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ムカつく王子
しおりを挟む「王国の若き星、ルイ・トランボニア様に挨拶いたします」
「許す。それで例の件はうまく進んだか」
「はい。お約束通り繊維の国のドレス店に交渉しに行ってきました。ただ一見様お断りのところ無理に交渉してまいりましたので……」
「追加報酬が欲しいのだろう。相変わらず金に汚いやつだ。ほら」
雑用を済ませ報告しに王宮のルイ王子の執務室に向かう。
訊ねると机の上に山積みになっていた書類を無視して目の前の応対用のソファーに寝ころんでいたルイが横柄な態度で出迎える。
報告を済ませるとルイは専属侍女から金貨袋を持ってこさせるとそれを床に投げ捨てた。自分より目下の人間を馬鹿にする悪癖は相変わらず治っていないようだ。
「…………」
ムカつくが言葉が通じない相手を相手にするのが面倒なので大人しく拾うと、にたりとした視線が突き刺さるのを感じる。
背後にはお供でついてきた執事のトラロックが冷たい目線を寄こしていた。それは私に向けられたものではないと信じたい。
「サイズ確認が必要ですので、1週間以内にローゼリア様と共に繊維の国にお越しください。ドレス店の詳細はその封筒の中に。私の名前を出せばスムーズに対応できるように話はつけて――」
「丁度良い。今隣の部屋にローゼリアを待たせているからそのまま繊維の国まで行くぞ。おまえに頼んだドレスは次の王国設立記念パーティーに着ていかせる大切なものだ。まさか断らないよな?」
「――ぷくッ」
後ろで笑いをこらえている大悪魔は後で締めるとして、命令はドレス店の交渉であって転移してドレス店まで連れていくだなんて聞いていない。転移魔法は一度行った国であれば移動可能な優れた魔法だが、遠い場所への的確な転移は結構気力を使う。
魔法士になってもう何十年も経つので大目にみてその程度どうってことはないが、単純にこのリスペクトもなにもないクソガキ王子とクソガキ王子が私に構っているのに嫉妬して出会う度に敵意を剥き出しにしたり、人を使ってちょこちょこと嫌がらせをしてくる婚約者のローゼリアの馬車役になるのはごめんだ。
トラロックを睨んで大人しくさせて、ルイに向き直る。
「申し訳ございませんがこれでも私は忙しい身ですので、予約以降はご自分で応対をお願いします」
「どうせ家に引きこもって魔法の研究ばかりだろ?少しくらい融通を聞かせてもいいのではないか?」
金払いがいいから今まで融通してあげていたでしょ。
「次は第二王子殿下からの頼まれごとがございますので、そちらを優先させていただきます。ですので、繊維の国はどうぞご自分で行かれてください」
第二王子という単語を出した途端、あからさまに機嫌が悪くなるルイ。
「どういうことだ?レイの命令、だと?オマエは俺の言うことだけを聞くんじゃないのか」
「ルイ様もご存じかと思いますが、私は王位継承権争いでだれも支持しないと宣言しています。あなた様のつまらない命令にも従っていたのはひとえにこれでございますので」
ちゃりん、と金貨袋から金貨を取り出して見せる。
人望はないが、血筋だけは由緒正しいので王宮の品位維持費もそれなりにもらっている。働かなくても大金が懐に転がり込むからこそ主席魔法士を顎で使えるほどの金払いがいいのだ。
第二、第三王子のそれぞれの母親はルイの母親である正妃ほど家柄はよくない。だから人望を集め、それぞれが自分の力で資金源を作り、よりよい国造りを目指している。
トランボニア王国の血筋の者は皆強欲なので、それぞれの政策は斜め上をいっているけど。
その第二、第三王子と比べるとルイはひと際子供で視野が狭く、贅沢している姿をみせいれば威厳を示していると思っており、なにもしなくても王位につけると思っているので、政治に疎い私でも可哀相な人間と思えてくる。
外しか見ないから媚び売りの貴族も汚職に手を染めたものばかりなのか。
心のなかでああだ、こうだと考えていると自分よりお金だと宣言されたのが腹立たしいのかなんなのか、火山の噴火前の山肌のような顔色をしていた。
「下級貴族の出如きがこの俺を愚弄するのか!?」
「事実を申しました。私の仕事はここまでなので失礼させていただきます」
「――まて!話はまだ終わっていない」
まだなにかあるのか。しつこいなぁ。
「では、別料金を支払っていただければ繊維の国の往復の転移魔法分は負担しましょう。ただし、それは私ではなく、契約悪魔が対応します。――トラロック」
「――はぁ?俺ぇ?主さ、俺天災も起こせちゃう大悪魔だよ?なんで運搬なんてダサい仕事任されなくちゃならないの」
自分に白羽の矢が立ったことに驚いたトラロックは自分を指差して、げぇと舌を出した。ぶつくさと物を垂れるが、その悪態のすべてを私ではなくルイに投げた。
「オマエさ、わかってる?どの魔法士も喉から手が出るほど契約したがる水と雷を司る大悪魔トラロックにつまんないドレスを仕立てるためだけに転移魔法使わせようとしてんだよ?対価、高くつくけど」
トラロックは前へ歩みよると長身の体躯を7の字にさせてルイに睨みを利かせる。まるで肉食獣の餌場に迷い込んだ餌を舐めまわすような威圧感にルイは額か冷や汗を垂らした。
「ひっ――」
「高くつくぞ?オマエに支払える対価内で繊維の国を行き来できればいいな」
背を向けられているので顔色は見えないが、どうせ舌なめずりでもしながら自分に向けられた恐怖の感情でも楽しんでいるのだろう。
段々と生気が抜けた顔をしてきたルイにさすがにやりすぎだと、止めに入るとトラロックはつまらなそうにつけているネクタイの位置を整える。
「片ついたぞ。自分の足で行くってさ」
「その様子だと期間内で行けるかどうかわからないけど。……では、ルイ様、御前失礼します。――ああ、そうそう、多分あなたの雑務を請け負うのもこれで最後になるかと思いますので」
最後に捨て台詞を吐いて部屋を後にする。後に怒号やらカップが割れる音が聞こえてきたがそれは聞こえないフリをしよう。
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