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意外な趣味
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ひとまず話に区切りがついたので、もう話すことはないだろう。視線は気になるが、読みかけの新刊を読もう。
毒林檎から始まる恋……略して”毒恋”。道行く人のほとんどが振り向くほど容姿が整っている主人公が、世界一の美を求めるイケメンに毒林檎で暗殺されそうになって恋が始まるという斬新なストーリーだ。
去年から発刊が始まった小説で、シリーズは4巻でている。累計発行部数10万部と、国内の小説発行部数の中でもトップクラスを誇る、今注目の小説なのだ。
今はこの毒恋のために生きているといっても過言ではないくらい、ハマっている。
「…………なにを読んでいるのだ?」
読書の邪魔をするなといったのに、この公爵様ときたら。一々話をする度に文字が読めないのはストレスだ。
「……今流行りの少女向けの恋愛小説です」
「意外に女性なのだな。俺はそういう本を読んだことがないから面白さがよくわからん」
「……女子ですので。というか、本気で邪魔しないでください。続きが気になるんです。貸してあげるので静かにしててください」
部屋の本棚から1~3巻を引っ張りだして、公爵様に手渡す。
「汚さないでくださいね」
なんか驚いた顔で受け取られたけど、静かにしてくれるならなんでもいい。
小説を渡したら大人しくなってくれたし、このまま読書ライフを楽しもう。
★
「は~、面白かった」
読み始めたのが15時くらいで、今時計を見ると17時を回っていた。ってことは2時間は経過したということか。道理で肌寒いと思った。
ここにいても風邪ひくし、部屋に戻ろう。公爵様も帰った頃――。
「え、いる」
帰ってなかった。私が読書している間、ずっとここにいたの?全然気づかなかった。
読まないかと思ったのに、渡した毒恋の2巻を手にしていた。
ずっと読んでいたのかと思うと驚きを隠せない。
男性ってこういう俗物を鼻で笑うイメージがあったんだけど……。
私の視線に気づいた公爵様は顔を上げた。
「この小説面白いな。美しいが故に苦労してきた主人公と暗殺者でありながら美しさを求める男性の関係性はそうなのだが、毒林檎を食べさせようとして結果的に恋に落ちるという設定が深い。フィクションでないと楽しめない面白さがある」
まるで新しい玩具を得た子供のように活き活きとした目をしていた。――というより。
「――ッ!そうでしょう!苦労をして、結局殺されたいと願う主人公と、それを美しくも嫉妬してしまうヒーローがたまらなくて……」
「ああ。しかも、主人公を慕う友人、暗殺者に恋する同業者……これからの展開が見物だな」
この作品のよさがわかる公爵様はわかっている。少女向けではあるが、男性も読める内容の小説でもあると私は思うのだ。
たしかに、作者の性癖のせいでかなり女性向けになっているが、この癖のあるストーリーはわかる人にはわかるのだ。
「私、公爵様のこと少し……少しだけ見直しました。毒恋が好きな人に悪い人はいません、とまではいいませんが、いい人は沢山います。3巻と新刊の4巻を貸してあげます」
引きこもり生活のせいで毒恋を語れる人間がいないので、こういう趣味を共有できる相手が見つかったのは少し嬉しい。熱があるうちに……私は小説を公爵様に渡した。
「いいのか?」
「ええ。読み終わったらまた帰しにきてくだされば」
「ここにまた来てもいいのか?」
「……?でないと帰しに来れないでしょう?別に使用人に取りに来させても……」
「ああ、いや。また来る。絶対に、返しにくる」
公爵様の頬はほんのり色づき、大切そうに本を抱えた。そんなに毒恋が面白かったのか……! だったら次はあの本と、この本も進めてみよう。だなんて心の中で思う。
公爵様って嫌な人だななんて思ってはいたが、実際はいい人なのかもしれない。
毒林檎から始まる恋……略して”毒恋”。道行く人のほとんどが振り向くほど容姿が整っている主人公が、世界一の美を求めるイケメンに毒林檎で暗殺されそうになって恋が始まるという斬新なストーリーだ。
去年から発刊が始まった小説で、シリーズは4巻でている。累計発行部数10万部と、国内の小説発行部数の中でもトップクラスを誇る、今注目の小説なのだ。
今はこの毒恋のために生きているといっても過言ではないくらい、ハマっている。
「…………なにを読んでいるのだ?」
読書の邪魔をするなといったのに、この公爵様ときたら。一々話をする度に文字が読めないのはストレスだ。
「……今流行りの少女向けの恋愛小説です」
「意外に女性なのだな。俺はそういう本を読んだことがないから面白さがよくわからん」
「……女子ですので。というか、本気で邪魔しないでください。続きが気になるんです。貸してあげるので静かにしててください」
部屋の本棚から1~3巻を引っ張りだして、公爵様に手渡す。
「汚さないでくださいね」
なんか驚いた顔で受け取られたけど、静かにしてくれるならなんでもいい。
小説を渡したら大人しくなってくれたし、このまま読書ライフを楽しもう。
★
「は~、面白かった」
読み始めたのが15時くらいで、今時計を見ると17時を回っていた。ってことは2時間は経過したということか。道理で肌寒いと思った。
ここにいても風邪ひくし、部屋に戻ろう。公爵様も帰った頃――。
「え、いる」
帰ってなかった。私が読書している間、ずっとここにいたの?全然気づかなかった。
読まないかと思ったのに、渡した毒恋の2巻を手にしていた。
ずっと読んでいたのかと思うと驚きを隠せない。
男性ってこういう俗物を鼻で笑うイメージがあったんだけど……。
私の視線に気づいた公爵様は顔を上げた。
「この小説面白いな。美しいが故に苦労してきた主人公と暗殺者でありながら美しさを求める男性の関係性はそうなのだが、毒林檎を食べさせようとして結果的に恋に落ちるという設定が深い。フィクションでないと楽しめない面白さがある」
まるで新しい玩具を得た子供のように活き活きとした目をしていた。――というより。
「――ッ!そうでしょう!苦労をして、結局殺されたいと願う主人公と、それを美しくも嫉妬してしまうヒーローがたまらなくて……」
「ああ。しかも、主人公を慕う友人、暗殺者に恋する同業者……これからの展開が見物だな」
この作品のよさがわかる公爵様はわかっている。少女向けではあるが、男性も読める内容の小説でもあると私は思うのだ。
たしかに、作者の性癖のせいでかなり女性向けになっているが、この癖のあるストーリーはわかる人にはわかるのだ。
「私、公爵様のこと少し……少しだけ見直しました。毒恋が好きな人に悪い人はいません、とまではいいませんが、いい人は沢山います。3巻と新刊の4巻を貸してあげます」
引きこもり生活のせいで毒恋を語れる人間がいないので、こういう趣味を共有できる相手が見つかったのは少し嬉しい。熱があるうちに……私は小説を公爵様に渡した。
「いいのか?」
「ええ。読み終わったらまた帰しにきてくだされば」
「ここにまた来てもいいのか?」
「……?でないと帰しに来れないでしょう?別に使用人に取りに来させても……」
「ああ、いや。また来る。絶対に、返しにくる」
公爵様の頬はほんのり色づき、大切そうに本を抱えた。そんなに毒恋が面白かったのか……! だったら次はあの本と、この本も進めてみよう。だなんて心の中で思う。
公爵様って嫌な人だななんて思ってはいたが、実際はいい人なのかもしれない。
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