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第16話 魔力の与え方
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※ジーク視点に戻ります※
一年ぶりのグレイズの部屋。
前より散らかっていたが、ベッドの上だけは清潔が保たれていた。
やや照れながら、ベッドの上でグレイズと見つめあう。
「お、お、俺、グレイズの魔力がないと生きられないからさ」
聞かれてもいないのに言い訳をすれば、グレイズに顎をクイッと持ち上げられた。
「ジーク、おかえり」
「ただいま……んんッ」
懐かしい。この感触、この匂い、この味、そして、このねちっこくしつこい感じ。
グレイズの唇から魔力が流れてきたのが分かり、体が軽くなる。
そして、魔力は十分過ぎる程に入ってきたような気がするのに、それでも終わらないグレイズの口付け。
(もう何処へも行くな。我から離れるな。頼むから、頼むから一人にしないでくれ……)
その不安げな心の声に応えるように、俺はグレイズの背中に手を回す。背中をポンポンと撫でれば、グレイズの舌が糸を引いて離れていく。
「ハァ……ハァ……グレイズ、ごめん。俺……」
また助けられた。と、謝罪と感謝を述べようとすれば、グレイズは更に不安そうな表情で見つめてきた。
(我を置いて人間界に戻るのか? それとも、あの怪しげな女の命令通りに我を殺すのか? 其方になら殺されても構わん。一人にされるくらいなら消滅した方が良い。さぁ、殺せ……さぁ、殺せ……殺せ)
「グレイズ……」
一人は寂しくて、不安で、どうしようもなく悲しかったのだと、痛いほど伝わってくる。
俺はグレイズに微笑みかけた。
「久しぶり。少し髪伸びたな」
「あ」
グレイズが自身の髪を触って固まった。
(結局整えるのを忘れていた。こんなだらしのない男が嫌で人間界に戻ろうとしているのか? 我を殺そうとしているのか? こんな我に嫌気をさして自ら命を……?)
(絶つわけないだろ! 髪が伸びたくらいで自殺してたらキリがないって!)
思った以上にネガティブなグレイズを励ますように言ってみる。
「髪の長いグレイズも格好良いな。やっぱ、顔が良いっていいよな」
「格好良い? 我が?」
「ああ、この世の者とは思えないほど格好良いっていうか、綺麗だ」
事実を伝えれば、グレイズはプイっと後ろを向いた。
(我が、格好良い? 綺麗? どうしよう……嬉しすぎて顔がニヤける。こんな顔、みっともなくて見せられん)
「グレイズ?」
何だかグレイズが可愛く思えて、グレイズの肩の方から顔を覗き込む。
しかし、グレイズはまたもやプイっとそっぽを向いて顔を見せてくれない。
「グレイズってば」
「なんだ」
「こっち向いてってば」
「嫌だ」
何だかグレイズといると、ほんわかした気持ちになる。そんな緊張感のカケラもない、ほわほわした気持ちでいると、トントントンと扉をノックする音が聞こえてきた。
俺はグレイズの後ろにサッと隠れるように座る。
「入れ」
グレイズの声で扉を開けたのは、ライオネル。そして、その後ろにミランダがいた。
「魔王陛下、失礼致します」
「し、失礼します(なんで、わたしこんなところにいるんだろ……)」
ライオネルの魅了にかかったミランダは、不安気な表情を見せつつも、ライオネルや魔王を味方だと思い込まされているらしい。
「この女だけ魔力がないのでお願いします。私の魔力を与えたら、魅了が解けてしまいます故」
「え」
ポカンと口を開けてグレイズを見れば、頭をクシャッと撫でられた。
「魔力のある残りの二人は、魔界にいても問題ないのに対し、其方のように魔力のない彼女は、魔界では生きられぬ」
「いや、知ってるけど……」
ミランダにもキスするのか?
グレイズは、誰とでもキス出来るのか? それが人助けなのは分かっている。しかし、グレイズは、俺じゃなくても……。
何だか複雑な気分で俯いていると、グレイズはミランダを手招きした。
「こちらへ」
「はい」
ミランダは、グレイズの前に跪いた。
グレイズがミランダの頭上に片手をかざせば、ミランダの体がポゥッと闇色に光った。
「これで、其方も暫くは大丈夫だ」
「あ、ありがとうございます」
「え?」
ミランダは、ライオネルの元まで下がった。
「念の為、再び地下牢に入れておけ」
「御意」
ライオネルが右手を胸に置く。
そして、普通に出て行こうとする。
「いやいやいや……いやいやいやいやいや」
今のは何だ?
今の一連の流れは……俺はライオネルの魅了にでもかかったか?
「どうかしたか? ジーク」
「魔王陛下、ジークは地下牢に入りたくないだけですよ」
グレイズは、俺を宥めるように言った。
「ジーク。其方らを地下牢に入れておくのは、ナタナエルから守る為でもある」
「分かってる」
それは聞いた。
この後、俺も地下牢で眠る予定だ。
本来、俺らはアレッシオの気配がするというクラリス王妃の狙いを探るべく、魔王城でしばらく過ごす作戦を立てていた。
まぁ、作戦と言えば大袈裟ではあるが、時間のないと言っていたクラリス王妃は、俺らが魔界から戻ってこなければ、新たな陣営隊を送り込むか、自分でやってくるはず。
それまでの間、四人で魔王城に厄介になる予定が、グレイズの弟であるナタナエルに俺たち人間がいることがバレてしまった。(エマが転移する場所を間違えたのがいけないのだが……)
とにかく、俺ら人間が魔王城でのうのうと生活をしているところを見られる訳にはいかないらしく、地下牢に入ることになった。
「それは問題ない。問題なのは……魔力の送り方だ」
俺には毎回濃厚なキスで送り込んでくるくせに、今のは何だ? ちょっと手をかざしただけで、魔力を相手に与えることができるのか?
俺が指摘したことで、グレイズはハッと気付いたように固まった。
ライオネルは、顔が赤くなった俺とベッドを一瞥してからグレイズに聞いた。
「魔王陛下、普段ジークにはどのように魔力を与えておられるのですか?(もしや、ベッドの中で、ピ——をピ——してピ——しながら?)」
(いやいやいや、そこまでじゃない! グレイズの頭の中は、いつもエロい妄想でいっぱいだが、キス止まりだ)
更に顔が熱くなってしまった。
そして、グレイズはといえば——。
(まずい。魔力を普通に与えてしまった。しかし、ジーク以外に口付けなんて出来るはずがない。部屋を変えれば良かった……。それより、口付けでなくとも与えられるのがバレた今、今後我はどうやってジークに触れれば良い? 口実がなくなった我は、どうやってジークに口付けを……)
平然とした顔で物至極悩みまくっていた。
しかも、グレイズの絞り出した苦しい答えときたら——。
「あー、ジークにも一度は普通にやってみたのだ。けれど、どうも拒まれる。故に、中から直に入れるしかないのだ」
(やはり、ピ——を挿入して、ピ——しながら……)
(だから、ライオネルは過激すぎだって! いや、今のはグレイズの言い方が悪いか)
「よって、今後もジークには口付けで与える。良いな?」
「お、おう……」
それ以外、返事のしようがなかった。
与え方はグレイズ次第。それに、俺以外にキスしないのであれば、それで良い。それで良いのか?
(なんだ、口付けか……)
ライオネルは、ホッとしたような……それでいて、つまらなさそうに、ミランダと共に部屋から出て行った——。
シンと静寂に包まれる。
何とも言えない空気が流れ、居た堪れない気持ちになる。
「お、俺も地下牢に戻ろっかな」
「うむ」
ひとまず、地下牢に逃げることにした。
一年ぶりのグレイズの部屋。
前より散らかっていたが、ベッドの上だけは清潔が保たれていた。
やや照れながら、ベッドの上でグレイズと見つめあう。
「お、お、俺、グレイズの魔力がないと生きられないからさ」
聞かれてもいないのに言い訳をすれば、グレイズに顎をクイッと持ち上げられた。
「ジーク、おかえり」
「ただいま……んんッ」
懐かしい。この感触、この匂い、この味、そして、このねちっこくしつこい感じ。
グレイズの唇から魔力が流れてきたのが分かり、体が軽くなる。
そして、魔力は十分過ぎる程に入ってきたような気がするのに、それでも終わらないグレイズの口付け。
(もう何処へも行くな。我から離れるな。頼むから、頼むから一人にしないでくれ……)
その不安げな心の声に応えるように、俺はグレイズの背中に手を回す。背中をポンポンと撫でれば、グレイズの舌が糸を引いて離れていく。
「ハァ……ハァ……グレイズ、ごめん。俺……」
また助けられた。と、謝罪と感謝を述べようとすれば、グレイズは更に不安そうな表情で見つめてきた。
(我を置いて人間界に戻るのか? それとも、あの怪しげな女の命令通りに我を殺すのか? 其方になら殺されても構わん。一人にされるくらいなら消滅した方が良い。さぁ、殺せ……さぁ、殺せ……殺せ)
「グレイズ……」
一人は寂しくて、不安で、どうしようもなく悲しかったのだと、痛いほど伝わってくる。
俺はグレイズに微笑みかけた。
「久しぶり。少し髪伸びたな」
「あ」
グレイズが自身の髪を触って固まった。
(結局整えるのを忘れていた。こんなだらしのない男が嫌で人間界に戻ろうとしているのか? 我を殺そうとしているのか? こんな我に嫌気をさして自ら命を……?)
(絶つわけないだろ! 髪が伸びたくらいで自殺してたらキリがないって!)
思った以上にネガティブなグレイズを励ますように言ってみる。
「髪の長いグレイズも格好良いな。やっぱ、顔が良いっていいよな」
「格好良い? 我が?」
「ああ、この世の者とは思えないほど格好良いっていうか、綺麗だ」
事実を伝えれば、グレイズはプイっと後ろを向いた。
(我が、格好良い? 綺麗? どうしよう……嬉しすぎて顔がニヤける。こんな顔、みっともなくて見せられん)
「グレイズ?」
何だかグレイズが可愛く思えて、グレイズの肩の方から顔を覗き込む。
しかし、グレイズはまたもやプイっとそっぽを向いて顔を見せてくれない。
「グレイズってば」
「なんだ」
「こっち向いてってば」
「嫌だ」
何だかグレイズといると、ほんわかした気持ちになる。そんな緊張感のカケラもない、ほわほわした気持ちでいると、トントントンと扉をノックする音が聞こえてきた。
俺はグレイズの後ろにサッと隠れるように座る。
「入れ」
グレイズの声で扉を開けたのは、ライオネル。そして、その後ろにミランダがいた。
「魔王陛下、失礼致します」
「し、失礼します(なんで、わたしこんなところにいるんだろ……)」
ライオネルの魅了にかかったミランダは、不安気な表情を見せつつも、ライオネルや魔王を味方だと思い込まされているらしい。
「この女だけ魔力がないのでお願いします。私の魔力を与えたら、魅了が解けてしまいます故」
「え」
ポカンと口を開けてグレイズを見れば、頭をクシャッと撫でられた。
「魔力のある残りの二人は、魔界にいても問題ないのに対し、其方のように魔力のない彼女は、魔界では生きられぬ」
「いや、知ってるけど……」
ミランダにもキスするのか?
グレイズは、誰とでもキス出来るのか? それが人助けなのは分かっている。しかし、グレイズは、俺じゃなくても……。
何だか複雑な気分で俯いていると、グレイズはミランダを手招きした。
「こちらへ」
「はい」
ミランダは、グレイズの前に跪いた。
グレイズがミランダの頭上に片手をかざせば、ミランダの体がポゥッと闇色に光った。
「これで、其方も暫くは大丈夫だ」
「あ、ありがとうございます」
「え?」
ミランダは、ライオネルの元まで下がった。
「念の為、再び地下牢に入れておけ」
「御意」
ライオネルが右手を胸に置く。
そして、普通に出て行こうとする。
「いやいやいや……いやいやいやいやいや」
今のは何だ?
今の一連の流れは……俺はライオネルの魅了にでもかかったか?
「どうかしたか? ジーク」
「魔王陛下、ジークは地下牢に入りたくないだけですよ」
グレイズは、俺を宥めるように言った。
「ジーク。其方らを地下牢に入れておくのは、ナタナエルから守る為でもある」
「分かってる」
それは聞いた。
この後、俺も地下牢で眠る予定だ。
本来、俺らはアレッシオの気配がするというクラリス王妃の狙いを探るべく、魔王城でしばらく過ごす作戦を立てていた。
まぁ、作戦と言えば大袈裟ではあるが、時間のないと言っていたクラリス王妃は、俺らが魔界から戻ってこなければ、新たな陣営隊を送り込むか、自分でやってくるはず。
それまでの間、四人で魔王城に厄介になる予定が、グレイズの弟であるナタナエルに俺たち人間がいることがバレてしまった。(エマが転移する場所を間違えたのがいけないのだが……)
とにかく、俺ら人間が魔王城でのうのうと生活をしているところを見られる訳にはいかないらしく、地下牢に入ることになった。
「それは問題ない。問題なのは……魔力の送り方だ」
俺には毎回濃厚なキスで送り込んでくるくせに、今のは何だ? ちょっと手をかざしただけで、魔力を相手に与えることができるのか?
俺が指摘したことで、グレイズはハッと気付いたように固まった。
ライオネルは、顔が赤くなった俺とベッドを一瞥してからグレイズに聞いた。
「魔王陛下、普段ジークにはどのように魔力を与えておられるのですか?(もしや、ベッドの中で、ピ——をピ——してピ——しながら?)」
(いやいやいや、そこまでじゃない! グレイズの頭の中は、いつもエロい妄想でいっぱいだが、キス止まりだ)
更に顔が熱くなってしまった。
そして、グレイズはといえば——。
(まずい。魔力を普通に与えてしまった。しかし、ジーク以外に口付けなんて出来るはずがない。部屋を変えれば良かった……。それより、口付けでなくとも与えられるのがバレた今、今後我はどうやってジークに触れれば良い? 口実がなくなった我は、どうやってジークに口付けを……)
平然とした顔で物至極悩みまくっていた。
しかも、グレイズの絞り出した苦しい答えときたら——。
「あー、ジークにも一度は普通にやってみたのだ。けれど、どうも拒まれる。故に、中から直に入れるしかないのだ」
(やはり、ピ——を挿入して、ピ——しながら……)
(だから、ライオネルは過激すぎだって! いや、今のはグレイズの言い方が悪いか)
「よって、今後もジークには口付けで与える。良いな?」
「お、おう……」
それ以外、返事のしようがなかった。
与え方はグレイズ次第。それに、俺以外にキスしないのであれば、それで良い。それで良いのか?
(なんだ、口付けか……)
ライオネルは、ホッとしたような……それでいて、つまらなさそうに、ミランダと共に部屋から出て行った——。
シンと静寂に包まれる。
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ひとまず、地下牢に逃げることにした。
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