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第21話 聖女の目的
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※グレイズ視点です※
一方その頃、人間界に通ずる東の森では——。
五人組の人間が、こちらを警戒しながら武器を構えている。
「ライオネル、例の女はこの中に?」
「いえ、いません」
「左様か」
落胆したような、それでいて安堵したような矛盾した気持ちになりながら、人間らに聞いてみる。
「其方らの目的は?」
すると、勇者らしき男が一歩前に出てきた。
「王妃様の命により、魔王の心臓を頂戴しに来た」
「ほぅ。では、返り討ちにあっても問題はないな」
「返り討ちになど」
我は片手を天に向けた。
「許せ。こんなところで無駄な時間を過ごしとうないのだ」
——ドーン。
落雷のような闇の雷が人間らを襲う。
「「「キャーーーー!」」」
「「うわぁぁぁぁぁぁあ!」」
五つの悲鳴が聞こえ、五人は呆気なく瀕死状態となった。
「さすが魔王陛下。お見事です」
「この者らを人間界へ送り届けよ」
「御意」
「ついでに、牢にいる三人も連れて行け。二度にわたる襲撃、戦争になる旨も王に伝えよ」
「御意」
指示を出し、マントを翻してジークの元へ飛び上がろうとした時だった——。
「……アレッシオ?」
懐かしい、アレッシオの気配がした。
ジークとは違う、七十九年前のアレッシオ。我の愛したアレッシオ。
けれど、アレッシオは死に、ジークとして新たな生を受けた。
これは、一体——。
——コツコツコツ……コツコツコツ。
足音が近付き、そこに現れたのは、真っ白の聖女の衣装を身に纏い、神器を手に持った金髪碧眼の女。
「何故、其方が……?」
「お久しぶりね。グレイズ」
彼女は、我が追い返した人間の一人。厄介な相手であったから良く覚えている。
それに何より、彼女と戦った末にアレッシオが命を絶ったのだ。忘れたくても忘れられない相手。
しかし、あり得ない。
あれは七十九年も前の話。同じ容姿であるはずがない。
そして、アレッシオの気配は彼女からしている。
「ライオネル」
「はい。この女が、例のクラリス王妃にございます」
クラリスは、ニヒルな笑みを浮かべて神器の柄を地にトンとついた。
「戦争になどされたら困りますわ。しかし、ここまで使い物にならない連中ばかりだと、我が国は大丈夫かしらね」
「気配がするだけで、アレッシオとは別物のようだ。魂が共鳴しておらん」
運命の番は、魂で繋がっている。我の心が、アレッシオの魂はここにはないと言っている。アレッシオの魂は、ジークに宿っている。
「故に、此奴は殺して構わん。不愉快極まりない」
「御意」
先程のように片手を天に翳したその時、レオから通信がきた。
ポワンと目の前に焦った様子のレオが映像化される。
【魔王様! 大変だ! ナタナエルが、ジョスランが! ジークを!】
「なんだと?」
会話になっていないが、その焦りっぷりと名前を聞いただけで状況は理解した。
「すぐ向かう。待ってろ」
【早くしないと、ジークが!】
プツンと映像が消えたと同時に、我は踵を返した。
「ライオネル、後は」
「どこへも行かせないわ」
神器がシャランと鳴り、目の前に見えない壁が出来た。それに触れると、ビリッと電気が走った。
クラリスによる結界か何かのようだ。
「わたくしの聖魔法は強力でしょう?」
「チッ、こんな時に」
「あ、でも、二対一なんて不利だから、あなたは行って宜しいですわよ。って、あなたは勇者の仲間……? あれ?」
ライオネルを見て、クラリスは混乱しているようだ。けれど、ライオネルだけでもジークの元へ行かせられるならその方が良い。
「ライオネル。ジークを頼む」
「御意」
ライオネルは、クラリスに阻まれることなく、魔王城へと向かった——。
「まぁ良いわ。時間がありませんの。早くあなたの心臓をわたくしに差し出しなさい」
心臓を差し出せと言われて差し出す愚か者は、いな——。
「まさか、貴様からするアレッシオの気配は……」
クラリスがニヤリと笑った。
「冥土の土産に教えてあげますわ。悪魔の心臓はね、調理次第で不老不死の薬になりますのよ」
「——ッ」
「ですが、やはりあなたみたいに強いのでなければダメみたい」
心臓に手を当てるクラリスは、儚げな表情で続ける。
「愛するグレイズを天使に戻してあげたいなんて愚かな悪魔の心臓じゃ、長くはもたないみたいなの」
「アレッシオ、まさかそんな理由で」
アレッシオを馬鹿にするクラリスに腹が立つ。アレッシオの命を奪ったクラリスに。けれど、一番腹が立つのは自分自身。
我は、昔アレッシオに言ったことがある。
『我は、天使になりたい。悪魔の行く末は消滅。けれど、天使は蘇る。何度でも其方と愛し合うことが出来る』
そう言ってしまったのだ。
そんなこと叶うはずがないのに。
「我は、なんて馬鹿なことを……」
「本当、馬鹿ですわよね。わたくしが神の愛し子だからって、そんなこと出来る訳ありませんのにね」
ほほほほほと高笑いするクラリスは、悪魔よりも悪魔に見える。
自身の体から魔力が湧き出ているのが分かる。風も吹いていないのに、下から風が吹いているかの如く髪が逆立ち、隠していた翼と一対の角も出ている。
怒りに任せてはいけないことは分かっている。けれど、怒らずにはいられない。
「あらあら、怒らせちゃいました?」
「…………」
クラリスを真っ直ぐに見据え、我は暴走した魔力を一点集中。クラリス目掛けて放った。
同時に、クラリスも神器を一振り。闇と光の魔力がぶつかり合う。
それは互角のようで、二つの魔力が押し合いを始める。
「うッ……中々ね……」
「貴様もな」
一方その頃、人間界に通ずる東の森では——。
五人組の人間が、こちらを警戒しながら武器を構えている。
「ライオネル、例の女はこの中に?」
「いえ、いません」
「左様か」
落胆したような、それでいて安堵したような矛盾した気持ちになりながら、人間らに聞いてみる。
「其方らの目的は?」
すると、勇者らしき男が一歩前に出てきた。
「王妃様の命により、魔王の心臓を頂戴しに来た」
「ほぅ。では、返り討ちにあっても問題はないな」
「返り討ちになど」
我は片手を天に向けた。
「許せ。こんなところで無駄な時間を過ごしとうないのだ」
——ドーン。
落雷のような闇の雷が人間らを襲う。
「「「キャーーーー!」」」
「「うわぁぁぁぁぁぁあ!」」
五つの悲鳴が聞こえ、五人は呆気なく瀕死状態となった。
「さすが魔王陛下。お見事です」
「この者らを人間界へ送り届けよ」
「御意」
「ついでに、牢にいる三人も連れて行け。二度にわたる襲撃、戦争になる旨も王に伝えよ」
「御意」
指示を出し、マントを翻してジークの元へ飛び上がろうとした時だった——。
「……アレッシオ?」
懐かしい、アレッシオの気配がした。
ジークとは違う、七十九年前のアレッシオ。我の愛したアレッシオ。
けれど、アレッシオは死に、ジークとして新たな生を受けた。
これは、一体——。
——コツコツコツ……コツコツコツ。
足音が近付き、そこに現れたのは、真っ白の聖女の衣装を身に纏い、神器を手に持った金髪碧眼の女。
「何故、其方が……?」
「お久しぶりね。グレイズ」
彼女は、我が追い返した人間の一人。厄介な相手であったから良く覚えている。
それに何より、彼女と戦った末にアレッシオが命を絶ったのだ。忘れたくても忘れられない相手。
しかし、あり得ない。
あれは七十九年も前の話。同じ容姿であるはずがない。
そして、アレッシオの気配は彼女からしている。
「ライオネル」
「はい。この女が、例のクラリス王妃にございます」
クラリスは、ニヒルな笑みを浮かべて神器の柄を地にトンとついた。
「戦争になどされたら困りますわ。しかし、ここまで使い物にならない連中ばかりだと、我が国は大丈夫かしらね」
「気配がするだけで、アレッシオとは別物のようだ。魂が共鳴しておらん」
運命の番は、魂で繋がっている。我の心が、アレッシオの魂はここにはないと言っている。アレッシオの魂は、ジークに宿っている。
「故に、此奴は殺して構わん。不愉快極まりない」
「御意」
先程のように片手を天に翳したその時、レオから通信がきた。
ポワンと目の前に焦った様子のレオが映像化される。
【魔王様! 大変だ! ナタナエルが、ジョスランが! ジークを!】
「なんだと?」
会話になっていないが、その焦りっぷりと名前を聞いただけで状況は理解した。
「すぐ向かう。待ってろ」
【早くしないと、ジークが!】
プツンと映像が消えたと同時に、我は踵を返した。
「ライオネル、後は」
「どこへも行かせないわ」
神器がシャランと鳴り、目の前に見えない壁が出来た。それに触れると、ビリッと電気が走った。
クラリスによる結界か何かのようだ。
「わたくしの聖魔法は強力でしょう?」
「チッ、こんな時に」
「あ、でも、二対一なんて不利だから、あなたは行って宜しいですわよ。って、あなたは勇者の仲間……? あれ?」
ライオネルを見て、クラリスは混乱しているようだ。けれど、ライオネルだけでもジークの元へ行かせられるならその方が良い。
「ライオネル。ジークを頼む」
「御意」
ライオネルは、クラリスに阻まれることなく、魔王城へと向かった——。
「まぁ良いわ。時間がありませんの。早くあなたの心臓をわたくしに差し出しなさい」
心臓を差し出せと言われて差し出す愚か者は、いな——。
「まさか、貴様からするアレッシオの気配は……」
クラリスがニヤリと笑った。
「冥土の土産に教えてあげますわ。悪魔の心臓はね、調理次第で不老不死の薬になりますのよ」
「——ッ」
「ですが、やはりあなたみたいに強いのでなければダメみたい」
心臓に手を当てるクラリスは、儚げな表情で続ける。
「愛するグレイズを天使に戻してあげたいなんて愚かな悪魔の心臓じゃ、長くはもたないみたいなの」
「アレッシオ、まさかそんな理由で」
アレッシオを馬鹿にするクラリスに腹が立つ。アレッシオの命を奪ったクラリスに。けれど、一番腹が立つのは自分自身。
我は、昔アレッシオに言ったことがある。
『我は、天使になりたい。悪魔の行く末は消滅。けれど、天使は蘇る。何度でも其方と愛し合うことが出来る』
そう言ってしまったのだ。
そんなこと叶うはずがないのに。
「我は、なんて馬鹿なことを……」
「本当、馬鹿ですわよね。わたくしが神の愛し子だからって、そんなこと出来る訳ありませんのにね」
ほほほほほと高笑いするクラリスは、悪魔よりも悪魔に見える。
自身の体から魔力が湧き出ているのが分かる。風も吹いていないのに、下から風が吹いているかの如く髪が逆立ち、隠していた翼と一対の角も出ている。
怒りに任せてはいけないことは分かっている。けれど、怒らずにはいられない。
「あらあら、怒らせちゃいました?」
「…………」
クラリスを真っ直ぐに見据え、我は暴走した魔力を一点集中。クラリス目掛けて放った。
同時に、クラリスも神器を一振り。闇と光の魔力がぶつかり合う。
それは互角のようで、二つの魔力が押し合いを始める。
「うッ……中々ね……」
「貴様もな」
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