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第23話 強大な力
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魔王都の中心部から少し離れた郊外。住宅街の狭い路地で、猫科の獣人同士が揉めていた。
『お前のせいだかんな』
『何でそうなるんだよ! お前も悪いだろ!』
揉めている理由は分からないが、大したことない喧嘩のようだ。見過ごして通り過ぎようとすれば、グレイズが剣を抜いた。
『魔界で揉め事を起こすなど、笑止千万。ここで死ね』
『ま、魔王子様!? 何故、このような場所に!?』
『も、申し訳ございません』
ひれ伏す獣人に、グレイズは剣を振り下ろす——。
パシッと俺はその手を掴んで止める。
『何をする。アレッシオ』
『グレイズ。平和主義なのは良いが、お前のやっていることが平和ではないから止めろ』
グレイズは俺の手を振り解き、剣を鞘に収めた。
『何故止める。此奴らは、魔界の秩序を乱す輩だ』
『ただの喧嘩で排除してたら、魔界中誰もいなくなるぞ』
『その時はその時だ。我と其方だけで幸せに暮らそう』
優しく微笑むグレイズ。
——これは、俺の知らない記憶。アレッシオの記憶か?
そして、こんなシーンが幾度となく脳裏に浮かぶ。
そこには必ずグレイズがいて、俺がいる。
ただ、平和なシーンばかりではない——。
『グレイズ……魔王陛下は消滅した。その事実を受け止めろ』
『何故……何故、父上が……』
心優しいグレイズは、父である魔王が聖女に殺され、涙した。同時に、憤怒した。
グレイズからは魔力が漏れ出した。それは、魔界中を覆うほどに強大な魔力だった。
魔力は禍々しい瘴気へと形を変え、魔界中の民を襲った。
『グレイズ、怒りを鎮めろ』
『人間なんて……人間なんて……父上が何をした!? 父上は、魔界と人間界、皆が平和になる方法を考えていただけだ。父上は……』
『グレイズの言う通りだ。しかし、ここで怒りに任せれば…………』
頭痛がし、自身の魔力が無くなっていくのが分かる。次第に意識が遠のき——。
『アレッシオ!? どうした!?』
『グ……レイズ。冷静に……なれ』
意識を完全に手放した俺は、その後どうなったのか分からない。
けれど、グレイズは正気に戻っており、魔界中を覆っていた禍々しい瘴気も無くなっていた。
——この時、グレイズの力が思った以上に強大であることを知った。先代の魔王以上であると。
俺は番として、愛するグレイズを正しい方向に導く役目がある。故に、俺はいつだってグレイズを止めてきた。グレイズが間違った方向へ進まぬように……グレイズが、後悔しないように……。
「だから、俺がグレイズを止めないと!」
ガバッと顔を上げた俺の背に、グレイズと同じ大きな翼が生えた。頭には、対の角が生えた。
そして、腹の傷も癒え、瘴気があるにも関わらず、何故か身体が軽く動きやすくなった。
「ジーク? 力が……?」
ライオネルは呆気に取られるも、既に力が入らなくなっている。その場で跪いている。
ジョスランやナタナエルも苦悶の表情を浮かべて動けないでいる。
「早く……早く、兄者の番を……ジョスラン」
「ナタナエル様……申し訳ございません」
ひとまず二人に向かって舌をペロッと出した。
「お前らなんて、力が戻った俺の足元にも及ばねーぜ」
とは、口から出まかせ。翼や角が生え、身体も軽くなった俺だが、何故か魔力は微弱。アレッシオの時にあった魔力はどこに置いてきたのやら。
「あ!」
思い出した。
俺が死んだ時……クラリスに心臓を渡した時、全てが嘘だと気が付いた。グレイズを天使にする為には、番の心臓が必要であるという嘘に。
あんな馬鹿げた提案に何故乗ったのか。
それは、優しく微笑むクラリスが真の聖女に見えたから。だから、俺は騙された。
騙された挙句に神頼みした。
『俺は、愚かだ。人の嘘も見抜けぬとは……。生まれ変わったら、こんな強大な魔力なんていらないから、人の心が読めるようになりたい。人の嘘偽りが分かるようになりたい!』
きっと、あれのおかげで俺は人の心の声が聞こえるようになったのだろう。このスキルは、神からの哀れな俺への贈り物だろうか。
(クラリスを神の愛し子に選んだ私の責任でもありますから)
「え?」
まさか、神の声?
「ははは、まさかね」
(ですから、クラリスにこれ以上力を与えないで下さい)
「え。これは、本気のやつですか……」
(この瘴気の中、あなたが動けるのは私のおかげでもあるのです。どうか、クラリスを——)
それ以上、声は聞こえなくなった。
「何だったんだ……」
呆気に取られながらも、地上にいる魔人族が苦しもがいているのを見て、首を横に振る。
「何でも良い。とにかく、急がないと」
黒い翼を羽ばたかせ、先を急いだ。
◇◇◇◇
——そして、グレイズとクラリスが戦っている森は、見るも無惨な状態になっていた。
魔物や動物らも逃げ出した後なのか、はたまた全て土に返ってしまったのか……既にそこには、木など一本もない荒れ地と化していた。
ただあるのは、翼がちぎれ服もズタボロのグレイズと、神器を振り回す年老いたクラリスの姿。
「グレイズ!」
声をかければこちらを見たが、グレイズの金色の瞳に光は宿っていない。
(全てを滅して、我も其方の元へ逝く)
「グレイズ……俺は、ここだ」
『お前のせいだかんな』
『何でそうなるんだよ! お前も悪いだろ!』
揉めている理由は分からないが、大したことない喧嘩のようだ。見過ごして通り過ぎようとすれば、グレイズが剣を抜いた。
『魔界で揉め事を起こすなど、笑止千万。ここで死ね』
『ま、魔王子様!? 何故、このような場所に!?』
『も、申し訳ございません』
ひれ伏す獣人に、グレイズは剣を振り下ろす——。
パシッと俺はその手を掴んで止める。
『何をする。アレッシオ』
『グレイズ。平和主義なのは良いが、お前のやっていることが平和ではないから止めろ』
グレイズは俺の手を振り解き、剣を鞘に収めた。
『何故止める。此奴らは、魔界の秩序を乱す輩だ』
『ただの喧嘩で排除してたら、魔界中誰もいなくなるぞ』
『その時はその時だ。我と其方だけで幸せに暮らそう』
優しく微笑むグレイズ。
——これは、俺の知らない記憶。アレッシオの記憶か?
そして、こんなシーンが幾度となく脳裏に浮かぶ。
そこには必ずグレイズがいて、俺がいる。
ただ、平和なシーンばかりではない——。
『グレイズ……魔王陛下は消滅した。その事実を受け止めろ』
『何故……何故、父上が……』
心優しいグレイズは、父である魔王が聖女に殺され、涙した。同時に、憤怒した。
グレイズからは魔力が漏れ出した。それは、魔界中を覆うほどに強大な魔力だった。
魔力は禍々しい瘴気へと形を変え、魔界中の民を襲った。
『グレイズ、怒りを鎮めろ』
『人間なんて……人間なんて……父上が何をした!? 父上は、魔界と人間界、皆が平和になる方法を考えていただけだ。父上は……』
『グレイズの言う通りだ。しかし、ここで怒りに任せれば…………』
頭痛がし、自身の魔力が無くなっていくのが分かる。次第に意識が遠のき——。
『アレッシオ!? どうした!?』
『グ……レイズ。冷静に……なれ』
意識を完全に手放した俺は、その後どうなったのか分からない。
けれど、グレイズは正気に戻っており、魔界中を覆っていた禍々しい瘴気も無くなっていた。
——この時、グレイズの力が思った以上に強大であることを知った。先代の魔王以上であると。
俺は番として、愛するグレイズを正しい方向に導く役目がある。故に、俺はいつだってグレイズを止めてきた。グレイズが間違った方向へ進まぬように……グレイズが、後悔しないように……。
「だから、俺がグレイズを止めないと!」
ガバッと顔を上げた俺の背に、グレイズと同じ大きな翼が生えた。頭には、対の角が生えた。
そして、腹の傷も癒え、瘴気があるにも関わらず、何故か身体が軽く動きやすくなった。
「ジーク? 力が……?」
ライオネルは呆気に取られるも、既に力が入らなくなっている。その場で跪いている。
ジョスランやナタナエルも苦悶の表情を浮かべて動けないでいる。
「早く……早く、兄者の番を……ジョスラン」
「ナタナエル様……申し訳ございません」
ひとまず二人に向かって舌をペロッと出した。
「お前らなんて、力が戻った俺の足元にも及ばねーぜ」
とは、口から出まかせ。翼や角が生え、身体も軽くなった俺だが、何故か魔力は微弱。アレッシオの時にあった魔力はどこに置いてきたのやら。
「あ!」
思い出した。
俺が死んだ時……クラリスに心臓を渡した時、全てが嘘だと気が付いた。グレイズを天使にする為には、番の心臓が必要であるという嘘に。
あんな馬鹿げた提案に何故乗ったのか。
それは、優しく微笑むクラリスが真の聖女に見えたから。だから、俺は騙された。
騙された挙句に神頼みした。
『俺は、愚かだ。人の嘘も見抜けぬとは……。生まれ変わったら、こんな強大な魔力なんていらないから、人の心が読めるようになりたい。人の嘘偽りが分かるようになりたい!』
きっと、あれのおかげで俺は人の心の声が聞こえるようになったのだろう。このスキルは、神からの哀れな俺への贈り物だろうか。
(クラリスを神の愛し子に選んだ私の責任でもありますから)
「え?」
まさか、神の声?
「ははは、まさかね」
(ですから、クラリスにこれ以上力を与えないで下さい)
「え。これは、本気のやつですか……」
(この瘴気の中、あなたが動けるのは私のおかげでもあるのです。どうか、クラリスを——)
それ以上、声は聞こえなくなった。
「何だったんだ……」
呆気に取られながらも、地上にいる魔人族が苦しもがいているのを見て、首を横に振る。
「何でも良い。とにかく、急がないと」
黒い翼を羽ばたかせ、先を急いだ。
◇◇◇◇
——そして、グレイズとクラリスが戦っている森は、見るも無惨な状態になっていた。
魔物や動物らも逃げ出した後なのか、はたまた全て土に返ってしまったのか……既にそこには、木など一本もない荒れ地と化していた。
ただあるのは、翼がちぎれ服もズタボロのグレイズと、神器を振り回す年老いたクラリスの姿。
「グレイズ!」
声をかければこちらを見たが、グレイズの金色の瞳に光は宿っていない。
(全てを滅して、我も其方の元へ逝く)
「グレイズ……俺は、ここだ」
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