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第17話 魅了(解)
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それから二週間。
以前と同じ地下牢。違うのは、足枷がないことと、俺の向かいにブルーノ、その両隣りにエマとミランダが収容されていることくらい。
ただ、ライオネルの魅了のおかげで、ブルーノ、エマ、ミランダは、地下牢にいても快適そうだ。
それぞれ、鉄格子越しに会話する。
「今日の夕飯なんだろ」
「自分で作らなくて良いなんて楽よね。ミランダもそう思うでしょ?」
「わたしは、何かしてないと落ち着かないかなぁ。でも、布団がふかふかなのは良いよね」
俺は、ゴツゴツした石のベッドとボロボロの麻の布の掛け物を見た。
これもふかふかな布団に見えているのかと思うと、俺も魅了にかかりたいと思ってしまう。
そこへ、カツカツカツ——と、階段をおりてくる足音が聞こえてきた。
(この足音……)
「皆、下がっていろ」
鉄格子の向こうで警備を任されているライオネルが指示を出せば、三人はサッと壁際まで下がり、怯えた様子を見せる。(これもライオネルがそうするよう操っているらしい)
俺も一応壁際に移動し、警戒しながら階段から伸びる陰をじっと見つめる。そして、現れたのはグレイズそっくりのナタナエル。
「何か御用でしょうか。ナタナエル様」
「元気にしてるかなぁって」
普段から冷めた表情のグレイズに比べ、温和な表情のナタナエル。しかし、それは見た目だけ。
「こんなに怯えちゃって。早く殺しちゃえば良いのに。代わりに僕が殺してあげよっか?」
「それを決めるのは魔王陛下にございます」
ナタナエルがここを訪れるのは、ほぼ毎日。この会話も聞き飽きた。
そして、鉄格子にかけられたグレイズの強力な術によってナタナエルは指一本俺たちに触れることなく去って——。
「なッ」
ナタナエルが、ブルーノの入っている牢の鉄格子を握った。
いつもは、バチッと静電気のようなものが走って弾かれるナタナエルの手が、鉄格子をガッシリと握っている。それはグニャリとひん曲げられた。
(驚いてる驚いてる。兄者は、ライオネルと正式な番の契約交わしてないって聞いちゃったもんね。番のいない兄者の術なんて、この僕に破れない訳ないじゃん)
ライオネルと正式な番?
グレイズの番は、俺だ。ナタナエルは、何を言っている?
(チッ、今日は魔王陛下は不在だというのに……)
ライオネルは、ナタナエルの背に刃を向けた。
「僕に刃向かうの?」
「魔王陛下より、人間には何人たりとも近付かせぬように言われております故。ナタナエル様であろうと例外ではございません」
「そっか。ま、君も死ねば良いんじゃない? そうすれば、兄者の番はいなくなる訳だしさ」
刹那、ナタナエルとライオネルの位置が逆転した。ライオネルの首にナタナエルの鋭い爪が突き立てられた。
「グッ……(さすがはナタナエル様。本気を出さねば、負けるな)」
ライオネルが手を肩上のナタナエルの顔面にかざした。そして、何の躊躇いもなく闇の閃光を放った。
ドーンッ!
ナタナエルの姿はそこになく、地下牢の天井に攻撃は当たった。
「さすが魔王城の地下牢。全然壊れてねぇ」
魔王城ごと壊れるんじゃないかと心配したが、心配するまでもなさそうだ。
それより、ブルーノだ。怯えて身を縮こめるブルーノの前に、見下すようにナタナエルが立った。
俺は鉄格子を両手に掴んで叫んだ。
「おい、ライオネル! ここ開けてくれ!」
「黙れ」
「ちょ、黙れって……早くしないとブルーノが」
鉄格子をガンガンするが、びくともしない。
そうこうしている間に、ナタナエルはギュッと目を瞑るブルーノの水色の頭の上に手を置いた。
同時に、ライオネルが心の中で呟いた。
(解)
ブルーノが頭上にいるナタナエルを真っ直ぐに見た。
(ここは……? それに、この黒髪……悪魔か?)
「ブルー……ノ?」
ナタナエルは、変わらずニヒルな笑みを浮かべたままブルーノを見下ろしている。
「僕さ、君みたいに弱い人間、大っ嫌いなんだよね。だから、殺してあげるね」
「…………」
ブルーノの顔付きは、怯えから完全に真剣な面持ちへと変わっている。
「奇遇だね。僕も君のような悪魔は大っ嫌いだ」
以前と同じ地下牢。違うのは、足枷がないことと、俺の向かいにブルーノ、その両隣りにエマとミランダが収容されていることくらい。
ただ、ライオネルの魅了のおかげで、ブルーノ、エマ、ミランダは、地下牢にいても快適そうだ。
それぞれ、鉄格子越しに会話する。
「今日の夕飯なんだろ」
「自分で作らなくて良いなんて楽よね。ミランダもそう思うでしょ?」
「わたしは、何かしてないと落ち着かないかなぁ。でも、布団がふかふかなのは良いよね」
俺は、ゴツゴツした石のベッドとボロボロの麻の布の掛け物を見た。
これもふかふかな布団に見えているのかと思うと、俺も魅了にかかりたいと思ってしまう。
そこへ、カツカツカツ——と、階段をおりてくる足音が聞こえてきた。
(この足音……)
「皆、下がっていろ」
鉄格子の向こうで警備を任されているライオネルが指示を出せば、三人はサッと壁際まで下がり、怯えた様子を見せる。(これもライオネルがそうするよう操っているらしい)
俺も一応壁際に移動し、警戒しながら階段から伸びる陰をじっと見つめる。そして、現れたのはグレイズそっくりのナタナエル。
「何か御用でしょうか。ナタナエル様」
「元気にしてるかなぁって」
普段から冷めた表情のグレイズに比べ、温和な表情のナタナエル。しかし、それは見た目だけ。
「こんなに怯えちゃって。早く殺しちゃえば良いのに。代わりに僕が殺してあげよっか?」
「それを決めるのは魔王陛下にございます」
ナタナエルがここを訪れるのは、ほぼ毎日。この会話も聞き飽きた。
そして、鉄格子にかけられたグレイズの強力な術によってナタナエルは指一本俺たちに触れることなく去って——。
「なッ」
ナタナエルが、ブルーノの入っている牢の鉄格子を握った。
いつもは、バチッと静電気のようなものが走って弾かれるナタナエルの手が、鉄格子をガッシリと握っている。それはグニャリとひん曲げられた。
(驚いてる驚いてる。兄者は、ライオネルと正式な番の契約交わしてないって聞いちゃったもんね。番のいない兄者の術なんて、この僕に破れない訳ないじゃん)
ライオネルと正式な番?
グレイズの番は、俺だ。ナタナエルは、何を言っている?
(チッ、今日は魔王陛下は不在だというのに……)
ライオネルは、ナタナエルの背に刃を向けた。
「僕に刃向かうの?」
「魔王陛下より、人間には何人たりとも近付かせぬように言われております故。ナタナエル様であろうと例外ではございません」
「そっか。ま、君も死ねば良いんじゃない? そうすれば、兄者の番はいなくなる訳だしさ」
刹那、ナタナエルとライオネルの位置が逆転した。ライオネルの首にナタナエルの鋭い爪が突き立てられた。
「グッ……(さすがはナタナエル様。本気を出さねば、負けるな)」
ライオネルが手を肩上のナタナエルの顔面にかざした。そして、何の躊躇いもなく闇の閃光を放った。
ドーンッ!
ナタナエルの姿はそこになく、地下牢の天井に攻撃は当たった。
「さすが魔王城の地下牢。全然壊れてねぇ」
魔王城ごと壊れるんじゃないかと心配したが、心配するまでもなさそうだ。
それより、ブルーノだ。怯えて身を縮こめるブルーノの前に、見下すようにナタナエルが立った。
俺は鉄格子を両手に掴んで叫んだ。
「おい、ライオネル! ここ開けてくれ!」
「黙れ」
「ちょ、黙れって……早くしないとブルーノが」
鉄格子をガンガンするが、びくともしない。
そうこうしている間に、ナタナエルはギュッと目を瞑るブルーノの水色の頭の上に手を置いた。
同時に、ライオネルが心の中で呟いた。
(解)
ブルーノが頭上にいるナタナエルを真っ直ぐに見た。
(ここは……? それに、この黒髪……悪魔か?)
「ブルー……ノ?」
ナタナエルは、変わらずニヒルな笑みを浮かべたままブルーノを見下ろしている。
「僕さ、君みたいに弱い人間、大っ嫌いなんだよね。だから、殺してあげるね」
「…………」
ブルーノの顔付きは、怯えから完全に真剣な面持ちへと変わっている。
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