囚われの勇者〜スキルで魔王の心の声を聞いたら、どうやら俺は魔王に溺愛されているようだ〜

陽七 葵

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第20話 魔王の座をかけて

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 あれから三日が過ぎた。
 昼間からグレイズの部屋のベッドの上で、レオに頬ずりしながらゴロゴロタイム。

「鬱陶しい。離れろ!」
「はぅ~、落ち着く」

 俺は、結局この二週間何をしていたのか。
 初めからグレイズに気持ちを伝えていれば良かった。そうすれば、この極上空間でレオをむぎゅむぎゅしながら眠ることができていたのに……。
 とはいえ、あの時はまだ、自分の気持ちが定かではなかったので致し方ない。

「おい、ジーク。離れろって!」
「だって、グレイズが言ってたじゃん。『この部屋から一歩も出るな。それが出来ないなら、あの部屋に監禁だ』って。最初の地下牢なら良いけどさ、あの部屋本当に怖いんだって! 戻りたくねーじゃん」
「魔王様は、部屋から出るなって言っただけだろ。別にオイラから離れるなとは言ってねーぞ」
「同義だって。一年前も言ってただろ。『我の部屋から出るな。それは、つまり我から片時も離れるなという意味だ』って」
「そんなこと言ってたか?」
「言ってた言ってた(心の声が)」

 ちなみに今、ナタナエルとそのつがいであるジョスランは、俺の居場所を必死で探しているらしい。灯台下暗しとはこのことか、意外に見つかることなく快適に過ごせている。
 まぁ、時間の問題だろうが、俺だって戦わなくていいなら戦いたくはない。戦闘狂でもあるまいし。

「魔王様、早く帰ってきてくんないかなぁ」
「グレイズは、今日はどこに視察に行ってるんだ? って、聞いても分かんねーけどさ」
「聞いてないのか? お前ら以外に、また別の五人組の人間が魔界に入ってきたんだって」
「え!?」
「ライオネルと二人で返り討ちにしてくるって」
「……」

 二人で協力しようって言ったのに。約束したのに、また俺だけ籠の中。
 不貞腐れていると、レオは俺の気持ちを知ってか知らずか、小さな手で頭を撫でてきた。

「お前がいない一年、大変だったんだぞ」
「……?」
「魔王様は毎日のように魔力を暴走させて、魔王城が壊滅するかと思ったぜ」
「それは……」
「それだけお前のことが大事ってことだろ」
 
 レオのくせに慰めてくれるのか……と、胸を打たれたのはこの一瞬。

(ジークが死んだら、それこそ魔界の破滅だからな。せっかく高時給高待遇の職場に入れたのに、オイラを路頭に迷わすなよ)
(レオは、相変わらずブレないなぁ)

 思わず笑みが零れる。
 レオをむぎゅッとしながら、そんな顔をしている時だった――。

「楽しそうだね」
「わッ!」

 目の前に、ニコリと笑うグレイズ……ではなく、グレイズそっくりのナタナエルの姿。そして、その横にジョスランの姿も。
 俺はレオを守るように起き上がってベッドの端に移動する。

「どうしてここが……」
「最初は見過ごしちゃったけどさ、無駄に結界沢山張ってあるんだもん」

 確かにグレイズは結界を五重くらいに張ったと言っていた。そうだとしてもだ。

「ど、どうやって入ってきたんだよ」
「そうだそうだ! 魔王様の結界を破るなんて不可能だ!」
「ふふふ、それはね…………内緒」

 人差し指を口元に当てるナタナエル。

(まさか人間の魔道具に頼ることになるなんてね。情けなくて言えないけど、言わなきゃバレないもんね)
(ふッ、所詮グレイズには敵わないってわけか)

「何笑ってんの? 余裕だね」
「そりゃあね(人間の魔道具に頼ってる悪魔なんて怖くねーよ)」
「でも、不思議だよね。君、本当にあのアレッシオ?」
「そ、それは……」

 俺自身分からない。
 グレイズが言うからそうなのだろうと思っているが、違ったらどうしようとも思う。
 しかし、グレイズは言っていた。

『ジークが、アレッシオの生まれ変わりなのは間違いない。其方そなたがこの世に誕生した時、我は感じたのだ。そして、一目見た時に分かった。証明しろと言われたら難しいが、我の心がそう言っている』

 だから、俺は信じる。
 それに、アレッシオの記憶の断片が見えたり俺が知り得ないことを口走っているのがその証だ。

「俺は、アレッシオの生まれ変わりだ」
「そっかぁ。じゃあ、心臓はあっちにあっても、魂は違うところにあるってことか」
「は? お前、何か知って」
「黙って剣を抜け」

 ジョスランが剣を顔面に突きつけてきた。
 背中に嫌な汗が流れる。
 俺はそっとレオをベッドに置き、ベッド端に立てかけていたエクスカリバーを手に取った。

「魔王の座は、ナタナエル様がいただく」
「臨むところだ!」
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