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「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
ヴァシリッサたちが街へと出立してすぐの頃。娯楽室へ通されたベルンドルは企み顔で笑顔を浮かべていた。
その様子が気味悪いと感じた3人の夫は互いに目配せをしながらベルンドルの様子を伺った。片や実の兄。他の2人は義父なのでかしこまる要素は血のつながり程度で、それを除けばないに等しいのだが。
ベルナルドがこういう表情を浮かべているとよくないことが起きると本能的に悟った3人は誰が彼に話題を振るか役割を押し付け合う。
「ミハイル」
「は、はい……」
やっと、ベルンドルは口を開く。ミハイルに照明を当てられ、ミハイルはなにを質問されるのかどきまぎとさせながら答える。
「君は嫁いできてどれくらいになる?」
「もうすぐで2年かと……」
「そうか。そろそろ孫の顔を見せてくれてもいいかと思うんだが、うまくやっているかね?」
アイスコーヒーのグラスに口をつけると、直球的な質問に驚いてコーヒーを噴出したミハイル。そのコーヒーが隣に座っていたアリスタウの白いスーツにかかり、肩の部分を汚した。
アリスタウは不快そうに眉をしかめて無言でかかったコーヒーをハンカチでふき取るが、白いスーツなのでコーヒーのシミは残ったままだ。
ミハイルは3回謝った後、ベルンドルの質問に答えた。
「あ、の……俺たちは、その。情を躱して日が浅いというか」
「そうか。他の2人はどうかな?娘は優秀だからね。早く世継ぎを残して欲しいと思っているし、単純に世継ぎの顔は死ぬ前に見ておかないととも思うんだが」
他の2人に視線を流すベルンドル。ベルナルドは「頑張ってはいます」と頬を赤らめながらも堂々と答える。アリスタウも「まだだけど、僕は子供を作ることに固執してないし」とすんなりと答えた。
半分揶揄うための質問だったので、面白い答え方をしたのはミハイルだけだったと愕然として肩を落とした。
「兄上、私たちには私たちのペースがあるので口出しをしないでいただきたいのですが」
「わかってはいるがね。時間は有限だ。死ぬ前に孫をこの手で抱いてみたいと欲望を抱くのは爺心と思わないか?」
「まだ死を考える年でもないじゃん」
アリスタウもベルナルドに同意する。
「ヴァシィは子供はどちらでもいいっていってたし。僕は欲しいけど、そこまで急ぐ必要はないかなって思ってる。最悪、跡継ぎが居なくても、ヴァシィがヴァシィであることには変わりはないし」
「俺も無理にとは言わないさ。けれど、貴族の女は世継ぎを生んでこそ一人前だというのが慣例だ。高齢になると出産も大変だと聞くし、身体の負担がかからないうちに俺たちを安心させて欲しいものだ」
「ヴァシリッサをその辺の貴族女性の一般の考え方に当てはめないでいただきたい。そんな慣例がなくても、私はヴァシリッサさえいれば……」
「他の貴族はそう思わない人間もいるだろう。逆に、夫が複数いるのにも関わらず子供を産めないとなると、ヴァシリッサの女としての資質も疑われる。俺なりに愛情をもって育ててきた娘が有象無象にそういわれるのは俺としても癪なんだよ」
既にヴァシリッサに敵対意識を持っている貴族に突かれたと顔色を露わにする。ベルナルドは自分の妻の悪口を言ったとされる貴族に苛立ちを覚えた。
「欲しいといってもそう簡単にできるものではないでしょう。もし、できなかったとしても、それで私たちがヴァシリッサに幻滅することはありませんし」
「そうだね。それに子供ができると感心がそっちに向いちゃうから僕としても欲しいわけじゃないし。まぁ、ヴァシィの子供なら誰の子でも愛する自信はあるけどさ」
「俺も、いずれとは思うが今は考えられないな。俺の場合日が浅いから、思いをこれでもかと伝え合う方が先だと思うわけで……」
三者似たような答えにベルンドルは納得したようにうなずいた。
孫の顔を見たいというのは本心だが、舅がせっついて子作りを焦る器であればヴァシリッサの婿の器として疑う余地があるとベルンドルは思っていた。
ベルンドルはヴァシリッサを本当の娘のように愛している。
人に対して不器用な面もあるが、かなり我儘で狡く、器量も気立ても良くて人を思いやれる心を持っている。国の政治を動かすほどの多方面の知識を持つ子だからこそ、周りの意見に流されず彼女を守ってやれる器量のある男が彼女には必要なのだと。
それは、実弟のベルナルドも、早くに婿に来たアリスタウにも、彼女に結婚を進める形になったミハイルにも変わらない。意志の強い彼らの答えに満足気に口角をあげると、ミハイルを除く2人は恨めしそうな眼付きでベルンドルを睨んだ。
「はっはっは。舅役も大変だな。意地悪はこの辺にして屋敷の中を案内してくれないか。普段ヴァシリッサが暮している屋敷の中が気になるものでね」
「はいはい。行きましょうか2人」
「ちょっと待て、俺たちは試されたのか?」
「ベルンドル様は優しい方だけど、人を試すことや意地悪が大好きな方だから。それぐらいで驚いていたらこの先身が持たないよ」
アレーナ家の夫たちはベルンドルを背にして雑談をしていると、ベルンドルは聞こえてきた話に答えるかのように意地の悪い笑みを浮かべた。
(――ま、一応気持ちは確認しておかないとな。子供の件で仲違いしていればキリがないし、これから夫は”増える”かもしれないし)
「…………」
「…………」
「…………」
ヴァシリッサたちが街へと出立してすぐの頃。娯楽室へ通されたベルンドルは企み顔で笑顔を浮かべていた。
その様子が気味悪いと感じた3人の夫は互いに目配せをしながらベルンドルの様子を伺った。片や実の兄。他の2人は義父なのでかしこまる要素は血のつながり程度で、それを除けばないに等しいのだが。
ベルナルドがこういう表情を浮かべているとよくないことが起きると本能的に悟った3人は誰が彼に話題を振るか役割を押し付け合う。
「ミハイル」
「は、はい……」
やっと、ベルンドルは口を開く。ミハイルに照明を当てられ、ミハイルはなにを質問されるのかどきまぎとさせながら答える。
「君は嫁いできてどれくらいになる?」
「もうすぐで2年かと……」
「そうか。そろそろ孫の顔を見せてくれてもいいかと思うんだが、うまくやっているかね?」
アイスコーヒーのグラスに口をつけると、直球的な質問に驚いてコーヒーを噴出したミハイル。そのコーヒーが隣に座っていたアリスタウの白いスーツにかかり、肩の部分を汚した。
アリスタウは不快そうに眉をしかめて無言でかかったコーヒーをハンカチでふき取るが、白いスーツなのでコーヒーのシミは残ったままだ。
ミハイルは3回謝った後、ベルンドルの質問に答えた。
「あ、の……俺たちは、その。情を躱して日が浅いというか」
「そうか。他の2人はどうかな?娘は優秀だからね。早く世継ぎを残して欲しいと思っているし、単純に世継ぎの顔は死ぬ前に見ておかないととも思うんだが」
他の2人に視線を流すベルンドル。ベルナルドは「頑張ってはいます」と頬を赤らめながらも堂々と答える。アリスタウも「まだだけど、僕は子供を作ることに固執してないし」とすんなりと答えた。
半分揶揄うための質問だったので、面白い答え方をしたのはミハイルだけだったと愕然として肩を落とした。
「兄上、私たちには私たちのペースがあるので口出しをしないでいただきたいのですが」
「わかってはいるがね。時間は有限だ。死ぬ前に孫をこの手で抱いてみたいと欲望を抱くのは爺心と思わないか?」
「まだ死を考える年でもないじゃん」
アリスタウもベルナルドに同意する。
「ヴァシィは子供はどちらでもいいっていってたし。僕は欲しいけど、そこまで急ぐ必要はないかなって思ってる。最悪、跡継ぎが居なくても、ヴァシィがヴァシィであることには変わりはないし」
「俺も無理にとは言わないさ。けれど、貴族の女は世継ぎを生んでこそ一人前だというのが慣例だ。高齢になると出産も大変だと聞くし、身体の負担がかからないうちに俺たちを安心させて欲しいものだ」
「ヴァシリッサをその辺の貴族女性の一般の考え方に当てはめないでいただきたい。そんな慣例がなくても、私はヴァシリッサさえいれば……」
「他の貴族はそう思わない人間もいるだろう。逆に、夫が複数いるのにも関わらず子供を産めないとなると、ヴァシリッサの女としての資質も疑われる。俺なりに愛情をもって育ててきた娘が有象無象にそういわれるのは俺としても癪なんだよ」
既にヴァシリッサに敵対意識を持っている貴族に突かれたと顔色を露わにする。ベルナルドは自分の妻の悪口を言ったとされる貴族に苛立ちを覚えた。
「欲しいといってもそう簡単にできるものではないでしょう。もし、できなかったとしても、それで私たちがヴァシリッサに幻滅することはありませんし」
「そうだね。それに子供ができると感心がそっちに向いちゃうから僕としても欲しいわけじゃないし。まぁ、ヴァシィの子供なら誰の子でも愛する自信はあるけどさ」
「俺も、いずれとは思うが今は考えられないな。俺の場合日が浅いから、思いをこれでもかと伝え合う方が先だと思うわけで……」
三者似たような答えにベルンドルは納得したようにうなずいた。
孫の顔を見たいというのは本心だが、舅がせっついて子作りを焦る器であればヴァシリッサの婿の器として疑う余地があるとベルンドルは思っていた。
ベルンドルはヴァシリッサを本当の娘のように愛している。
人に対して不器用な面もあるが、かなり我儘で狡く、器量も気立ても良くて人を思いやれる心を持っている。国の政治を動かすほどの多方面の知識を持つ子だからこそ、周りの意見に流されず彼女を守ってやれる器量のある男が彼女には必要なのだと。
それは、実弟のベルナルドも、早くに婿に来たアリスタウにも、彼女に結婚を進める形になったミハイルにも変わらない。意志の強い彼らの答えに満足気に口角をあげると、ミハイルを除く2人は恨めしそうな眼付きでベルンドルを睨んだ。
「はっはっは。舅役も大変だな。意地悪はこの辺にして屋敷の中を案内してくれないか。普段ヴァシリッサが暮している屋敷の中が気になるものでね」
「はいはい。行きましょうか2人」
「ちょっと待て、俺たちは試されたのか?」
「ベルンドル様は優しい方だけど、人を試すことや意地悪が大好きな方だから。それぐらいで驚いていたらこの先身が持たないよ」
アレーナ家の夫たちはベルンドルを背にして雑談をしていると、ベルンドルは聞こえてきた話に答えるかのように意地の悪い笑みを浮かべた。
(――ま、一応気持ちは確認しておかないとな。子供の件で仲違いしていればキリがないし、これから夫は”増える”かもしれないし)
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