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最終話 待っているのは溺愛地獄
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「早く! 早く心臓を渡しなさい!」
見た目が変わり果てたクラリス王妃は、切羽詰まったように攻撃を連発する。
天から襲ってくる雷は、グレイズに直撃。しかし、グレイズはそれを物ともせず、クラリス王妃に反撃する。今度は闇の雷がクラリス王妃を襲う。
その二人の攻防が激しすぎて、二人の間に割り込みたいのに割り込めないでいる。
「クソッ! やっぱ心の声より魔力があった方が断然良いじゃねーか」
心の声が聞こえたところで、この二人の強大な力の前には足元にも及ばない。というより、互いに我を忘れた二人の心の声を聞いたところで、何の策略も立てられない。
「うぅ……うぅ……」
「レオ! しっかり!」
ここへ来る途中レオを回収したのだが、レオもまた、この瘴気に当てられ苦悶の表情を浮かべて意識がない状態だ。きっとこのままでは、レオもいずれ——。
「チッ、レオが死んだら許さねーからな」
レオをそっと地面に寝かせ、俺はレオに手を翳した。
「どうか、レオに二人の攻撃が当たりませんように」
祈るように言えば、レオの周りにポゥッと闇色のシールドが現れた。
今ので僅かばかりの魔力は空っぽになり、俺は角と翼が生えただけのただの人間と同じ。いや、少しは身体が丈夫にはなっているかもしれない。
「よし! この俺がいるのに、全く見えてねぇ魔王様を一発殴りに行くか」
相棒のエクスカリバーを両手にしっかりと持ち、俺は戦場の渦中を目で見やる。
冷や汗を流しながら、俺は自分に言い聞かせるように呟いた。
「ふん。何を隠そう、この伝説のエクスカリバーは、雷だろうが魔力だろうが何だってぶった斬れる代物だ」
そう思い込むことで、ビビる俺の心を叱咤する。
俺は走った。思い切り走った。
そして、頭上に落ちてきた光の雷。それを持ち前の反射神経で避ければ、目の前に闇の閃光が襲ってきた。避け切れなかった俺は、エクスカリバーを思い切り縦に振るった。
闇の閃光は、そのまま真っ二つに俺の横を通り過ぎた。
——ドーン!
激しい爆発音と共に、クラリス王妃の悲鳴が聞こえてきた。
「うそ……本当に切れた」
驚きと共に、クラリス王妃の攻撃がピタリと止んだ。どうやら、さっきのグレイズの攻撃を切ったことで、クラリス王妃に直撃したようだ。
「勇者たるもの、運も味方につけねーとな」
グレイズの攻撃は続くものの、それを剣で切れることも分かったし、何より背後を気にしなくていいので近付きやすい。
落ちてくる闇の雷と、前から襲ってくる闇の閃光を避け、時に一刀両断しながら前へと進む。
——そして、やっとグレイズに近付けた。
「グレイズ」
二メートルくらいの距離で立ち止まり、向かい合って立てば、グレイズの攻撃は止んだ。俺は剣を鞘に収めた。
シンと静まり返った戦場。しかし、グレイズの瞳にはまだ光が宿っていない。心の声も、怒りと懺悔しか聞こえてこない。
(滅びろ! 我が全て滅する! アレッシオ……我は、何故あんなことを。あんなこと言わなければアレッシオは……すまない。我のせいで……)
そんなグレイズに俺は笑顔を作って言った。
「おい、グレイズ。アレッシオばっかじゃなくって、ジークも見てくれよ」
「……ジーク?」
グレイズの心の声が、ピタリと止まった。
「アレッシオに会いたくて、わざわざ蘇りの儀式してくれたんだろ? 俺も昔読んだことあるけど、あんな恥ずかしい儀式、よくやったよな」
「…………」
「俺を蘇らせた責任、ちゃんと取れよ。じゃなきゃ俺、ライオネルとでも番になろっかなぁ……なんて」
グレイズの金色の瞳に光が宿った。
「笑止。不貞を働けばどうなるか分かっているのか?」
「どうなるんだよ」
一歩前に出てきたグレイズに、グイッと引き寄せられた。
「地獄が待っている」
そして、俺の唇にグレイズの唇が重なった——。
禍々しい色をしていた空が、闇色の霧が晴れて行く。
唇が離れると、優しく微笑んでくるグレイズに一言言った。
「グレイズ、お前は怒りに任せて行動したらダメって教えたろ?」
「しかし、彼奴が……」
ムスッとするグレイズは、クラリス王妃の方を見た。
「痛たたたッ。ちょっと、化粧が落ちたんじゃないのかしら? 心臓をもらう前に化粧を……」
クラリス王妃は、どこからともなく手鏡を出して自身の顔を見た。
「……え?」
年老いた自身の顔を見て唖然とするクラリス王妃。
「ギャーー! 何ですのコレ!? あの悪魔の心臓の効果もう切れましたの!? もう、だから早くって言いましたのに!」
一人騒ぐクラリス王妃を横目に聞いてみる。
「あれどうする?」
「人間界に送り返そう」
「良いのか?」
「放っておいても直に死ぬであろう。それに」
「それに……?」
(あのまま返す方が色々と面白そうだ。周りの者らの驚く顔が目に浮かぶ)
僅かだが、グレイズの口角が片側だけ上がった。
「昔っからグレイズはそういうところあるよな」
「……?」
「何でもない。大好きだぞ、グレイズ。これからもずっと一緒にいような」
へらりと笑えば、突如として俺の右手首とグレイズの左手首が眩い光に包まれた。
「これって……」
「番の契りが成立したようだな」
「何で今?」
ゆっくりと光が消えるのを目視していると、ナタナエルらとはまた違った紋様が手首に浮かび上がった。
「其方が愛を囁いてくれたから、互いの気持ちが通じ合ったのだ」
「え、でも俺、前にグレイズに愛してるって言ったぞ」
「あれは、ナタナエルに向かって言ったであろう?」
「確かに……」
面と向かって言ったのは、初めてかもしれない。
なにわともあれ、グレイズも我に返って禍々しい瘴気も消えた。番契約も無事出来て、めでたしめでたし。
「じゃないですわ!」
まだ歯向かってこようとするクラリス王妃をグレイズが目にも止まらぬ速さで縛り上げた。
そして、何事もなかったかのように再び俺の前に来てうっとりとした目で見つめてくる。
「ジーク、愛しているぞ」
「あ、うん……てか、ロープ持ち歩いてんのか?」
「其方をいつでも縛れるようにな」
「あー、俺、自殺はしないぞ」
「左様か。(しかし、自ら命を絶たなくとも、不貞に走るつもりらしいからな。他に目が向かぬよう、アレッシオの時のように、我なしではいられない体に調教しなければ。楽しみだ)」
ニコリと笑いかけてくるグレイズに、引き攣った笑顔で返す。
「ははは。俺、一旦人間界に……」
「やはり不貞を働く気だな」
「え!?」
俺はクラリス王妃同様、雁字搦めにロープで縛られた。
「不貞を働けば地獄が待っていると言ったであろう?」
「いや、俺不貞なんて」
「暫く我の部屋で休むと良い」
「聞いちゃいないし。てか、それは本当に休めるのか……?」
「安心しろ。四六時中ベッドの上だ(まぁ、ベッドの上で快楽に溺れてもらうがな)」
「そ、そっか」
なにわともあれ、溺愛地獄から逃げ出せはしないかもしれないが、ひとまずめでたしめでたしということで——。
何か忘れている気もするが、忘れるくらいだ。大したことではないのだろう。
「グレイズ、愛してるからな(だから、優しくしろよ)」
「我もだ(愛せなかった七十九年分の愛、一身に注いでやる)」
おしまい。
見た目が変わり果てたクラリス王妃は、切羽詰まったように攻撃を連発する。
天から襲ってくる雷は、グレイズに直撃。しかし、グレイズはそれを物ともせず、クラリス王妃に反撃する。今度は闇の雷がクラリス王妃を襲う。
その二人の攻防が激しすぎて、二人の間に割り込みたいのに割り込めないでいる。
「クソッ! やっぱ心の声より魔力があった方が断然良いじゃねーか」
心の声が聞こえたところで、この二人の強大な力の前には足元にも及ばない。というより、互いに我を忘れた二人の心の声を聞いたところで、何の策略も立てられない。
「うぅ……うぅ……」
「レオ! しっかり!」
ここへ来る途中レオを回収したのだが、レオもまた、この瘴気に当てられ苦悶の表情を浮かべて意識がない状態だ。きっとこのままでは、レオもいずれ——。
「チッ、レオが死んだら許さねーからな」
レオをそっと地面に寝かせ、俺はレオに手を翳した。
「どうか、レオに二人の攻撃が当たりませんように」
祈るように言えば、レオの周りにポゥッと闇色のシールドが現れた。
今ので僅かばかりの魔力は空っぽになり、俺は角と翼が生えただけのただの人間と同じ。いや、少しは身体が丈夫にはなっているかもしれない。
「よし! この俺がいるのに、全く見えてねぇ魔王様を一発殴りに行くか」
相棒のエクスカリバーを両手にしっかりと持ち、俺は戦場の渦中を目で見やる。
冷や汗を流しながら、俺は自分に言い聞かせるように呟いた。
「ふん。何を隠そう、この伝説のエクスカリバーは、雷だろうが魔力だろうが何だってぶった斬れる代物だ」
そう思い込むことで、ビビる俺の心を叱咤する。
俺は走った。思い切り走った。
そして、頭上に落ちてきた光の雷。それを持ち前の反射神経で避ければ、目の前に闇の閃光が襲ってきた。避け切れなかった俺は、エクスカリバーを思い切り縦に振るった。
闇の閃光は、そのまま真っ二つに俺の横を通り過ぎた。
——ドーン!
激しい爆発音と共に、クラリス王妃の悲鳴が聞こえてきた。
「うそ……本当に切れた」
驚きと共に、クラリス王妃の攻撃がピタリと止んだ。どうやら、さっきのグレイズの攻撃を切ったことで、クラリス王妃に直撃したようだ。
「勇者たるもの、運も味方につけねーとな」
グレイズの攻撃は続くものの、それを剣で切れることも分かったし、何より背後を気にしなくていいので近付きやすい。
落ちてくる闇の雷と、前から襲ってくる闇の閃光を避け、時に一刀両断しながら前へと進む。
——そして、やっとグレイズに近付けた。
「グレイズ」
二メートルくらいの距離で立ち止まり、向かい合って立てば、グレイズの攻撃は止んだ。俺は剣を鞘に収めた。
シンと静まり返った戦場。しかし、グレイズの瞳にはまだ光が宿っていない。心の声も、怒りと懺悔しか聞こえてこない。
(滅びろ! 我が全て滅する! アレッシオ……我は、何故あんなことを。あんなこと言わなければアレッシオは……すまない。我のせいで……)
そんなグレイズに俺は笑顔を作って言った。
「おい、グレイズ。アレッシオばっかじゃなくって、ジークも見てくれよ」
「……ジーク?」
グレイズの心の声が、ピタリと止まった。
「アレッシオに会いたくて、わざわざ蘇りの儀式してくれたんだろ? 俺も昔読んだことあるけど、あんな恥ずかしい儀式、よくやったよな」
「…………」
「俺を蘇らせた責任、ちゃんと取れよ。じゃなきゃ俺、ライオネルとでも番になろっかなぁ……なんて」
グレイズの金色の瞳に光が宿った。
「笑止。不貞を働けばどうなるか分かっているのか?」
「どうなるんだよ」
一歩前に出てきたグレイズに、グイッと引き寄せられた。
「地獄が待っている」
そして、俺の唇にグレイズの唇が重なった——。
禍々しい色をしていた空が、闇色の霧が晴れて行く。
唇が離れると、優しく微笑んでくるグレイズに一言言った。
「グレイズ、お前は怒りに任せて行動したらダメって教えたろ?」
「しかし、彼奴が……」
ムスッとするグレイズは、クラリス王妃の方を見た。
「痛たたたッ。ちょっと、化粧が落ちたんじゃないのかしら? 心臓をもらう前に化粧を……」
クラリス王妃は、どこからともなく手鏡を出して自身の顔を見た。
「……え?」
年老いた自身の顔を見て唖然とするクラリス王妃。
「ギャーー! 何ですのコレ!? あの悪魔の心臓の効果もう切れましたの!? もう、だから早くって言いましたのに!」
一人騒ぐクラリス王妃を横目に聞いてみる。
「あれどうする?」
「人間界に送り返そう」
「良いのか?」
「放っておいても直に死ぬであろう。それに」
「それに……?」
(あのまま返す方が色々と面白そうだ。周りの者らの驚く顔が目に浮かぶ)
僅かだが、グレイズの口角が片側だけ上がった。
「昔っからグレイズはそういうところあるよな」
「……?」
「何でもない。大好きだぞ、グレイズ。これからもずっと一緒にいような」
へらりと笑えば、突如として俺の右手首とグレイズの左手首が眩い光に包まれた。
「これって……」
「番の契りが成立したようだな」
「何で今?」
ゆっくりと光が消えるのを目視していると、ナタナエルらとはまた違った紋様が手首に浮かび上がった。
「其方が愛を囁いてくれたから、互いの気持ちが通じ合ったのだ」
「え、でも俺、前にグレイズに愛してるって言ったぞ」
「あれは、ナタナエルに向かって言ったであろう?」
「確かに……」
面と向かって言ったのは、初めてかもしれない。
なにわともあれ、グレイズも我に返って禍々しい瘴気も消えた。番契約も無事出来て、めでたしめでたし。
「じゃないですわ!」
まだ歯向かってこようとするクラリス王妃をグレイズが目にも止まらぬ速さで縛り上げた。
そして、何事もなかったかのように再び俺の前に来てうっとりとした目で見つめてくる。
「ジーク、愛しているぞ」
「あ、うん……てか、ロープ持ち歩いてんのか?」
「其方をいつでも縛れるようにな」
「あー、俺、自殺はしないぞ」
「左様か。(しかし、自ら命を絶たなくとも、不貞に走るつもりらしいからな。他に目が向かぬよう、アレッシオの時のように、我なしではいられない体に調教しなければ。楽しみだ)」
ニコリと笑いかけてくるグレイズに、引き攣った笑顔で返す。
「ははは。俺、一旦人間界に……」
「やはり不貞を働く気だな」
「え!?」
俺はクラリス王妃同様、雁字搦めにロープで縛られた。
「不貞を働けば地獄が待っていると言ったであろう?」
「いや、俺不貞なんて」
「暫く我の部屋で休むと良い」
「聞いちゃいないし。てか、それは本当に休めるのか……?」
「安心しろ。四六時中ベッドの上だ(まぁ、ベッドの上で快楽に溺れてもらうがな)」
「そ、そっか」
なにわともあれ、溺愛地獄から逃げ出せはしないかもしれないが、ひとまずめでたしめでたしということで——。
何か忘れている気もするが、忘れるくらいだ。大したことではないのだろう。
「グレイズ、愛してるからな(だから、優しくしろよ)」
「我もだ(愛せなかった七十九年分の愛、一身に注いでやる)」
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