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到着早々頭を抱えるしかなかった。
ここ数年、毎年のように続く豪雪で育てられそうな作物が全滅してしまい、戦争に駆り出された後で男手も不足していた。アレーナ領にいる若い男性の多くは兵士として雇われており、作物を育てる方に人手が回っておらず税も収められない状況。
よくこの状況で生活できたなと感嘆を漏らしてしまいそうなほどだ。
領主屋敷から村へ続く道の畑のほとんどは更地と化している。もともと使われている畑だったのだと考えると物寂しい。
アレーナ領の各村の村長や役人や貴族が集結し、引継ぎ会議が始まると、やはり人手不足による農業効率の低下、年々上がる税を収められず、戦争に駆り出される内情に辟易としている様子だった。
「農業が盛んになる春先から秋口は帝国との戦争で男手が駆り出され、冬は雪で作物が育たないから食べる物も限られる……この土地はもう終わりかもしれません」
憔悴しきった村長のひとりが、先日村の子供が餓死したと肩を落とす。それはどの村長、役人の態度も同じで絶望に満ちた表情で床を見つめる。
多分、私も同じ状況なら同じことをしていたと思う。
「道すがら畑の様子を見てきましたが手入れがされていない畑ばかりで手が足りないのは痛いほどわかります。食べるものがなければ戦う力すらでません。さらに税で食べ物が徴収されればなんのために戦っているのさえわからなくなるでしょう。戦争をする前にまずは自分が踏みしめている地盤を整えなければなりません」
「しかし、帝国は他国に攻め入り、踏み荒らすことを快楽とする野蛮な人間ばかりです。弱音を吐いたところで彼らの進行が抑えられるはずが……」
帝国から毎回の如く行われる侵略行為、土地柄による不作と人手不足。どう統治してきたのかよくわかるアレーナ領だ。きっとギリギリで焼けた石に水をかけるように命を繋いできたのだろう。
国の支援があってやっとギリギリ領地を保ってきたのだ。
私も幼い頃はそれなりの生活だったが、屋根や口にできるものがあっただけでもマシなのかもしれないと思えるほど。
だからこそ。
「事情はよくわかりました。まず、人手不足に関しては王都から人を幾人か貸せるように手配しましょう。食糧問題等はこちらでも解決策を立てており、戦争についてはこちらで策を考えます。それまではどうか明日を生きるために希望を持って各村の管理をお願いします」
急いでしなければいけない仕事が増えたので、お開きにしようと流れを作るが、おずおずと誰かが手をあげていった。
「税で徴収されて食べるものがありません、心苦しいのですが、支援などお願いできませんか」
「もちろんです。充分な支援物資が明日、明後日中に届くはずなので、支給します」
ーー私はこの頑張っている領民を力の限り暮らしを支え続ける義務がある。
俸禄を食む者としても、領主としても、何人もの夫を支える者としても。
役人や責任者たちは物資支援に驚きを隠せない様子で目を丸くさせつつ、安堵の息で胸をなでおろす。明日に食べる物にも困っている状況なら反応は頷ける。
「ただ、救援物資も無限ではありません。私たちは帝国の侵攻を何としても阻止せねばならず、農業と帝国のこと、両方進める必要があります」
「そう簡単に行けばこの領地は飢える者で溢れてはおりません。領主様はなにか考えがあるのでしょうか」
この場の取りまとめ役の男が切り出す。町や村の長たちは口々に頷く。
この世界ではまだまだ女性差別も残っているので、女如きがこの苦境をどう乗り越えるのかと口には出さないが鋭い視線で語っている。
怯むな、私。私が怯めば夫やお養父様たちの株を下げることになる。
この両方の問題はこの地に着く間に対策は考えてある。冷静に答えよう。
「アレーナ領地は中央部は平坦な大地が続き、土も肥沃で水はけもよく、他の地域と比べると温暖です。しかし、冷害の影響で育てられる作物も限りがあります。ここは中心として大豆やじゃがいも、サツマイモなどの野菜を育てることを中心とします」
「すみません、じゃがいもとは?」
「あなたたち風でいう”悪魔の実”です」
周囲に息を飲む声が聞こえる。何故じゃがいもが悪魔の実と名づけられたのかというと、その実は硬く、芽は吐き気や下痢、嘔吐を引き起こす毒性があるからだ。
「そんなもの!食べられるはずがない!死んでしまうではないですか!」
「やはり、女で貴族だから農業のことをわかっていない、話にならない!!」
この世界では食べられるものではないという認識が強い。芽さえ処理すれば普通に食べられるんだけどな。
話を聞いてくれない雰囲気にため息を尽きたくなる。私より幾分も大人な彼らがどうして冷静になれないのか。いや、当事者だからこそ、税と戦争に緊張で押しつぶされ、明日死ぬかもしれない焦りからで冷静になれないのだろう。
――さて、話し合いが途切れてしまった。これからどうしようか。
ここ数年、毎年のように続く豪雪で育てられそうな作物が全滅してしまい、戦争に駆り出された後で男手も不足していた。アレーナ領にいる若い男性の多くは兵士として雇われており、作物を育てる方に人手が回っておらず税も収められない状況。
よくこの状況で生活できたなと感嘆を漏らしてしまいそうなほどだ。
領主屋敷から村へ続く道の畑のほとんどは更地と化している。もともと使われている畑だったのだと考えると物寂しい。
アレーナ領の各村の村長や役人や貴族が集結し、引継ぎ会議が始まると、やはり人手不足による農業効率の低下、年々上がる税を収められず、戦争に駆り出される内情に辟易としている様子だった。
「農業が盛んになる春先から秋口は帝国との戦争で男手が駆り出され、冬は雪で作物が育たないから食べる物も限られる……この土地はもう終わりかもしれません」
憔悴しきった村長のひとりが、先日村の子供が餓死したと肩を落とす。それはどの村長、役人の態度も同じで絶望に満ちた表情で床を見つめる。
多分、私も同じ状況なら同じことをしていたと思う。
「道すがら畑の様子を見てきましたが手入れがされていない畑ばかりで手が足りないのは痛いほどわかります。食べるものがなければ戦う力すらでません。さらに税で食べ物が徴収されればなんのために戦っているのさえわからなくなるでしょう。戦争をする前にまずは自分が踏みしめている地盤を整えなければなりません」
「しかし、帝国は他国に攻め入り、踏み荒らすことを快楽とする野蛮な人間ばかりです。弱音を吐いたところで彼らの進行が抑えられるはずが……」
帝国から毎回の如く行われる侵略行為、土地柄による不作と人手不足。どう統治してきたのかよくわかるアレーナ領だ。きっとギリギリで焼けた石に水をかけるように命を繋いできたのだろう。
国の支援があってやっとギリギリ領地を保ってきたのだ。
私も幼い頃はそれなりの生活だったが、屋根や口にできるものがあっただけでもマシなのかもしれないと思えるほど。
だからこそ。
「事情はよくわかりました。まず、人手不足に関しては王都から人を幾人か貸せるように手配しましょう。食糧問題等はこちらでも解決策を立てており、戦争についてはこちらで策を考えます。それまではどうか明日を生きるために希望を持って各村の管理をお願いします」
急いでしなければいけない仕事が増えたので、お開きにしようと流れを作るが、おずおずと誰かが手をあげていった。
「税で徴収されて食べるものがありません、心苦しいのですが、支援などお願いできませんか」
「もちろんです。充分な支援物資が明日、明後日中に届くはずなので、支給します」
ーー私はこの頑張っている領民を力の限り暮らしを支え続ける義務がある。
俸禄を食む者としても、領主としても、何人もの夫を支える者としても。
役人や責任者たちは物資支援に驚きを隠せない様子で目を丸くさせつつ、安堵の息で胸をなでおろす。明日に食べる物にも困っている状況なら反応は頷ける。
「ただ、救援物資も無限ではありません。私たちは帝国の侵攻を何としても阻止せねばならず、農業と帝国のこと、両方進める必要があります」
「そう簡単に行けばこの領地は飢える者で溢れてはおりません。領主様はなにか考えがあるのでしょうか」
この場の取りまとめ役の男が切り出す。町や村の長たちは口々に頷く。
この世界ではまだまだ女性差別も残っているので、女如きがこの苦境をどう乗り越えるのかと口には出さないが鋭い視線で語っている。
怯むな、私。私が怯めば夫やお養父様たちの株を下げることになる。
この両方の問題はこの地に着く間に対策は考えてある。冷静に答えよう。
「アレーナ領地は中央部は平坦な大地が続き、土も肥沃で水はけもよく、他の地域と比べると温暖です。しかし、冷害の影響で育てられる作物も限りがあります。ここは中心として大豆やじゃがいも、サツマイモなどの野菜を育てることを中心とします」
「すみません、じゃがいもとは?」
「あなたたち風でいう”悪魔の実”です」
周囲に息を飲む声が聞こえる。何故じゃがいもが悪魔の実と名づけられたのかというと、その実は硬く、芽は吐き気や下痢、嘔吐を引き起こす毒性があるからだ。
「そんなもの!食べられるはずがない!死んでしまうではないですか!」
「やはり、女で貴族だから農業のことをわかっていない、話にならない!!」
この世界では食べられるものではないという認識が強い。芽さえ処理すれば普通に食べられるんだけどな。
話を聞いてくれない雰囲気にため息を尽きたくなる。私より幾分も大人な彼らがどうして冷静になれないのか。いや、当事者だからこそ、税と戦争に緊張で押しつぶされ、明日死ぬかもしれない焦りからで冷静になれないのだろう。
――さて、話し合いが途切れてしまった。これからどうしようか。
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