小魚が散った。
けれど、じっと待てば、再び小魚が集まってきた。それら目掛けて、そーっと手を伸ばす。気付かれないように静かに……静かに……。
「今だ!」
パシャッと音がしたと同時に、手応えを感じた。手には小魚が一匹ピチピチと水しぶきを立てながら跳ねている。
「よし、今日の晩御飯ゲット♪」
歓喜していると、岸に一人の青年が立っていた。
それは、この世界では珍しい黒い髪をしていた。
『黒髪の人間に出会ったら気をつけなさい。それは悪魔じゃ』
これが昔からこの村での言い伝え。
しかし、その美しさに目を奪われる。
真っ黒なローブを身に纏い、フードだけ後ろにずらしている彼は、どこぞの王子様より美しい容姿をしている。
襟足までの漆黒の髪は無造作に整えられ、金色の瞳は全てを見透かしているように澄んでいる。スッと通った鼻筋に、形の良い唇。そして、陶器のように真っ白な肌。こんなに美しいものが悪魔だというなら、俺は悪魔になりたいとさえ思った。
そんな眉目秀麗な彼は、俺の存在に気付いたのか、こちらを向いた。
そして、手を翳してきた。
「え……」
突如として強い風が正面から吹いた。
刹那、後ろでドーンと大きな爆発音がした。
そして、人の悲鳴のようなものも聞こえる。
唖然としながら後ろを振り返る——。
そこには、男が五……いや、六人倒れていた。
頭が混乱する中、黒髪の彼がマントを翻す。
そのまま去ろうとするので、思わず声をかけた。
「あの!」
彼はその場に立ち止まり、俺を見据えた。
やや怯みながらも、口を開ける。
「あなたは、悪魔ですか?」
「左様。恐怖に慄くか?」
「おののく……?」
実は俺、まだ五歳。しかも平民だ。言葉の意味が理解できない。
鷲掴みにしていた小魚が、するりと手から逃げたが、俺は目の前の彼に釘付けだ。
「まぁ、良い。人攫いに気を付けることだな」
「人攫い?」
キョトンとしながら、後ろで倒れている人間らを見た。
「もしかして、俺を助けてくれた……?」
彼に向き直れば、その場にはもう彼の姿は無かった——。
◇◇◇◇
それから十三年の月日が過ぎた。
つまり、俺は十八歳。立派な大人だ。
「よう、ジーク。新しい依頼入ってたぜ」
「さんきゅ」
「そろそろオレらのパーティ入んねぇ?」
「はは、俺はいいや」
俺は悪魔の彼に会いたくて、礼を言いたくて三年前からソロの勇者をしている。
あ、自己紹介がまだだった。
俺の名はジーク。赤髪にブラウンの瞳をした、悪魔の彼と違って、どこにでもいる顔だ。鍛え上げた筋肉も、服を着れば全く分からない。
先日ゲットした伝説の剣エクスカリバーは、俺には不釣り合いなほどに大きく、ちゃんと持って歩けるのか周りから心配されるほどだ。
勇者の装備品を着けていなかったら、村人と何ら変わらない容姿。
けれど、自慢じゃないが俺のランクはSSだ。
最初はもちろん一年生。雑用やらの任務から地道に成果を残していった。
俺がここまで急激に成長を遂げたのは、とあるスキルに目覚めたからだ。
——魔法も使えない俺は、魔物相手に剣一本で戦っていた。
しかし、十六歳の誕生日を境に聞こえるようになったのだ。
(ふん、所詮人間。隙だらけだな。右ががら空きだ)
他者の心の声が。
それは、魔物や魔獣に対しても使えるようで、ある一定の距離にいる相手の心の声が筒抜けなのだ。
そこから一気に俺の時代がやってきた。
あとは魔界に行って、悪魔の彼に会いに行くだけ。
それが終われば、俺は勇者をやめて実家の宿屋を手伝いつつ、稼いだ金で新規事業なんてのも良い。とにかく、俺は職転換する予定だ。
あくまでも俺は彼に礼を言いたいだけなのだ。人攫いから救ってくれた悪魔の彼に。
だから仲間も作らない。
そりゃ、仲間がいたほうが心強い。魔界なんて一人で行くやつなんていない。
しかし、それだけ危険な場所なのだ。
俺の個人的な用件のために、他の誰かを危険になんてさらせない——。
アイテムショップへと入れば、剣や防具やらが並んでいる。
奥のカウンターにはガタイの良い男性店員の姿。
俺は今まで揃えた自身の戦闘用の道具を、数十個店員の前に並べる。
「これを売りたいんだが」
「これ全部かい?」
「ああ、全部だ。俺はこの剣一本あれば良い」
魔界には荷物になる。
何日滞在するかもわからないのに、宿を取るなんて勿体ない。
俺は必要最低限の荷物だけにしたいのだ。
「あ、一応、そのエリクサーだけ貰おうかな」
「了解。じゃ、差し引きで計算するから待っててくれ」
計算はすぐに終わり、俺はエクスカリバーとエリクサーだけを所持して、魔界に通ずると言われるトラヴァースの森に向かった——。
膝上までズボンを捲り上げ、腕捲りもする。片足ずつそっと水の中に入れば、小魚が散った。
けれど、じっと待てば、再び小魚が集まってきた。それら目掛けて、そーっと手を伸ばす。気付かれないように静かに……静かに……。
「今だ!」
パシャッと音がしたと同時に、手応えを感じた。手には小魚が一匹ピチピチと水しぶきを立てながら跳ねている。
「よし、今日の晩御飯ゲット♪」
歓喜していると、岸に一人の青年が立っていた。
それは、この世界では珍しい黒い髪をしていた。
『黒髪の人間に出会ったら気をつけなさい。それは悪魔じゃ』
これが昔からこの村での言い伝え。
しかし、その美しさに目を奪われる。
真っ黒なローブを身に纏い、フードだけ後ろにずらしている彼は、どこぞの王子様より美しい容姿をしている。
襟足までの漆黒の髪は無造作に整えられ、金色の瞳は全てを見透かしているように澄んでいる。スッと通った鼻筋に、形の良い唇。そして、陶器のように真っ白な肌。こんなに美しいものが悪魔だというなら、俺は悪魔になりたいとさえ思った。
そんな眉目秀麗な彼は、俺の存在に気付いたのか、こちらを向いた。
そして、手を翳してきた。
「え……」
突如として強い風が正面から吹いた。
刹那、後ろでドーンと大きな爆発音がした。
そして、人の悲鳴のようなものも聞こえる。
唖然としながら後ろを振り返る——。
そこには、男が五……いや、六人倒れていた。
頭が混乱する中、黒髪の彼がマントを翻す。
そのまま去ろうとするので、思わず声をかけた。
「あの!」
彼はその場に立ち止まり、俺を見据えた。
やや怯みながらも、口を開ける。
「あなたは、悪魔ですか?」
「左様。恐怖に慄くか?」
「おののく……?」
実は俺、まだ五歳。しかも平民だ。言葉の意味が理解できない。
鷲掴みにしていた小魚が、するりと手から逃げたが、俺は目の前の彼に釘付けだ。
「まぁ、良い。人攫いに気を付けることだな」
「人攫い?」
キョトンとしながら、後ろで倒れている人間らを見た。
「もしかして、俺を助けてくれた……?」
彼に向き直れば、その場にはもう彼の姿は無かった——。
◇◇◇◇
それから十三年の月日が過ぎた。
つまり、俺は十八歳。立派な大人だ。
「よう、ジーク。新しい依頼入ってたぜ」
「さんきゅ」
「そろそろオレらのパーティ入んねぇ?」
「はは、俺はいいや」
俺は悪魔の彼に会いたくて、礼を言いたくて三年前からソロの勇者をしている。
あ、自己紹介がまだだった。
俺の名はジーク。赤髪にブラウンの瞳をした、悪魔の彼と違って、どこにでもいる顔だ。鍛え上げた筋肉も、服を着れば全く分からない。
先日ゲットした伝説の剣エクスカリバーは、俺には不釣り合いなほどに大きく、ちゃんと持って歩けるのか周りから心配されるほどだ。
勇者の装備品を着けていなかったら、村人と何ら変わらない容姿。
けれど、自慢じゃないが俺のランクはSSだ。
最初はもちろん一年生。雑用やらの任務から地道に成果を残していった。
俺がここまで急激に成長を遂げたのは、とあるスキルに目覚めたからだ。
——魔法も使えない俺は、魔物相手に剣一本で戦っていた。
しかし、十六歳の誕生日を境に聞こえるようになったのだ。
(ふん、所詮人間。隙だらけだな。右ががら空きだ)
他者の心の声が。
それは、魔物や魔獣に対しても使えるようで、ある一定の距離にいる相手の心の声が筒抜けなのだ。
そこから一気に俺の時代がやってきた。
あとは魔界に行って、悪魔の彼に会いに行くだけ。
それが終われば、俺は勇者をやめて実家の宿屋を手伝いつつ、稼いだ金で新規事業なんてのも良い。とにかく、俺は職転換する予定だ。
あくまでも俺は彼に礼を言いたいだけなのだ。人攫いから救ってくれた悪魔の彼に。
だから仲間も作らない。
そりゃ、仲間がいたほうが心強い。魔界なんて一人で行くやつなんていない。
しかし、それだけ危険な場所なのだ。
俺の個人的な用件のために、他の誰かを危険になんてさらせない——。
アイテムショップへと入れば、剣や防具やらが並んでいる。
奥のカウンターにはガタイの良い男性店員の姿。
俺は今まで揃えた自身の戦闘用の道具を、数十個店員の前に並べる。
「これを売りたいんだが」
「これ全部かい?」
「ああ、全部だ。俺はこの剣一本あれば良い」
魔界には荷物になる。
何日滞在するかもわからないのに、宿を取るなんて勿体ない。
俺は必要最低限の荷物だけにしたいのだ。
「あ、一応、そのエリクサーだけ貰おうかな」
「了解。じゃ、差し引きで計算するから待っててくれ」
計算はすぐに終わり、俺はエクスカリバーとエリクサーだけを所持して、魔界に通ずると言われるトラヴァースの森に向かった——。
33
あなたにおすすめの小説
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
伯爵令息アルロの魔法学園生活
あさざきゆずき
BL
ハーフエルフのアルロは、人間とエルフの両方から嫌われている。だから、アルロは魔法学園へ入学しても孤独だった。そんなとき、口は悪いけれど妙に優しい優等生が現れた。
黒豚神子の異世界溺愛ライフ
零壱
BL
───マンホールに落ちたら、黒豚になりました。
女神様のやらかしで黒豚神子として異世界に転移したリル(♂)は、平和な場所で美貌の婚約者(♂)にやたらめったら溺愛されつつ、異世界をのほほんと満喫中。
女神とか神子とか、色々考えるのめんどくさい。
ところでこの婚約者、豚が好きなの?どうかしてるね?という、せっかくの異世界転移を台無しにしたり、ちょっと我に返ってみたり。
主人公、基本ポジティブです。
黒豚が攻めです。
黒豚が、攻めです。
ラブコメ。ほのぼの。ちょびっとシリアス。
全三話予定。→全四話になりました。
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする
拍羅
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。
前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち…
でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ…
優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。
災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!
椿谷あずる
BL
かつて“災厄の魔導士”と呼ばれ恐れられたゼルファス・クロードは、転生後、平穏に暮らすことだけを望んでいた。
ある日、夜の森で倒れている銀髪の勇者、リアン・アルディナを見つける。かつて自分にとどめを刺した相手だが、今は仲間から見限られ孤独だった。
平穏を乱されたくないゼルファスだったが、森に現れた魔物の襲撃により、仕方なく勇者を連れ帰ることに。
天然でのんびりした勇者と、達観し皮肉屋の魔導士。
「……いや、回復したら帰れよ」「えーっ」
平穏には程遠い、なんかゆるっとした日常のおはなし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる