囚われの勇者〜スキルで魔王の心の声を聞いたら、どうやら俺は魔王に溺愛されているようだ〜

陽七 葵

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第14話 聖女の企み

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 聖堂から出れば、警戒心剝き出しのライオネルの姿があった。

「ライオネル。どうかしたか?」
「貴様、誰と話していた?」
「クラリス王妃と、愉快な仲間たちだけど?」

 愉快な仲間たちこと、ブルーノ、エマ、ミランダはライオネルを見て怪訝な顔をした。

「この人は?」
「仲間連れてきちゃダメって言われたでしょ」
「極秘な依頼だって言われてたし、わたしだって連れてきてないよ」
「こいつは仲間じゃなくて……」

 いつも返答に困ってしまう。
 けれど、今回ばかりは仲間ということにしといた方が良いかもしれない。
 クラリス王妃が最後に扉から出てきたので、聞いてみた。

「クラリス王妃。俺の仲間も一緒に連れて行っても宜しいでしょうか。冒険者登録はしていませんが、俺よりも強いです」
「あなたよりも強いの?」
「ええ。何度対戦しても、勝った試しがありません」

 負けたこともないけれど。
 俺の後ろで「勇者だけずるーい」と不満を言っているエマをよそにお願いすれば、クラリス王妃は首を縦に振った。

「良いでしょう。わたくしは急ぐので、代わりに説明しておいてちょうだい」
「かしこまりました」

 クラリス王妃は、協会のすぐそばの大きな木で待機していた騎士の元へと駆け寄った。そして、騎士にエスコートされながら優雅に馬に乗り、そのまま颯爽とその場を去った――。

(何故だ……何故……)

 ライオネルは怪訝な顔をしながら、クラリス王妃の去った方を見つめている。

「ライオネル? どうかしたか?」

 まさか、ライオネルも過去にクラリス王妃を見たことがあるのだろうか。七十八年前というあり得ない時代に。

「ジーク。さっきのは誰だ?」
「我が国の王妃。クラリス王妃らしい。俺も初めて会った」
「あの女から――――アレッシオ様の気配がする」
「え?」

 ライオネルは俺を疑いの目で見た。

(まさか、グレイズ様が見誤った? こいつは、アレッシオ様の生まれ変わりではないのか? しかし、運命のつがいは魂で通じ合っている。グレイズ様が間違うことなどあり得ない。しかし、あの女からアレッシオ様の気配が……)

 ライオネルが混乱する中、俺は魂で通じ合っているという部分に照れてしまう。
 ニヤついていると、ブルーノが横からライオネルに手を差し出した。

「よろしくね。僕はブルーノ。一緒に魔王討伐頑張ろう!」
「は?」

 ブルーノは、ライオネルの圧に一歩たじろいだ。

「き、聞いてないからしょうがないよね。クラリス王妃殿下からの依頼って、魔王討伐なんだよ。出発は明後日」
「ジーク、貴様」

 ライオネルが動く前に、俺はさっと剣を抜いた。刹那、キンッと金属音がその場に鳴り響いた。

「間一髪。殺されるかと思ったぜ」
「即刻死ね! この場で死ね!」
「話を聞けって!」
「貴様の戯言など聞きたくもないわ!」
 
 ライオネルと剣を交えていると、彼が普段以上に本気を出しているのが分かった。
 そして、呆気にとられる愉快な仲間たち。
 ブルーノらに聞かれる訳にもいかず、俺は剣と剣が重なったタイミングを見計らってライオネルに伝える。

「あの王妃、なんかおかしいんだ」
「おかしいのは貴様の頭だ」

 ライオネルの押しに負け、後ろに吹き飛んで地面に転がった。
 ライオネルは、トドメとばかりに中空に跳びあがり、俺の顔面に向かって剣を突きたてる。顔を横にずらして避ければ、耳すれすれのところでライオネルの剣が地面に突き刺さった。

「ッ怖。アレッシオの記憶の断片で見たことあんだよ。そこに映ってたんだよ。あの王妃様が」
「は? 七十年以上も前の話だ。あり得ん」
「けど、グレイズの心臓持ってこいとか、時間がないとか、色々怪しいんだって」
「心臓だと……? 首ではなく?」

 ライオネルが地に刺さった剣を引き抜いて、鞘に収めた。俺も肩を撫で下ろしながら体を起こす。

「そう。それにさ、俺だってグレイズを倒したいなんて思ってねーし。依頼受けたフリして、あの王妃様の狙いを探ろうかなって」
「そうか」
「分かってくれたか」

 ホッとしていると、ミランダが恐る恐る近付いて声をかけてきた。

「あの……ジーク?」
「なに?」
「この人、味方なんだよね?」
「あー、うん。一応」
「一応……?」

 怪訝な顔で見てくるミランダと、その後ろにいるブルーノ、エマの瞳をライオネルは順にゆっくりと見た。

「貴様らは、魔界に行くだけだ。余計なことは一切するな。分かったな?」
「「「はい」」」
「では、明後日。約束通りトラヴァースの森にて集合だ」
「「「はい」」」

 小さく頷いた三人は、それぞれ別の方角へと散っていった——。

「え?」

 その様子を呆気に取られながら見ていると、ライオネルが歩き出した。

「ほら、くぞ」
「あ、うん」

 急いでライオネルを追いかける。

「なぁ、さっきのって」
「ああ、少々魅了の力を使わせてもらった」
「でも、それなら魔界に行かない選択肢の方が良かったんじゃね?」
「そんなことをしたら、さっきの女は別の誰かを魔界に向かわせるだけだろう」
「確かに……」

 魔界に行くだけ行って、魔王討伐なんて無理でした。と、帰れば良い。そして、俺はクラリス王妃の周りを探ろう。

 ライオネルがグレイズに報告する為の手帳を取り出した。スラスラと今あったことを書き始めたライオネル。

(————故に、ジーク含め残り三人の人間も監禁しておいた方が宜しいかと。いえ、むしろ四人とも抹殺した方が宜しいと思います)
「は?」
「どうかしたか?」
「え?」

 思わず心の声に反応した為、二人でハテナを浮かべて「え?」を言い合うことに。
 そして、今思いついたように聞いてみる。

「あのさ、ライオネル」
「なんだ?」
「分かってくれたんだよな? さっき言ったこと」
「ああ」
「じゃあさ、ライオネルは俺らの味方ってことで良いんだよな? な?」

 念を押すように二度聞けば、ライオネルは呆れたように応えた。

「私が仕えるのは魔王陛下のみ。敵にはなり得るが、妙な仲間意識を持たれては困る」
「そうかもだけどさ」
「何にせよ、あの女からアレッシオ様の気配がする理由を探りたいのは確かだ」
「もしもだけど、俺がアレッシオの生まれ変わりじゃなかったら?」
「貴様の未来は『死』。この一択のみだ」
「……だよな」

 想像するだけで背筋がゾクッとする。
 
(もしも本物なら、此奴こやつは溺愛される毎日か。魔王陛下に——なことや——なこと、更には——なことまでされて、羨ましすぎる。変わってもらいたい)

 溺愛される毎日も背筋が凍りそうだ。

「ま、どの道あと一年も経てば自ずと分かる」
「一年?」
「『蘇っても、二十年は本来の能力は眠り続ける。そこまで生き延びることが出来て、初めて蘇ったと言える』そう、魂を蘇らせる為の書物に書いてあったのだ。事実かは知らんがな」
「へぇ。本来の能力……か」

 それで、グレイズもライオネルも、去年俺が魔界にいる時に二年後がどうのこうの言っていたのか。

「てことは、俺、来年には悪魔になるのか?」
「多分な」

 ——不思議なくらい、悪魔になることが嫌だとは思わなかった。
 けれど、俺が俺でなくなってしまうのではないかという不安だけが心に残る。
 




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