囚われの勇者〜スキルで魔王の心の声を聞いたら、どうやら俺は魔王に溺愛されているようだ〜

陽七 葵

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第2話 監禁

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 トラヴァースの森の中は、そこらにある森となんら変わりはない。
 歩けば、小動物が草陰に隠れ、周りに危険を伝えるように鳴いている。
 そんな中、魔物の心の声が頭に響く。

(お、久々に人間の匂いだ)
(なんだ。一人か)
(逃げられたら勿体ねーから、奥に来るまで様子みるか)
(誰よりも先に食ってやる)
(あれは、オイラの獲物だ)

 魔物がそれぞれの感情をむき出しにしながら、コチラに向かってきているのが分かる。同時に、小動物は俺よりも魔物を恐れ、ずっと遠くへ駆けていく。

 大剣に手をかけ、五感を研ぎ澄ませる。

(もらった!)

 魔物の心の声と同時に、俺は剣を縦に一振りする。ドラゴンが悲鳴をあげて血飛沫が宙に舞った。

「お、一発目がドラゴンか」

 そして剣を斜め上に切り上げた。

「ギャァァ」

 次は狼型の魔物が真っ二つに切れた。
 そうやって次々に倒していく。

 これもスキルがあってこそだが、俺自身相当身体能力は上がっている。これくらいの雑魚なら、傷一つ負うことなく倒せる。

 ——森の奥に向かってずんずんと進んでいると、落ちたらひとたまりもなさそうな崖の上に行き着いた。
 そこから覗き込むように下を見下ろす。

「うわぁ……ここだよな」

 この崖を飛び降りたら、魔界に転移出来るらしい。

 魔界に通ずる場所が、この森のこの場所だと教えてくれたのは、この三年間勇者として旅をする中で出会った魔物たち。
 先に訂正しておくが、仲良くなった訳ではない。倒すついでに情報収集したまでだ。

 これがガセなら俺は即死。
 手に汗を握りながら深呼吸をする。

「ふぅ~、大丈夫。自分を信じろ」

 目を固く瞑って飛び降りた。

「ギャァァァァァァァア! やっぱ無理!」

 叫んだところでもう遅い。
 俺は真っ逆さまに落ちている。
 祈るように両手を前に組んだ。

(父ちゃん、母ちゃん、親不孝者で悪かった。せめて、勇者として稼いだ金で楽しく暮らしてくれ)
 
 地面に叩きつけられる瞬間のこと——。
 
 ポスッと何かに抱き止められた。

 痛くない……意識もある。

(よっしゃ! 魔界行き成功♪)

 テンション高めに目を開ければ、ギョッとした。

「あ、えっと……その……」

 念願の悪魔様がそこにいた。
 何故か俺は、彼の腕の中。そして、悲しそうな彼の顔があった。

「何故、死のうとする?」
「え、俺はその……魔界に」
「魔界……? 言い訳は聞きたくない」
「言い訳って……」
「魔界に来ることが出来るのは魔力のある者のみであると、人間界でも常識になっていることくらいわれでも知っておる」
「え……そ、なの?」

 いかんせん、俺は平民だ。
 言葉は喋れるが、読み書きは出来ない。
 金の計算しか教わらなかった。
 あとは、家事やら農業の知識くらいしか身についていない。

 つまり、俺は彼がいなかったら死んでいた……と、そういうことか。

「えっと、ありがとうございます。それに十三年前も助けて頂いて……」

 一応、礼は出来た。
 俺の自己満足もこれで終わり。
 これからは、実家の宿屋を手伝いながら家庭を築き、のんびりと暮らそう。

「あの、もう大丈夫ですので、下ろし」
われと共に来い」
「え」

 彼の金色の瞳を見つめていると、意識が遠のくのが分かった。辺りは闇色に染まり、俺は完全に意識を手放した——。
 

◇◇◇◇

「魔王陛下。何故、人間など連れ帰って来たのです?」
「自ら命を絶とうとしていた」
「だからって」
其奴そやつは我のつがいなのだ」
「え、まさか……」
「ああ、アレッシオの生まれ変わりだ」

 ぼんやりと聞こえる会話。
 ひんやりと冷たく固い床。
 ゆっくりと目を開ければ、鉄格子が見えた。

「——ッ」

 体を起こすと、頭痛とめまいがした。
 しかし、我慢出来ない程でもない。
 頭を押さえながら辺りを見回した。

「ここは……」

 薄暗い部屋は、湿っぽくカビ臭い。鉄格子の外には大きな南京錠。完全に地下牢だ。

 ——シャラン。

 まさかの足には足枷がついている。
 混乱していると、コツコツと足音が階段の方から聞こえて来た。息を呑んで見つめれば、悪魔の彼が現れた。

「目覚めたか」

 妙にホッとした。
 ホッとする状況でないのは分かっているが、安心したのだからしょうがない。

「アレッ……今の名はジークだったか。其方そなたには、暫くここで生活してもらう」
「え」

 今の名? 暫くここで生活? 悪魔が俺を何故?

 頭の中はハテナでいっぱいだ。
 聞きたいことは山ほどあるが、一番聞きたいのは——。

「あなたのお名前を聞いても良いですか?」
「グレイズだ」

 十三年越しに、やっと聞けた。

 グレイズさん……グレイズさん……グレイズさん。心の中で連呼する。

 何だかニヤけてしまう。

「監禁されて嬉しいとは、相変わらず変わった奴だな」
「あ、いえ」

 緩んだ頬を引き締める。

「でも、やっぱこれ監禁なんですね……」

 何故、俺は監禁されたのか。
 やはり、勇者は歓迎されないのだろうか。
 これから殺されるのか。若しくは、魔族のエサになるのだろうか。それとも——。
 
 考えを張り巡らせていると、グレイズの心の声が聞こえてきた。

(何がそんなに此奴を追い詰めたのか。しかし、人間の此奴をいつまでもここに縛りつけるには限度がある。今にも倒れそうだ)

 それを聞いて、すっかり忘れていた頭痛と眩暈が戻ってきた。おそらく顔色も悪いのだろう。

 グレイズが南京錠の鍵をカチャリと開けた。そして、少し低めの入口から中に入って、俺の前に跪いた。

「グレイズ……さん?」

 グレイズの右手が、俺の頬を優しく包んだ。

「我の魔力を其方そなたに与える」
「え?」
「少しは楽になるはずだ」

 そう言って、口付けされた。

(え……え!? 何!? この状況!?)

 目を丸くしていると、グレイズの唇が離れた。

「どうだ? 少しは楽になったであろう?」
「あ、本当だ。頭、痛くない。目眩もしない」
「定期的にやるから安心しろ」

 そう言って、グレイズは牢の外に出た。そして、カチャリと鍵をかけ、ゆっくりと階段をのぼっていった——。

 一人残された俺は、顔が熱くなるのを手で押さえながらその場にへたりこむ。

「今のって……キスだよな? 定期的にキスされるのか?」

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