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立ち向かう勇気
しおりを挟む「お久しぶりですね、セレスティア。息災でしたか」
「お久しぶりです。レイアーナ。ええ、変わりのない日常を過ごしていましたよ」
セレスティアがパーティーの準備のために本邸に帰ってきた次の日。
交流の場が設けられて庭園に向かえば、ガーデンチェアに座って優雅に紅茶を啜る貴婦人がいた。
赤いシックなドレスを着こなし、丁寧に巻かれた髪の毛に釣り目の薄紫色が印象的なレイアーナは社交的な笑顔をセレスティアに向けるとセレスティアは弱みを見せまいと体外的に恥ずかしくないようにドレスの裾をつまみ、貴族の礼を取った。
粗を探すように上から下までセレスティアを舐めまわすと、指摘する部分がないのか「座りなさい」と声をかけられる。セレスティアが座るとレイアーナは侍女に目配せをして洗礼とばかりに泥水が入った紅茶のカップを差し出す。
鼻から歓迎するわけでもなく、パーティーのためだけに戻ったセレスティアを機にくわないと視線を投げかけると小馬鹿にするように微笑んだ。
「あなたなんかが口にするのはもったいない良い茶葉が入ったの。せっかく入れたので飲んでみなさい」
「…………」
セレスティアがカップの中身に視線を落とす。あからさまに泥水を出された意図としては歓迎をしていないというところにもあるが、断ったら断ったで「私が出したお茶が飲めないっていうの!?」と声を荒げ、さも自分は悪くないといいたげにウォルターに泣きつくのが落ちだ。
セレスティアを陥れて、自分の株を上げるチャンスであり、当然事の中身を確かめず、その場の雰囲気で状況を判断するウォルターは絶対にレイアーナの味方するだろう。
今まではこのあからさまな嫌がらせにも耐えていたが、耐えたところで相手が調子づくのはセレスティアの経験則でわかりきっていること。
――ならば。
セレスティアは困ったように頭をもたげて頬に手を添えた。
「まぁ。泥水がこの家では最高級品だなんて。ランペルージュ家の格も落ちたものね。客に対して飲み物がだせないとは。ここまで財政難だなんて知りもしませんでした」
甘んじて現状を受け入れるか、喚くかしか能がなかったセレスティアの問いにレイアーナの思考が停止する。すぐに我に返ると平然を装い、扇子を広げて口元を覆う。
「このお茶が泥水ですって?……あなたは別邸に追いやられて質素なものしか口にできなかったようだけれど。今はこのお茶が流行っているのよ」
苦しい言い訳でも、ここはレイアーナにとっては城のようなもの。彼女が塩を砂糖と言えば、この場限りではそれは砂糖にもなる。
セレスティアは怯まずに言葉を続けた。
「まぁ、食欲が損なわれる色味でしたので疑ってしまいましたわ。大変失礼しました。……ですが、その割にはレイアーナのカップの中身は普通のお茶の色ですわね。公爵家ではお客人に出す紅茶ひとつ、それぞれを、別々で出されるの?」
客人を茶の席に招くのであれば特別な例を除き、物で差別化を図らないのはマナーのひとつだ。例えば、クッキーを出す席で一人だけ豪勢なケーキを食べていては客をもてなす気があるのか品位を疑われるのは当然のこと。
セレスティアはごく当たり前にそれを指摘しただけだ。
「他人のマナーや礼儀は細かく指摘なさるのに、ご自分のマナー違反は目を瞑るなんて。ランペルージュ公爵家の正妻が……考えられませんわ」
パーティーの準備や再教育を受けるためにここに戻ってきたのにも関わらず、あなたは基本的なマナーすらできていないの?と遠回しに指摘をするとプライドが高いレイアーナは怒りと羞恥心で顔を猿のように真っ赤にさせる。
わなわなと扇子を閉じて乱暴に侍女に渡すと、呼吸を整えて言った。
「あなた。旦那様に追い出されたからってこの家での序列を忘れたわけではないわよね。私を馬鹿にしているわけ?あなたみたいな厄介者。戻ってこなければよかったのよ」
「私は、その「旦那様」の意思で、呼び戻されたのですよ。あなたは、旦那様の意思を飲み、私をここに招いたはずなのに、ご自分の決定に異議を唱えると。正妻なのですから、気に入らないのなら、はっきりと、旦那様に抗議していらしてはどう?
「――あなたねぇ……ッ!」
「家内の序列ではあなたの方が上なのは認めますが、だからといって【マナー違反を指摘しない理由】にはなりえませんわ。敬意と品位はまた別の話、ですよ」
食堂で培われた営業スマイルを駆使して笑いかける。声音は人慣れした物を感じさせるのに言葉の節々には彼女の行動を諫める鋭さがちりばめられていた。
どう切り抜くかレイアーナは頭をフル回転させて、給仕をしている使用人たちを一瞥するがなにをしたところで自分が不利になるだけだと悟ったレイアーナは腰を落ち着けて深呼吸で荒ぶる心を静める。
「……失礼したわ。手違いで粗悪品を出してしまったの。新しいお茶を入れ替えるので待っていただける?」
「いえ、それには及びませんわ。一度失われた信頼は地面に落ちて割れたカップのようなもの。【あなたの行動のおかげ】でお茶を共にする気分が損なわれました。今日はこの辺にて失礼します」
招いた者の許可を待つまでもなく立ち上がる。悠然とのらりくらりと交わして去っていく姿は、自分たちがカモにしていたあのセレスティアなのだろうか、とレイアーナを始め、その場に居合わせた者たちに疑心として刻まれる。
煮え湯を一杯飲まされたレイアーナはセレスティアの席に置いてあった泥水入りカップを怒りと共に侍女へとぶちまけた。
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