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第5話 愛しの人
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地上には出ることができた。
脱出するまでに幾重もの鍵のかかった木の扉があったが、エクスカリバーで一刀両断。
人間界に戻る方法は後々考えれば良い。
ひとまず魔王城から脱出し、魔界のどこかに潜んで様子をみようと、そう思っていた。
「なんだよ、ここ……」
地上に出た俺は、魔王城の外周を警備兵に見つからないよう隠れながら移動する。
しかし、外周を一回りしたはずなのに、ないのだ。川の向こう側に続く橋が――。
魔王城を取り囲むように、血のように真っ赤な大きな川が流れ、その川の向こうには荒れ果てた荒野。あちら側に行きたいのに、行く術がない。
「おい! 貴様、何者だ!?」
警備兵に見つかってしまったようだ。鎧を身に纏った二足歩行の犬のような見た目をした魔人族が槍をこちらに向けてきた。
「人間? 何故、人間がここに。どうやって入ってきた!?」
「チッ」
俺は剣を構えた。
「おい、どうした?」
「なんか人間の匂いがするぞ」
もう一体、そしてまた一体と城の影から出てくる。
あっという間に六体の警備兵に囲まれた。
しかし、俺は曲がりなりにも勇者。グレイズ相手ならともかく、これくらいの敵ならなんてことない。
俺は一体に斬りかかる——が、サッと黒い影が俺の剣を受け止めた。
「なッ、グレイズ……さん」
剣を受け止めたのは、グレイズの腕。驚くことに、その腕には傷一つ付いていない。
「魔王陛下! 其奴は、侵入者に御座います!」
警備兵の一人が言えば、その場にいる全員に槍を突き付けられた。
俺は剣をおろした。降参だ。
魔王相手には、伝説の剣と呼ばれるエクスカリバーでさえ傷一つ負わせることができない。
独学の体術と剣しか戦う術を持たない俺に敵うはずがない。
「武器をしまえ」
グレイズが命令すれば、警備兵らはどよめいた。
「ですが、魔王陛下」
「我らに刃向かってきたのですよ」
「ここで殺した方が宜しいのでは」
そんな彼らにグレイズは重圧をかけた。
空気がズンッと一気に重くなり、立っているのもやっと……いや、俺はグレイズに支えられて立っている。警備兵らは地面に這いつくばっている。
「武器をしまえと言ったのが聞こえなかったのか?」
「も、申し訳ございません」
「直ちに……」
口々に謝罪を述べれば、圧が消えた。
そして、皆ホッとした表情を浮かべながら、ゆっくりと立ち上がる。
「ここにいる人間は、我が招いた」
ここで再びざわつきそうになったが、二度も同じ失敗は繰り返さないようだ。警備兵らは、言葉を飲み込んだ。
「危害を加える輩は、何人たりとも容赦せん。よいな」
「「「「御意」」」」
一斉に敬礼したので、圧倒される。
そんな中、グレイズが優しく微笑みかけてきた。
「さ、ジーク。一旦我の部屋で休め。自傷せぬようにと思ったが、あの部屋では、ちと窮屈だったのだな」
「えっと……」
窮屈ではあるが、魔王の部屋よりはマシな気がする。
そして、この状況は一体……。
警備兵らの心の声も疑問でいっぱいだ。
(魔王陛下の部屋に入れるだと? あの人間は何者だ?)
(俺が聞きたい)
(魔王陛下が笑ったの初めて見た)
(俺も。思わず胸がザワついたぞ)
(あの人間、もしや何か特殊な能力でもあるのか?)
(ないない。人間の中では強い方だけど、さっきも見たようにグレイズさんには敵わないから)
(つい部屋で休めと言ったが、我は自制が効くだろうか)
(自制? 何の? って、これ、グレイズさんの心の声じゃん!)
一人ひとりの心の声に突っ込みを入れてしまったが、せっかく逃げ出したのに振り出しに戻ってしまった。いや、状況は悪化している。
そして、最後のグレイズの心の声はどういう意味か。
「さ、行こう」
グレイズの一言で視界が一変。超豪華な部屋の中にいた。
赤と黒を基調とした、如何にも魔王の部屋といった印象だ。燭台や装飾は平民の俺でも分かるほどに高級そうで、ベッドもキングサイズ。ふかふかな真っ赤な絨毯は、立っているだけで気持ちいい。そして、大きな机には書類が山積みになっている。
「うわぁ~、これが魔王様の部屋か」
感嘆の声が漏れる。
「先程より顔色が良いな」
「まぁ、エリクサー飲んだので」
「しかし、まだ安心はできん。しっかりと休め」
そう言って、グレイズは剣を取り上げ、ベッドを勧めてきた。
「え、俺、ここで寝るんですか?」
「うむ。寝られないというなら、縛ってでも寝かせるが?」
「そ、それはちょっと」
縛られたら、またもや逃げる術を失う。
言われるがまま、ベッドの上にあがる。
しかし、固い石畳から一気にふかふかな極上ベッド。極端すぎる。
戸惑いながら布団に潜り込めば、グレイズが頭元に腰を下ろした。そして、まるで子供を寝かしつけるように頭を撫でてきた。
敵ながらに照れてしまい、目を瞑る。すると、グレイズの心の声が聞こえてくる。
(懐かしいな)
(懐かしい?)
(このまま食べてしまいたい)
(え……いや、半分覚悟はしてるけど、寝てる隙にってのはちょっと……せめて起きている時にして欲しい。いや、何も知らずに死んだ方がマシか?)
(ああ……愛しのジーク)
(愛しの……? は?)
耳を疑った時、俺の唇にはグレイズの唇が重なっていた。
脱出するまでに幾重もの鍵のかかった木の扉があったが、エクスカリバーで一刀両断。
人間界に戻る方法は後々考えれば良い。
ひとまず魔王城から脱出し、魔界のどこかに潜んで様子をみようと、そう思っていた。
「なんだよ、ここ……」
地上に出た俺は、魔王城の外周を警備兵に見つからないよう隠れながら移動する。
しかし、外周を一回りしたはずなのに、ないのだ。川の向こう側に続く橋が――。
魔王城を取り囲むように、血のように真っ赤な大きな川が流れ、その川の向こうには荒れ果てた荒野。あちら側に行きたいのに、行く術がない。
「おい! 貴様、何者だ!?」
警備兵に見つかってしまったようだ。鎧を身に纏った二足歩行の犬のような見た目をした魔人族が槍をこちらに向けてきた。
「人間? 何故、人間がここに。どうやって入ってきた!?」
「チッ」
俺は剣を構えた。
「おい、どうした?」
「なんか人間の匂いがするぞ」
もう一体、そしてまた一体と城の影から出てくる。
あっという間に六体の警備兵に囲まれた。
しかし、俺は曲がりなりにも勇者。グレイズ相手ならともかく、これくらいの敵ならなんてことない。
俺は一体に斬りかかる——が、サッと黒い影が俺の剣を受け止めた。
「なッ、グレイズ……さん」
剣を受け止めたのは、グレイズの腕。驚くことに、その腕には傷一つ付いていない。
「魔王陛下! 其奴は、侵入者に御座います!」
警備兵の一人が言えば、その場にいる全員に槍を突き付けられた。
俺は剣をおろした。降参だ。
魔王相手には、伝説の剣と呼ばれるエクスカリバーでさえ傷一つ負わせることができない。
独学の体術と剣しか戦う術を持たない俺に敵うはずがない。
「武器をしまえ」
グレイズが命令すれば、警備兵らはどよめいた。
「ですが、魔王陛下」
「我らに刃向かってきたのですよ」
「ここで殺した方が宜しいのでは」
そんな彼らにグレイズは重圧をかけた。
空気がズンッと一気に重くなり、立っているのもやっと……いや、俺はグレイズに支えられて立っている。警備兵らは地面に這いつくばっている。
「武器をしまえと言ったのが聞こえなかったのか?」
「も、申し訳ございません」
「直ちに……」
口々に謝罪を述べれば、圧が消えた。
そして、皆ホッとした表情を浮かべながら、ゆっくりと立ち上がる。
「ここにいる人間は、我が招いた」
ここで再びざわつきそうになったが、二度も同じ失敗は繰り返さないようだ。警備兵らは、言葉を飲み込んだ。
「危害を加える輩は、何人たりとも容赦せん。よいな」
「「「「御意」」」」
一斉に敬礼したので、圧倒される。
そんな中、グレイズが優しく微笑みかけてきた。
「さ、ジーク。一旦我の部屋で休め。自傷せぬようにと思ったが、あの部屋では、ちと窮屈だったのだな」
「えっと……」
窮屈ではあるが、魔王の部屋よりはマシな気がする。
そして、この状況は一体……。
警備兵らの心の声も疑問でいっぱいだ。
(魔王陛下の部屋に入れるだと? あの人間は何者だ?)
(俺が聞きたい)
(魔王陛下が笑ったの初めて見た)
(俺も。思わず胸がザワついたぞ)
(あの人間、もしや何か特殊な能力でもあるのか?)
(ないない。人間の中では強い方だけど、さっきも見たようにグレイズさんには敵わないから)
(つい部屋で休めと言ったが、我は自制が効くだろうか)
(自制? 何の? って、これ、グレイズさんの心の声じゃん!)
一人ひとりの心の声に突っ込みを入れてしまったが、せっかく逃げ出したのに振り出しに戻ってしまった。いや、状況は悪化している。
そして、最後のグレイズの心の声はどういう意味か。
「さ、行こう」
グレイズの一言で視界が一変。超豪華な部屋の中にいた。
赤と黒を基調とした、如何にも魔王の部屋といった印象だ。燭台や装飾は平民の俺でも分かるほどに高級そうで、ベッドもキングサイズ。ふかふかな真っ赤な絨毯は、立っているだけで気持ちいい。そして、大きな机には書類が山積みになっている。
「うわぁ~、これが魔王様の部屋か」
感嘆の声が漏れる。
「先程より顔色が良いな」
「まぁ、エリクサー飲んだので」
「しかし、まだ安心はできん。しっかりと休め」
そう言って、グレイズは剣を取り上げ、ベッドを勧めてきた。
「え、俺、ここで寝るんですか?」
「うむ。寝られないというなら、縛ってでも寝かせるが?」
「そ、それはちょっと」
縛られたら、またもや逃げる術を失う。
言われるがまま、ベッドの上にあがる。
しかし、固い石畳から一気にふかふかな極上ベッド。極端すぎる。
戸惑いながら布団に潜り込めば、グレイズが頭元に腰を下ろした。そして、まるで子供を寝かしつけるように頭を撫でてきた。
敵ながらに照れてしまい、目を瞑る。すると、グレイズの心の声が聞こえてくる。
(懐かしいな)
(懐かしい?)
(このまま食べてしまいたい)
(え……いや、半分覚悟はしてるけど、寝てる隙にってのはちょっと……せめて起きている時にして欲しい。いや、何も知らずに死んだ方がマシか?)
(ああ……愛しのジーク)
(愛しの……? は?)
耳を疑った時、俺の唇にはグレイズの唇が重なっていた。
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