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第12話 記憶の断片
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「ジーク。実は僕」
次の言葉を聞きたくなくて、俺は肩に置かれたニコラの手の上に自身の手を置いた。
「ニコラ、ごめん。俺、ちょっと体調悪いみたい」
「え、大丈夫?」
大丈夫ではない。グレイズの愛だけでもキャパを越えそうなのに、幼馴染にまで愛を告げられたら、完全にキャパオーバーだ。
ニコラの手をそっと肩から外し、俺はベッドに戻る。
「旅の疲れかな」
「そうだよね。三年も旅してたんだもんね」
眉を下げて笑うニコラは、心配そうについてくる。
腹の上だけ薄手の掛け布をかけて寝転がれば、ニコラの手が額に置かれた。
「熱は……ないみたいだね」
「うん。少し寝たら治ると思う」
「それなら良いけど」
額に置かれたニコラの手が、半袖から伸びた俺の腕に移動する。旅の途中で負った傷口を撫でられ、ややくすぐったい。
「ジークは凄いよね。昔助けてもらったっていう悪魔に会う為に勇者になってさ」
「はは……馬鹿だよな」
「僕も付いて行けてたら違ったのかな……」
憂いを帯びた表情で傷口を眺めるニコラは、三年前に比べて大人びていた。
(あの時、僕も親の反対を押し切って付いて行っていたら……ジークは、ライオネルさんじゃなくて、僕を選んでくれてたのかな。幼馴染から一線を超えられていたのかな)
(ニコラ……そんなに俺のこと)
ニコラの心中を考え、告白すらさせてあげなかったことを後悔する。綺麗さっぱりフッた方がニコラも良かったのかもしれない。
「ニコ……ラ?」
ニコラの鼻息が荒くなったのが分かった。そして、舐めるように全身を観察され、ブルッと肩が震える。
(あー、このままジークを僕のモノにしたい。この鍛え上げた筋肉を屈伏させたい。僕のをジークに————(自主規制))
俺の後ろをチョコチョコ付いて歩いていたあのニコラが、弟同然に可愛がっていたあのニコラが、まさかこんなにエロいことを考えていたなんて……。
ライオネルがいなかったら、俺はこのまま犯されていそうな気がする。いや、いても犯されそうな気がする。それだけニコラの顔は火照っている。
半ば恐怖を感じ、ニコラの向こう側にいるライオネルをみた。すると、何やら真剣な面持ちで、モヤのかかった黒い手帳に書き込んでいる。
(早速、不貞現場目撃。即刻魔王陛下へ報告せねば。牢送り……いや、死をもって償わせてやろう)
まさか、あれ……グレイズに報告する手段なのか?
しつこく触ってくるニコラの手を払い、俺はガバッと起き上がる。
「ちょ、ジーク? 寝てないと」
「ごめん、ニコラ」
俺が突然起き上がったことで動揺したニコラ以上に、動揺しながらライオネルに駆け寄る。そして、手帳を奪い取ろうと手を伸ばす。
「おい、それ。まさか、グレイズに?」
「そうだが?」
ライオネルは、くるりと背を向けた。背後から手を伸ばすも、手帳には届かず。
「あることないこと書いてんじゃねーだろうな」
「案ずるな。見たものを見たまま、事実しか書いてはおらん。考察は入れているがな」
「事実って……」
「報告されたら困ることでも?」
ニヤリと笑うライオネルは、俺に背を向け、まだ何か書き込んでいる。
「ちょ、ほんとやめてくれ! アイツは昔っから些細なことで嫉妬するんだから。しかもそんな日は、ねちっこくまるで拷問のように三日三晩食事もろくにせず……ん?」
俺は今、何を言っている?
グレイズの元には、一ヶ月以上滞在した。確かに嫉妬深いが、グレイズはそれを表面的に出してはいないし、三日三晩食事をしなかったこともない。
自分で何を言っているのか分からなくなり、ピタリと止まる。
そんな俺をライオネルは怪訝な顔で見てくる。
(まさか、此奴記憶が戻ったか?)
これがアレッシオの記憶?
記憶と言うにはまだ違う気がするが、確かにジークとグレイズ間での話ではないことは確かだ。
そんな時だった——。
脳内に断片的に映像が流れ込んできた。
『アレッシオ、我は——になりたい』
グレイズだ。
『悪魔の行く末は消滅。けれど——は、蘇る。何度でも其方と』
グレイズの顔がジジジとノイズと共に消える。
同時に、激しい頭痛を覚え、頭を抱えながらその場にうずくまる。
——真っ白な修道女のような服装をした金髪の女性が口角を上げた。
『あなたの命と引き換えよ』
『そうすれば、グレイズは——に?』
——映像が消えた。
頭痛は徐々に落ち着き、肩を上下させて呼吸する。
「ジーク、大丈夫!?」
ニコラが俺の背中をさすりながら、不安の色を見せる。
吹き出す額の汗を腕で拭いながら、俺は無理矢理笑顔を作る。
「……うん、さんきゅ」
今のは何だったのか。
グレイズに聞いたら分かるのか。
しかし、聞いちゃいけない気がした。聞いたら、至極大変なことになるような……そんな予感がする——。
俺の様子を淡々とライオネルは手帳に書き綴る。
(魔王陛下。アレッシオ様が自ら命を絶った理由。もうすぐ分かるやもしれません)
次の言葉を聞きたくなくて、俺は肩に置かれたニコラの手の上に自身の手を置いた。
「ニコラ、ごめん。俺、ちょっと体調悪いみたい」
「え、大丈夫?」
大丈夫ではない。グレイズの愛だけでもキャパを越えそうなのに、幼馴染にまで愛を告げられたら、完全にキャパオーバーだ。
ニコラの手をそっと肩から外し、俺はベッドに戻る。
「旅の疲れかな」
「そうだよね。三年も旅してたんだもんね」
眉を下げて笑うニコラは、心配そうについてくる。
腹の上だけ薄手の掛け布をかけて寝転がれば、ニコラの手が額に置かれた。
「熱は……ないみたいだね」
「うん。少し寝たら治ると思う」
「それなら良いけど」
額に置かれたニコラの手が、半袖から伸びた俺の腕に移動する。旅の途中で負った傷口を撫でられ、ややくすぐったい。
「ジークは凄いよね。昔助けてもらったっていう悪魔に会う為に勇者になってさ」
「はは……馬鹿だよな」
「僕も付いて行けてたら違ったのかな……」
憂いを帯びた表情で傷口を眺めるニコラは、三年前に比べて大人びていた。
(あの時、僕も親の反対を押し切って付いて行っていたら……ジークは、ライオネルさんじゃなくて、僕を選んでくれてたのかな。幼馴染から一線を超えられていたのかな)
(ニコラ……そんなに俺のこと)
ニコラの心中を考え、告白すらさせてあげなかったことを後悔する。綺麗さっぱりフッた方がニコラも良かったのかもしれない。
「ニコ……ラ?」
ニコラの鼻息が荒くなったのが分かった。そして、舐めるように全身を観察され、ブルッと肩が震える。
(あー、このままジークを僕のモノにしたい。この鍛え上げた筋肉を屈伏させたい。僕のをジークに————(自主規制))
俺の後ろをチョコチョコ付いて歩いていたあのニコラが、弟同然に可愛がっていたあのニコラが、まさかこんなにエロいことを考えていたなんて……。
ライオネルがいなかったら、俺はこのまま犯されていそうな気がする。いや、いても犯されそうな気がする。それだけニコラの顔は火照っている。
半ば恐怖を感じ、ニコラの向こう側にいるライオネルをみた。すると、何やら真剣な面持ちで、モヤのかかった黒い手帳に書き込んでいる。
(早速、不貞現場目撃。即刻魔王陛下へ報告せねば。牢送り……いや、死をもって償わせてやろう)
まさか、あれ……グレイズに報告する手段なのか?
しつこく触ってくるニコラの手を払い、俺はガバッと起き上がる。
「ちょ、ジーク? 寝てないと」
「ごめん、ニコラ」
俺が突然起き上がったことで動揺したニコラ以上に、動揺しながらライオネルに駆け寄る。そして、手帳を奪い取ろうと手を伸ばす。
「おい、それ。まさか、グレイズに?」
「そうだが?」
ライオネルは、くるりと背を向けた。背後から手を伸ばすも、手帳には届かず。
「あることないこと書いてんじゃねーだろうな」
「案ずるな。見たものを見たまま、事実しか書いてはおらん。考察は入れているがな」
「事実って……」
「報告されたら困ることでも?」
ニヤリと笑うライオネルは、俺に背を向け、まだ何か書き込んでいる。
「ちょ、ほんとやめてくれ! アイツは昔っから些細なことで嫉妬するんだから。しかもそんな日は、ねちっこくまるで拷問のように三日三晩食事もろくにせず……ん?」
俺は今、何を言っている?
グレイズの元には、一ヶ月以上滞在した。確かに嫉妬深いが、グレイズはそれを表面的に出してはいないし、三日三晩食事をしなかったこともない。
自分で何を言っているのか分からなくなり、ピタリと止まる。
そんな俺をライオネルは怪訝な顔で見てくる。
(まさか、此奴記憶が戻ったか?)
これがアレッシオの記憶?
記憶と言うにはまだ違う気がするが、確かにジークとグレイズ間での話ではないことは確かだ。
そんな時だった——。
脳内に断片的に映像が流れ込んできた。
『アレッシオ、我は——になりたい』
グレイズだ。
『悪魔の行く末は消滅。けれど——は、蘇る。何度でも其方と』
グレイズの顔がジジジとノイズと共に消える。
同時に、激しい頭痛を覚え、頭を抱えながらその場にうずくまる。
——真っ白な修道女のような服装をした金髪の女性が口角を上げた。
『あなたの命と引き換えよ』
『そうすれば、グレイズは——に?』
——映像が消えた。
頭痛は徐々に落ち着き、肩を上下させて呼吸する。
「ジーク、大丈夫!?」
ニコラが俺の背中をさすりながら、不安の色を見せる。
吹き出す額の汗を腕で拭いながら、俺は無理矢理笑顔を作る。
「……うん、さんきゅ」
今のは何だったのか。
グレイズに聞いたら分かるのか。
しかし、聞いちゃいけない気がした。聞いたら、至極大変なことになるような……そんな予感がする——。
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