囚われの勇者〜スキルで魔王の心の声を聞いたら、どうやら俺は魔王に溺愛されているようだ〜

陽七 葵

文字の大きさ
19 / 25

第18話 俺が番だ

しおりを挟む
『奇遇だね。僕も君のような悪魔は大っ嫌いだ』

 そうハッキリと告げたブルーノは、両手を胸の前で合わせ小さな声で何やら呟いた。すると、ナタナエルの周りに次々に小さな無数の魔法陣が現れた。

「なッ、これは」

 驚きを隠せないナタナエル。
 魔法陣から眩く光る鎖が現れ、それはナタナエルの両足、そして両手に絡みつく。

「どうなってんだ……?」

 呆気に取られる俺の牢の前で、ライオネルが小声で言った。

「こいつらは、魔王陛下討伐に選ばれた人間。弱いわけないだろう。自分の身は自分で守らせた方が早い」
「あー、なるほど」

 さっきまでの弱そうなブルーノは、ライオネルの魅了で操られていただけなのか。そして今、それが解かれたブルーノは、本来の力でナタナエルに立ち向かっていると……。

「てか、ブルーノ。見た目に似合わず、普通に強いな」

 鎖はナタナエルの体に食い込みながら全身に纏わりつき、更に違う魔法陣も現れ、ブルーノの容赦ない攻撃がナタナエルを襲う。
 無数の爆発音と共に、ナタナエルは土煙りに包まれる。

(このまま殺しちゃっても良いけど、悪魔ってパッと見人間だからなぁ。躊躇っちゃうなぁ)

 そう心の中で呟くブルーノは、今までで一番大きな魔法陣を頭上に出現させ、そこから、これまた大きな槍がナタナエル目掛けて放たれた。

「躊躇いもクソもねぇ……」

 土煙が徐々に落ち着き、そのシルエットが見えてきた。

「なッ、どうやって……」

 ナタナエルの黒いローブはボロボロに破れているが、鎖から逃れてピンピンしていた。

「人間のくせに中々やるじゃん。もっと広いところでやろうよ」

 ニヤリと笑うナタナエルに、ブルーノは一歩たじろいだ。
 さすが魔界で一二を争う悪魔。そう簡単にはいかないようだ。
 
 戦闘が長引くのを覚悟して、ライオネルの腰についている牢の鍵を奪い取ろうと手を伸ばした時だった。

「何をしている?」

 どこからともなくグレイズが現れた。

兄者あにじゃ……」
「人間には危害を加えるなと言ったであろう。人間、こちらへ」

 そう言って、ブルーノを手招きした。
 
(え、僕? てか、この男……魔王……だよね? 昨日まで僕、この男に何の警戒心もなく話しかけていたような……そして、そこにいるジークの仲間。あれも黒髪ってことは、悪魔? でも、ジーク勇者の仲間だし……うーん)

 混乱しているブルーノに、ライオネルが呟いた。

魅了チャーム

 すると、ブルーノの表情が一変。再び弱そうに怯えるブルーノに変わってしまった。
 そんな彼を守るように、グレイズが前に立った。

「我は、無駄な戦闘はしたくない。この者らも近々人間界へ送り返す予定だ」
「しかし、兄者……」
「王は我だ。口答え無用」

 グレイズはブルーノを牢から出し、俺の隣の牢に入れ直した。そして、鉄格子に何やら術をかけた。

(まさか、ナタナエルが我の結界を破るとは……また破られたら面倒だ。他の人間の結界も、ジークの牢のように三重に張っとくか)
(俺、贔屓ひいきされてたのか……)

 嬉しいような、しかし、俺が弱いと言われているようで……複雑な気分だ。
 
「それでは、兄者。改めて王の座をかけて決闘を申し込みします」
「断る」
「負けるのが怖いのですか? アレッシオより弱いですもんね、ライオネルは」

 何故、王の座をかけて戦うのにライオネルが出てくるのだろうか。グレイズとナタナエルが戦うのでは?

 疑問に思いつつも、今はただの人間として捕まっている身分。黙っておく。

「ライオネルは強い。だからこそ言っている。其方そなたは、次負ければ二度と王にはなれんからな」
「う……」

 ナタナエルが苦渋の表情でライオネルを見た。そして、その後ろにいた俺と目があった。

「(こいつ、この間妙なこと言っていた人間だ。まるで、僕のことを知っているような口振り。殺されかけて頭がおかしくなったのかと思ったが、さっきもライオネルの名を普通に呼んでいたし……)貴様は、何者だ?」
「俺は……」
(まずい……ナタナエルは、感だけは良い。このままではジークが我のつがいだと……アレッシオの生まれ変わりだと、気付かれてしまう)

 心中焦るグレイズは、俺を隠すように立ち、ライオネルと寄り添うように肩を組んだ。

「今は、我のつがいの話であろう?」
(グレイズ様……そのまま私をつがいにして下さい)

 ライオネルは、うっとりとグレイズを見上げる。

 ——何だろう。この胸のモヤモヤは……。

「グレイズ……」
(ジーク、申し訳ない。其方そなたを守るためなのだ)

 グレイズが、必死で守ってくれようとしてくれているのは伝わってくる。けれど、ライオネルをつがいだと偽ってまで助けられたくない。何故、嘘を吐くのか。

 俺は、堂々と言った。

「グレイズのつがいは、この俺だ! 俺の方が、何百年も前からグレイズを愛している!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

伯爵令息アルロの魔法学園生活

あさざきゆずき
BL
ハーフエルフのアルロは、人間とエルフの両方から嫌われている。だから、アルロは魔法学園へ入学しても孤独だった。そんなとき、口は悪いけれど妙に優しい優等生が現れた。

黒豚神子の異世界溺愛ライフ

零壱
BL
───マンホールに落ちたら、黒豚になりました。 女神様のやらかしで黒豚神子として異世界に転移したリル(♂)は、平和な場所で美貌の婚約者(♂)にやたらめったら溺愛されつつ、異世界をのほほんと満喫中。 女神とか神子とか、色々考えるのめんどくさい。 ところでこの婚約者、豚が好きなの?どうかしてるね?という、せっかくの異世界転移を台無しにしたり、ちょっと我に返ってみたり。 主人公、基本ポジティブです。 黒豚が攻めです。 黒豚が、攻めです。 ラブコメ。ほのぼの。ちょびっとシリアス。 全三話予定。→全四話になりました。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

拍羅
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。 前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち… でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ… 優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。

災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!

椿谷あずる
BL
かつて“災厄の魔導士”と呼ばれ恐れられたゼルファス・クロードは、転生後、平穏に暮らすことだけを望んでいた。 ある日、夜の森で倒れている銀髪の勇者、リアン・アルディナを見つける。かつて自分にとどめを刺した相手だが、今は仲間から見限られ孤独だった。 平穏を乱されたくないゼルファスだったが、森に現れた魔物の襲撃により、仕方なく勇者を連れ帰ることに。 天然でのんびりした勇者と、達観し皮肉屋の魔導士。 「……いや、回復したら帰れよ」「えーっ」 平穏には程遠い、なんかゆるっとした日常のおはなし。

処理中です...