囚われの勇者〜スキルで魔王の心の声を聞いたら、どうやら俺は魔王に溺愛されているようだ〜

陽七 葵

文字の大きさ
5 / 25

第5話 愛しの人

しおりを挟む
 地上には出ることができた。
 脱出するまでに幾重もの鍵のかかった木の扉があったが、エクスカリバーで一刀両断。
 
 人間界に戻る方法は後々考えれば良い。
 ひとまず魔王城から脱出し、魔界のどこかに潜んで様子をみようと、そう思っていた。

「なんだよ、ここ……」

 地上に出た俺は、魔王城の外周を警備兵に見つからないよう隠れながら移動する。
 しかし、外周を一回りしたはずなのに、ないのだ。川の向こう側に続く橋が――。
 魔王城を取り囲むように、血のように真っ赤な大きな川が流れ、その川の向こうには荒れ果てた荒野。あちら側に行きたいのに、行く術がない。

「おい! 貴様、何者だ!?」

 警備兵に見つかってしまったようだ。鎧を身に纏った二足歩行の犬のような見た目をした魔人族が槍をこちらに向けてきた。

「人間? 何故、人間がここに。どうやって入ってきた!?」
「チッ」

 俺は剣を構えた。

「おい、どうした?」
「なんか人間の匂いがするぞ」

 もう一体、そしてまた一体と城の影から出てくる。
 あっという間に六体の警備兵に囲まれた。

 しかし、俺は曲がりなりにも勇者。グレイズ相手ならともかく、これくらいの敵ならなんてことない。
 俺は一体に斬りかかる——が、サッと黒い影が俺の剣を受け止めた。

「なッ、グレイズ……さん」

 剣を受け止めたのは、グレイズの腕。驚くことに、その腕には傷一つ付いていない。

「魔王陛下! 其奴そやつは、侵入者に御座います!」

 警備兵の一人が言えば、その場にいる全員に槍を突き付けられた。
 俺は剣をおろした。降参だ。
 魔王相手には、伝説の剣と呼ばれるエクスカリバーでさえ傷一つ負わせることができない。
 独学の体術と剣しか戦う術を持たない俺に敵うはずがない。

「武器をしまえ」

 グレイズが命令すれば、警備兵らはどよめいた。

「ですが、魔王陛下」
「我らに刃向かってきたのですよ」
「ここで殺した方が宜しいのでは」

 そんな彼らにグレイズは重圧をかけた。
 空気がズンッと一気に重くなり、立っているのもやっと……いや、俺はグレイズに支えられて立っている。警備兵らは地面に這いつくばっている。

「武器をしまえと言ったのが聞こえなかったのか?」
「も、申し訳ございません」
「直ちに……」

 口々に謝罪を述べれば、圧が消えた。
 そして、皆ホッとした表情を浮かべながら、ゆっくりと立ち上がる。

「ここにいる人間は、我が招いた」

 ここで再びざわつきそうになったが、二度も同じ失敗は繰り返さないようだ。警備兵らは、言葉を飲み込んだ。

「危害を加える輩は、何人なんびとたりとも容赦せん。よいな」
「「「「御意」」」」

 一斉に敬礼したので、圧倒される。
 そんな中、グレイズが優しく微笑みかけてきた。

「さ、ジーク。一旦我の部屋で休め。自傷せぬようにと思ったが、あの部屋では、ちと窮屈だったのだな」
「えっと……」

 窮屈ではあるが、魔王の部屋よりはマシな気がする。
 そして、この状況は一体……。

 警備兵らの心の声も疑問でいっぱいだ。

(魔王陛下の部屋に入れるだと? あの人間は何者だ?)
(俺が聞きたい)
(魔王陛下が笑ったの初めて見た)
(俺も。思わず胸がザワついたぞ)
(あの人間、もしや何か特殊な能力でもあるのか?)
(ないない。人間の中では強い方だけど、さっきも見たようにグレイズさんには敵わないから)
(つい部屋で休めと言ったが、我は自制が効くだろうか)
(自制? 何の? って、これ、グレイズさんの心の声じゃん!)

 一人ひとりの心の声に突っ込みを入れてしまったが、せっかく逃げ出したのに振り出しに戻ってしまった。いや、状況は悪化している。
 そして、最後のグレイズの心の声はどういう意味か。

「さ、行こう」

 グレイズの一言で視界が一変。超豪華な部屋の中にいた。
 赤と黒を基調とした、如何にも魔王の部屋といった印象だ。燭台や装飾は平民の俺でも分かるほどに高級そうで、ベッドもキングサイズ。ふかふかな真っ赤な絨毯は、立っているだけで気持ちいい。そして、大きな机には書類が山積みになっている。

「うわぁ~、これが魔王様の部屋か」

 感嘆の声が漏れる。

「先程より顔色が良いな」
「まぁ、エリクサー飲んだので」
「しかし、まだ安心はできん。しっかりと休め」

 そう言って、グレイズは剣を取り上げ、ベッドを勧めてきた。

「え、俺、ここで寝るんですか?」
「うむ。寝られないというなら、縛ってでも寝かせるが?」
「そ、それはちょっと」

 縛られたら、またもや逃げるすべを失う。
 言われるがまま、ベッドの上にあがる。
 しかし、固い石畳から一気にふかふかな極上ベッド。極端すぎる。
 戸惑いながら布団に潜り込めば、グレイズが頭元に腰を下ろした。そして、まるで子供を寝かしつけるように頭を撫でてきた。
 敵ながらに照れてしまい、目を瞑る。すると、グレイズの心の声が聞こえてくる。
 
(懐かしいな)
(懐かしい?)
(このまま食べてしまいたい)
(え……いや、半分覚悟はしてるけど、寝てる隙にってのはちょっと……せめて起きている時にして欲しい。いや、何も知らずに死んだ方がマシか?)
(ああ……愛しのジーク)
(愛しの……? は?)

 耳を疑った時、俺の唇にはグレイズの唇が重なっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

伯爵令息アルロの魔法学園生活

あさざきゆずき
BL
ハーフエルフのアルロは、人間とエルフの両方から嫌われている。だから、アルロは魔法学園へ入学しても孤独だった。そんなとき、口は悪いけれど妙に優しい優等生が現れた。

黒豚神子の異世界溺愛ライフ

零壱
BL
───マンホールに落ちたら、黒豚になりました。 女神様のやらかしで黒豚神子として異世界に転移したリル(♂)は、平和な場所で美貌の婚約者(♂)にやたらめったら溺愛されつつ、異世界をのほほんと満喫中。 女神とか神子とか、色々考えるのめんどくさい。 ところでこの婚約者、豚が好きなの?どうかしてるね?という、せっかくの異世界転移を台無しにしたり、ちょっと我に返ってみたり。 主人公、基本ポジティブです。 黒豚が攻めです。 黒豚が、攻めです。 ラブコメ。ほのぼの。ちょびっとシリアス。 全三話予定。→全四話になりました。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

拍羅
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。 前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち… でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ… 優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。

災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!

椿谷あずる
BL
かつて“災厄の魔導士”と呼ばれ恐れられたゼルファス・クロードは、転生後、平穏に暮らすことだけを望んでいた。 ある日、夜の森で倒れている銀髪の勇者、リアン・アルディナを見つける。かつて自分にとどめを刺した相手だが、今は仲間から見限られ孤独だった。 平穏を乱されたくないゼルファスだったが、森に現れた魔物の襲撃により、仕方なく勇者を連れ帰ることに。 天然でのんびりした勇者と、達観し皮肉屋の魔導士。 「……いや、回復したら帰れよ」「えーっ」 平穏には程遠い、なんかゆるっとした日常のおはなし。

処理中です...