囚われの勇者〜スキルで魔王の心の声を聞いたら、どうやら俺は魔王に溺愛されているようだ〜

陽七 葵

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第11話 幼馴染

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 宿屋の二階。
 一番端にある六畳一間の自室。
 幼い頃から使っていた木製の机と椅子、そしてシングルベッドが置いてあるシンプルな部屋。
 ベッドは寝返りを打つ度にキシキシと音が鳴る。それが懐かしくて、何度もベッドの上で寝返りを打ってみる。

「はぁ~、落ち着く」

 コロコロしながら懐かしんでいる俺を哀れな目で見てくるライオネルは、部屋の扉の横にもたれかかるようにして立っている。

(地下牢の方が広いとは……此奴こやつなりに苦労しておるのだな)

 その心の声は失礼だが、確かに先日までいた地下牢の方が断然広い。
 ベッドの固さも、こちらの方が木製だからか若干柔らかいが、似たようなものだ。
 それでも、窓からは陽光が射し、暖かい。いくら狭くても、こっちの方が断然良い。

「ライオネルも座れば? てか、部屋用意されたんだからさ、そっちで休んでれば?」
「馬鹿なのか。私は貴様の護衛が務め。休んでなどいられるわけがないだろう」
「護衛って、ここに危険はねぇよ」
「では、貴様がここで死んだら責任とれるのか? 私も死ぬことになるのだぞ」
「それは……」

 九十九パーセント何も起こらないと思うが、百ではないのでそれ以上言い返せない。

「てか、それだと……お前、四六時中俺と一緒にいんのか?」
「それが私の務めだからな」
「ここは地獄か」
「ここは人間界だ」

 比喩表現に真面目な返答をされ、ややイラッとする。
 そこへノックもせず扉が勢いよく開いた。

「ジーク! 帰ったんだって!? 何で僕に」

 隣の家に住む幼馴染のニコラだ。
 ニコラは俺の一つ年下で、弟的存在。
 茶色の髪は、俺と同じで無造作ヘア。どこにでもいる髪型ではあるが、いつもニコラは俺の真似をしたがる。
 服装も同じ店で買うからか、大抵同じ。
 髪色は違えど、背丈も変わらないから、後ろ姿だけ見たら双子のようだ。

 今は、俺が旅に出ていたこともあって、外見はやや違う。俺の方が髪が少し長く、着ている服はもちろん、鍛え上げた筋肉のおかげで、サイズが一回り大きい。
 
 ニコラは、そこにいるライオネルに気が付き、固まった。

(なに? このとんでもない美女。ジークの彼女? いやいやいや、ジークに限ってそれは……。でも、部屋に二人きりってことは、そういうこと?)

 ライオネルを女性だと勘違いしたニコラ。
 さっきの子供といい……ついでに俺の両親もだが、男物の服を着ているにも関わらず、皆がライオネルを女性だと勘違いする。それは単にライオネルの髪が長いせいだろうか。それとも顔の造りがそう思わせるのか。
 
 ただ、ライオネルを俺の彼女にするのはやめてほしい。
 
 固まるニコラを見下ろすライオネル。

(この男。ノックもせずに入ってくるとは、無礼にも程がある。やはり、人間は野蛮な生き物だな)

 こっちは人間の評価が格段に下がった模様。
俺への当たりも強くなりそうだから、ニコラには部屋をノックすることを教えよう。

 それより、この何とも言えない空気をどうにかせねば。俺は心の声が聞こえるから賑やかだが、実際は静まり返って緊張感が漂っている。

 俺は、起き上がって互いを紹介することにした。

「二人とも、紹介するよ。こっちは、隣の家に住む幼馴染のニコラ。で、この人は、ライオネル。俺の……」
「俺の? 何?」

 俺のなんだ? 平民の、しかも勇者の分際で護衛というのもおかしいし、ここは恋敵?
 そっちの方がしっくりくるが、そうなると誰を取り合っているのだという話になる。それは話がややこしくなって面倒だ。

 言葉に詰まっていると、ライオネルが言った。

「四六時中行動を共にする仲だ」

 間違いではないが、誤解を生んでしまう言い方はやめていただきたい。
 覆水盆に返らず。ニコラは勘違いをしたようだ。

「四六時中……それは、つまり、そういうことだよね?(やっぱ彼女なんだ)」

 俯くニコラに、俺は声をかける。

「あー、ニコラ? ちなみに、ライオネルは男だからな」
「へ?」

 ニコラは、すっとんきょうな声を出して顔を上げた。

 これで誤解が解けて万事解決。そう思った時だった。

「ジークは、男の人と付き合ってんの?」
「は?」

 否定しようとした時、ライオネルが堂々と言った。

「そうだが、悪いか?」
「ちょ、ライオネル」
「貴様は、(魔王陛下の)つがいなのだ。事実だろう」
「いや、そうかもだけどさ」

 話が拗れている気がするのは俺だけか。
 ニコラは、俺の両肩をガシッと掴み、真剣な表情で俺を見た。

(ジーク。男でも良いなら、僕にしてよ)
(は?)
(僕は、ずっとジークが好きだった。けど、男だから諦めてた。ジークの真似をすることで我慢してたんだ)

 知りたくなかった事実。
 こんなにも心の声が聞こえることを憎いと思ったことはない。それでも聞こえてくる幼馴染の心の声。

(でも、それはジークが女性と結婚すると思っていたからで、そうでないなら僕は……僕は……)

 一文字いちもんじに閉じていたニコラの口が、ゆっくりと開いた。

「ジーク。実は僕」
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