囚われの勇者〜スキルで魔王の心の声を聞いたら、どうやら俺は魔王に溺愛されているようだ〜

陽七 葵

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第1話 出会い

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 キラキラと輝く小川の一角に、小魚が七匹群がっている。
 膝上までズボンを捲り上げ、腕捲りもする。片足ずつそっと水の中に入れば、小魚が散った。
 けれど、じっと待てば、再び小魚が集まってきた。それら目掛けて、そーっと手を伸ばす。気付かれないように静かに……静かに……。

「今だ!」

 パシャッと音がしたと同時に、手応えを感じた。手には小魚が一匹ピチピチと水しぶきを立てながら跳ねている。

「よし、今日の晩御飯ゲット♪」

 歓喜していると、岸に一人の青年が立っていた。
 それは、この世界では珍しい黒い髪をしていた。

『黒髪の人間に出会ったら気をつけなさい。それは悪魔じゃ』

 これが昔からこの村での言い伝え。
 しかし、その美しさに目を奪われる。
 真っ黒なローブを身に纏い、フードだけ後ろにずらしている彼は、どこぞの王子様より美しい容姿をしている。
 襟足までの漆黒の髪は無造作に整えられ、金色の瞳は全てを見透かしているように澄んでいる。スッと通った鼻筋に、形の良い唇。そして、陶器のように真っ白な肌。こんなに美しいものが悪魔だというなら、俺は悪魔になりたいとさえ思った。

 そんな眉目秀麗な彼は、俺の存在に気付いたのか、こちらを向いた。
 そして、手を翳してきた。

「え……」

 突如として強い風が正面から吹いた。
 刹那、後ろでドーンと大きな爆発音がした。
 そして、人の悲鳴のようなものも聞こえる。

 唖然としながら後ろを振り返る——。
 そこには、男が五……いや、六人倒れていた。

 頭が混乱する中、黒髪の彼がマントを翻す。
 そのまま去ろうとするので、思わず声をかけた。

「あの!」

 彼はその場に立ち止まり、俺を見据えた。
 やや怯みながらも、口を開ける。

「あなたは、悪魔ですか?」
「左様。恐怖におののくか?」
「おののく……?」

 実は俺、まだ五歳。しかも平民だ。言葉の意味が理解できない。
 鷲掴みにしていた小魚が、するりと手から逃げたが、俺は目の前の彼に釘付けだ。

「まぁ、良い。人攫いに気を付けることだな」
「人攫い?」

 キョトンとしながら、後ろで倒れている人間らを見た。

「もしかして、俺を助けてくれた……?」

 彼に向き直れば、その場にはもう彼の姿は無かった——。
 
◇◇◇◇

 それから十三年の月日が過ぎた。
 つまり、俺は十八歳。立派な大人だ。

「よう、ジーク。新しい依頼入ってたぜ」
「さんきゅ」
「そろそろオレらのパーティ入んねぇ?」
「はは、俺はいいや」

 俺は悪魔の彼に会いたくて、礼を言いたくて三年前からソロの勇者をしている。

 あ、自己紹介がまだだった。
 俺の名はジーク。赤髪にブラウンの瞳をした、悪魔の彼と違って、どこにでもいる顔だ。鍛え上げた筋肉も、服を着れば全く分からない。
 先日ゲットした伝説の剣エクスカリバーは、俺には不釣り合いなほどに大きく、ちゃんと持って歩けるのか周りから心配されるほどだ。
 勇者の装備品を着けていなかったら、村人と何ら変わらない容姿。
 けれど、自慢じゃないが俺のランクはSSだ。

 最初はもちろん一年生。雑用やらの任務から地道に成果を残していった。
 俺がここまで急激に成長を遂げたのは、とあるスキルに目覚めたからだ。

 ——魔法も使えない俺は、魔物相手に剣一本で戦っていた。
 しかし、十六歳の誕生日を境に聞こえるようになったのだ。

(ふん、所詮人間。隙だらけだな。右ががら空きだ)
 
 他者の心の声が。
 それは、魔物や魔獣に対しても使えるようで、ある一定の距離にいる相手の心の声が筒抜けなのだ。
 そこから一気に俺の時代がやってきた。
 
 あとは魔界に行って、悪魔の彼に会いに行くだけ。
 それが終われば、俺は勇者をやめて実家の宿屋を手伝いつつ、稼いだ金で新規事業なんてのも良い。とにかく、俺は職転換する予定だ。
 あくまでも俺は彼に礼を言いたいだけなのだ。人攫いから救ってくれた悪魔の彼に。
 だから仲間も作らない。
 そりゃ、仲間がいたほうが心強い。魔界なんて一人で行くやつなんていない。
 しかし、それだけ危険な場所なのだ。
 俺の個人的な用件のために、他の誰かを危険になんてさらせない——。

 アイテムショップへと入れば、剣や防具やらが並んでいる。
 奥のカウンターにはガタイの良い男性店員の姿。
 俺は今まで揃えた自身の戦闘用の道具を、数十個店員の前に並べる。

「これを売りたいんだが」
「これ全部かい?」
「ああ、全部だ。俺はこの剣一本あれば良い」
 
 魔界には荷物になる。
 何日滞在するかもわからないのに、宿を取るなんて勿体ない。
 俺は必要最低限の荷物だけにしたいのだ。

「あ、一応、そのエリクサーだけ貰おうかな」
「了解。じゃ、差し引きで計算するから待っててくれ」

 計算はすぐに終わり、俺はエクスカリバーとエリクサーだけを所持して、魔界に通ずると言われるトラヴァースの森に向かった——。 
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