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婚約破棄編
悪女を取り合う男たち
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ハビエルによる婚約破棄事件と、ベレンによる殺害未遂の濡れ衣事件が収束し、パーティーは正常な空気が戻り始めた。
まだぎこちない空気は残っているが、美味しい料理に舌鼓を打ち、一流の音楽家たちの演奏に心を打たれれば、他人の痴態などどうでもよくなると言うものだった。
たまに、酒の肴として、先ほどの話で盛り上がることはあるが――。
「――ははは、とんだ茶番だったね。舞台を作った物が、自分が作った脚本で破滅するだなんて。面白い見世物だったよ。君もそう思わないかい?伯爵」
「…………」
ドローレスは、ハビエルとの一見がなかったかのように、今度はミストラ連合国の外交官との会話に花を咲かせている。
窓際で物憂う顔でワインを傾けていたベルナベに、カルロスは肩を叩いた。
カルロスは大国の皇子に対し、不遜にも無視を決め込み、ただワインを煽る。
カルロスは、無礼に憤ることなく、しょうがないと肩を竦めた。
「女の前ではお喋りなのに、男の前では話すことはないか?」
「しがない他国の矮小貴族程度に大国の皇子が声をかけてくださるなど、思ってもみなかっただけです。無礼を掻いたようで、失礼しました」
ぴくり、と眉を顰め、やっとカルロスと挨拶を交わす。
口調は礼儀正しいが、態度は不機嫌そのもの。
それもそのはず。ベルナベは、カルロスのことが気に食わない。
同じ女を共有しているという事実も気に食わないが、ベルナベの父親はフィガロア帝国の大貴族。そして、母親はレジーナ王国出身の平民。複雑な幼少期から、カルロスやフィガロアの貴族をよく思っていないというのも起因した。
しかし、ベルナベの「今の立ち位置」からして、気に入らないからと礼儀を欠くわけにはいかない。
生唾と一緒に不機嫌を飲み込んで、平常心を装う。
「そういうことにしておこう。それにしても、彼女はいつも僕を楽しませてくれる。退屈なパーティーも、彼女が現れるだけで、大衆喜劇の非じゃないくらい、場を搔き乱す」
「トラブルメーカーなのは、変わりませんね」
「――本当に。喉から手が出るほど欲しい、というのはこういうことだろうね」
ベルナベは心の中で「誘いも拒否されておいてなにをほざいているのだ」と嘲笑を浮かべる。
ただ、カルロスが意中の相手に思いを寄せているのは、それはそれで気分のいいものではない。
ベルナベは、ワインを一口、舌を湿らせた。
「渡しませんよ」
「おや、噂の氷雪の伯爵様が、嫉妬心むき出しか?」
「……大国の皇子に、一塊の他国の貴族と釣り合わないと、進言したまでです。それに、皇子には、あれは少し凶暴に過ぎましょう。よろしければ、甘えるのも、腰を振るのもうまい女を何人か紹介しましょう」
「それは、表のか?それとも、裏?」
「どちらでも。珍しい物を取り揃えておりますので、ある程度の特殊性癖にも答えられますよ」
「――はッ。王国随一の裏組織「アミールファミリー」の首領に、女を揃えてもらえるとは、光栄な限りだ。だが、遠慮しておこう。僕は、女の趣味にうるさいんだ」
「変わっている、の間違いでは」
「君にだけは言われたくない。……はぁ、今日はとても楽しめたよ。そろそろ、飽きてきたし、帰ろうかな」
話に区切りがつくと、カルロスは踵を返して会場を後にした。
その背を見送ったベルナベは、厄介な恋敵が増えたと頭を抱えた。
まだぎこちない空気は残っているが、美味しい料理に舌鼓を打ち、一流の音楽家たちの演奏に心を打たれれば、他人の痴態などどうでもよくなると言うものだった。
たまに、酒の肴として、先ほどの話で盛り上がることはあるが――。
「――ははは、とんだ茶番だったね。舞台を作った物が、自分が作った脚本で破滅するだなんて。面白い見世物だったよ。君もそう思わないかい?伯爵」
「…………」
ドローレスは、ハビエルとの一見がなかったかのように、今度はミストラ連合国の外交官との会話に花を咲かせている。
窓際で物憂う顔でワインを傾けていたベルナベに、カルロスは肩を叩いた。
カルロスは大国の皇子に対し、不遜にも無視を決め込み、ただワインを煽る。
カルロスは、無礼に憤ることなく、しょうがないと肩を竦めた。
「女の前ではお喋りなのに、男の前では話すことはないか?」
「しがない他国の矮小貴族程度に大国の皇子が声をかけてくださるなど、思ってもみなかっただけです。無礼を掻いたようで、失礼しました」
ぴくり、と眉を顰め、やっとカルロスと挨拶を交わす。
口調は礼儀正しいが、態度は不機嫌そのもの。
それもそのはず。ベルナベは、カルロスのことが気に食わない。
同じ女を共有しているという事実も気に食わないが、ベルナベの父親はフィガロア帝国の大貴族。そして、母親はレジーナ王国出身の平民。複雑な幼少期から、カルロスやフィガロアの貴族をよく思っていないというのも起因した。
しかし、ベルナベの「今の立ち位置」からして、気に入らないからと礼儀を欠くわけにはいかない。
生唾と一緒に不機嫌を飲み込んで、平常心を装う。
「そういうことにしておこう。それにしても、彼女はいつも僕を楽しませてくれる。退屈なパーティーも、彼女が現れるだけで、大衆喜劇の非じゃないくらい、場を搔き乱す」
「トラブルメーカーなのは、変わりませんね」
「――本当に。喉から手が出るほど欲しい、というのはこういうことだろうね」
ベルナベは心の中で「誘いも拒否されておいてなにをほざいているのだ」と嘲笑を浮かべる。
ただ、カルロスが意中の相手に思いを寄せているのは、それはそれで気分のいいものではない。
ベルナベは、ワインを一口、舌を湿らせた。
「渡しませんよ」
「おや、噂の氷雪の伯爵様が、嫉妬心むき出しか?」
「……大国の皇子に、一塊の他国の貴族と釣り合わないと、進言したまでです。それに、皇子には、あれは少し凶暴に過ぎましょう。よろしければ、甘えるのも、腰を振るのもうまい女を何人か紹介しましょう」
「それは、表のか?それとも、裏?」
「どちらでも。珍しい物を取り揃えておりますので、ある程度の特殊性癖にも答えられますよ」
「――はッ。王国随一の裏組織「アミールファミリー」の首領に、女を揃えてもらえるとは、光栄な限りだ。だが、遠慮しておこう。僕は、女の趣味にうるさいんだ」
「変わっている、の間違いでは」
「君にだけは言われたくない。……はぁ、今日はとても楽しめたよ。そろそろ、飽きてきたし、帰ろうかな」
話に区切りがつくと、カルロスは踵を返して会場を後にした。
その背を見送ったベルナベは、厄介な恋敵が増えたと頭を抱えた。
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