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第13話 魔王討伐依頼
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※ジーク視点に戻ります※
それから、何だかんだ一年が経った。
俺は結局勇者の方が性に合っているようで、旅に出た。
というのは建前で、ニコラの妄想が怖いので、離れたかったのが一番の理由。
あれからすぐに告白され、きちんとお断りした。けれど、妄想は誰にも止めることが出来ないのだ。
時が経てば、きっと俺を忘れてくれるだろう。新たな恋を見つけて欲しい。そう思って、俺は何の目的もなく、勇者としてライオネルと共に旅をしている。
実際のところ、勇者は儲かる。
両親に仕送りをすれば喜ばれるし、若いうちはこれが一番良いのかもしれない。そんな風に考えるようになった。
——そんなある日、俺は郊外に位置する、とある教会を訪れた。
「私は外で待っている」
「え、四六時中俺についてるんじゃないのか?」
ライオネルは、聖堂を不愉快そうな表情で眺めた。
「貴様、私が何者か忘れたのではなかろうな?」
「あー」
悪魔だから教会が苦手なのか。納得。
「もしも中で何かあれば、とにかく叫べ」
「そしたら、ライオネルが中に」
「教会ごと吹っ飛ばしてやる」
「それ、俺も死ぬんじゃ……?」
「冗談だ」
冗談には全く聞こえなかったのが恐ろしい。
「ま、さっさと用事済ませてくるから、待っててくれ」
ライオネルに背を向け、聖堂の扉に向かって歩く。
外観は随分と古びており、塗装が剥げ、壁の所々がひび割れている。周りの草花も、手前だけは綺麗に刈られているものの、両サイドは自然のままに伸びている。
聖堂の扉を開ければ、キキィときしむ音が聖堂内に鳴り響いた。
色鮮やかなステンドグラスから陽光が差し込み、色のついた模様が壁や床に映し出され、何とも美しい演出をしている。
そこには既に三人、バラバラに椅子に座っていた。俺が入ったことで、皆が立ち上がって振り返った。
「君が勇者だね」
魔道士だろうか。
広いツバにとんがり帽子。紺色を基調としたオシャレなローブを着た青年の声が聖堂に響く。
残る二人は女性で、おそらく聖女と弓使い。
白と金を基調とした修道女のような衣装を着たピンク髪のおっとりとした女性に、茶髪の女性は、赤いキュロットから見えるスラリとした長い脚が印象的。背中に大きな弓を背負っている。
皆、俺と同い年くらい。強いて言うなら、弓使いの女性が年上に見える。
(勇者パッとしな~い。魔道士様の方が素敵かも)
聖女の心の声は無視しつつ、扉を閉めて二段階段をおりる。
「えっと、ここで依頼を伝えるって言われたんだけど」
「僕らもだよ。何でも、王宮からの依頼だって」
「へぇ」
(反応薄ッ! わたしなんて、すっごい驚いたのに。やっぱSS級の勇者は違うわぁ。格好良い)
意外にも、気の強そうな見た目の弓使いからの好感度は高そうだ。
やや嬉しく思っていると、魔道士が自己紹介をし始めた。
「僕は魔道士のブルーノ。十六歳」
「俺より三つも歳下じゃん! しっかりしてんな」
褒めれば、へへッと照れたように笑った。
「で、こちらの女性が」
「わたしは、弓使いのミランダ。二十歳よ。よろしく」
「うん。宜しくね」
そして、最後に聖女がのんびりとした口調で名乗る。
「あたし、エマ。聖女でーす。年齢は、秘密ということで」
見た目よりも歳上の可能性が出てきた。敢えて聞いたりしないけど。
そんなことより、早く依頼を聞いて帰りたいのだが。ライオネルが痺れを切らして教会を吹っ飛ばしかねない。
「俺はジーク。勇者だ。で、依頼主はまだなのか?」
そう聞いた時だった。背後の扉がキキィと開いた。
「お待たせ致しました」
扉から出てきたのは、真っ白な聖女の服を見に纏った金髪の女性。見た目は二十代半ば。
(この女……)
確かに、はっきりと覚えている。
昨年人間界に戻ってきて見たアレッシオの記憶の断片。そこに映っていた女だ。間違いない。
しかし、アレッシオが死んだのは俺が生まれるずっと前、およそ七十九年前。つまり、この女がそうだとするならば、既に九十は超えているはず。あり得ない。
故に、その女の子孫。若しくは、全く別の似た女になるのだが、どこからどう見ても記憶の断片で見た女にしか見えない。
ガン見し過ぎたせいで、怪訝な顔で見返された。
「何か?」
「いえ、依頼は何かと思いまして」
女は俺の横を堂々と通り過ぎ、祭壇の前に立って、くるりとコチラを向いた。
「わたくしの名は、クラリス・アヴリーヌ」
「え、クラリス・アヴリーヌって……」
「知ってんのか? ブルーノ」
魔道士のブルーノは跪き、頭を垂れた。
「彼女は、我が国の王妃様です」
「「「え!?」」」
俺とエマとミランダも、急いでその場に跪く。
「そんなかしこまらなくて大丈夫よ。元は平民の聖女だし。皆、お顔を上げてちょうだい」
天使のような笑顔のクラリス王妃だが、心中は違った。
(わたくしの前では、皆、平伏しなさい。顔なんてあげようものなら——(自主規制))
これは、上げない方が良いのだろうか。しかし、俺以外は既に顔を上げている。
(あら、あの子が一番忠実ね。見込みあるじゃない)
腹黒聖女に気に入られてしまったようだ。顔を上げていれば良かった。誰もクラリス王妃の心の声のような残虐なことにはなっていない。
恐る恐る顔を上げれば、相変わらず天使のような笑顔を張り付けたクラリス王妃がコチラをみていた。
「さて、本題に入らせてもらうわね。依頼というのは他でもない、あなた方に魔王討伐を依頼したいの」
「え……」
「近頃、魔物が増えて人的被害が後を絶たないの。きっとそれは」
「グレイズのせいなんかじゃないです!」
思わず大きな声で否定してしまった。
皆が呆気に取ろれて俺を見ている。
「あ、いえ、何でもありません。続けて下さい」
続きを促すが、クラリス王妃は怪訝な顔で聞いてくる。
「あなた、魔王に会ったことあるの?」
「いえ」
「では、何故魔王の(名を知っているの?)……何でもないわ。とにかく、この度の依頼は魔王討伐。魔王の心臓を持ってきてちょうだい。報酬は、はずむわよ。爵位もあげちゃうし」
「心臓……?」
首ではなく、心臓を持ってくるのか?
引っ掛かりを覚える俺をよそに、その他の集まったメンバーは乗り気なようだ。
「まさか、僕が魔王討伐隊に選ばれるなんて」
「やっぱ、あたしが可愛いからね」
「この依頼をこなせたら、ばっちゃんに楽させてあげられる」
光栄なことなのは分かっているが、俺はグレイズを討伐なんてできない。
「申し訳ありませんが、俺はパスします」
踵を返して扉に手をかければ、エマを始め三人が引き止めにきた。
「え、なんでよ。良い話じゃない」
「そうだよ。僕ら知り合ったばかりだけど、案外うまくやれそうな気がするよ」
「勇者様なしだと厳しいよ」
「申し訳ないけど、俺、魔王になんて勝てる気しないから」
そのまま扉から出ようとすれば、クラリス王妃の心の声が文句を垂れていた。
(ッチ。見込みありかと思ったけど、違ったみたいね。それに、SSランクの勇者なんて中々いないから呼んだのに、勝てないから依頼を受けない? そんな根性なしのクズ、こっちから願い下げよ。と言いたいところだけど、あんまり時間もないのよね)
(時間がない? この王妃、何を企んでいるんだ?)
クラリス王妃は、どこからともなくシャランと神器を取り出した。
「何かあれば、わたくしが絶対に守ります。それでどうでしょうか」
「それは、クラリス王妃殿下も参戦なさると? そういうことでしょうか」
「ええ。あくまでも、わたくしは治癒者ですが」
「ちょっと待ってください。そうなると、あたしはどうなるんですか? あたし、治癒しかできないですよ」
「エマ。あなたは、そうね……」
クラリス王妃が命を下す前に、俺はその場に跪いて言った。
「クラリス王妃様を危険にさらすわけには参りません。私は、ここにいる四人で討伐に参ります」
「良いのですか?(ラッキー。正直、王妃になってまで、魔界なんて行きたくなかったのよね)」
「男に二言はありません」
「では、一週間後に出発ということで。準備しておいてちょうだい」
「「「「御意」」」」
こうして俺は、クラリス王妃の命で魔王グレイズの討伐に向かうことになるのだった。
それから、何だかんだ一年が経った。
俺は結局勇者の方が性に合っているようで、旅に出た。
というのは建前で、ニコラの妄想が怖いので、離れたかったのが一番の理由。
あれからすぐに告白され、きちんとお断りした。けれど、妄想は誰にも止めることが出来ないのだ。
時が経てば、きっと俺を忘れてくれるだろう。新たな恋を見つけて欲しい。そう思って、俺は何の目的もなく、勇者としてライオネルと共に旅をしている。
実際のところ、勇者は儲かる。
両親に仕送りをすれば喜ばれるし、若いうちはこれが一番良いのかもしれない。そんな風に考えるようになった。
——そんなある日、俺は郊外に位置する、とある教会を訪れた。
「私は外で待っている」
「え、四六時中俺についてるんじゃないのか?」
ライオネルは、聖堂を不愉快そうな表情で眺めた。
「貴様、私が何者か忘れたのではなかろうな?」
「あー」
悪魔だから教会が苦手なのか。納得。
「もしも中で何かあれば、とにかく叫べ」
「そしたら、ライオネルが中に」
「教会ごと吹っ飛ばしてやる」
「それ、俺も死ぬんじゃ……?」
「冗談だ」
冗談には全く聞こえなかったのが恐ろしい。
「ま、さっさと用事済ませてくるから、待っててくれ」
ライオネルに背を向け、聖堂の扉に向かって歩く。
外観は随分と古びており、塗装が剥げ、壁の所々がひび割れている。周りの草花も、手前だけは綺麗に刈られているものの、両サイドは自然のままに伸びている。
聖堂の扉を開ければ、キキィときしむ音が聖堂内に鳴り響いた。
色鮮やかなステンドグラスから陽光が差し込み、色のついた模様が壁や床に映し出され、何とも美しい演出をしている。
そこには既に三人、バラバラに椅子に座っていた。俺が入ったことで、皆が立ち上がって振り返った。
「君が勇者だね」
魔道士だろうか。
広いツバにとんがり帽子。紺色を基調としたオシャレなローブを着た青年の声が聖堂に響く。
残る二人は女性で、おそらく聖女と弓使い。
白と金を基調とした修道女のような衣装を着たピンク髪のおっとりとした女性に、茶髪の女性は、赤いキュロットから見えるスラリとした長い脚が印象的。背中に大きな弓を背負っている。
皆、俺と同い年くらい。強いて言うなら、弓使いの女性が年上に見える。
(勇者パッとしな~い。魔道士様の方が素敵かも)
聖女の心の声は無視しつつ、扉を閉めて二段階段をおりる。
「えっと、ここで依頼を伝えるって言われたんだけど」
「僕らもだよ。何でも、王宮からの依頼だって」
「へぇ」
(反応薄ッ! わたしなんて、すっごい驚いたのに。やっぱSS級の勇者は違うわぁ。格好良い)
意外にも、気の強そうな見た目の弓使いからの好感度は高そうだ。
やや嬉しく思っていると、魔道士が自己紹介をし始めた。
「僕は魔道士のブルーノ。十六歳」
「俺より三つも歳下じゃん! しっかりしてんな」
褒めれば、へへッと照れたように笑った。
「で、こちらの女性が」
「わたしは、弓使いのミランダ。二十歳よ。よろしく」
「うん。宜しくね」
そして、最後に聖女がのんびりとした口調で名乗る。
「あたし、エマ。聖女でーす。年齢は、秘密ということで」
見た目よりも歳上の可能性が出てきた。敢えて聞いたりしないけど。
そんなことより、早く依頼を聞いて帰りたいのだが。ライオネルが痺れを切らして教会を吹っ飛ばしかねない。
「俺はジーク。勇者だ。で、依頼主はまだなのか?」
そう聞いた時だった。背後の扉がキキィと開いた。
「お待たせ致しました」
扉から出てきたのは、真っ白な聖女の服を見に纏った金髪の女性。見た目は二十代半ば。
(この女……)
確かに、はっきりと覚えている。
昨年人間界に戻ってきて見たアレッシオの記憶の断片。そこに映っていた女だ。間違いない。
しかし、アレッシオが死んだのは俺が生まれるずっと前、およそ七十九年前。つまり、この女がそうだとするならば、既に九十は超えているはず。あり得ない。
故に、その女の子孫。若しくは、全く別の似た女になるのだが、どこからどう見ても記憶の断片で見た女にしか見えない。
ガン見し過ぎたせいで、怪訝な顔で見返された。
「何か?」
「いえ、依頼は何かと思いまして」
女は俺の横を堂々と通り過ぎ、祭壇の前に立って、くるりとコチラを向いた。
「わたくしの名は、クラリス・アヴリーヌ」
「え、クラリス・アヴリーヌって……」
「知ってんのか? ブルーノ」
魔道士のブルーノは跪き、頭を垂れた。
「彼女は、我が国の王妃様です」
「「「え!?」」」
俺とエマとミランダも、急いでその場に跪く。
「そんなかしこまらなくて大丈夫よ。元は平民の聖女だし。皆、お顔を上げてちょうだい」
天使のような笑顔のクラリス王妃だが、心中は違った。
(わたくしの前では、皆、平伏しなさい。顔なんてあげようものなら——(自主規制))
これは、上げない方が良いのだろうか。しかし、俺以外は既に顔を上げている。
(あら、あの子が一番忠実ね。見込みあるじゃない)
腹黒聖女に気に入られてしまったようだ。顔を上げていれば良かった。誰もクラリス王妃の心の声のような残虐なことにはなっていない。
恐る恐る顔を上げれば、相変わらず天使のような笑顔を張り付けたクラリス王妃がコチラをみていた。
「さて、本題に入らせてもらうわね。依頼というのは他でもない、あなた方に魔王討伐を依頼したいの」
「え……」
「近頃、魔物が増えて人的被害が後を絶たないの。きっとそれは」
「グレイズのせいなんかじゃないです!」
思わず大きな声で否定してしまった。
皆が呆気に取ろれて俺を見ている。
「あ、いえ、何でもありません。続けて下さい」
続きを促すが、クラリス王妃は怪訝な顔で聞いてくる。
「あなた、魔王に会ったことあるの?」
「いえ」
「では、何故魔王の(名を知っているの?)……何でもないわ。とにかく、この度の依頼は魔王討伐。魔王の心臓を持ってきてちょうだい。報酬は、はずむわよ。爵位もあげちゃうし」
「心臓……?」
首ではなく、心臓を持ってくるのか?
引っ掛かりを覚える俺をよそに、その他の集まったメンバーは乗り気なようだ。
「まさか、僕が魔王討伐隊に選ばれるなんて」
「やっぱ、あたしが可愛いからね」
「この依頼をこなせたら、ばっちゃんに楽させてあげられる」
光栄なことなのは分かっているが、俺はグレイズを討伐なんてできない。
「申し訳ありませんが、俺はパスします」
踵を返して扉に手をかければ、エマを始め三人が引き止めにきた。
「え、なんでよ。良い話じゃない」
「そうだよ。僕ら知り合ったばかりだけど、案外うまくやれそうな気がするよ」
「勇者様なしだと厳しいよ」
「申し訳ないけど、俺、魔王になんて勝てる気しないから」
そのまま扉から出ようとすれば、クラリス王妃の心の声が文句を垂れていた。
(ッチ。見込みありかと思ったけど、違ったみたいね。それに、SSランクの勇者なんて中々いないから呼んだのに、勝てないから依頼を受けない? そんな根性なしのクズ、こっちから願い下げよ。と言いたいところだけど、あんまり時間もないのよね)
(時間がない? この王妃、何を企んでいるんだ?)
クラリス王妃は、どこからともなくシャランと神器を取り出した。
「何かあれば、わたくしが絶対に守ります。それでどうでしょうか」
「それは、クラリス王妃殿下も参戦なさると? そういうことでしょうか」
「ええ。あくまでも、わたくしは治癒者ですが」
「ちょっと待ってください。そうなると、あたしはどうなるんですか? あたし、治癒しかできないですよ」
「エマ。あなたは、そうね……」
クラリス王妃が命を下す前に、俺はその場に跪いて言った。
「クラリス王妃様を危険にさらすわけには参りません。私は、ここにいる四人で討伐に参ります」
「良いのですか?(ラッキー。正直、王妃になってまで、魔界なんて行きたくなかったのよね)」
「男に二言はありません」
「では、一週間後に出発ということで。準備しておいてちょうだい」
「「「「御意」」」」
こうして俺は、クラリス王妃の命で魔王グレイズの討伐に向かうことになるのだった。
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