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サルドア王国の大川沿いの片田舎。貧乏貴族、ビーンルサノ男爵家の長女として生まれた私は、物心ついた時に前世の記憶を取り戻した。
物心がついた時から、心ない言葉を浴びせられ、私は育った。
「お前は!本当にこれは俺の子なのか!?」
「なんであんたなんかが生まれてきたのよ!黒髪だなんて!呪われているんじゃないの!?」
「お姉様。可哀想に。こんな髪に生まれてこなかったら、きっとこの家の子として可愛がられていたのにね」
異世界転生したら貴族の家に生まれて、悪役令嬢なり、ヒロインなりに転生して適度な困難を乗り越えながら――なんて夢をみていた。
幼い心のままだったら、この心ない言葉を素直に受け入れて家畜のように育つ運命もあったかもしれない。
どうしてこうなったのか。理由は私のこの黒髪のせいだった。
ビーンルサノ家は全員が赤系の髪色だった。しかし、私は何故か黒髪で毛色が違った。
だから、父は生まれて早々、母の浮気を疑った。
母はお前のせいだと言葉を石のように投げた。私の青い目はお父様譲りなことから母の必死の説得で誤解はとけたみたいだが、この家で黒髪は私だけ。騒ぎの一端となった私はこの容姿のせいで迫害を受けた。
――6歳の時。妹が羨ましかった。
「お父様、ありがとう!」
父譲りの綺麗な赤毛に生まれた妹は流行りのドレスを身にまとって笑っている。
「お前は育ちざかりだからね。どんどん栄養をつけなさい」
温かい室内でスープを啜っている中、別邸という名の掘っ立て小屋に放り込まれた私は、麻布で縫われた平民の服に、冷め切ったスープを啜っている。
「冬は冷えるわ。アニス、温かくして寝るのよ」
暖炉で温められて、優しい言葉を妹はかけられているだろう。
冬なのに毛布一枚だけで暖房もない部屋で過ごした。屋根裏だからとても冷えるし、私のすぐ下の階はアニスの部屋だから、両親がアニスを可愛がる声がダイレクトに聞こえてくる。
父や母から暴言を吐かれるのは当たり前なのに。姉妹でどうしてこうも違うのだろう。
両親に挟まれて可愛がられている妹を遠くから指を加えて見る日々。
使用人からは髪の毛を整えるという名目で髪の毛を引っ張られたり、カビの生えたパンと腐りかけのスープを与えられる日々。
何のために生きているのかわからなくて死にたいと思い続ける日々。
惨めで、憎々しくて、世界は残酷で。だから、決めた。私は生き汚く生きて、この人たちが羨むくらい幸せになってやる。
ここで死んだら彼らを喜ばせるだけだと、私は過酷な異世界で生きることを決めた。
必死にカビの生えたパンに齧りつき生き延びた。
そんなある日、死に物狂いで生きる私を神は見放さなかった。
..................................................................................
「アニス、いい?お前はこれから王都のパーティーに出席して、沢山の貴族に顔を覚えてもらうのよ。そのためには綺麗に着飾って、愛想よくしなくちゃね」
「はい、お母様!」
私が部屋で寝ていると興味深い話が聞こえてきたので、この間盗んできた新聞をベッドの下に隠し、耳を床にくっつける。
どうやら、王都で各貴族を招いた大きなパーティーがあり、アニスのデビュタントとするらしい。
「……ああ、ついでにあの子も連れて行かないといけないな」
「あの厄介者を?アニスのデビュタントが台無しになるわ!この子の人生に泥を塗る気?」
「だが、一応名を連ねている以上、変な噂が飛び交っても困る。仕方がないからあの子を連れていくしかない」
「――はぁ。仕方ないわね。私が子どもの時来ていた服があるから、それを着せましょう。あの子に使うお金がもったいないわ」
母親の大きなため息と怒りを含んだ足音と共に、大きく扉が開け放たれた。
急いで顔をあげて、ベッドの上で寝たフリをする。
ばしん、と頬を叩かれてから起き上がると、母親からの事情を説明され、私も一緒に王都に連れて行ってもらえることになった。
――この8年間。私の異世界生活はずっとこの屋根裏部屋で完結していた。
けれど、やっと、自分の人生を変えるチャンスが来た。そう心から思った。
物心がついた時から、心ない言葉を浴びせられ、私は育った。
「お前は!本当にこれは俺の子なのか!?」
「なんであんたなんかが生まれてきたのよ!黒髪だなんて!呪われているんじゃないの!?」
「お姉様。可哀想に。こんな髪に生まれてこなかったら、きっとこの家の子として可愛がられていたのにね」
異世界転生したら貴族の家に生まれて、悪役令嬢なり、ヒロインなりに転生して適度な困難を乗り越えながら――なんて夢をみていた。
幼い心のままだったら、この心ない言葉を素直に受け入れて家畜のように育つ運命もあったかもしれない。
どうしてこうなったのか。理由は私のこの黒髪のせいだった。
ビーンルサノ家は全員が赤系の髪色だった。しかし、私は何故か黒髪で毛色が違った。
だから、父は生まれて早々、母の浮気を疑った。
母はお前のせいだと言葉を石のように投げた。私の青い目はお父様譲りなことから母の必死の説得で誤解はとけたみたいだが、この家で黒髪は私だけ。騒ぎの一端となった私はこの容姿のせいで迫害を受けた。
――6歳の時。妹が羨ましかった。
「お父様、ありがとう!」
父譲りの綺麗な赤毛に生まれた妹は流行りのドレスを身にまとって笑っている。
「お前は育ちざかりだからね。どんどん栄養をつけなさい」
温かい室内でスープを啜っている中、別邸という名の掘っ立て小屋に放り込まれた私は、麻布で縫われた平民の服に、冷め切ったスープを啜っている。
「冬は冷えるわ。アニス、温かくして寝るのよ」
暖炉で温められて、優しい言葉を妹はかけられているだろう。
冬なのに毛布一枚だけで暖房もない部屋で過ごした。屋根裏だからとても冷えるし、私のすぐ下の階はアニスの部屋だから、両親がアニスを可愛がる声がダイレクトに聞こえてくる。
父や母から暴言を吐かれるのは当たり前なのに。姉妹でどうしてこうも違うのだろう。
両親に挟まれて可愛がられている妹を遠くから指を加えて見る日々。
使用人からは髪の毛を整えるという名目で髪の毛を引っ張られたり、カビの生えたパンと腐りかけのスープを与えられる日々。
何のために生きているのかわからなくて死にたいと思い続ける日々。
惨めで、憎々しくて、世界は残酷で。だから、決めた。私は生き汚く生きて、この人たちが羨むくらい幸せになってやる。
ここで死んだら彼らを喜ばせるだけだと、私は過酷な異世界で生きることを決めた。
必死にカビの生えたパンに齧りつき生き延びた。
そんなある日、死に物狂いで生きる私を神は見放さなかった。
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「アニス、いい?お前はこれから王都のパーティーに出席して、沢山の貴族に顔を覚えてもらうのよ。そのためには綺麗に着飾って、愛想よくしなくちゃね」
「はい、お母様!」
私が部屋で寝ていると興味深い話が聞こえてきたので、この間盗んできた新聞をベッドの下に隠し、耳を床にくっつける。
どうやら、王都で各貴族を招いた大きなパーティーがあり、アニスのデビュタントとするらしい。
「……ああ、ついでにあの子も連れて行かないといけないな」
「あの厄介者を?アニスのデビュタントが台無しになるわ!この子の人生に泥を塗る気?」
「だが、一応名を連ねている以上、変な噂が飛び交っても困る。仕方がないからあの子を連れていくしかない」
「――はぁ。仕方ないわね。私が子どもの時来ていた服があるから、それを着せましょう。あの子に使うお金がもったいないわ」
母親の大きなため息と怒りを含んだ足音と共に、大きく扉が開け放たれた。
急いで顔をあげて、ベッドの上で寝たフリをする。
ばしん、と頬を叩かれてから起き上がると、母親からの事情を説明され、私も一緒に王都に連れて行ってもらえることになった。
――この8年間。私の異世界生活はずっとこの屋根裏部屋で完結していた。
けれど、やっと、自分の人生を変えるチャンスが来た。そう心から思った。
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